2018年度地理B追試験[第5問]解説

<第5問 イギリス、ケニア、スリランカの比較地誌>

【25】 【インプレッション】 気候と交通の複合問題となっている。極めて珍しいパターン。また、気候ならばグラフ、交通ならば表を用いた出題が多いのだが、本問のように文章で問うているのも、あまり見ない。異色の問題だけに戸惑わないで解くことが大事やなぁ。

【解法】正解は④。

文章によって気候と交通に関して問いかけている。

まずは(ア)から。アフリカ東岸からスリランカにかけて吹く風である。南アジア地域はモンスーンの影響が強く、夏はインド洋方面から南西風が、冬はユーラシア大陸内陸部から北東風が、それぞれ卓越。アフリカ東岸からスリランカに季節風が見られるのは、北半球の夏である。これが追い風になっているのだ。(ア)には「7月」が該当。

さらに(イ)について。これはちょっとわかりにくいので、感覚的に説いてしまっていいと思う。スエズ運河を北から南に通り抜けると紅海に出る。」さらにその紅海を抜けるとインド洋に出るのだが、ここから南アジアに向かう東方へのルートと東アフリカに向かう南方へのルートがある。貨物量はどちらが多いのだろうか。南アジアには工業化著しいインドが位置し、人口規模は大きい。東アフリカにはケニアやタンザニアなどの国が並ぶが、いずれも経済レベルは低く、農産物以外にはこれといった貿易品目もない。人口規模と経済規模、工業生産力を比べてみて、いずれも南アジアが東アフリカを上回っているといえる。(イ)は「少ない」と考えて妥当だろう。正解は④。

【アフターアクション】 なんだか変な問題だったね。(イ)の方は何となく解くしかない。(ア)については、季節風の風向そのものは簡単なんだが「アフリカ東岸からスリランカに向かう」際の追い風が、南西風であることがわかるかどうかってのがややこしい。

【26】 【インプレッション】 ナイロビが難しい気がするなぁ。ロンドンの判定は楽だと思うので、問題はコロンボとナイロビの判定。いずれも赤道に近いのだが、一応わずかではあるがやや緯度が高く、明確に北半球の特徴をみせるのがコロンボ。気温(とくにいつ気温が高くなるのか)に注目すれば何とか解けるのかな。

【解法】 気候グラフ判定問題。ポイントはナイロビ。

東アフリカの赤道直下に位置するケニア。沿岸部は高温となるのだが、内陸部には高原が広がり、気温はさほど高くない(標高差100mごとに気温が0.55℃ずつ逓減するのは知っているね)。ケニア山の麓に「ホワイトハイランド」と呼ばれる標高1マイル(1600m)程度の高原が広がり、海岸部より気温が10℃ほど低いことから、過ごしやすい「常春」の気候となる。

ではグラフに注目していこう。まず、最も冷涼で、気温年較差もはっきりしているクが、高緯度のロンドンである。もちろんロンドンは海洋性の気候がみられ、同じ緯度の地域(例えば北海道など)と比べれば気温年較差は小さいものの、低緯度の赤道周辺のスリランカやケニアに比べれば季節の違いは明瞭である。

残ったカとキはいずれも気温年較差がほとんどみられず、赤道周辺の低緯度地域ということがわかる。この緯度帯は、年間を通じて太陽からの受熱量にあまり変化がなく(昼の長さがかわらないということ)、季節による気温差がほぼ生じない。というかそもそも季節がないってことだけどね。

勘違いする人がいるから確認しておくけれど。低緯度地域ならば沿岸部でも内陸部でも、低地だろうが高原だろうが、気温年較差は極小になる。とにかく、年間を通じて太陽からの受熱量は変わらないのだから、気温差も生じようがない。緯度による気温の影響を「スープ」、海と陸の比熱による気温への影響を「調味料」と捉えればいい。たしかに、調味料によって味は多少は変わるけれど、料理のおいしさはスープによって決まる。気温を決定するものはあくまで緯度であり、海陸分布のような微細な事項はそれに多少の影響を与えるだけである。

では、そのカとキだが、気温年較差については差がないことがわかった。しかし、決定的な違いはどこにあるだろう。それは年間の平均気温である。カは、30℃に達してはいないものの、ほぼそれに近い値であり、まさに熱帯の低地である。それに対しキは20℃程度。前述のように、ナイロビが高原に位置することを思い出そう。気温は標高差100mごとに0.55℃ずつ変化する。標高1600m(1マイル)で約10℃気温は下がるわけだ。キは高原上と考えられ、ナイロビ。正解は①。

