2017年度地理B追試験[第3問]解説

2017年度地理B追試験解説第3問解説                

「都市と生活文化」をテーマとした大問。小問が5つしかないね。問2で都市名が取り上げられているが、例年になく、オーソドックスな範囲からの出題なので、苦しむことはなさそう。問3が解きにくい、というか悪問なのだが、他の問題については十分に解答可能だと思う。その問3にしても、ニューヨークという最もメジャーな都市を問うているので、意外と正解率は高いかも。うまくいけば全問正解を狙って欲しい大問かな。

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[ファーストインプレッション] ニュータウン内部を取り上げた地形図問題としては、多摩ニュータウンが登場した1999年度地理B追試験以来。それから20年近くが経過し、ニュータウンを取り巻く状況も大きく変化してきたのだなと考えさせられる問題となっている。

[解法] ニュータウンを取り上げた問題。地形図問題ではあるが、地形図の読解が必要となるものではない。

キーワードは「グリーンベルト」。20世紀中頃から行われたロンドンおよびその周辺地域の開発において、市街地の周囲に設けられた緑地帯がグリーンベルトである。ロンドンの過密化を解消するために、ロンドン郊外にいくつかのニュータウンが建設された(*)。この際に、市街地の無秩序な拡大を防ぐために、開発を制限し、豊かな自然環境を残した緑地帯が、市街地の外側に設けられた。

つまり、「グリーンベルト」はロンドンの開発(大ロンドン計画)における固有名詞であるので、今回の一般的なニュータウン建設に関しては全く関係ない。④が誤りで、これが正解。

他の選択肢についても検討しておこう。

①について。高度経済成長期(1960年代)には、日本全域から、東京・名古屋・大阪の3大都市圏を主とする太平洋ベルト地帯への人口流動が顕著となった。それぞれの大都市圏の郊外に多くのニュータウンが建設され、人口の受け入れ先となった。

②について。「切り通し」とは、周囲が高く中央部だけ低くなった部分。例えば、図の中央部の「豊ヶ丘五丁目」に注目してみよう。「目」という文字の左手に、陸橋をまたいだ道路があるが、この周囲に短い櫛(くし)状の線が入り込んでいるのがわかるだろうか。周辺が高く、中央が低くなった状態であり、これが「切り通し」である。よく見てみると、同じような道路は多々見られるのである。②は正文である。

③について。センター試験では、地図記号の判別は原則として必要都市無いし、本選択肢についても地図記号が問われている時点で「正解ではない」と思っていい。つまり(誤文判定問題であるので)本選択肢は正文であり(答えにならないってことね)、「学校」も「郵便局」もあるのでしょう。例えば「落合四丁目」付近には学校がみられるし(「文」の記号)、「落合三丁目」付近には郵便局がみられる(「三丁」の文字のすぐ左手)。

(*)なお、これらのニュータウンは「職住近接」であり、日本の「職住分離」のニュータウンとは異なっている。ニュータウンの内側に、住宅地と隣接するようにオフィスや工場、商業施設などが配置され、住民たちはニュータウンの外側に出かける必要はない。大都市への通勤を前提とした日本のニュータウンとの違いである。

{アフターアクション} 実に皮肉な問題である。地形図から得られる情報(選択肢②の「切り通し」や選択肢③の「学校」や「郵便局」)には答えはなく。ポイントになるのは、「ロンドンのニュータウン=グリーンベルト」という「知識」であるのだ。決して簡単な地形図問題ではない。地形図問題の多くは、知識よりも思考によって解答するもので、本問のようなパターンは少ない。解きにくい問題ではあると思う。

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[ファーストインプレッション] こうした都市と問う問題はしばしば登場している。なかにはボローニャやハンブルクなどちょっとマイナーな都市を答えるパターンもあり、いきなり難易度はあがる。ただ、本問についてはさほど特殊な都市名が登場しているわけでもなく、解答を求められるのもバンガロールといった比較的よく知られているところなので、難しくはないと思う。

[解法] インドのバンガロールは必ず知っておくべき都市である。インド南部の高原に位置し、ICT産業が集積している。そもそもは高原の避暑地としてヨーロッパ人が移り住んだことから発展した都市であるが、20世紀後半よりアメリカ合衆国系の企業がコールセンターを置いたことから、海外からの企業進出が活発化した。とくに顕著となったのは、コンピュータソフト開発を主とするICT企業である。英語を使うことができる安価で高水準の技術者を雇うことができ、本国(アメリカ合衆国)との時差が12時間であることを利用し、コンピュータソフトの開発や世界中のコンピュータシステムの管理を24時間体制で行うことができる。

