2017年度地理B本試験[第1問]解説
たつじんオリジナル解説[2017年度地理B本試験]
<難易度について>
★☆☆・・・簡単。確実に得点せよ。
★★☆・・・やや難しい。高得点を取るにはこれらの問題をクリア。
★★★・・・難問もしくは悪問。できたらラッキー。
たつじんオリジナル解説[2017年度地理B本試験]第1問
問1[ファーストインプレッション]センター地理における「大地形」ジャンルは、陸上の地形より海底の地形の方が重要。つまり山脈や平野よりも、海溝や海嶺、大陸棚の方が大切っていうこと。本問はその典型。マイナーなものまで出題されるぞ。
[解法]海底地形の問題。海底地形には以下のものがある。
大陸だな大陸に接する深度の浅い部分。深度200メートルまでの浅海。
大洋底海洋の大半を占める深海。深度は4000〜6000メートルほど。
大陸斜面大陸だなと大洋底を結ぶ海中の巨大な斜面。
海嶺海底を縦断する巨大な海底山脈。海底からの比高は数千メートルにも達する。プレートの広がる境界で溶岩が流出。
海溝海底を走る溝状の地形で、深度は6000〜10000メートル。海洋プレートが大陸プレートの下にもぐりこむ、狭まる境界であり、これに沿って火山島が分布する。
とくに大切なものが海嶺と海溝で、(本問のように)詳しい場所や名前も登場するので、地図帳で確認しておいて損はない。海嶺については、「大西洋中央海嶺」、「中央インド洋海嶺」、「東太平洋海嶺」をチェック。海溝については、太平洋北部から西部の「アリューシャン海溝」「千島カムチャッカ海溝」「日本海溝」「伊豆小笠原海溝」「マリアナ海溝」「フィリピン海溝」、太平洋南部でニュージーランドの北にある「ケルマデック海溝」「トンガ海溝」、太平洋東部の「中央アメリカ海溝」「ペルー海溝」「チリ海溝」、さらにインド洋でインドネシアの島々の南岸に沿う「スンダ海溝」が重要で、全て出題例がある。カリブ海にも「プエルトリコ海溝」などがあるが、こちらはマイナーかな。
さて、図中のBに目を移そう。日本の南方海上で、ここには伊豆小笠原海溝が南北に走っており、これに沿って火山島や溶岩が成員の島々もみられる(伊豆諸島や小笠原諸島)。①〜④を参照し、明らかに海溝がみられるのは③だけである。これが正解。伊豆小笠原海溝は、海洋プレート同士(フィリピン会プレートと太平洋プレート)の境界で、海溝としては例外的なものなのだが、とくに成因にはこだわらなくていいね。とにかく、「ここに海溝がある」という点が重要なのだ。なお、③には海溝とは逆に高くなっている地形もあるが、これについてはあまり考える必要はないだろう。海嶺みたいなものなんだろうけれど、フィリピン海プレートの中央部でもあるし、成因はよくわからない。無視しましょう。
他については判定の必要はないが、参考までに。まずAについて。大西洋の中央には海嶺が走っており、例えばアイスランド島は海嶺の上に形成された火山島。中央が盛り上がっている④がこれに該当。
さらにCについて、オーストラリア北部には大陸だなが広がる。アラフラ海というのだが、地図帳で確認すると、たしかにこの海域は薄い青で塗られていて、浅いことがわかるね。水深200メートルまでの浅海で①が正解。ほとんど陸地みたいでしょ?氷河期には海面より上となっていた部分なのだ。
残ったDはとくに特徴のない海底で、大洋底と考えていい。消去法で②が該当するが、水深は6000メートルに近い。
[難易度]③については中央の海嶺のような地形に騙されるかも知れないけれど、海溝が決定的であるので答えは迷わないはず。確実にゲット。★☆☆
[参考問題]2015年度地理B追試験第1問問1。マリアナ海溝が登場。海溝の位置は確実に!
問2[ファーストインプレッション]これ、いい問題ですね。海流がテーマになっている。本問で大きく取り上げられているアラスカ太平洋岸が温暖であるというネタは、最近地理Aでも出題されている。ノルウェー沿岸の不凍港についてはメジャーなネタであるが、今後はこのアラスカについても要チェックだろう。
[解法]海流の問題。暖流が流れている範囲、寒流が流れている範囲を理解しよう。北半球では海流が大きく「8の字」を描いていることはわかるかな。よかったら地図帳で、以下の海流について確認してみよう。
大西洋太平洋
高緯度・大洋東部の暖流北大西洋海流アラスカ海流
高緯度・大洋西部の海流千島海流(親潮)ラブラドル海流
中緯度・大洋東部の寒流カナリア海流カリフォルニア海流
中緯度・大洋西部の暖流日本海流(黒潮)メキシコ湾流
暖流というのは低緯度から高緯度に流れる海流で、暖かい海水を冷たい海域へと運ぶ。沿岸に豊富な降水を与え、冬の気温が高くなる。透明度が高く、低緯度を暖流が流れる場合にはサンゴ礁も形成される。
寒流というのは高緯度から低緯度に流れる海流で、冷たい海水を暖かい海域へと運ぶ。沿岸に少雨気候をもたらし、冷涼な夏となる。栄養分豊かな海域を形成し、とくに(大規模な魚群となる)イワシ類が多く生息する。
さて問題を解析しよう。「海氷におおわれにくい」っていう意味がわかるかな。要するに、その海域に接する港が「不凍港」になっているということ。もちろん注目はK。ノルウェー沿岸の大西洋北部は、暖流である北大西洋海流が流れ込み、冬の気温が高い。スカンジナビア半島最北端まで不凍港になることはよく知られているだろう。北極圏であり、冬は1か月以上太陽が地平線の下にあるのに、海が凍りつかないということにはビックリ。
ここと同様の場所を探そう。先ほど海流のチェックをしてくれたみんなにはわかるよね。Mのアラスカ太平洋岸に注目。アメリカ合衆国シアトル付近からカナダの沿岸部を北上する暖流がアラスカ海流。本来から冷たい海域へと、お湯が流れ込んでいるようなものなのだ。この海流の影響によって、アラスカ南部の面する海域は温暖な海となり、港湾も不凍となる。Mも海氷とは無縁なのだ。正解は⑤。
なお、Lのオホーツク海は流氷に被われることでよく知られているね。北海道はさほど高緯度でありながら、沿岸は凍りつき、とくにオホーツク海に面する港湾は凍結する。北半球における流氷の南限(つまり、凍ってしまう港湾の南限ということ)が北海道なのだ。まさに冷帯。
さらにJについては、ラブラドル海流が南下している。沿岸のカナダは冷帯となっている。有名な客船タイタニック号の遭難は、ラブラドル海流によって運ばれた流氷と衝突したことが原因となっている。
[参考問題]2016年度地理A本試験第1問問4。地理Aの問題で恐縮だが、最近の本試験なので過去問集や大学入試センターのホームページなどから参照できるだろう。アラスカ太平洋岸、チリ南部、ニュージーランドに印がつけられており、これらの共通する気候の特徴を問う問題。正解は「温帯に属し、1年を通して降水がある」である。アラスカ太平洋岸は暖流(アラスカ海流)の影響で、チリ南部は偏西風の影響で、ニュージーランドは暖流(東オーストラリア海流)と暖流の影響で、高緯度でありながら比較的温暖で、さらに降水量が多い気候がみられる。チリ南部やニュージーランドの気候については今までも頻出であったが、アラスカについてはこれが初出じゃないかな?
[難易度]これ、いい問題やねんなぁ。今年のベストなんちゃうかな。こういった問題をぜひ解いてください。海流と気候の関係はマストやで!★☆☆
[参考問題]2016年度地理A本試験第1問問4。地理Aの問題が手に入る人はぜひ見てください。アラスカの太平洋岸に点があり、どういった気候がみられるかという問題なのですが、正解は「温帯に属し、1年を通して降水がある。」です。「温帯」という言い方がいかにも地理Aっぽいのですが、これを地理B的に変換すると「冬季でも凍結しない」となります(冷帯は「凍結する」です)。アラスカ海流の影響によって、アラスカの太平洋岸では、緯度に比べて温暖で雨の多い気候がみられます。
問3[ファーストインプレッション]これ、おもしろいな。夏季少雨型の気候(地中海性気候など)を当てろっていう問題はよくあるけれど、これはその逆で他の3つが夏季少雨型の気候で、そうじゃないものを当てろっていう問題になっている。いい問題とは思わないけれど(ストレートに地中海性気候を出題した方がいい)、新傾向ともいえるのかな。
[解法]気候グラフの問題。この形式は最近よくみるパターンだね。最近はむしろ一般的な雨温図を見る機会の方が少なくなった。
エは、大陸東岸に位置し、(やや緯度は高いが)日本と同じような気候がみられるとみていいだろう。夏に多雨となり、冬に降水が少ない。Sが正解となる。
アやウは典型的な地中海性気候地域。イも(緯度から考えて)夏に中緯度高圧帯に被われとくに少雨となるが、それ以前の問題として、中央アジアの乾燥地域に位置し、とくに雨が少ないとみられる。
年間の降水量が少ないとみられるRがイに該当。夏の気温が低く、気温年較差も小さいPがウに該当。ウの都市サンフランシスコは、寒流(カリフォルニア海流)の影響によって夏の気温が上がらず、気温年較差も10℃に達しない。
残ったQがアである。
ケッペンの気候区分は原則として出題されないが、地中海性気候は例外。その範囲はぜひとも知っておこう。とくにサンフランシスコは頻出!