降水量については考慮する必要はない。カは月による降水量の差が大きいように思えるが、降水量が少ない月でも60mm程度ほど降っており、これならば乾季とはいえない。年間を通じて多雨と考えていい。

キについては熱帯の中でもやや降水量が少なく、熱帯草原(サバナ)が広がる気候となっているが、これについては全体の気温がやや冷涼であることを考えよう。涼しければ上昇気流の発生は抑えられ、(飽和水蒸気量も少ないことから)大気が含む水分も少なく、雲が生じても多雨とはならない。この「冷涼で乾いた」気候が伝染病の蔓延を避け、ヨーロッパ人にとって入植しやすい環境となったのだ。日本ならば軽井沢(長野県)の避暑地って感じかな。ロンドンについては、年間を通じ偏西風の影響を受け続け、暖流の上から湿った風が運ばれるため、常に一定の降水がある。とはいえ、日本(東京で年間1500mm)と比べれば、ロンドンの年降水量は500mm程度であり、雨量は少ないね。

【アフターアクション】 気候グラフは「気温」が絶対であり、その気温を決定するものとして「緯度」が最重要なのである。その典型的な問題と言えたんじゃないかな。たしかにロンドンは西岸海洋性気候で気温の年変化が小さい。でもそれはあくまで「緯度が高いわりには変化が小さい」のであり、さすがに赤道直下の地域に比べれば、気温差ははっきりしているよね。2017年度地理B追試験の問題でも、熱帯地域のフィリピンと、温帯のニュージーランドの気温年較差の問題が出題されていたけれど、ニュージーランドがいくら海洋性気候だからといっても緯度が高いわけだから、それなりに気温年較差は大きい。プラスマイナス15℃ぐらいだろうか(日本の東京ならば20℃、北海道ならば30℃。ニュージーランドと北海道が同じ緯度であることを考えると、やっぱりニュージーランドは「緯度が高いわりには変化が小さい」といえるわけだが)。こうした、緯度と気温年較差の感覚を確実に身に着けよう。日本を基準に考えるといいと思うよ。

さらにもう一つポイントになっているのはケニア。ホワイトハイランドと呼ばれる高原上に国土が広がり、首都ナイロビは標高1マイル(1600m)の都市。ウガンダ鉄道の結節点としてイギリス人によって建設され、ウガンダで栽培された綿花がこの町を経由して、インド洋に面した港湾都市モンバサへと運ばれた。現在、アフリカ大陸で最も近代的な街区がみられる都市となっている。周辺では茶やコーヒーのプランテーションが多く開かれ、またサバンナでの野生動物ウォッチングのための観光客もひっきりなしに訪れている。

【27】 【インプレッション】 やっぱりケニアとスリランカっていえばお茶だよね。茶の世界的な生産国であると同時に、輸出量は2か国ともトップクラス。だから本問は茶以外のもので判断しないといけない。先の問1でポイントになった部分がこちらでも問題を解くカギになっている。南アジアと東アフリカを比べ、どちらの方が工業化が進んでいるかってことだよね。

【解法】 ケニアとスリランカの輸出に関する問題。いずれも茶の輸出量については世界トップを争う国であり、茶だけで判定ができないのが厳しい。ただ、「現在の南アジア」を答えればいいので、実はさほど解答は困難ではない。

ではグラフをみていこう。金額は示されておらず、割合のみ。もっとも、金額が書かれていたら、過去と現在がすぐにわかってしまう(もちろん現在の方が貿易額は大きいだろう)ので、あえてその数値は示していないのだろう。

いずれも茶が上位輸出品目の一つとなっているが、その値が異なっている。①>②>③>④の順で、①では半分近くを占めているのに対し、④では10分の1以下である。

①と③で注目されるのは「ゴム」。天然ゴムは極めて高温多雨の自然環境を必要とするものであり、主に低地で栽培されている(標高の高い高原は気温が低いので不適)。高温多雨の自然環境を有する国だろう。

②と④には「コーヒー」が含まれる。そもそも茶とコーヒーは似たような栽培環境で栽培されるもの(熱帯・亜熱帯の丘陵や高原)だが、①と③には含まれていないのだから、②と④が同じ国であることが判断される。

①・③と②・④。さて、どちらがケニアでどちらがスリランカ? ちなみに、1人当たりGNIには極端な差はないと思う。というか、両国ともかなり低い。南アジアとアフリカは世界で最も1人当たりGNIの低い地域なのだ。とはいえ、産業の発達の度合いにはかなりの違いがある。みんなは「発展途上国=一次産品」と思い込んでいないかな。一次産品すなわち農産物と鉱産資源なのだが、例えば先進国だけどオーストラリアは農産物と鉱産資源の輸出が主の国だよね。逆に中国や東南アジアなど、発展途上地域であるからこそ工業が発達するケースもある。賃金コストが安いからね。

で、図3で注目するのは「衣料品」なのだ。機械や自動車ではないけれど、衣服も立派な工業製品であることには間違いない。さて、南アジアとアフリカとで工業化が進む地域ってどっちだ?