インドはそもそも識字率も低く、インターネットの普及率も低い国ではあるのだが、何といっても莫大な人口を抱える国である。「割合」は低くとも「実数」は多い。インド人口におけるコンピュータ技術者の割合はごく僅かかもしれないが、実数を考えれば、何十万人、何百万人の優秀な人材にあふれているのである。インドは世界に冠たるコンピュータ大国である。

他の都市も重要なものばかりなので(この手の問題って、あまり大切でないものも外れ選択肢で取り上げられることがあるのだが。本問はその例外で、全て大切!)、紹介しておこう。

①はブラジリア。ブラジルでは、20世紀の中頃に、首都が港湾都市リオデジャネイロから内陸のブラジリアに移転している。ブラジリアはブラジル高原の中央部に位置する、標高1000メートルほどの都市(高山都市というほどの標高ではないね)。周囲はカンポセラードとよばれる荒れ地だったが、都市の建設とともに農地としての開発も進み、現在は大規模なトウモロコシや大豆の栽培地域となっている。ブラジリアの市街地は計画駅にデザインされたもので、上空から見ると飛行機(翼を広げた鳥)のような形をしている。機能的かつ美的センスにも優れた街並みは、世界遺産にもなっている。

③はロンドン。ロンドンは2段階の開発で知っておくべき都市である。20世紀前半から中頃にかけては「ニュータウン開発」。田園都市構造に基づく大ロンドン計画が実施され、ロンドン周辺にいくつものニュータウンが建設された。これらのニュータウンは都市内に作業場など設けられ「職住近接」が実現している。また、市街地の無秩序な広がりを防ぐために都市周辺をグリーンベルト(緑地帯)で囲んでいる。このことについては問1でも触れている。

こちらの問題で重要となるのは二つ目の開発の方である。開発というか、再開発というべきだろうか。20世紀の後半より、ロンドンの都心部では都市施設の老朽化や荒廃が顕著となり、富裕層や産業が郊外へと流出、「真空」となった都心付近のエリアには移民や少数民族などの失業者が流入し、スラム化が進行した。これを「インナーシティ問題」と呼ぶ。この解決のために、都心付近では大規模な再開発がなされ、老朽化した都市施設は近代的な街区へと再生した。この地域がドックランズ。旧港湾地区で、いわゆるウォーターフロント再開発の典型的な事例となっている。ウォーターフロント再開発の例としては、他には横浜市のみなとみらい21などがある。

④はフランスのトゥールーズ。フランス南部内陸の都市であるが、航空機組立のEU共同工場がある。ヨーロッパ各地で製造された部品がこの地へと集められ、完成品としての航空機に組み立てられる。現在はコスト的な問題などで製造されていないが、以前は「夢の超旅客機」コンコルドもトゥールーズでつくられていた。

[アフターアクション] 本問で取り上げられた4都市はいずれも超重要!とくにロンドンは、問1のニュータウンとも関連する。ブラジリアについては2015年度地理B本試験で位置が問われている。都市名の出題はセンター試験では限定的であるが、だからこそ登場したものについては必ずチェックしておこう。

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[ファーストインプレッション] 交通の問題。地理Bでは珍しい。しかも、この問題もかなり難しいと思う。できるんかな???

[解法] 航空交通に関する問題。外国人の割合も示されているのがポイント。しかし、手がかりは少ない印象。これだけのヒントでどうやって解けというのだ?

都市の選択肢は4つ。サンパウロ、シドニー、ソウル、ニューヨーク。まず人口を考えてみると、サンパウロ、ソウル、ニューヨークは1000万人規模に達する超巨大都市。シドニーは、オーストラリア最大の都市ではあるが、そもそも国の人口が少ない(2000万人)なので、都市の人口としては他の3つには劣る。ニューヨークにおいて、国際線旅客数が少ないわけはなく、まず④は除外される。

さらに経済レベルを考えて見た場合、1人当たりGNIが極めて高いアメリカ合衆国(先進国)、やや高めの韓国(NIES)、さほど高くないブラジル(発展途上国)の順。北アメリカ大陸の中心となる世界都市のニューヨークは、やはり極めて国際線旅客数が多いとみて、いいと思うんだな。さらに③も除外され、選択肢は①と②に絞られる。

この時点で、僕は③と④をシドニーかサンパウロのいずれかに絞っています。人口が少ない、さらに経済レベルが低いことによって、国際線旅客数は少ないはず。ニューヨークとソウルが①と②のいずれかとみていい。

国際線旅客数には差がない。よって、ここは「外国人居住者率」でみるしかない。それにしても、1.7%と37.6%とは極端な違いである。なぜこんな大きな差が生じているのか。っていうか、4割近くって多すぎないか???