[難易度]アメリカの東部って夏に雨が少ないような特別な気候ではないよな〜って感じで、感覚的に解いてほしい。っていうか、こういう問題を「なんとなく」解けたらかなりセンター試験に慣れてきたってことだと思うよ。★☆☆
[参考問題]2012年度地理A本試験第1問問3。アメリカ合衆国南東部の地点(ニューオーリンズ)が取り上げられ、「夏は高温で乾燥し、冬は温暖で湿潤になる」という説明の正誤を問う。もちろん、誤りですね。アメリカ合衆国で地中海性気候がみられるのは、太平洋岸の地域。
問4[ファーストインプレッション]この問題、ダメじゃないか???問題として成り立っていないような気がするが。
[解法]おかしな問題である。これ、問題として成立していないよ。その理由は後から書くとして、先に答えを片付けてしまおう。
正解(誤り)は③。陸繋島とは、陸地と島が砂州(土砂の堆積地形)によって繋がれたもので、日本では北海道・函館が有名。2006年度地理B本試験の地形図問題で函館が登場しているので、よかったら参照してほしい。ちょっと昔の問題だが、過去問集で手に入れることはできるね。そもそも函館山という「島」があって、北海道の本土とは離れていたのだが、その間に土砂が堆積し(つまり「砂州」がつくられ)、やがて両者は結合した。かつて島だった函館山の部分を「陸繋島」といい、現在函館市街地が乗る低地の部分を「陸繋砂州(トンボロ)」という。このように、はっきりとした「山」となっていることが陸繋島の条件であるので、クは該当しない。これが誤り。
クについては「三角州」とみていいと思う。三角州については決して「三角形」だと思わないように(どうも地理の用語には悪い誤解を与えかねないものが多いのだが、三角州はその典型)。三角州は「かつて海だったところが河川の運ぶ土砂の堆積によって、現在陸地となったもの」という定義。淀川の運ぶ土砂によってかつての海が陸化した大阪平野などはその典型例。クの地形についても、河川の流れに注目してほしい。河川が流れ込み、土砂が河川の流れに沿って堆積し、陸地となっている。変わった形状ではあるが、これを「鳥趾(ちょうし)状三角州」といい、アメリカ合衆国のミシシッピ川河口に形成されている。ニューオーリンズの港が位置している。水深が比較的深く、土砂の目が細かく粘り気のある場合にこういった形状となる。
他の選択肢についても検討。実は結構危ない選択肢が多いので、じっくり見ていきますね。
まず、カについて。この地形は「沿岸州(えんがんす)」と呼ばれるもの。
浅い海に砂礫が堆積して、陸地となったもの。広い意味での「砂州」の仲間であり、この選択肢は正解。
ただ、あくまで「広い意味」ということ。本来の砂州の意味は、「陸地から突き出した砂礫の堆積物」であり、カのような沿岸州については砂州とはいえない。つまり、解釈によっては、この選択肢も誤りとなってしまうのだ。判定が難しい。
②について。そもそも海だったところが、砂州や沿岸州によって外海と切り離され、湖となったものを潟湖(ラグーン)という。北海道北東部のサロマ湖が最も分かりやすいので、よかったら地図帳を見ておいてください。たしかにキの範囲は潟湖といえる。正文。なお、センター試験でも比較的潟湖の出題は多く、2003年度地理B追試験第5問の「加茂湖」や、2009年度地理B本試験第2問問1の「中海」などは潟湖の例。とくにこれらは、外海とつながる細い河川(水路みたいなもの)でのみつながり、ほぼ完全に海とは切り離された湖であるという点において、本問のキの水域や、サロマ湖とはちょっと違っているんだけど、同じものと考えていい。潟湖の中には、秋田県の八郎潟のように(水深が浅いので)干拓されるものもあり、2013年度地理B追試験第6問問2の写真でも石川県における潟湖が干拓された様子が写真にて伺える。
さらに④について。「干潟」というのは、あくまで「海」のことで、「干潮時に海面上、満潮時に海面下となる浅海底のこと。2013年度地理B本試験第6問問3の地形図で干潟が示されているので、確認しておくといい。2008年度地理B第6問問3では、(古い地形図ではあるが)そのまま「干潟」の記号が問われている。潮干狩りをするような泥の部分と考えれば、想像しやすいね。で、問題に目を移すと、「旧市街地は干潟の上にある」という文章になっている。要するに、海の中に建物が作られたってことなのだ。これはスゴいよね。干潟が「砂や泥が干潮時に現れる」ことは間違いないので、正文とみていいんだけどね。
[補足]
砂州と砂嘴の関係について、補足説明を。教科書や資料集によって、解釈が二つあるのだ。
(1)狭義の砂州
砂州について、狭い意味で捉えたもの。「砂嘴」という地形が先にあり、その特殊な例として「砂州」があるというもの。以下の引用参照。
(最新地図図表・第一学習社)
砂嘴・・・海岸から嘴(くちばし)状に細長く突き出た砂礫の堆積地形。戸田湾・三保松原・北海道の野付崎・アメリカのコッド岬などにその例がみられる。
砂州・・・砂嘴が成長し、対岸近くまで直線状にのびた地形。ついには湾口をふさぎ潟湖(ラグーン)をもつようになることもある。天橋立(京都)・弓ヶ浜(鳥取)・サロマ湖(北海道)などにその例が見られる。
沿岸州・・・海岸線に沿ってほぼ平行に発達する砂地形。遠浅の海岸では、波によって砂が堆積し、州が形成されることがある、陸地と沿岸州との間に潟湖(ラグーン)がつくられることもある。アメリカの大西洋岸からメキシコ湾岸にかけて、その典型的な例がみられる。
「砂嘴>砂州」という関係がはっきりしているのがわかるかな。さらに「砂州」と「沿岸州」は完全仁別の地形という解釈になっている。
(2)広義の砂州
砂州をより大きな意味で捉えたもの。まず「砂州」という大きな括りがあり、その中で「砂嘴」、「沿岸州」、「陸繋砂州」などの細かい地形がある。
(新詳地理資料・帝国書院)
砂州・・・砂の堆積地形によって海底に堆積した砂礫が水面に表れたものの総称。形によって沿岸州、砂嘴、トンボロなどと呼ばれる。
砂嘴・・・湾口や岬の先端などに堆積した砂礫が、鳥の嘴(くちばし)のように海に突き出した砂州をいう。野付崎、三保半島、コッド岬。
沿岸州・・・遠浅の海岸に多く、海岸にほぼ並行に堆積した砂州をいう。陸と沿岸州との間は潟湖(ラグーン)となることが多い。
陸繋島・・・砂州が発達して、沖合の島が陸続きとなったものをいう。江ノ島、函館、男鹿半島、潮岬、志賀島
トンボロ・・・陸と島をつなぐほどに発達した砂州をいう。中間に潟湖をはさむこともある。陸繋砂州ともいう。
こちらは「砂州>砂嘴」となっているのがわかるね。この解釈によると、「砂州>沿岸州」であり、沿岸州も砂州の一種であることがわかる。第1問問4の選択肢①が「正しい」とのは、こちらの解釈による。
ただ、個人的には(1)の方の解釈の方が自然なような気もするのだ。(2)にしてしまうと、そもそも砂嘴やら沿岸州なんてどうでもいいってことになってしまう。全部ひっくりめて「砂州」でいいものね。とりあえず、センター試験的には(2)の解釈であったということで納得しておいてください。
ちなみに、陸繋島とトンボロ(陸繋砂州)の解釈もなかなかおもしろいので、参考までに。
(第一学習社)
陸繋島・・・沖合の島が砂州によって陸続きとなったもの。島をつないだ砂州を陸繋砂州(トンボロ)という。江の島・潮岬・志賀島・函館山などにその例がみられる。
(帝国書院)
陸繋島・・・砂州が発達して、沖合の島が陸続きとなったものをいう。江ノ島、函館、男鹿半島、潮岬、志賀島
トンボロ・・・陸と島をつなぐほどに発達した砂州をいう。中間に潟湖をはさむこともある。陸繋砂州ともいう。
「陸繋島」の解釈については両方とも同じ。ただ、トンボロについては第一学習社が「島をつないだ」としっかり書かれているのに対し、帝国書院の方は「陸と島をつなぐほど」と述べられている。えっ、つながっていなくていいの?って解釈になってしまうのが微妙なんだわな。(入手できる人は見て欲しいけれど)2003年度地理B追試験第5問問3の「二ツ亀島」はよく見ると、対岸とは陸続きになっていない。陸地から伸びる砂州と、島の間には「干潟」がみえる。干潮時には陸続きになるが、満潮時には切り離される。この砂地形を「陸繋砂州」と言ってしまっては誤りと思うんだが、解釈次第ではそれも正しいことになるのか。よくわかりません。
[難易度]これは解答不可能に思う。問題として不適切。正解に達するのは、地理に習熟している者ほど困難である。★★★
[参考問題]2009年度地理B本試験第6問問3。砂州(沿岸州)、潟湖、陸繋島、干潟の4種類の地形が問われているが、おそらく君たちが最も勘違いして覚えているのは干潟だと思う。干潟をしっかりイメージすること。
問5[ファーストインプレッション]自然地理ジャンルの第1問の中の小問としては変わってるね。これって、GNIと人口の問題なんじゃない?面積も考えていいかも。
[解法]自然災害に関する問題だけれども。「自然」っていうより、人口や経済といった社会的な部分が重要になるように思う。まず、「発生件数」から。これにはXからZ、大きな違いはない。
「被害額」はZが圧倒的に小さい。災害が発生しても、建物や交通機関などがダメージを受けることが少ないとは?さらに「被災者数」となると、Xが極めて多い。一つの災害で、多くの人々が影響を受けるということ。
このアンバランスはどこから来るのだろうか。Xについては想像しやすいと思う。被災者が多いというか、そもそもの人口規模が大きいので、その分たくさんの人が災害の影響を被るということ。アジアの人口は世界全体の8分の5(60%以上)を占める。被災者数において世界全体の90%をアジアが占めているとしても、納得の数字だろう(逆に人口規模が少ない地域で、90%だったらビックリするよね)。Xがアジア。
この要領で考えるならば、被害額が小さいZについてはそもそも「金目のものがない」と考えてみていいんじゃないかな。都市が未成熟でインフラ設備も整っていない。貧困な農村を災害が襲っても、多くの尊い命が失われる反面、被害額そのものは極小であろう。経済規模つまりGNIが小さいアフリカだからこそ、災害の発生件数に対する被害額が小さくなるとみていい。Zがアフリカ。
Yが南北アメリカだが、発生件数に対する被害額が大きいのは、それだけ都市化が進み、災害によるダメージが与えられた場合の損害が大きいということ。アメリカ合衆国をはじめとする先進国が含まれているからである。
また、被災者数はそれに対して少ないわけで、「被災者1人当たりの被害額」については、X〜Zの中で最も高くなる。1人当たりGNIが高いので、個人個人がそれだけの資産を有しているということだろう。
ちなみにこの期間の最も有名な災害は、サイクロン「カトリーナ」によるニューオーリンズ襲来だろう。そもそも三角州の低地にあったニューオーリンズは浸水により街の一部が失われ、現在でも復興は完全ではない。このニュース(とはいえ10年前だから、時事対策が必要ってわけではないけど)を知っていれば、北アメリカにおける被害額の大きさが想像できたんじゃないだろうか(そういえば、問4でも鳥趾状三角州のニューオーリンズが話題になっていたね。このネタ、次年度は要注意ですぞ)。
[難易度]人口に気づけば何とかなったんじゃないかな。被害額については、逆に「先進地域を含む南北アメリカだからこそ、被害額が小さく抑えられたのだ」と勘違いしてしまうと間違ってしまう。難しい問題ではないが、珍しいパターンの問題だけに解法のマニュアルというものはない。自分で一生懸命考えないといけないね。★★☆
[参考問題]2011年度地理B本試験第5問問1。人口規模で考える問題なのです。
問6 [ファーストインプレッション]防災地図(ハザートマップ)を使った問題は珍しい。文章問題で名前が登場することは何回かあったけど、図が直接登場したのは去年の地理A追試験が初めてだったような。新傾向ではあります。ちょっと緊張するね(笑)
[解法]防災地図(ハザートマップ)を用いた問題。本来のハザートマップはカラフルに印刷されているから見やすいのだが、この図はモノクロで非常に読み取りにくい。注意しないとね。
火山の噴火に関する地図のようで、まずは「想定噴火地点」を確認。ここに噴火口があるのだろうね。さらに「火山灰」について。なるほど、風向がな南南西なので、風下側の北北東方向に大きく降灰範囲が広がっている。
「火砕流」に関しては(これが実に見にくいのだが)北西方向と、南南西の方向に火砕流(つまり溶岩)が流下するとみられている。先ほどの火山灰の範囲とは真逆だが、地形の影響なのだろう。溶岩は高温を発するものであり、その周囲に「熱風部」が付随している。この範囲に家屋などあれば、高温によって火災の可能性もある。
さらに「土石流」。噴火によって破壊された山岳斜面から土砂が崩れ落ちる。その形状からみて、谷(あるいは河川)に沿って土砂が流れ込み、土石流が発生するようにみえるが。
「国道」も読み取りにくいけれど、図の南部を横断し、さらに、サを通過して西に抜けるものもある。
以上より、①から検討していこう。サは、「火山灰」の範囲からは除外されている。影響は少ないだろう。しかし気になるのは「可能性がある」とされている点。全くないとは言っていないんだよなぁ。さらによく図をみると、「年間に最も多い風向の場合に予想される降灰範囲と厚さ」とある。ということは、たまにはこれと違った風が吹き、それがもしも東風だったならサ方面にも火山灰が降って来る可能性があるってことだよなぁ。判断がつかない。これは保留としましょう。
では、②について。シはまさに土石流の範囲に含まれている。「火山噴火が終わった後」は気になるものの、土石流は簡単には取り除くことができないものであるし、しばらくは「通行ができなくなる可能性」があることは間違いないだろう。正文。
さらに③。スは「火砕流の本体」からは離れているが、「熱風部」の範囲ではある。木造の家屋ならば、火砕流の熱風によって火災が発生する可能性は十分に考えられる。正文。
最後に④。セは火砕流の範囲であると同時に、土石流にも襲われる可能性がある。火口の西側斜面の谷に位置しているのだろう。最も恐ろしい被害が予想される地点だ。「火砕流の被害を受ける可能性」はもちろんある。「土石流の影響によって損壊する可能性」についても、もちろんあるはず。この文章下線部は前半部分が決定的に誤っているとみていい。④が誤文で、正解。
先ほど保留にしておいた①については正文となるだろう。「可能性」はわずかかもしれないが、完全にないとはいえない。
