2015年度地理B本試験[第2問]問1 解説

第2問 農業に関する問題。統計に関するものが多いので、確実にゲット。唯一、問6の文章正誤問題のみあいまいで解答に窮する。これがクリアできるとおいしいんだけどね。


問1 [インプレッション] 大げさな図が用意されているわりには、図の読解は全く関係ないし、それどころか農業の問題でもない(笑)。これ、経済の問題だね。

[解法] 誤文判定問題。あいまいな選択肢には目もくれず、一つだけはっきりとした誤りをえぐり出せばいい。キーワードは「国有化」。現代社会においては、国の管理を脱し、産業は民間の活力に依存させることが一般的であり、「国営(国有)→民営(私有)」のベクトルが絶対的。日本でも、郵政省が民営化されたり、国鉄がJRに、電電公社がNTTにそれぞれなったりなど、かつての国営企業は続々と民営企業となっている。そのことにより合理的な経営がなされ、さらにはサービスの品質も高くなっていく。
選択肢①参照。たしかに国有化により生産性が向上しなくなることはあるのだが、そもそも「国有化」へのベクトルが誤っているのであり、この選択肢は間違い。①が正解。イタリアでなぜ生産性が向上していないかについては考える必要はない(*)。
他の選択肢に関しては不問。②は「緑の革命」ネタでしょう。③は、カナダのような気候環境の厳しい国ならば、こうした危険性も十分に考えられる(問6とも関連するけど、オーストラリアはこれ以上にヤバいよ。そもそも雨が降らないし)。④については、ヨーロッパが「大規模」かどうかって疑問はあるんだが(アジアよりは広いけど、新大陸よりは狭いしね)、①が絶対的に違うからこの選択肢はオッケイなんでしょう。

(*)いちおうイタリアの状況を。イタリアではローマ時代からの大土地所有制が残存し、土地を持たない小作農が現在でも多い。そのため農業の大規模化や合理化が進まず、さらに共通農業政策による域内貿易の自由化によってフランスやドイツなどから安価な穀物が流入することによって、イタリア国内の農業は停滞することになった。イタリアは小麦の輸入国である。

[アフターアクション] 「国有(国営)→私有(民営)」は絶対的な決まりごとなのだが、この例外を紹介しておこう。プランテーションや油田については「私有(民営)→国有(国営)」のベクトルがある。
プランテーションは最初は欧米の資本家によって開発された(私有)。しかし植民地の独立や革命によって欧米人はその地を離れ、プランテーションは国の管理下に置かれることになる(国営)。この典型的な例としてマレーシアやキューバがあり、前者ではイギリスの資本家によって、後者ではアメリカ合衆国の資本家によって、それぞれ天然ゴムとサトウキビのプランテーションが設けられたが、独立・革命によっていずれも欧米人が撤退した。
油田についてはイランが典型。イランの油田を開発したのはアメリカ合衆国の石油メジャー(石油関連の巨大企業)。しかしイラン革命が1970年代に生じ、アメリカ合衆国系の企業は全てイラン国内から撤退を余儀なくされた。革命後は油田はイランのイスラム政府によって国有化され、そこで産出された原油はイランの経済を支えている。「アルゴ」っていう映画がこの時代の社会状況を描いているので、よかったら見てください。しかし、このトラウマがあるから、アメリカ合衆国はイランのことを「テロ国家」ってよび、経済制裁を加えているのだろうね。日本にとっては重要な原油の輸入先の一つであるのに。