これはイメージで考えてしまっていいと思う。インドは、平均した賃金水準こそ低いけれど(1人当たりGNIが低い)ハイテク産業が集積し、鉄鋼生産は世界3位、自動車も世界有数の生産台数を誇るなど、世界的な工業国の一つとなっている。近隣のスリランカも工業化が進み、(重工業はともかくとして)軽工業ならば十分に発達しているのではないかと考えていいと思う。パキスタンでは綿花、バングラデシュではジュートを、それぞれ利用した繊維工業がさかんであり、スリランカはたしかにそういった繊維製品の原料となる作物がとれるわけではないが、南アジア地域全体として「衣料品」など繊維工業が発達しているとみる。①・③のセットがスリランカであり、そのなかでも工業製品(つまり衣料品)の輸出が多い③が現在に近い2013年のデータとなる。①は1976年。

②・④はケニアになるが、古い時代が②、新しい時代が④。2位ではあるが石油製品の割合が比較的高く、多少は工業化が進んでいる。興味深いのはコーヒーの値が急上昇しているということだよね。アジアでもベトナムがコーヒーの生産と輸出が拡大している(これは知っておいていいと思うよ)が、ケニアも同じような状況にあるのだろうか。茶とコーヒーはそもそも栽培環境が似ており、熱帯の高原に適した農産物。ケニアではもともとコーヒーの栽培もなされていたが(隣国のエチオピアの主産業はコーヒー栽培だね)、近年はその地位が上昇しているということだろう。知っておいてもいいかもしれない。

【アフターアクション】 ケニアもスリランカも茶で判別すればいい国なのだが、本問については茶以外のものに注目しないといけないのがちょっと難しかったかな。でも「工業化」をキーワードにすれば、南アジア(というか東アジアから東南アジア、南アジアの広い範囲)がそれに該当することは十分に想像できたと思う。「発展途上国だから工業が未発達」なのではなく。発展途上国だからこそ有利になる工業種もあるのだ。第2問問4ではタイを工業国として捉えるべき問題が登場していたりして、発展途上国の工業化は非常にホットな話題であることがわかる。逆に、先進国から高賃金を不利な条件として、工業が流出しているよね。現代社会の変容を、経済(1人当たりGNI)をキーワードとして捉えていこう。

【28】 【インプレッション】 変な問題? パッと見て解けるわけはないので、じっくり考えていきましょう。問題文が長く、図表が多く与えられている問題はその中にヒントが隠されていることが多い。本問もそのパターンかな。考察問題なのでしょう。

【解法】 問題が複雑だな。まずはしっかりと問題文を読まないと。「茶の輸出」に関する問題であり、「種類」と「包装形態」が問われている。種類については「紅茶」と「緑茶」。イギリスは紅茶の国であり、緑茶を飲むことなんてあるのだろうか。また、包装形態については「消費者向け」と「流通業者向け」。ん、全く見当がつかないぞ!?こんな問題、センター史上初やわ。

では表をみていこう。AとBのいずれかが紅茶で他方は緑茶。Aの輸入量は「1688+3457」で輸出量は「1026+583」。Bの輸入量は「6558+126513」で輸出量は「14919+5996」。擁するに、ケタが全然違うってことだよ。圧倒的に取り扱う量が多いBを紅茶、少ないAを緑茶とみていいんじゃないかな。簡単な判定だよね。

そして包装形態について。サとシのいずれかが消費者向けで他方が流通業者向け。なるほど、少しずつわかって来たぞ。要するに、卸売業者がまとめて茶を扱い、そこから小分けにしてそれぞれのお客さんに販売するってこと。つまり「流通業」そのものを問うているわけだ。AもBも、輸入はシの方が多く、輸出はサの方が多い。これ、どういうことだ?いや、簡単でしょ(笑)。茶を大量に扱う業者がイギリス国内にあり、大量包装にて茶を輸入した後で、個別に少量包装し、消費者向けに小売店などで販売する。要するに、卸売業というか、流通の拠点の一つにイギリスが該当しているということなのだ。茶の輸出国であるケニアやスリランカから茶(紅茶)が集められ、イギリスで小分けにされてヨーロッパ全体に流通する。このパターンなんじゃないか。