本問については全ての選択肢が「可能性」について言及したものであり、このうち④のみが「可能性がない」という言葉が含まれていた。こうした災害で「絶対に安全」ということはないよね。言葉遊びのような問題ではあるんだけど(文章のニュアンスで解く問題って意味では現代文っぽいよね)、災害にはいついかなる状況でも最大限に注意せよっていうメッセージが訴えかけられている問題とも言えるわけだ。そう考えてみると良問だなぁ。
[難易度]解説でも述べたように、①の判定が難しい。最終的には「文章のニュアンス」で解かないといけないのが悩ましい。★★☆
[参考問題]2016年度地理A追試験第2問問4。ハザードマップというわけではないが、災害に関して地図(地形図ではなく)が使用された例。こうした地図についても読解する力を養おう。
たつじんオリジナル解説[2017年度地理B本試験]第2問
問1[ファーストインプレッション]最新の食料事情を反映したいい問題ですね。本問に限らず、現代の社会情勢に関する問題が目立つのは、やはり将来的は「地理総合」を意識してのものなのでしょうか。
[解法]選択肢①はあいまい。選択肢②についても「トレーサビリティ」という言葉は初登場なので、ちょっと判定しにくい。選択肢③に注目しよう。「遺伝子組み換え作物」は非常によく出題されるネタ。
最低限知っておくことは次の3つ。日本国内では、遺伝子組換え作物の栽培は禁止されている(*)。しかし、輸入品についてはそうした制限がなく、アメリカ合衆国などから遺伝子組み換え農作物は国内に流入している。ただし、それを使用して加工した食品については(その使用について)表示義務がある(**)。
このことを前提条件として、選択肢③について考えてみよう。「遺伝子組み換え作物を使用した加工食品が輸入されている」かどうかということ。「遺伝子組み換え作物そのものは輸入されている」ことは間違いない。そして、「遺伝子組み換え作物を使用した場合には表示が義務付けられている」のだから、加工食品の製造自体は禁止されていないことになる。つまり、日本国内において、遺伝子組み換え作物を使用した加工食品の流通は十分に認められているのだ。それならば、そうした食品の輸入についても禁止されていないと考えるのが適当ではないだろうか。日本国内の農家については遺伝子久美枝作物の栽培が認められていないが、その輸入や使用については特に制限がない(表示さえすれば)ことがわかるだろう。③が誤りで、正解。
④についてはどうかな。野菜といってもいろいろな種類のものがあるし。保存がしやすいものを中心に輸入量が増加していると考える方が自然だろう。
(*)厳密には「商業的栽培が禁止されている」のだが、そもそも遺伝子組み換え作物を自給的に栽培する人もいないので、全面的に禁止されていると考えて問題ない。
(**)実際にはそうした食品はほとんどないので、むしろ逆に「遺伝子組み換え作物を使用していない」ことが示されているケースが多い。
[難易度]遺伝子組み換え作物をめぐる状況については理解していたとしても、「加工品の輸入」というようにちょっと変化球を投げられたらわかりにくいよね。意外に難儀した人が多そうな。★★☆
[参考問題]2012年度地理B本試験第2問問6。遺伝子組換えに関する問題は、地理A・B、本試験・追試験とわず比較的よく出題されている。その中で、最も参照しやすい問題としてこの問題に注目しよう。世界中で栽培されている遺伝子組み換え作物だが、日本では栽培は禁止されている(厳密には「商業的栽培の禁止」だが、そもそも「自給的」に遺伝子組換え作物を栽培する農家はないだろうから、実質的に完全禁止と考えていい)。ただし、なぜか「加工食品用の遺伝子組換え作物の輸入」は認められており、(法律的には)これを使用した食品の販売は一般に行うことが可能。
問2[ファーストインプレッション]一見シンプルな問題と思いきや、①と②の判定がちょっと難しいかもしれない。「農林水産業」以外の産業って何だろうって考えてみると、解きやすいと思うよ。
[解法]「農林水産業従事者1人当たりの農地面積」については、経営規模の大小を考える。「家族中心の零細経営的」な農業がみられるアジアやアフリカでは当然小さいだろうし。「企業的」な農業がみられる新大陸ではとくに大きな値となるだろう。第1次産業就業人口割合を考えてみても、発展途上地域のアジアやアフリカでは高く、先進地域の北アメリカやオセアニアでは低い。農民の数が相対的に多いアジアやアフリカでは1人当たりの面積は小さくなるだろうし、逆に新大陸は大きくなるだろう。①と②がアジアかアフリカ、③と④が北アメリカかオセアニア。
ここからちょっと考えないと。①と②の判定はちょっと難しい。「GDPに占める農林水産業の割合」だが、アジアとアフリカどちらが高いのだろうか。
ここは逆に「どちらが低いか」を考えるべきで、逆に言い方をすれば「農林水産業以外の産業の割合がどちらが高いか」ということである。農林水産業以外ならば、例えば鉱業があるだろうか。しかし資源は両方とも豊富な地域と思われる。ならば、工業を考える。工業には製造業と建設業があるが。特に製造業の分野においては中国や東南アジアなど先進国から工場が多く進出している地域も多く、アジアの工業生産力は世界一のレベルである。さらに(農林水産業は第1次産業、鉱工業は第2次産業であるので)第3次産業を考えてみてもいい。商業や金融業を考えて、それらがアフリカで発達しているとは想像しにくい。農林水産業以外の産業がさかんなアジアを②と判定する。①がアフリカ。
③と④は判定の必要がないが、③がオセアニア、④が北アメリカかな。ヨーロッパで1人当たりの農地面積が狭いのは納得だけど、GDPに占める割合が北アメリカより高いのは意外だね。
[難易度]2つに絞ってから迷うかもしれないね。★★☆
[参考問題]これ、ちょうどいい問題があったんですが、年度を忘れてしまし(涙)ただいま探し中。また追加で解説つくりますんで、ちょっと待っててね。
問4[ファーストインプレッション]ん、今年やたらドイツとオーストラリア多くない?しかもそのドイツを問う問題だわ。イギリスとの差異が難しいが、あることに気づけば何とかなるんじゃないかな?
[解法]選択肢はイギリス、オーストラリア、ドイツ、日本。いずれも1人当たりGNIの高い先進国だが、資源の供給状況については差異がある。
まず輸入依存度が百に近い①が日本であることは明らかだろう。石炭、原油(石油)、天然ガスなどエネルギーは国内でほとんど産しない。これに対し、この値が大きくマイナスとなっている④がオーストラリアというのもわかりやすいのではないか。問3では石炭の輸出が多い国としてオーストラリアが登場しているし(問題かぶってるやん!)、それ以外の資源についても輸出国であることは十分に想像できる。人口が少なく、工業が発達していないので、国内の供給量(地理では供給と消費は同義語と考える。つまりエネルギー消費量という意味)が小さいことも、輸入に頼る度合いが低いことの一つの目安となる。
さて、ここからがポイント。問題はドイツとイギリスの比較なのだ。いずれもヨーロッパの先進国であり、キャラクターにさほど差はないように見える。さて、エネルギーの需給についてはどうだろうか。エネルギー供給(消費)量については差はないはず。ポイントは生産量なのだ。ドイツとイギリス、さてどちらがいわゆる「資源国」なのか。たしかにドイツにはルール地方に炭田はある。しかし、近年はルール地方における鉄鋼生産は停滞し、むしろ再開発によって先端産業地域へと変貌しつつある。ドイツで石炭が産出されないとは言えないが、しかし決して国内需要を満たすのに十分であるとは思えない(問でも、ヨーロッパで石炭産出が世界8位までにランクインしているのはポーランドのみである)。一方、イギリスはどうだろうか。かつては古期造山帯であるペニン山脈周辺で石炭が多く産出されたが、それが過去の話であるのはみんなも知っている通り。そう、エネルギーっていうか化石燃料って石炭だけじゃないよね。もちろん「原油」もあれば「天然ガス」もある。1970年代に発見された北海油田は現在でも採掘が進み、これに接するイギリスやノルウェーは西ヨーロッパ有数の原油・天然ガスの産出国となっている。輸入依存度が低い(つまり自給率が高い)③をイギリスとし、②がドイツである。
なるほど、ドイツで製造業を中心とした第二次産業(鉱工業)就業人口割合が高いのも、イメージ通りじゃないかな。日本もドイツも世界的な自動車生産国であるしね(統計を確認しておいて。イギリスは自動車生産が少ない。もちろんオーストラリアも)。
[難易度]簡単な問題とは思わないが、ドイツを当てるなら絶望的でもないかな。★★☆
[参考問題]2008年度地理B本試験第2問問3。「輸入依存率」という言葉が登場した問題。自給率の反対だと捉えましょう。
問5[ファーストインプレッション]原油や天然ガスでこれと似たパターンの問題があったから、当然石炭もあって然るべき。統計に基づく問題で、簡単とは思うけれど、中国に気をつけましょう。
[解法]石炭の生産、輸出、消費が問われた問題。あいまいにではなく、具体的にみていくことが重要。たとえば、日本に注目してみる。世界をテーマにした統計問題で日本を最初に考えるのは定番。
日本は、アのみ丸が描かれ、イとウでは全くない。日本は少なくとも石炭の生産国や輸出国ではないのだから、これが「消費」となる。なるほど、中国の値が圧倒的である他、アメリカ合衆国やドイツを中心としたヨーロッパなど経済大国(GNIが大きな国)が並ぶ。
イとウについてはオーストラリアがわかりやすいかな。人口が少ない国であり(つまり、GNIが小さいということ)、工業もとくにさかんではない。大量に採掘される資源の多くは海外への輸出とされているのだ。生産も少なくないが(世界の8位までに入っているのだから)、それ以上に輸出国としての地位が高いと考えるのが妥当だろう。ウが「輸出となり、イが「生産」。ちなみに、ヨーロッパで生産が多いのはポーランドなので、これもチェックしておくといい。
なお、石炭といえば何といっても中国が真っ先に頭に思い浮かぶが、アとイからわかるように、生産量が圧倒的に多いだけでなく、消費量はそれに輪をかけて莫大である。本図にはないが、輸入量も世界1位。
[難易度]日本やオーストラリアといったわかりやすい国に注目すればいいね。★☆☆
[参考問題]2012年度地理A追試験第4問問2。地理Aの追試験ということで入手しにくいかもしれませんが、可能な人は参照してください。天然ガスの国別の産出量と輸出量が示された問題ですが、解答自体は図とは関係ありません。「日本では、天然ガスの産出量がほとんどなく、西アジア・アフリカからの輸入が大半を占めるため、輸入先の安定的な確保が課題となっている。」という選択肢が登場し、もちろんこれは「誤り」です。日本の天然ガスの輸入先は。オーストラリアやマレーシアになります。あえて産出量の多くない国から輸入をしているという(天然ガスの主な輸出国はロシア)不整合がそこにあるわけです。ちなみに、2011年度地理B本試験第2問問1では原油の産出、輸出、輸入も登場。こちらも参考にしてください。
問6[ファーストインプレッション]ダイレクトに都市名が登場する問題。いずれもよく知られた都市であるし、過去問にも出題されているので大丈夫でしょう。
[解法]カ;ロッテルダム。オランダの都市でライン川デルタに位置する。沿岸部を掘削して、人工港ユーロポートが建設された。石油化学工業も立地。
キ;デトロイト。アメリカ合衆国五大湖沿岸の都市。周辺の鉄鋼都市(ピッツバーグなど)から鉄鋼が運ばれ、集積地として自動車工業が発達した(しかし現在は不況により市の財政は破綻している)。
ク;バンコク。主に日本などから工場が進出。とくに近年は日本とタイとの間で自動車部品については自由貿易協定が結ばれていることから、自動車の生産が急増している。
[難易度]これは解かなくちゃ!今気づいたけど、ロッテルダムにカッコで「ユーロポート」って書いてあるね。めちゃめちゃヒントやん(笑)。★☆☆
[参考問題]2011年度地理B本試験第2問問6。以外にデトロイトが登場する問題はめずらしい。なお、バンコクは2005年度地理B追試験第5問問5で、ロッテルダムは2010年度地理B追試験第4問問2で登場。
たつじんオリジナル解説[2017年度地理B本試験]第3問
問1[ファーストインプレッション]写真がわかりにくいですが、こうした問題で写真そのものの判定が必要なものはほとんどないので、大丈夫でしょう(笑)。具体的な都市名より、理論的な部分を強調して考えてみよう。
[解法]誤りを一つだけ指摘する問題だから、丁寧にキーワードを探していってね。「対になる言葉」を持つ語に注意しよう。言葉をひっくり返すだけで誤り選択肢をつくれるのだから、おいしい。
例えば、①ならば「郊外」なんていう言葉。どうかな。でも郊外にこのような(っていうか写真がよくわからないんだけど・笑)集合住宅が建設される例は日本にもあるし、とくに問題ないと思う。
だからこそ、選択肢②の「都心部」が気になるのだ。言うまでもなく。都心部は郊外と対になる言葉というか反対語。都市圏(通勤圏と同じ)において、昼間人口が大きいエリアが都心部ならば、夜間人口が大きいのが郊外。都心部には企業オフィスや官庁街がみられ、地価が高いので、住宅も一戸当たりの延べ床面積が小さいマンションなど。郊外は、地価も安く、土地が得やすいため、新興住宅地区となりやすい。この点を意識してみると答えは簡単だと思う。「庭や車庫を持つ低層の戸建て住宅」が都心部にみられるか。それって郊外が中心じゃないか。②を誤り選択肢とする。都心部にみられるのは「高層の集合住宅(マンション)」だね。対になる言葉にとにかく注目してみよう。
選択肢③や④にはここまで明確な「対になる言葉を有する語」は含まれていない。
[難易度]ベーシックな都市構造の問題ではあるんだが、そこに気付くかどうか。 ★★☆
[参考問題]2009年度地理B本試験第4問問4。これはそのまんまでしょ。内容しっかり吟味してください。
問2[ファーストインプレッション]エッセンなんて登場していてちょっとビックリ。逆にこういったマイナーな都市名は無視して考えたらいいから問題ないんだけど。一昨年からドイツの都市名がやたら登場しているんだけど、何かの伏線かな。今年はターチンが出ているし。
[解法]それぞれの選択肢を検討していこう。