だから、ここは一生懸命考えるしかないんだわ。40%近い外国人がいるって、どんな都市なんだろう?そしてそれはソウルとニューヨークのいずれに該当するのだろう。

本当によくわからないのだが(そもそもこのデータって正確なのか?)、その可能性が高いのはニューヨークなんじゃないか。世界都市として世界中の関心を集め、経済や文化の中心地となっている。さまざまな国の人々がこの都市に集い、生活を営んでいると考えれば、不自然なところは少ない。あるいは、アメリカ合衆国は移民の多い国である。もちろん、長く住むことによって国籍を得て「アメリカ人」となっている移民系の人々も多いだろうが、移住してきて間もない人々や、短期滞在者についてもかなりの数がこの街に居住しているだろう。ニューヨークの人口は700万人ほどであるが(なおソウルは1000万人を超える)、さらに200万人の外国人が存在しているというのはかなり特殊な状況とは思うのだが、しかし「外国人居住者率が37.6%である」可能性が高いのは、ソウルではなく、やはりニューヨークなのだ。②を正解とする。

よって、①がソウル。人口1000万人に達する超巨大都市ではあるが、ニューヨークに比べれば、アジアのローカルな都市に過ぎない。外国人の居住者もさほど多くないだろう。空港の国際線旅客数は極めて大きいが、そもそもソウルに空港があるのだろうか?これって、おそらくソウル近隣(ソウル大都市圏に含まれる)に位置するインチョンの国際空港のことだろう。東アジアの拠点空港(ハブ空港)であり、欧米へとジャンボジェットが就航している。日本から欧米に渡航する際にも、一旦このインチョン(つまりソウル)の空港まで飛び、そこで大型機に乗り換えて遠方へと向かう。このような状況を考えてみると、旅客数が莫大であることにも納得できるのだ。

③と④は微妙だが、②をニューヨークと考えた場合、先進国でこそ外国人居住者率が高いというセオリーが成り立ち、③がシドニーである。シドニーは人口400万人ほどの都市であるので、200万人近くの外国人が居住していることになる。本当にそんなに多いのか?という疑問があるが、まさかサンパウロとは思われない。サンパウロの人口は1000万人。400万人も外国人がいるか???

というわけで④がサンパウロになるのだが、発展途上国でもあり、旅客数が4都市中最少というのも、納得できないことはない。

[アフターアクション] 実は本問には大きな穴がある。それは「空港」の定義なのだ。そもそもソウルに空港は存在せず、巨大な空港が置かれているのはソウル郊外の都市であるインチョン。ニューヨークにしても、市内だけでなく郊外にいくつかの空港が存在している。具体的にどの範囲の空港が含まれているのか、その定義が本問においてはなされていない。例えば、東京の空港と言った際に、羽田空港は当然含まれるとして、新東京国際空港すなわち成田空港が該当するかどうかって微妙でしょ?そこをしっかりと定義しておかないといけない。本問は不完全な問題といえる。

そもそも「交通」ジャンルからの出題は地理Bでは一般的ではない。交通はあくまで地理Aの範囲なのだ。あまりいい問題とは言えないかな。悪問の類でしょう。

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[ファーストインプレッション] 今回、メキシコの登場率が高いな。他の問題ではフィリピンが何回も登場しているし、ヨーロッパが取り上げられる度合いが低下しているのだろうか。それはともかく、消費支出の問題。もちろんポイントはアメリカ合衆国の「医療・保険」。