そうなると、輸入量が多いシ(Aでは3457,Bでは126513)が「大量包装」、輸出が主のサ(Aでは1026、Bでは14919)が「少量包装」となる。正解は③。これでいいはず。

【アフターアクション】ホントに変な問題だった。作問の先生もよくこんな問題を思いついたな、と。地理の世界の奥深さを知りました。っていうか、そもそも地理の問題なのか?っていう疑問もあるのだが、大問としては「地誌」ジャンルではあるけれど、経済というか「流通」とは何かを問うている時点で、やっぱり典型的な地理の問題なのだなと言わざるを得ない。

しかし、一筋縄でいかない問題であることには間違いない。問題文をしっかり読み、表をしっかり解釈し、時間を十分にかけて解く。考察問題として非常にレベルが高いし、本年のベスト問題といえるでしょう。これが違和感なく解けたら、キミもかなりのセンターマスターだね。

【29】 【インプレッション】これ、難しい(涙)。他の国の留学の様子なんかわかりかっちゅうねん。それにそもそもマックスでも5000人程度なんだから、めちゃめちゃ留学が盛んっていうわけでもない。これ、どうやって解く?意外に「ある」ことより「ない」ことがポイントじゃないかって思うわけだ。それからダークホースとしてのアメリカ合衆国の存在。注意深く数字を読み取っていこう。最も矛盾のない解答を導く。

【解法】ケニアとスリランカからの留学生の数が年代ごとに問われている。これ、難しくないか?

とりあえずスリランカでみてみようか。現在の留学生の数は「タ>アメリカ合衆国>チ>ツ」の順。ケニアは「アメリカ>チ>タ>ツ」の順。いずれもツが最下位であり、上位3つはかなりのばらつきがある。留学生は「1人当たりGNIの低い国から高い国へ」と向かう傾向がとくに強く、発展途上国の学生が先進国の大学で学ぶというイメージ。

候補の国を経済レベルだけでみるならば、イギリスとオーストラリアが先進国であり、インドが発展途上国。しかし、だからといってツをインドと単純に考えてしまっていいのだろうか。国の規模を考えた場合、インドは大国であり、オーストラリアは小国。さらにインドはスリランカに近接している。歴史的にも文化的にも交流は深いし、さらにスリランカにはインド南部のタミル系の人々もかなり多く住んでいる。このことを考えると非常に判断に迷う。

だから、過去に注目してみよう。1975年の数値みると。スリランカが「チ>ツ>アメリカ合衆国>タ」、ケニアが「アメリカ合衆国>チ>ツ>タ」である。なるほど、この時期は、アメリカ合衆国と並んでチへの留学生が多かったわけだ。1970年代はイギリスがEC(現在のEU)に加盟し、オーストラリアでは白豪政策を撤廃した時期と重なる。この時期は、旧宗主国イギリスと旧植民地スリランカ・ケニアとの関係はまだ密接だったのではないか。チをイギリスと考えると、非常に納得がいく。1970年代以降はイギギリスと両国との関係は疎遠になっていくのであり、全グラフ中、タの傾き(つまり増加の度合い)が最も緩やかであるのは当然なのだ。うん、イギリスとチとしてしまえ。

で、ここからが難しいんだわ。タとツはどう考える?本当に難しい。。。どうしたものか。いや、ヒントはすでに挙げられているのではないか。「1970年代」であることが絶対的なヒントなのだ。

そう、それは「白豪政策」。オーストラリアではヨーロッパ系の人々による国家建設を標榜し、南アジア人を含む有色人種(南アジアは本来は白色人種傾倒だが、肌の色は濃いよね)の移住を制限し、先住民のアボリジニーを居留地に封じ込めるなど弾圧を加えた。こんな時期に「有色」のスリランカ人やケニア人がオーストラリアに留学に行くか?いや、それはあり得ない。1975年の段階でほぼゼロであるタがオーストラリアになる。残ったツがインドで、正解は④。

現在、タが異常に多い(スリランカから4500人!)ってのが本当によくわからないのだが、それを除けばとくにつじつまの合わないところはない。スリランカからインドへの留学なんかもっと多そうな気もするんだが、わざわざ発展途上国に向けて留学に出る人はそもそも多いわけはないと無理やり納得するしかない。最も矛盾点の少ない解答こそ④であり、(先ほど正解を確認したら)まさにこれが正解なのだ。

【アフターアクション】こりゃ難しいわ。ケニアやスリランカの問題ではなく、オーストラリアの問題だったなんて。オーストラリアにとって1970年代という時代は特別なものだ。これが登場した時点で、我々は過剰に怪しまないといけない。「オーストラリアの1970年代=白豪主義政策」は絶対的なことなのだ。