①は誤り。「唐の長安」は正しいが、問題はその形状。「放射・環状」でないね。「直交路型」あるいは「碁盤目状」。平城京や平安京の形を考えればいいね。もっとも「古代」というのは奈良時代までだから、平城京だけを考えるべきかも知れないけれど。平安京の平安時代は中世なのです。
②も誤り。ちょっとした歴史ネタではあるが、徳川幕府の統制が行き届いた封建社会の江戸時代において、自由都市は一般的なものではない。領主の力が及ばず、商人が中心となって自らの財力で都市の防備を固め(兵など雇って)、自由に商業を行なっていた都市。日本では港町である堺がこの例であり、世界的にみるとドイツ北部のハンブルクなどがハンザ同盟都市という自治都市のグループを形成していたことで有名。
③も誤り。そもそも「西部開拓時代」と「タウンシップ制」が符合するかがちょっとした疑問だったんだが、ここでは「集村」が決定的なNGワードになっていますね。タウンシップ制は「散村」です。
以上より、残った④が正解になる。エッセンという都市は知らない方がいいと思う。ここではマンチェスターに注目しよう。イギリスは、ロンドンが位置する南部を除けば、土地が肥沃ではなく(大陸氷河によって土壌が削られたのだ)、古来より農業を基盤とする都市は成立しなかった。産業革命である18世紀後半に、炭田が開発され、各地で工業が勃興すると、これまで居住に適さない地域だったイギリスの中部や北部に多くの都市がつくられるようになった。ランカシャー地方のマンチェスターはその中心的な都市であり、インドから輸入した綿花を利用した綿工業が発達し、産業革命を象徴する街となった。「近代」というキーワードにはさほど神経質にならなくていいと思う。とりあえず「比較的新しい時代」と捉えれば十分であるし、19世紀後半ならそれに十分あてはまるだろう
[難易度]正文を選ぶ問題であるだけでも(誤りを3つ指摘しないといけない)難易度が高いことに加え、「自由都市」といった新しい言葉も登場(2015年にハンブルクが問われた際にもこの言葉は用いられなかった)。難しいと思います。間違えても、しゃあないんちゃうかなぁ。★★★
[参考問題]2007年度地理B本試験第3問問1。「産業革命期のヨーロッパでは、政治・商業機能を中心とした都市に加え、工業都市が発達した」という正文が登場。この典型的な例こそ、マンチェスターなのである。
問3[ファーストインプレッション]今年はオーストラリアの出題が多いような気がするね。特徴が多い国でもあるし。本問も、見慣れないデータではあるけれど、オーストラリアの特徴をしっかり把握しておけば十分解ける問題になっている。求められる知識のレベルは中学程度。思考力が重要なのだ。
[解法]「人口の偏在の度合い」と「1人あたり総生産の国内地域格差」というかなり変わったデータが取り上げられている。とくに後者については注釈すらないので、想像しないといけない。
もちろん重要となるのは前者の方。注釈を参考に考えてみよう。「総人口のうち、人口密度の高い上位10%の地域に住む人口の比率」とある。なるほど、「人口密度の高い地域」とはすなわち市街化された都市のことだろう。都市に極端に人口があつまり、それ以外の地域(農村など)にほとんど人が住んでいない国ならば、④のような高率となる。日本もかなり「都市への偏在」が高い国ではあるけれど、それでも④には及ばない。オーストラリアを想像してみよう。総人口は2000万人だが、シドニーとメルボルンがそれぞれ400万人を超えるなど、国の規模に比べて人口が大きい都市が多い。砂漠やステップが多く都市以外の地域には居住しにくいし、農業も企業的な大規模化が進んでおりいわゆる農家は少ないと思われる。居住に適した都市に集中して人々が暮らしているというイメージは容易に持てるだろう。④がオーストラリアとなる。
参考までに「1人当たり総生産の国内地域間格差」についても検証。発展途上国は経済規模が小さいため、投資が特定の都市に集中するっていうセオリーはわかるよね。いわゆるプライメートシティができやすいっていう理論。先進国の場合は経済規模に余裕があるから、国内にいくつも大都市ができるが、発展途上国は道路や上下水道、発電所、港湾、飛行場といったインフラについては多くをつくることができないので、「たった一つ」の都市のみにそれらが集中し、国内で突出した存在となる。農村から都市に向かって多くの人々が仕事を求めて移動することからわかるように、こうしたプライメートシティと、そこから離れた農村との経済格差は極めて大きい。「1人当たり総生産の国内地域間格差」が、発展途上国であるインドで大きく、先進国の日本で小さいのも納得なんじゃないかな。大都市圏以外の地方も比較的豊かな日本と、国内の貧富格差が大きいインド。②と④は先進国であり、格差は小さい(オランダとオーストラリア)のに対し、①と③は発展途上国であり、格差が大きい。
なお、①と③については判定の必要はないけれど、③の値の大きさが異常。1人当たりGNIで考えると、メキシコと南アフリア共和国はともに1万ドル程度であるのに対し、インドは2000ドルに過ぎない。「最貧国」ともいえるインドより格差が大きいところってどこだ?これ、おそらく南アフリカ共和国なんだと思う。アパルトヘイトが撤廃され20年以上が経っているのだが、それでもヨーロッパ系とアフリカ系の人たちの格差は埋まらない。政治的には平等であり、選挙においてはアフリカ系の大統領も生まれているのに関わらず、経済はまだまだ不平等なのだ。ヨーロッパ系が住む大都市の都心地域と、アフリカ系が中心の貧困地域との格差がいかに大きいか。
[難易度]初登場のデータなので、考えないといけない。でも、オーストラリアでは、国土の半分以上が乾燥地域なのだから、都市部に極端に人口が集まっていることは、十分に想像できるはず。思考問題として解こう。★☆☆
[参考問題]2015年度地理B本試験第2問問3。オランダの「狭さ」が問われている。面積に対するイメージも大切だと思うよ。
問4[ファーストインプレッション]おっと、おなじみの図だなと思ったけれど、問題内容をみてびっくり!これ、めちゃめちゃ難しくないか!?バブル期の「1985年〜1990年」はともかくとして、低成長期に入った「1995年〜2000年」、「2005年〜2010年」の差はわからん???
[解法]それにしてもよく見る図だよね。ただし、本問の場合はかなり最近の時期の人口増減の様子が問われている。かなりの難問。
東京大都市圏については、高度経済成長期初期には都心部から30キロメートル程度の範囲にニュータウンが多く建設されていたが、やがてその範囲が50キロメートルという遠隔地に拡大。その一方で、都心部の人口が減少するドーナツ化現象が進行していた。
高度経済成長が終わり、1980年代に入ると人口流動は一旦落ち着きをみせるが、現在に至るまで東京大都市圏全体の人口自体は増加の一途である。
おおまかに以上のような流れが意識できていれば十分。ただし、非常に重要なトピックが一つあり、それが「都心への人口回帰」。ウォーターフロントで工業地域が再開発され住宅地になったり、高層マンションの建設について規制緩和があったり、あるいはライフスタイルの変化によって一戸建て信仰が崩れ都心のマンション人気が高まったり、いろいろな理由が合わさり、東京都心部の人口が急増している。もちろん、1960年代からの長いスパンで考えれば、ドーナツ化現象によって大きく人口が減少したことによる「リバウンド」と考えることも妥当だが、とにかく現時点で「東京都が最も人口増加率の高い都道府県である」ことは絶対に知っておいて欲しい。
本問についても、この一つのネタだけで解いてしまっていいと思う。まず、最も古い年代は(古いといっても、感覚的には最近なんだが)、クである。東京23区の範囲が「白」となっており、人口が減少していることがわかる。地価の高騰と居住環境の悪化によるドーナツ化現象が継続している(地価が高いのがバブルっぽいね)。
それに続くのがカ。東京都心部に「黒」の地域がややみられるようになり、一部に「白」は残っているものの、次第に人口が増加してきたことがわかる。
最も新しいのがキ。「黒」の部分はあまり変化していないが。「白」が消え、山間部を除く東京都全体が人口増加地域となってきた様子が伺える。正解は⑤である。
なお、千葉県にも注目してみようか。「郊外」の代表的な県として長い間高い人口増加率を誇ってきた千葉県ではあるが、いよいよ最近になって人口が減少傾向にあるようだ。カを見る限り、また「黒」の地域がみられ、成田空港の周辺地域などではこの時期でも住宅開発がさかんだったことがわかるが、2000年代に入ると開発も終わり、南部や東部など広い範囲で人口減少が目立ち、県全体でも人口は停滞(あるいは減少)していることが想像できる。
現代の人口変化については、徹底的に「東京」にこだわること!
[難易度]これは難しいでしょう。東京都心に注目すれば何とかなるかな。 ★★★
[参考問題]2012年度地理B第3問問4。ほぼ同じ問題(ちょっとだけ年度がズレているんだが)っていうのがビックリ。ただ、同じ階級区分図とはいえ、階級の区切り方がちょっと違うので注意してね。2017年の問題は「10%以上」を「高」としているけれど、2012年の問題では「20%以上」が「高」。1980年代までの人口移動の方が規模が大きかったということがわかる。ただ、それよりも本当に東京都心部の変化に注目して欲しい。高度経済成長期からバブル時期までは一貫して東京都心部の人口は減少し、顕著な「ドーナツ化現象」がみられた。それに変化がみられるのが1990年代後半。東京都心部における人口減少地域が狭まり、一部では人口の増加がみられた。2000年代に入ると、東京都心部で人口減少地域は無くなり、逆に増加傾向が明確になった。再開発によるジェントリフィケーションを伴う「都心への人口回帰」の時代となったのだ。
問5[ファーストインプレッション]統計指標と階級区分図の組合せを問う問題と思ったけれど、実はそうじゃなかったのね。「みるだけ問題」でもあるし、難易度は高くないでしょう。
[解法]図をみながら文章の正誤を判定する問題であり、特別な知識は不要。それぞれの文章を検討していこう。
①;三大都市圏は、東京大都市圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)、名古屋大都市圏(愛知県)、大阪大都市圏(大阪府・京都府・兵庫県)。たしかに三大都市圏の老年人口率は全体に低位と中位であり、非大都市圏(三大都市以外の地域)で高位が目立つのとは対照的。正文。
②;老年人口の増加率を参照。たしかに三大都市圏の都府県は高位ばかり。正文。北海道も高いね。今まで老年人口割合が低かっただけに、急激な高齢化が目立っているのだ。
③;老年人口1000人当たりの養護老人ホーム定員数については、三大都市圏では低位が目立ち、高位はない。③が誤りである。都市部では急激な高齢者の増加に対応できていない。
④;この選択肢は検討する必要はないが、参考までに。高度経済成長期とは1960年代を中心に、1950年代後半から1970年代前半まで。現在より40年以上前の時代であり、このj期に流入した20歳代や30歳大の若年層も、現在は60歳代や70歳代となっている。
[難易度]「みるだけ問題」。もちろん三大都市圏の意味を知っておかないといけないけれど、それは何とかなるんじゃないかな。★☆☆
[参考問題]2010年度地理B本試験第4問問4。かつてのニュータウンで世代が高齢化し、「オールドタウン」となっていく。かつて若者が多かった街もやがて高齢化問題に直面するのだ。
たつじんオリジナル解説[2015年度地理B本試験]第4問
中国地誌。地誌問題は、3年毎に「アジア・アフリカ→ヨーロッパ周辺→南北アメリカ」をローテーションで繰り返す。最近では、2012・北アメリカ→2013・南ヨーロッパ→2014・西アジア→2015・南アメリカ→2016・ヨーロッパ→2017・中国、の順。来年は北アメリカが大本命。なお、センター地理B本試験で、東ヨーロッパ・ロシア都オセアニアは地誌問題で取り上げられたことはない。
問1[ファーストインプレッション]「レス」と「タワーカルスト」については近年に出題例があり。さほど難しくはない。標高が高いことを氷河(山岳氷河)と結びつけることも大切。
[解法]ア〜ウの文章については、「レス」、「タワーカルスト」、「氷河」がキーワードとなっている。
ア;「レス」とは間帯土壌の一種で、中国では黄土高原に分布。風によって集められた細砂が黄河上流の高原に分布し、黄河の流れによって華北平原に運ばれ、肥沃な土壌として小麦やトウモロコシの栽培に利用されている。Bが該当。
イ;タワーカルストは、極めて急傾斜を持つ山容を塔(タワー)に形容したもので、石灰岩の溶食によって取り残された地形である。2015年度地理B本試験第1問問5で登場しているので、過去問を研究しているみんななら当然知っておくべきだね。中国南部にみられる特殊な地形で、Cが該当。
ウ;ここでは「氷河」がポイントとなる。アジアはそもそも大陸氷河に覆われた地域ではないが、標高の高い地域には山岳氷河が局地的に分布し、それによる地形もみられる。中国とインドの国境に沿って高峻なヒマラヤ山脈が走り、チベット高原も極めて標高の高い地域となっている。チベット自治区南部、ヒマラヤ山脈の北に沿うAならば山岳氷河がみられたとして不思議はないだろう。Aに該当。なお、ここでは「モレーン」は重要語句ではない。モレーンは、氷河によって運搬された(氷河は「氷の河」なので、流れがあることはわかるよね)土砂がその末端に堆積して形成された土の盛り上がり。かつて大陸氷河に覆われていたドイツ平原やカナダ南部などによくみられる。
[難易度]タワーカルストがわかるかどうかなんだが、最近のセンター本試験で出題されているのだから、当然知っておかないといけない。★☆☆
[参考問題]2013年度地理B追試験第4問問1。タワーカルストについては解法の中で参考問題を挙げているんで、こちらはレスを紹介しましょう。黄河中流域の高原について「レス(黄土)が厚く堆積し、黄砂の発生地の一つとなっている」と説明されている。
問2[ファーストインプレッション]ハイサーグラフを用いた問題。ハイサーグラフは頻出なので、読み方はしっかり練習しておいてね。中国の気候が問われた問題だけど、緯度と気温年較差の関係が非常に大切。
[解法]気候グラフ問題。本問のように気温と降水量と両方が示されている場合には、気温を最優先して考える。気温だけでわからなかった時のみ、降水量を参考に。ただ市、本問の場合は気温だけでいけるんちゃうかな?