[解法] 消費支出の問題。ここでクローズアップされるべきは、アメリカ合衆国の「医療・保険」。例えば、日本の場合は公的な医療保険制度(国民健康保険など)が整えられているので、我々が病院にかかったとしても、費用は何割かの負担でいい。しかし、アメリカ合衆国は原則として個人負担であるため、家計から支出しないといけない。もちろん、日本にしても企業など雇用先が保険料は負担しているわけで、国全体の支出としては医療費は小さくないけれど、それでも「家計」から払うわけではないよね。アメリカ合衆国の場合は、家計(つまり実際に手に入れた給料)から医療費を払ったり、あるいは民間の保険会社と医療保険の契約をしたりしている。逆に、富裕層は高度な医療サービスを受けることができるし、腕のいい医者は高い収入を得ることができるという利点もあるのだが、貧困層の中には医者にかかることができず、病気や怪我が深刻化することも多い。

このことより、アメリカ合衆国で値の高いアを「医療・保険」とする。

さらに「住居」について考えてみよう。世界でも人口密度が高い国が日本であり、とくに東京圏には過剰なほどの人口が集中する。地価が高く、そしてもちろん(持ち家の場合は)住宅ローンや(賃貸の場合は)家賃が高いことは想像できるよね。日本で割合が高いイを「住居」と考え、正解は①。

「食料」についてはあまり考えなくてもいいと思います。家計消費支出における食費の割合を「エンゲル係数」といい、低所得者で値が高く、高所得者で値が低いと言われています。ただ、最近はちょっとこれも眉唾もので「ホンマかいな」と疑いの目でみられているようですね。低価格で高カロリーの食品は多く(その代わり、栄養価は低いですよ)、豊かではない家庭でも極端に食費はかからない反面、富裕層は高級食材を料理に使ったり、外食が多かったり、意外に食費が大きくなってしまう場合もあります。たしかに本問においては、経済レベル(1人当たりGNI)と「食料」の割合が反比例しているけれど、あまり深く考えなくていいかなぁ。

[アフターアクション] 過去に多くの類題が出題されている問題。いずれも「アメリカ合衆国の医療・保険」負担の大きさがポイントとなっている。アメリカ合衆国は、医療制度が日本とは異なっており、国民皆保険がなされていない。医療費の多くは個人負担であり、家計から支出されている。日本の場合は、給与として個人に支払われる前に「天引き」として、あらかじめ国によって「保険料」の形で徴収されている。家計から支払われているわけではないのだ。

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[ファーストインプレッション] かなりベーシックな民族・宗教に関する問題。スリランカは意外に出題率は低いのだが、ユーゴスラビアとイスラエルは鉄板だからね!

[解法] 紛争をテーマにした問題だが、もちろん民族・宗教に関する問題として捉えるべき。

まずAの地域に注目しよう。バルカン半島西部を占めるのが旧ユーゴスラビア。かつてカリスマ的指導者チトー大統領によって、独自の社会主義路線を掲げる「ユーゴスラビア社会主義連邦共和国連邦」が成立していたが、チトーの死後、求心力を失い、連邦を構成していた国々は次々に分裂していく。北西から南東に向かって、スロベニア。クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアの6か国だが、後にセルビアからコソボが分離独立し、7か国がかつてのユーゴスラビアの範囲に誕生した。

Aがクに該当する。Aに位置するのはコソボ。キリスト教(東方正教)のセルビアの中で、イスラム教を信仰する人々によってコソボ自治州がつくられていたが、セルビア本国から弾圧を受け、人々は迫害の中での生活を余儀なくされていた。そのため、彼らは立ち上がり、分離独立を求める反乱運動を展開し、激しい内戦を経て、2008年に独立を達成した。

さらにBに注目しよう。地中海東岸のパレスチナ地方に位置する国はイスラエル。はるか紀元前にユダヤ人国家である古代イスラエルがこの地に成立していたが、周辺国からの侵略によって滅ぼされ、ユダヤ人たちは世界中に離散していった。それから数千年の間、この地はトルコやペルシャ、さらにはアラブなどさまざまな民族によって支配されてきたが、20世紀に入り、この「約束の地」へと帰還し、イスラエルを再興しようという動きが世界各地のユダヤ人の間で高まった。これを「シオニズム運動」という。

そして、第二次世界大戦が終わった1948年に、ユダヤ人たちは新国家イスラエルの建国を宣言する。背景にはアメリカ合衆国を中心とした先進国の支援(そして思惑)があったが、逆に煽りを食ったのはその時にこの地域に住んでいたパレスチナ人たちである。アラブ系のイスラム教徒である彼らは、住み場所を失い、難民として周辺国に離散していった。