さらに気温については2点。気温の高低そのものと、年較差を考える。
気温の高低は単純に「低緯度ならば高温、高緯度ならば低温」が大原則。緯度によって太陽の日射量が違うからね。もちろんこれに風や海流の影響もあるけれど、それはあくまで後からの味付けっていう感じ。
さらに年較差についても緯度が重要で「低緯度ならば気温年較差が小さく、高緯度ならば大きい」となる。これも地球と太陽の関係が重要で。地軸を傾けた状態で公転しているため、赤道付近では年間を通じて太陽からの受熱量が変化しないが、高緯度地域では夏は昼が長く冬は昼が短くなるため、明確な季節差が生じる。もちろんこれにも海陸分布(海洋性気候と大陸性気候の違い)や風や海流の影響(偏西風や暖流の影響が強い北西ヨーロッパやニューj〜ランドは緯度が高いのに気温年較差が小さい典型的な地域)もあるけど、これらもあくまでトッピングや調味料と考える。ベースとなる「味」は緯度によって決定されるのだ。
なお、とくに本問の場合は日本の近隣国であることから、日本の気温を知っておくと目安になると思う。日本については、北海道(札幌)で「7月25℃、1月−5℃、年降水量1000mm」、本州・九州(東京)「7月25℃、1月5℃、年降水量1500mm」、沖縄(那覇)「7月25℃、1月15℃、年降水量1000mm」という数字を具体的に覚えておく。これとの比較によって、おおまかに気温や降水量を想像できる。
では、まずグラフを見てみよう。大きく2つのグループに分かれる。気温年較差が大きい①と④、小さい②と③。地図をみると、高緯度のJとK、低緯度のLとMというように違いがはっきり。なるほど、①と④をJとK、②と③をLとMと仮定してみよう。
Mを特定するのだから、選択肢は2つに絞られた。(少しではあるが)やや南に位置するMで高温となり②が該当し、残ったLは③とみるのが妥当と思いきや。実はそれではおかしいのだ。
ポイントはLの気温。やや北に位置する本州ですら夏の気温が25℃まで上がるというのに、③のグラフのように20℃程度というのはいかにもおかしいのではないか。むしろ②のように、「7月29℃、1月10℃」で、年間の平均気温が20℃ほどならば、沖縄に近い場所の気候としては非常に適切。周りを海に囲まれた沖縄よりちょっと大陸性の傾向が強いが(夏が暑く、冬が寒い)これなら納得だろう。Lが②となり、Mは③である。これが正解。
Mについては、低緯度であり気温年較差が小さいのは妥当なのだが、問題は気温の低さ。これについては標高の高さを考えればいいかな。おそらくMの地点は高原になっているのだろう。標高100メートルごとに気温はー0.6℃ずつ低下するので、標高2000メートルで10℃以上下がる。この地域において夏でも気温が20℃にしか上がらないのは、そういった地形条件が作用しているのだろう。
[重要!]低緯度地域の高原の気候
内陸部は無条件に気温年較差が大きいって考えている人はいないかな?気温年較差を決定するものはあくまで「緯度」であり、「海洋性と大陸性の違い」っていうのは、あとから考えるオマケみたいなもの。
低緯度地域は年間を通じて太陽の受熱量が大きく変化しないのだから、沿岸部だろうと内陸部だろうと、たいした差は生じない。
これに対し、高緯度地域はそもそもの年較差が大きくなるわけだが、沿岸部の場合はこれが緩和され年較差の小さいおだやかな気候になるのに比べ、大陸内部はそれが強調され、さらに年較差が大きな気候となる。
イメージは下の表のような感じ。
沿岸部内陸部
高緯度普通大きい
中緯度小さい普通
低緯度たいへん小さい小さい
赤道直下全くない全くない
たとえばラーメンを考えてみると、ベースとなるスープの味が「緯度」であり、それに入れる調味料が「海陸の差」。緯度が絶対的なものではあるのだけれど、海陸の差というトッピングによって多少の変化があるっていう感じかな。
[難易度]このぐらいは簡単にクリアしてほしいな。★☆☆
[参考問題]2008年度地理B追試験第1問問1・2016年度地理B追試験第5問問1。高原の気候グラフを紹介しましょう。まず低緯度のもの。2008年度には南アメリカ大陸のラパスが取り上げられている。ウのグラフである。低緯度の高原に位置し、気温年較差は小さい。アンデス山脈の標高4000メートルに位置するため、気温は海表面より20℃ほど低くなり、年間平均気温が10℃を下回る「常冬」の気候。
2016年度はトルコとイランの中緯度地域の高原都市が登場している。アとイのグラフが該当。いずれも標高2000メートル程度の都市であり、こちらは海表面より10℃ほど全体に低い。気温年較差については、中緯度地域なので、もともとそれなりに大きいのだが、とくに内陸部であることからその差が拡大している(ウのグラフが海洋性気候なので、比べてみるといいだろう)。
なお、「高緯度の高原都市」は存在しない。そんなところ、人が住めないから都市もつくられないでしょ。たしかにシベリアやアラスカの内陸部に都市はみられるが、低地に位置し、夏は比較的高温となる(もちろん、冬や厳寒だけれども)。
問3[ファーストインプレッション]ありがちな問題と思いきや。ひとすじなわではいかない感じがするよー。そもそもイモ類も野菜の一種だと思うんだけど(笑)そこはツッコまずに冷静に行きましょう。
[解法]作付面積とはあるけれど、生産量ととくにかわらないとみていいよね。要するに栽培地域。
茶はわかりやすいんじゃないかな。日本でも、西日本で栽培されるもので、せいぜい関東地方で多少みられる程度。中国の華北地域(黄河流域。ペキンなどが位置)は北海道のような気候がみられるところなので、さすがに茶の栽培はできないでしょう。華中(長江流域)以南のみに円が集まるカが「茶」。
さらにイモ類と野菜。厳密にはイモ類も野菜だと思うんだけど、この②つの違いは、「保存しやすく長距離輸送をしやすい」イモ類と、「鮮度が重要なので消費地の近くで栽培されやすい」野菜の差。キとクを比較した場合、沿海部の人口稠密(ちゅうみつ。密度が高いという意味)地域に円が集まるクと、やや内陸部の離れた地域に円が多いキ。市場からの距離を考えた場合、クを「野菜」、キを「イモ類」とみていいだろう。都市の周辺で近郊農業によって野菜がつくられているイメージをもてれば勝ちだね。
ところで、モンゴルに接する細長いエリアが「内モンゴル自治区」で、モンゴル民族が遊牧の文化をもって生活しているところ。農耕は原則として行われず、野菜が栽培されていないのはわかるんだけど、イモ類は結構あるよね。モンゴル民族はイモだけは食べるのかな???たしかにジャガイモは厳しい自然環境でも生育できるものだけどね。
[難易度]茶は簡単なんだけどね、他の2つで悩むかな。★★☆
[参考問題]2013年度地理A本試験第3問問3。形式的に類似した問題は多いですが、今回はあえてこちらの問題を紹介しますね。インドの農業に関する問題で、選択肢④「ヒマラヤ山脈南麓のアッサム地方では、降水量が少ないため地下水を得やすい低平な地域において、茶が栽培されている」という誤文。そもそもアッサム地方は季節風が海から吹き込む影響で。とくに夏季に極めて雨が多くなる地域なのですが、それに加えて「低平な地域」ももちろん誤り。茶は「温暖多雨」という気候環境、そして「排水性が良い斜面」での栽培に適するものなのです。中国における栽培地域を目で確認しておこう。黄河流域のような、少雨地域では栽培は困難なのです。
問4 [ファーストインプレッション]昔、亜硫酸ガスをネタに似たような図を用いた問題があったけれど、その別バージョンって感じ。ただし、特別な知識が問われているわけではないよね。気になる言葉をピックアップしましょう。
[解法]「誤り」を指摘しよう。「対になる言葉を持つ語」に注目してほしい。どうかな?それっぽいのがあるんじゃないかな?もちろんそれは「貿易風」。貿易風は低緯度を吹く惑星風(恒常楓)であり、東寄りの風である。日本上空など中緯度から高緯度にかけての地域で卓越するのは「偏西風」で、こちらは西寄りの風。中国内陸部が風上側で、朝鮮半島や日本が風下側。なるほど、この影響によって硫黄酸化物が日本上空に飛来するのです。
なお、文章自体もなかなかいいので、参考までに解説しておきますね。
選択肢①について。「古くから重工業が盛ん」とあるが、とくに知っておいて欲しいのはアンシャン。Bの枠内の最も北東部にある高位が集まっている部分がわかるかな。リャオトン半島の付け根に「アンシャン鉄山」という鉄鉱石産地があり、それに近接する「アンシャン」は古い時代より鉄鋼都市として中国の近代化を支えた。この位置に鉄山があることをぜひ知っておこう。
選択肢②について。Qの地域が寒冷であるのは間違いないと思う。この地域は「東北地方」といい、シベリア高気圧の影響で冬季は極めて低温となる。ちなみに、Qの北端に高位の点があるね。ここに位置するのが「ターチン油田」。パイプラインが沿岸部に伸びて石油化学工業が発達する。問5の内容とも関連するが、このターチンこそ「中国最大の油田」ということを知っておこう。
選択肢③について。R地域を「華南」という。経済特区(税制面で優遇し、外国から工場が進出。安価な労働力を利用した繊維工業や機械工業が中心)が設けられ、著しい経済発展を果たした。鉄鋼業のような資源多消費型工業は発達していない。
選択肢④について。石炭は不純物として硫黄を含み、燃焼によって二酸化硫黄(硫黄酸化物)が空気中に排出される。硫黄酸化物が水と化合することで硫酸となり、これが混じった雨が酸性雨である。日本は、工場に脱硫装置が備えられているなど、石炭消費による二酸化硫黄の排出はほとんどない国であるが、偏西風に乗って中国から飛来する二酸化硫黄が原因となり、雨水の酸性度が上昇する。
[難易度]酸性雨の問題と思いきや、実は地球の風系の問題っていうね。こうした変化球もセンター特有。君たちはセンター試験に習熟し、こうした問題も軽々クリアしてほしい。★☆☆
[参考問題]2010年度地理B本試験第3問問6。ほぼそのまんまな問題は、2000年度地理B追試験第3問問4に出題されているのだが、ちょっと古いから入手しにくいかな。ということで、中国の鉄鋼業が取り上げられたこちらの問題を紹介しておきますね。④の図が銑鉄なのだが、鉄鋼生産は石炭産出の多い華北を中心に、沿海部全体に広がっている。近年は鉄鉱石も石炭もともに輸入に依存しており、臨海部に製鉄所が設けられた方が有利なのだ。ただし、特徴的な地域がいくつかあり、華南地域のコワントン省などは非常に工業の盛んな省であるが(①のビール、②の冷蔵庫、③の製糖についてはいずれも値が大きい)、鉄鋼業についてはその限りではない。労働集約的な繊維工業や機械工業などが中心となっている。
問5[ファーストインプレッション]都市名が登場しているが、そのこと自体に大きな意味はないように思う。とはいえ、これ、難しいんちゃう?とくに「正文」判定問題なので、「誤文」を3つ指摘しないといけない。手強いな。
[解法]沿海部と内陸部の経済格差は非常に問われやすい。そのことを意識しながら、文章を読解していこう。
①;これ、都市戸籍と農村戸籍のことだよね。中国は内陸部から沿海部に向かって多くの人々が出稼ぎに移動しているが(これを「民工潮」という)、だからといって政府がこれを奨励しているわけではない。経済的には必要はことであっても、政治としては別問題ってことかな。人々は生まれによって「都市戸籍」と「農村戸籍」に分けられ、生涯それに縛られる。社会保障や年金、医療や教育などはあくまで出生地でのみサービスが供与されるということ。だから農村から都市に移動した人は、その都市においては社会保障など受けられない(最近は緩和されているという話もあるけれど)。医療費や子供の教育費なども自己自担となり、厳しい生活が強いられてしまう。それでも都市の方が賃金が高いから、たくさんの人々がやって来るってことなんだけどね。「社会保障の格差は大きい」ので、これは誤り。
②;これはどうなんだろう?ある程度は常識の範囲で構わないんじゃない?中国の都市部においては富裕層も増え、先進国と変わらない生活をしている人も多いよね。もちろん電化製品の普及率は高くなっています。逆にいえば、そうした富裕層が増えるということは、格差が拡大しているということでもあるけどね。これが資本主義経済の歪みなのだろうか。中国は政治体制的には社会主義ではあるけれど、市場経済化を推し進め、資本主義国である日本よりもはるかに「金が物を言う」国になっている。
③;チンハイ省は知る必要がない。単に内陸部の一つの地域とみておけばいい。「西部大開発」という固有名詞も不要。とりあえず、内陸部で油田や天然ガス田の開発が進んでいる状況だけ知っておけばいい。ちなみに、沿海部に向けてパイプラインが敷設され、石油や液化天然ガスがさかんに送られている。このことを「西気東輸」という。西の天然ガスを東に輸送するっていう意味。さて、ここでポイントになるのは「中国最大の油田」っていうところ。これが難しい!でも、実は前年の問題にヒントがあるのだ。2016年度地理B本試験の中で「ターチン(大慶)は、石油関連産業が発達した鉱工業都市である」という正文が登場。ターチンというのは、中国東北部の中央に位置する都市で、ここにこそ「中国最大の油田」が存在するのだ。過去問をしっかり勉強していたキミは得をしたね!チンハイ省の油田は決して最大ではありません。誤文。
以上より、残った④が正解となる。シーニンやらラサとかはどうでもいいと思う。こうした鉄道があるんだってことを何となく知っておいたらいいや。鉄道マニアの人が作った問題なのだろうか。ちなみに、この鉄道については2015年度地理A本試験でも紹介されている、「内陸の都市を結ぶ鉄道であり、西部大開発の一環として敷設されたものである」と述べられる。
[難易度]正文判定問題であることもあり、なかなか難しい。★★★
[参考問題]2014年度地理B追試験第5問問3。「解法」内でもいくつか参考問題を紹介しているけれど、やっぱりこれが一番だと思う。選択肢に「中国では、都市部における労働力需要を満たすため、農村から都市への移住が奨励されている」という選択肢があり、これは正文。中国では内陸部の農村から沿海部の都市部へと多くの出稼ぎ者が発生しているが、これは彼らの自由意志によるものであり、決して「政策」によって支持されているわけではない。むしろ中国政府は、生まれた場所によって「農村戸籍」と「都市戸籍」が規定されており、社会保障を受けられる場所が原則として本籍地に限定されるなどして、人口移動をむしろ抑制しようとしている。しかし、そういう制約があったとしても、人々は高い賃金を求め、出稼ぎに流出する。「政治」より「経済」の方が人間の欲望に忠実ということだろうか。
とはいえ、近年は内陸部へも工場が多く進出するようになった。内陸部において労働力不足が生じる例もみられるようになっている(ただし、やっぱり高賃金の沿海部に行ってしまうのも、人間の悲しさでしょうか)。
問6 [ファーストインプレッション]いわゆる自治区とは何ぞや?って問いではあるね。実態はどうなのかわからないけれど(きな臭い話もよく聞くね)、あくまで自治区の意味を考えてみたらいいかな。
[解法]選択肢①参照。「少数民族独自の言語の使用が認められていない」って?ウイグル民族やチベット民族、モンゴル民族まで、漢字の中国語だけが強いられているとは考えにくくない?自治区とは「外交権がなく、軍隊を持たないこと以外は、国としての権利が認められている」ところ。言語も自分の民族の言語を主に使うでしょう。これが誤り。
[難易度]引っかかった人は多そうなんだけどね。「何となく」解く問題でもあるかな。こういった問題が得意になると、高得点が狙えるぜ。★★☆
[参考問題]2005年度地理B本試験第3問問4。ウイグル自治区(中国北西端の区)について「伝統的な家屋形態として日干しレンガの家が見られ、隣接するいくつかの国と同様に、イスラム教の信仰が盛んである」と説明されている。ウイグル民族はイスラム教を基礎とする独自の文化を有し、乾燥気候の中で灌漑農業や遊牧を営んでいる。
たつじんオリジナル解説[2017年度地理B本試験]第5問
問1 [ファーストインプレッション]地形と気候の問題。こういう問題って作るの大変そうやなあぁって単純に思っちゃうね(笑)
[解法]まず、断面図から考えよう。スペインは大きく台地地形からなる高原の国。とくに新期造山帯に含まれる地形が多く、一部では標高も高い。一方、ドイツは北部は大陸氷河に削られた平原(北ドイツ平原)であり、南部にはシュパルトバルト(黒森)のような山岳地域もあるが、古期造山帯でもあり、決して高くはない。ヨーロッパは全体として。「北で灘垢、南で急:の地形であることも意識しよう。アルプス以南は険しい地形が多く、ピレネー山脈(フランスとスペインの国境)のように新期造山帯の山岳ばかり。イタリア半島や地中海地域には火山もみられる。それに対し、ドイツ以北は平坦な地形が多く、山岳についてもスカンジナビア山脈(ノルウェー)やペニン山脈(イギリス)など古期造山帯のなだらかな山陽。アがスペイン、イがドイツとみて間違いないだろう。
さらに降水量。日本(東京)の降水量が年間1500ミリであることを考えると、Bはかなり少ない。スペインで中緯度高圧帯(亜熱帯高圧帯)の影響によって夏季少雨の地域(いわゆる地中海性気候)の地域があることを考えると、スペインでこそ全体の降水量が少ないことが想像される。Aについて、全体に(日本ほどではないが)降水量は多め。偏西風や艦隊前線の影響によって年中一定の降水がみられるドイツとみていいだろう。ドイツがA、スペインがB。
それにしても、昨年も感じたのだが、この第5問という大問、どうも今までのセンターとはちょっと色合いが違う。地図帳を見たりとか、知識に頼ったりとか、実はそういった勉強法が有効な気がする。地形についても、普段から地図帳を見ていて、「スペインは全体が茶色い(つまり瓢湖が高いってことね)、ドイツは南は茶色だが北は緑(南部で高く、北部で低い)といったようなことをビジュアルで捉えておくと解答が簡単だったんじゃないかな。降水量にしても、スペインに地中海性気候がみられることをベタ西っておいたら解答ができたと思う。地中海性気候の定義は「年間雨が少なく、とくに夏に極端に少雨となる」なので、全体の降水量も少ない。今までのセンターと雰囲気が違うのは、新テストへの布石なのか。
[難易度]スペインとドイツの一般的なイメージで解けると思う。★☆☆
[参考問題]2009年度地理B本試験第1問問3。ヨーロッパ各地の断面図。「北がなだから、南が急」というセオリーがはっきり見てとれる。標高3000メートルに達するピレネー山脈の断面図が必須。
問2[ファーストインプレッション]いわゆる栽培限界の問題だが、ライ麦は初登場。統計をしっかり抑えておけって話だね。
[解法]作物の栽培地域の分布が問われている。まずは栽培限界(北限)からブドウを特定しよう。ブドウの栽培限界はフランス北部のパリ盆地。これをドイツに当てはめるならば、ドイツ北部は栽培地域から外れ、ブドウ栽培がみられるのは南部だけになる。②がブドウ。
さらにオリーブの栽培限界は地中海沿岸に沿う。スペインとイタリアが主な生産国で、フランスは地中海沿岸のみ。さすがにドイツでオリーブは栽培されないだろう。ドイツにみられない④がオリーブ。
残った2つの穀物については、ライ麦がより冷涼な地域、小麦はやや温暖な地域(温暖とは言っても、あくまでライ麦と比べてっていう意味なので注意。小麦も十分に冷帯地域で栽培できるものなのだ)。ドイツ北部に多い③がライ麦、ドイツ中部やスペインで多い①が小麦。生産統計を確認しても、ドイツはたしかに世界的なライ麦生産国の一つである。
[難易度]ブドウの栽培限界はマスト! ★☆☆
[参考問題]2013年度地理B本試験第4問問3。栽培限界を意識しながら解く問題。ブドウの栽培地域が北部にまで及んでいるのがポイント。オレンジについては、スペイン南西部のバレンシア地方がとくに盛ん。
問3 [ファーストインプレッション]]これはまた変わった形式の問題だなぁ。ただ、問われている内容は決して特殊ではない。過去問を分析してセンターの「クセ」みたいなものを見抜けば、十分に解答可能。ポイントは「人口最大都市と首都」の関係であり、さらに「ドイツの東西格差」。
[解法]スペインとドイツの都市に関する問題。とりあえずヨーロッパの国においては(スイスを例外として)「人口最大都市=首都」というセオリーがある。スペインの人口最大都市は首都マドリード、ドイツはベルリン。
西ヨーロッパ主要5カ国の首都と位置、そして発達の度合いは必ず知っておくべきこと。以下に一覧にする。
国名首都位地発展の度合い
イギリスロンドン(1000万人)南部・港湾商工業の中心。国内最大の貿易港。
フランスパリ(1000万人*)北部商工業の中心。一極集中。
スペインマドリード(300万)中央自動車工業など発達。
イタリアローマ(300万人)南部(イタリア半島中央)観光業など発達。
ドイツベルリン(300万人)東部(旧東ドイツ)国内の後進地域で経済レベルは低い。
(*)都市圏人口も含む。
ロンドンとパリは別格で世界的にみても極めて重要な都市である。マドリードとローマはさほどでもない。一方、ベルリンは極めて貧しい地域に位置する。5つの首都を3つのタイプに分けることが重要。
このことをふまえて問題を解いていこう。
まず都市数だが、ドイツの場合、「西部が豊か、東部が貧しい」という形になっていることが重要。たしかに首都ベルリンは東部にあるのだが、だからといって東部に産業や人口が集積しているわけではない。東西で、大都市の数に極端な差があるカをドイツと判定する。ベルリンは北東に位置し、「2」のうちの1つなのだろう。北西部に「11」もの大都市が集まっているが、これはルール地方の都市群だろう。ドイツの都市は、人口1位がベルリン、人口2位が南部のミュンヘン(本図では南東部)、人口3位が北部のハンブルク(本図では北西部)なのだが、実は人口密度が最も高いのがルール地域。一つ一つの都市は50万人クラスだが、それらの都市が多く集まり、ドイツで最も人口が多いエリアとなっている。「11」のうちの多くはルール地方の都市群だろう。本年も出題されたエッセンなどは代表例。2016年度地理B本試験では、ルール地方の都市について「コナーベーション」という言い方で登場しているが、コナーベーションつまり連接都市とは、一つ一つの都市は大きくないとしても、都市圏(通勤圏と同意)が重なり合い、一つの巨大な都市域を形成しているもの。ルール地方はその典型。
さらに日系現地法人数。そもそもドイツの方がGNI(経済規模)が大きいので、日系企業数も多いようには思うのだが、本問では上位5都市だけのデータであるし、その辺りは参考にならないだろう。
もちろんここで重要となるのは、マドリードとベルリンの違い。というか、スバリ「ベルリンとはどんな街か」の一点だけ。かつての社会主義地域である東ドイツに位置し、経済発展から取り残されている。人口規模だけは大きく、首都であるがゆえの再開発も進むが(サッカー・ワールドカップの決勝戦はベルリン。ちなみに開幕戦はミュンヘン)、工業化は進まず、東ドイツ全体も人口減少地域である。こんなベルリンに日系企業が進出してくるだろうか。人口規模最大でありながら、4位や5位の都市より数値が低い。Eがドイツに該当。
Dがスペインだが、1位のマドリード、2位のバルセロナ以外には目立った都市はない。
[難易度]ベルリンの特徴がわかればいけると思うんだわ。意外にサッカー好きはマドリードとバルセロナの2都市にこだわって、スペインから当てることができたかな。★★☆
[参考問題]2016年度地理B本試験第4問問2。デュースブルク(ルール地方西部の都市。ライン川に接し河港を有す)について「ヨーロッパでも有数の連接都市(コナベーション)を後背地にもち、外国企業や金融機関など中枢管理機能の集積がみられる」という文章で説明している。ルール地方も多くの都市が並び、コナーベーションを形成している様子を知ろう
問4[ファーストインプレッション]これ、おもしろいね。貿易をこの形で表す図はよく見るけれど、4カ国ともクローズになっているのは初めてみた。いつもは中央の国がオープンになっているんだけどね。でも解き方に気づけば、実は簡単に解けちゃう問題なんだわな。ヒントは「GNI」。
[解法]4カ国間の貿易の問題。4つとも国が不明である点(普通は中央の国だけ明らかになっていたりするんだが)、輸出と輸入のみ示されている点などが特徴的。
貿易品目はわからないが、貿易額だけはわかるのだ。決定的なセオリーとして「GNIと貿易額は比例する」というものがある。GNIとか経済規模のことで、その国のマーケット(市場)の大きさを表す。要するに「その国が持っているお金」の総量のこと。お金をたくさんもっているのだから、売り買いにしても思いっきりできる。つまり貿易額自体が大きくなるということ。
選択肢の4カ国をGNI順に並べる。GNIは1人当たりGNIと人口の積なので、以下に示す。
1人当たりGNI人口
ドイツ45000ドル/人8000万人
フランス450006000
スペイン300004500
ポルトガル250001000
どうかな? ドイツ>フランス>スペイン>ポルトガル の順が明らかだよね。ドイツやフランスがたくさんお金を持っていて、スペインやポルトガルはそうでもない。この関係がわかれば、図も簡単に解釈できる。
図参照。最も目立つのは、サとシの間の貿易額だろう。他とはケタが違う。どちらがどちらかは特定しにくいけれど、とりあえずサとシの2つがドイツかフランスのいずれかということになる。そしてその両国と、スとセとの貿易をみてみよう。サ・シとスの間の貿易額の方が、サ・シとセとの間の貿易額より大きい。GNIは、スの方が大きいだろう。スがスペイン、セがポルトガル。「困った時はGNI」で考える典型的な問題なのだ。