カがBに該当する。「1948年に建国を宣言した」のはユダヤ人であり、建設された国はイスラエルである。パレスチナ人が難民となり、周辺アラブ国家へと流入し、「パレスチナ」を取り戻す戦いが始まった。「周辺諸国」とは、アラブ系のイスラム国家であるシリアやエジプトである。アラブとイスラエルの戦争は「中東戦争」と呼ばれ、第1次(1948年)から第4次(1973年)まで繰り返された。とくに第4次中東戦争は大規模なものであり、イスラエルを支援するアメリカ合衆国や日本に対抗するため、アラブ産油国は原油の輸出制限を行い、これにより原油価格が異常に高騰し、世界経済が大混乱した。これがオイルショックである。

そしてC。インドの南の海上に浮かぶ島はスリランカである。仏教徒が多い地域であるが、北部にはインドからの移住者が多く、ヒンドゥー教地域となっている。キがCである。「ヒンドゥー教徒であるタミル人」とは島の北部に居住する少数派の人々。「仏教徒であるシンハリ人」とは南部から中部にかけて分布するスリランカの主要民族であり、両者の間で長い間紛争状態にあった。

[アフターアクション] ユーゴスラビアとパレスチナはいずれも出題率が極めて高く、スリランカも比較的よく出題されている(2016年にも登場)。「定番」の地域ばかりであり、確実な正解が求められる。

個人的に興味を惹いた選択肢はク。コソボが問われ、イスラム教が中心キーワードとなっている。過去のユーゴスラビアの問われ方をみていこう。

「言語、宗教の異なる民族が連邦国家を構成してきたが、社会主義体制の崩壊後、民族間の対立に起因する内戦が起こった。(2004年度地理A本試験)」

旧ユーゴスラビア全域に関する話題。「連邦」を形成していたこと、多様な「民族」と「宗教」構成がみられることがポイントとなっている。そして「内戦」が生じたのだ。

「国の体制が崩壊し、複数の民族・国家間紛争が生じて難民が発生した。(207年度地理B本試験)」

「国の体制が崩壊」とは社会主義政権が崩壊したことを指す。チトー大統領の死去により、政権は求心力を失った。「複数の民族・国家」も旧ユーゴスラビアのキーワード。

「セルビア・モンテネグロ(旧称:ユーゴスラビア連邦共和国)では、コソヴォ(コソボ)自治州のアルバニア人により、一部で自治権拡大や独立を求める運動が展開されてきた。(2006年度地理B追試験)」

これはちょっとややこしいので、説明。ユーゴスラビアからスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニアが次々と分離独立し、最後にセルビア(コソボ自治州を含む)とモンテネグロのみ「ユーゴスラビア」として残された。しかし、2か国だけで旧称を用いるのもおかしな話。彼らは国名を「セルビア・モンテネグロ」と解消し、ユーゴスラビアという国名は歴史の中に消えた。いわば、セルビア・モンテネグロはユーゴスラビアの最終形態ということ(この後、セルビアとモンテネグロは分裂し、さらにセルビアからコソボが分離独立する)。

セルビア・モンテネグロの南部にコソボという地域があり、ここはアルバニア系イスラム教徒が多いことから(他の地域はスラブ系キリスト(東方正教)徒が多い)自治州を形成していた。しかし、中央政府からの弾圧は激しく、コソボの人々は自治権拡大を求める運動を続けてきた。その動きを収めるために軍隊が派遣され、瞬く間に内戦へと発展する。西ヨーロッパ諸国の仲裁などにより内戦が集結し、コソボが独立を果たしたのは2000年代に入ってからのことだった。

「国内の自治州における民族紛争によって周辺国に難民が流出したが、国際機関の介入により帰還が進んだ。」

これはセルビアの説明。セルビア・モンテネグロは連邦を解消し、セルビアとモンテネグロの2か国が成立した。セルビア領内にはコソボ自治州が含まれ、民族や宗教が異なり、分離独立を求める動きも強かった。やがて、それは内戦に発展し、セルビアによる軍事攻撃が始まったが、この際に多くの難民が生じ、アルバニアなど周辺国へと多数の人々が逃れていった。NATO(北大西洋条約機構。西ヨーロッパや北米諸国による軍事同盟)の仲裁(というか軍事介入といった方が正しいですね。空爆も行われました)より、内戦は終決し、国外に逃れていた難民もコソボへと帰還を果たした。この後、コソボは独立を宣言し、日本など多くの国とも国交を結んでいる。しかし、未だにコソボを国家として承認していない国も少なくなく、完全に安定した状況とは言い難い。