[難易度]GNIで解くっていうやり方に気づくかどうかなんやなぁ。そうしたら楽なんやけどね、そこまでがしんどいっていうか。★★★
[参考問題]2009年度地理B本試験第5問6。アメリカ合衆国、カナダ、メキシコの貿易の問題。GNI順がそのまま貿易額順となり、アメリカ合衆国>カナダ>メキシコ。
問5 [ファーストインプレッション]かつての宗主国と植民地の関係を問う問題なんだけれど、ちょっとした変化球になっている。このことに気づくかどうかなんだが、センター問題をたくさん解いて、感覚を身につけるってすごく大事だと思うよ。
[解法]わざわざ「歴史的経緯や文化の共通性」って書いてあるもんね。歴史的経緯ならば、スペインがラテンアメリカを植民地としていた歴史、文化の共通性ならば、ラテンアメリカの多くの国がスペイン語を使用していること、そういったことを考えたらいい。「南アジア」を「南アメリカ」に変えましょう。「ラテンアメリカ」でもいいけれど、メキシコやカリブ海の人々はアメリカ合衆国への移民が多いので、除外した方が無難かな。
②は必ず知っておきましょう。イギリスやフランス、スペインは多くの植民地を有し、そこからの移民を多く迎え入れたが、植民地をもたなかったドイツはそれができない。一方、トルコは植民地にならなかったため、出稼ぎ労働者が赴く先の先進国に不自由した。両国の利害が一致し、「迎え入れるドイツ、送り出すトルコ」という関係が成り立った。ドイツの戦後復興や高度経済成長の基礎となったのは、トルコ人労働力である。
③と④については、「バカンス」について理解してほしい。北部ヨーロッパは夏はかなり涼しく、長期休暇(バカンス)ととって家族で地中海沿岸地域へと旅行し、滞在する。涼しいドイツは「観光客を送り出す」側であり、地中海に面する温暖なスペインは「観光客を受け入れる」側である。
[難易度]これぐらいは解いてほしいなぁ。文章題ではあるけれど、「気づく」ことはできるはず。★☆☆
[参考問題]2010年度地理B追試験第5問問6。スペインとラテンアメリカの関係は、本問のような「スペイン視点」ではなく「ラテンアメリカ視点」で問われる方が多いかな。この問題の選択肢③では、ブラジルについて「植民地であったときの宗主国の影響から、公用語にスペイン語を用い、カトリック信者が多く、ヨーロッパに似た街並みがみられる」という誤文が登場している。誤りポイントは、もちろん「スペイン」ではなく「ポルトガル」。ブラジルはラテンアメリカ唯一のポルトガル語を公用語とする国。なお、「カトリック」は正解なので、注意してね。
たつじんオリジナル解説[2017年度地理B本試験]第6問
問1[ファーストインプレッション]最近増えてきた、地形図問題ならぬ「地勢図」問題。地形図は、縮尺が1/25000と1/50000の地図。それに対し、地勢図は、1/200000。センターレベルでは別に区別する必要はないんだが、とりあえず参考までに。
[解法]こういった問題って「数字」が最重要。おそらく①が間違ってるんじゃないかな、ってヤマ張ってしまっていい。なるほど、「壱岐島」と「壱岐市」という字の間に「100」という数字が書かれ、これが等高線の高さを表していることがわかる。ということは、この等高線のどちらかは、100メートルより高いっていうことだよね。
さらに、「壱岐島」の「壱」の字のちょっと上の三角点の標高が「149」と読めるし、さらに南部には明らかに「212」という数字が読み取れ、これも高所を表しているのだろう。100メートル以上の場所は島内の至るところにある。①が正解。
他の選択肢は検討の必要がないが、参考までに。
②;「流域」とは「集水域」と同義で、雨水が河川に入り込む範囲。Xに降った雨は、すぐ北を西から東に流れる河川(モノクロ印刷なので黒い線になってしまっているが、本来の地勢図では青く描かれている)に流れ込み、そのまま内海湾へと注ぐ。
③;リアス海岸の本来の定義は、「山地が沈降し、谷に海水が浸入することで複雑な形状になった海岸線」のこと。海岸線は岩石海岸になっていることが多い。島の西岸をみると、なるほど複雑な海岸線はみられ、岩石海岸となっている(海岸線がゴツゴツとした形に描かれているね。これが「岩石海岸」。反対語は「砂浜海岸」だが、ちょっとそれはこの地勢図の中では確認できない)。「山地」というほどの地形ではないし、明確な「谷」に海水が浸入したってほどでもないけれど、リアス海岸と判定して、とくに問題はないでしょう。
④;海岸線がゴツゴツしているね。岩石海岸なのです。波の侵食によって削られたのでしょうか。
[難易度]「数字に目をつける」というセオリー。★☆☆
[関連問題]2009年度地理B本試験第2問問1。同じ地勢図を用いて各種地形を問うている問題として、この問題を紹介しておきますね。島根半島の北側にリアス海岸がみられ、岩石海岸となっていることを確認しておいてください。さらに「弓ヶ浜」に沿って滑らかな海岸線がみられる。こちらが「砂浜海岸」。両者の違いは確実に!
問2[ファーストインプレッション]正文判定の地形図問題っていうのがやっかいやなぁ。近年は地形図問題の易化が顕著なんだが、正文判定っていうだけで難しいよね。ただでさえ時間がかかる地形図問題、慎重に解いてください。
[解法]地形図問題。正文判定問題なので、3つの誤りを指摘しないといけない。それぞれの選択肢を検討しよう。
①;古い地形図で「芦辺」と「当田触」を確認し、両者を結ぶ道路も確認。芦辺から海岸沿いを通り、丘の北斜面に沿いながら、やがて水田へ。水田では「盛り土」の上を通過しているようだ。そのまま橋を渡り(この橋には川がみられないのだが、なぜ存在しているのだろうか)当田触に到着する。
現在の図をみてみよう。埋め立て地の造成によって、陸地の面積が増え、さらに集落や道路の配置にも大きな変化がみられる。昔の地図で「芦辺」となっている地区は、現在は「芦辺町芦辺浦」となっている。ここから西へと道路を辿ってみよう。かつて海岸に沿っていた丘陵の北麓の道路は、現在もほとんど拡張されていないようだが、決して寸断はされていない。「芦辺町諸吉大石触」まで出ると、あとは広い道路がしっかりと西方へと伸びている。誤り選択肢である。
②;北側はわかりやすいね。土地が広がって、「田」の記号がみられる。干拓されたのかな?干拓の場合は、堤防が作られているはずなんだが、なるほどそれっぽい地図記号が、「芦辺大橋」の西側の海岸線にみられる。堤防を作って内側を排水し、耕地とした。ちょっとだけ堤防の内側に水域が残っているね。
こんな感じで、今度は南側に目を移してみよう。どうかな、陸地は広がっているかな。もちろん、芦辺大橋周辺から東にかけての地域は土地が造成されているが、こちらは「田」として利用されているわけではない。おそらく、工事によって埋め立てられたのではないか。それに対し、その西側の「田」が広がっている地域はどうだろう?この部分に関しては、変化がないのではないか。川岸から海岸にかけて堤防が作られている様子は、昔の地形図でもはっきりわかる。「川江谷」という字に平行するように、弧状に堤防が作られ、その内側の扇型の低地が「田」となっている(あ、この付近にみられる土地利用記号は「湿田」であって、現在の「田」と同じと考えてください。縦線2本の下に、一本線が引いてあるパターンね)。現在に目を移すと、その扇型の低地はそのままで、むしろ堤防の内側の水域は若干広がっているようだ。河川南岸の干拓は、明治大正時代に終わってしまい、それ以降ずっと水田が広がっているのだ。誤文です。
③;まずは昔の地形図で「渡船」を確認。なるほど、「芦辺港」という文字を南北に切る形で点線が描かれている。よく見ると(見えるかな)、点線の起点と終点には船のようなマークが描かれている。北の港と南の港を結ぶ「渡船」が就航していたことがわかる。
これに対し、現在の地形図に目を写そう。船舶はたしかに就航しているんだわ。よく見ると「フェリー発着所」とあるし。でもどうかな。問題はそのルート。点線がおそらく「航路」を示すものであると予想され、それが南北両岸を結ぶものではなく、湾の外の海へと向かっている。この島と九州本土を結ぶ連絡船みたいなものなのではないだろうか。「南北を結んでいた渡船」が現在はみられないので、この選択肢が正文となる。
④;いい選択肢ですね。地図記号で頻出は「発電所・変電所」。入手できる人は、2005年度地理B地理B本試験第5問問5選択肢3を参照してほしい、本問と似たパターン。原則として地図記号が出題されないセンター地理であるが「発電所・変電所」は例外。なぜなら、見つけやすいから(時間が限られているセンター試験で、さすがに時間がかかる問題を出してしまったら不親切だよね)。ほら、「送電線」って見つけやすいでしょ。図を直前で横切っているし、目立つ。そして発電所・変電所はほとんどの場合、送電線を伴うものなので、この施設が図中に存在するとすれば、まず送電線を探し、それを辿って行ったらいい。本問についてもそれが当てはまり、まず送電線を探し、そこから発電所・変電所を探したらいい。っていうか、「梅の木ダム」周辺を直接探したらいいか。送電線もないし、発電所・変電所もない。このダムが発電用ではないのは明らか。水田灌漑(かんがい)用のダムとみなすのが最も無難かな。
ちなみに、送電線は図の右下にちょこっと見えています。この先に発電所・変電所があって、そこからこの地域へと電気が送られているのでしょう。で、そこから細かい電線によって各集落へとさらに送電される(こちらの電線については地図記号では表されない。次の問題の写真Bでも電線がはっきり見えていますが、問題を解く手がかりにはなっていない)。
[難易度]最近地形図問題って易化が進んでいるんだけどね。でも本問はちょっと難しい印象が。とくに選択肢2が厄介だったんじゃないかな。★★☆
[参考問題]2013年度地理B本試験第6問問3。渡船(渡し船)って結構珍しいと思うんだが、こちらの地域では現在もみられるので、確認しておこう。さらに土地造成の様子も。海岸線が直線で区切られている場合は、工事による「埋め立て」とみていい。堤防(土手)を伴う「干拓」とは異なっているので注意。ここでは、昔は主に干拓によって土地が造成されていたが、現在それらは埋め立てれ、工業用地などに利用されている。
問3 [ファーストインプレッション]写真判定問題。これ、難しいことは間違いないんだけど、丁寧に考えれば、絶対に解ける問題なので、確信をもって解こう。
[解法]難しいなぁ。写真が正直よくわからない。センター試験もカラー印刷にするべきだよね(笑)。ま、そんなグチを言っても始まらないので、じっくり解いてみよう。
本問のように矢印によって視線が表されている問題の場合は。まずその視線を明確にしてから解く。地形図を参照し、ア〜ウについて、矢印に沿って「正確に」直線を引いてみよう。これが「視線」となる。この位置から、この方向に向かってカメラを構えたということ。
さらに写真に注目。A〜Cの各写真の中央に縦線を引いて、写真の中央線を示す。これが視線となり、さきほどの矢印の延長線と重ねてみよう。最大のポイントは、視線の先、中央に何がみえるか、ということ。
ではそれぞれの写真から判定していこう。Aは広く平地が広がっており(畑や水田かは判定ができないが)、奥になだらかな丘陵がみられる。Bは小高い山がやや複雑な稜線を描き、手前には畑(盛り上がった土地にみえるので、水田ではないだろう)がみえる。奥にちょっと複雑な地形がみえるようなのだが、よくわからない。なお、電線がみられるが、これはヒントになるだろうか。「送電線」ならば地図記号で描かれるのでわかりやすいのだが、これは単なる電信柱と電線っていう感じ。Cが最も特徴的だろう。手前に低平な土地が広がり、奥の山々の稜線は、中央が低いカーブを描いている。これは明確に等高線で読み取れるはずだ。
では、目を地形図に移し、ア〜ウの判定を。アの矢印の先には水田が広がり、やがて河川を越えて、山にぶつかる。河川およびそれに沿って描かれている堤防(土手)はさほど高低差のある地形ではないので、写真には写っていないだろう。奥の山地については、地形図上の他の山々に比べ等高線間隔が疎らであるので、山というよりむしろ「丘陵」というべきものだろう。どうかな、これをAと判定するのは簡単じゃないかな。そう思ってみると、Aの山の麓に沿って、川が左右に流れているようにも見えるし。
さらにB。まず目の前に山があるんだわな、これって。そしてそこには畑がある。2006年の図がわかりにくかったら、地形は改変されていないようだし、1926年の図を参考にしてくれてもいい。ちょっと複雑な形の丘陵になっているのが読み取れたらいい、ただ、イで問題になるのは、矢印の先(視線)がそのまま海に入ってしまっているってことなのだ。写真を判定しても、中央が海になっているものはない。では、イの視線の延長上に何があるかっていうのを、図2の地勢図で調べてみるんだが、四角で囲んだYの範囲で、イの場所を見当をつけて確認すると、入江の外は果てしなく海が続くだけなんだよな。この矢印、間違ってないかなぁ。。。
仕方ないのでCを判定しよう。矢印の先には「田」がみられているが、この部分が低い地形になっているのはわかるだろう。左側(北側)は(おそらく60メートルの)等高線がみられ、高所が「広葉樹林」となっている。右側(南側)にも等高線がみられ、とくにここでは「土の崖」の記号に注目してほしい。「崖」とは名ばかりで、実際には「斜面」程度のものなのだが、それでも高低差のはっきりとした地形である。等高線から、短いケバケバ線(わかりにくい表現かな?「まつげ」みたいな感じの線のことなんだが、わかるかな)等高線からケバケバが伸びる方向に向かって土地が低くなっている(斜面になっている)。ウから見て、右手にやや高い地形が存在していることをイメージしよう。
ここまで来れば判定は難しくないだろう。左右が高く、中央が低いという稜線の形に注目して、ウがCとなる。Cの写真の中央に何か建物のようなものがあるのだが、これがちょっとよくわからない。まぁ、気にしなくていいのかな。正解は①。
ちなみに、そうなるとBがイということになる。Bの写真をよく見ると、手前がやや盛り上がった地形で畑になっているのだろうが、その奥が低くなっており、そしてさらに奥が山となっている。イの矢印ってちょっと角度がズレてないかい?矢印の起点はそのままとして、時計回りに30度ぐらい回転させたぐらいがちょうどいいような。矢印の先が「浦」って漢字の方を向く感じ。少なくとも、海を方を向いて写真を撮影してはいないよね。
[難易度]イの矢印が間違っているような気がするんだよなぁ。解答が非常に困難。★★★
[参考問題]2014年度地理B追試験第6問問1。写真判定の雰囲気が似ている。正面に何がみえているか、山の形はどうか。観察するポイントは多い。
問4[ファーストインプレッション]2012年に大井川下流にみられる特徴的な家屋が登場したけれど、それと似た印象。ただ、問題としては家屋そのものに関係ないかな。
[解法]いかにも地域調査的な内容だが、問題そのものは「風」の問題。家屋や集落の北側に樹林が設けられていることが最大のポイントだね。
まず、大外れなのは④。「やませ」は固有名詞であり、東北地方の太平洋側の地域に夏に吹き込む冷風。夏の気温が十分に上がらず、米などの作物不良を生じる。「冷害」の原因であるのはみんな知っているね。まずこれが消えます。
さらに風向について考える。フェーン現象は、風が山脈を越える時に、風下側の地域に高温乾燥の気候がもたらされること。理論的にいえば、冬の風によってもフェーン現象は生じるのだが、寒い時に気温が上がるのはかえって好都合だよね。誰もそれを「災害」とは言わない。夏にフェーン現象が生じて、気温が異常に上昇することこそ「災害」なのであり、これが問題とされるべきだ。フェーン現象は原則として「夏」限定のものと考えるべき。そうなると、日本が含まれる東アジア地域の場合、夏の季節風の風向は「南東」である。この風を防ごうとすれば、防風林となる樹林を植えるならば、家屋の南側となるはずである。これも誤り。
よって、北からの風を考えるべき。東アジアの冬の季節風は「北西」から吹く。シベリアに発生した高気圧から寒冷な風が吹き出すのだ。この季節風の影響を強く受ける地域が日本列島の日本海側であるが、広い意味で捉えると、この壱岐島も「日本海側」と言っていいのではないか。大陸からの強い風に備えて、家屋や畑の北側に樹林が設けられたのであろう。正解は③。この季節風は、北海道や本州の日本海側地域に雪をもたらす原因となるのだが、もしかしたらこの壱岐島でも雪が降るのかもしれない。その際はこの樹林が防雪林ともなるのだろう。
選択肢①の竜巻については、風向は関係ないから削除でいいね。
[難易度]冬の季節風の風向については知っているね。やませやフェーンは消せるとして、意外と竜巻で迷った人もいるのかも。★★☆
[参考問題]2007年度地理B本試験第1問問5。選択肢④で「冷害」が登場。冷害は、「夏」に「やませ」の影響によって東北地方の「太平洋側」で生じるものなのだ。
問5[ファーストインプレッション]これ、意地悪問題やなぁ(涙)。寒流と暖流の判定は厳しいぞ。経営規模については表から読み取るだけなんだが、結構時間かかったりして。センター試験特有の難問ですなぁ。
[解法]まず( カ )が難しい。一般的に栄養分が豊富で漁獲に恵まれるのは「寒流」なんだが、果たして壱岐島がそれに当てはまるか。日本地理の知識が必要となるのだが、太平洋を北上する日本海流(黒潮)から分岐するかたちで、日本海へと流れ込むのが対馬海流。図でも壱岐島のすぐ近くに対馬があるから、わかりやすいとは思う。南方から暖かい海水をもたらす暖流である。この作用で日本海の水温が高く、水分供給が活発であるため、日本列島の日本海側に多くの雪が降るという理屈があるね。
文章をよく読むと、「好漁場」の原因はあくまで「浅堆(バンク)」であっって、( カ )については「真珠の養殖」に適するということが述べられているに過ぎない。真珠で有名なのは三重県の志摩半島や愛媛県の宇和島など。いずれも暖かい水域であり、実は真珠って海水温が暖かいことが重要なんじゃない?(同じ養殖でもカキなんかは、三陸海岸(東北地方)で養殖されていたりして、寒いイメージがあるけどね)
さらに言えば、暖流は暖かい海水が海水面近くにあり、海水が対流しない(*)ので透明度が高い。この透明度の高さこそ真珠養殖には有利なのかもしれないね。とにかく対馬海流が流れていることは絶対なので、ここは「暖流」とする。
さらに表を参照。「1経営体当たり漁船数」をみると、壱岐島は1隻が90%を超え、5隻以上はほとんどない。こちらは「小さい」とみていいんじゃないかな。「漁業種区分」については参照の必要ないと思う。
(*)海流によって、海中の様子が異なるのはわかるかな。海流とはあくまで海の表面を流れるもの。寒流の場合は、海中より表面の方が水温が冷たい。重さで考えるならば、(収縮して)密度の高い海水が上方にあるということ。海水は不安定な状態となり、対流が生じる。「軽い」海中や海底の水が上へと移動し、「重い」表面の水が下に潜る。この際に、海底に積もっている勇気塩類(魚の死骸による)が海表面近くに持ち上げられ、日光や酸素と結びつくことでプランクトンの発生の要因となる。暖流はこの反対。上方に暖かい(つまり「軽い」)水が存在し、下方に冷たい(つまり「重い」)水がある。海水は安定し、対流を生じない。濁りの少ない透明度の高い海水の状態となるわけだ。暖流の流れる海域でサンゴ礁がつくられやすいのは、透明度の高さも一つの理由。
[難易度]言われてみれば簡単なんだが、センター試験のプレッシャーの中でこうした冷静な判断ができるだろうか。いうほど簡単じゃないと思うよ。★★☆
[参考問題]2014年度地理B本試験第5問問6。地理的思考を問う問題と、図表読解問題との組み合わせという点において、こちらの問題との類似性が高い。
問6 [ファーストインプレッション]非常に変わった統計をテーマとした階級区分図。でも、そんなに難しくないと思うよ。「知らない」から解けないのではなく、知らないのならば「想像して」解くのです。それにしても「上位」と「下位」の2段階だけの階級区分図とは、作り手もずいぶんサボったもんやね(笑)
[解法]階級区分図を用いた問題。各地域のキャラクターを抑えれば、さほど難しくはない。今回は「居住する市町村内で買い物をする割合」(以下「買い物」)、小学校の複式学級率」(以下「複式学級」)、「人口1000人当たりの医師数」(以下「医師」)という変わった指標が登場しているが、だからといってサジを投げてはいけない。想像力をふくらませ、それぞれの指標がどんな意味があるのか考えないといけない。
まず「買い物」について。これは都市圏に関連づけたらいい。都市圏とは通勤圏のことで、東京大都市圏ならば半径50キロにもなる巨大なものとなる。郊外に住む人々が都心部の会社に通う様子を考える。大きい都市ならば大きな都市圏、小さな町ならば小さな都市圏。長崎県の場合、圧倒的に大きい長崎市の都市圏の規模は大きいと思われるが、それ以外の都市圏は小さいだろう。
上記のように、都心部と郊外との組合せからなる都市圏であるが、これを「通勤圏」だけでなく、「商圏」と考えることも可能だろう。つまり、郊外に住む人々が都心部へ買い物に出かける。近所のスーパーマーケットで手に入らないような高級品や耐久消費財(これらを「買い周り品」という)については、都心部のデパートや大規模店までわざわざ足を運んで買いに行くのではないか、「都市圏=通勤圏=商圏」ならば、さらに「昼間人口」と「夜間人口」も考えてみよう。昼間人口の大きい都心部地域は、通勤してくる人も、買い物にやってくる人も多い。その反対に、郊外地域は、人々は通勤や買い物で都心部に移動するのだから、昼間人口が小さい。都市圏の考え方を応用すれば、「買い物」はわかるはず。
さらに「複式学級」について。聞きなれない言葉だが、説明をしっかり読めば意味はわかると思う。要するに、子ども(児童)数が少なくて学年ごとニクラスを組めない小学校のこと。こういう学校ってどこにあるだろう?人口規模の大きな自治体には少ないんじゃないかな。過疎地域にこうした学校が目立つと思う。人口規模が少ないところ、そして過疎地域と考えられるところで「高」となっているはず。
3つ組み合わせ問題なので、2つはしっかり、1つは消去法。「医師数」については後回しにしていい。
では、「買い物」から。これについては、昼間人口との関係で考える。昼間人口が夜間人口を大きく上回る都心部では「買い物」は高くなるだろうし、その反対の郊外では低くなるはず。一方で、昼間人口と夜間人口に大きな差がない大都市圏から離れた地域においては「中」と考えるのがベターだろう。図より、長崎県で、市域を超えて大きな都市圏を形成しているのは長崎市と考える。長崎市(都心部)で高く、それに隣接する市町村(郊外)で低くなっているものを探すと、EとGが候補となる。さて、どちらだろう?
ポイントはやっぱり「離島」なんじゃないかと考えるのだ。Eでは、対馬や五島列島、壱岐島など離島が全て「上位」となっているのに対し、Gでは「下位」。離島の住民は、交通手段が限られている(船舶だけかな。飛行機の路線はあるのだろうか)だけに、おいそれと本土へ渡るわけにはいかない。購買活動も、自分の住んでいる島の中で行うことが当たり前なのではないだろうか。他の市町村への移動が簡単な地域に比べ、「買い物」を自分の市町村でする割合は絶対に高いはずだ。長崎市および離島で「上位」となっているEが「買い物」と判定する。
それに対し「複式学級」については、長崎市で「低く」、離島で「高い」ことは確実。Fが該当し、正解は①。
なお、「医師数」はGとなっているが、これについても検討してみよう。最近は過疎地域での医師不足が問題となっており、全国には医師や医療機関のない「無医村」が増えているという。過疎地域が「下位」となっている点を図から読み取り、さらにFとGが対照的(上位と下位が反転している)ことも確認しよう。「複式」は都市部で低く、過疎地域で高くなる指標、「医師数」は都市部で高く、過疎地域で低くなる指標。
[難易度]思考問題として非常に完成度が高いと思うよ。それに、君がもし医師や教員を目指しているのならば、過疎地域でどういった問題が生じているかについて、こうした問題を通じて実感しないといけない。ぜひ正解してほしいな。★☆☆
[参考問題]2009年度地理B本試験第4問問5。「都心部」的な仙台(昼間人口が大きい)、「郊外」的な千葉(昼間人口が少ない)に加え、巨大な都市圏に属さない都市として浜松(昼間人口と夜間人口があまり変わらない)の特徴が問われている。郊外地域が都心部に経済的に依存している様子を読み取ろう。
問7[ファーストインプレッション]あれ、この大問は問題が7つもあるにんや。イレギュラーなパターンだなぁ。とはいえ、この「余分な一問」はオーソドックスな問題なので、解答には苦労しないでしょう。
[解法]これは感覚的に解くべき問題でしょう。正解(誤文)はもちろん③。気象観測のための装置がアメダスなのだから、これで災害の記録はわからない。
[参考問題]2008年度地理B本試験第5問問1。この手の問題は多いけれど、雰囲気的にはこれが最も近いかな。調査項目とその方法に関するものだが、こちらの問題では「人口構成」ついて「住宅地図」を使おうとしている。そもそも地図では人口はわからないよね。当たり前のことを尋ねているんだけど、それを当たり前に正誤判定できる感覚を身につけてほしいかな。