2024年共通テスト地理B追試験[第1問]解説
<第1問>
[1][ファーストインプレッション]大地形ジャンルからの出題。地理における大地形は「地形学」と「地質学」の混在であり、定義もあまりすっきりしていない。地形学は「現在」どこにどんな地形があるかという視点。現状で、地震が生じる地域を変動帯、地震がみられない地域を安定地域など。それに対し、地質学は「過去」に遡り、その地形がどういった運動によって形成されたかを解析する視点。6億年以上前の安定陸塊、2~3億年前の古期造山帯、数千万年前の新期造山帯。テストでは地形学が優先され、現在の地形の様子のみが問われることが多い。地形の成因に注目した地質学からの出題は少ない。ただ、本問はプレートテクトニクスに関する問題であり、その地形が「どうやってできたのか」という視点となっており、これは「地質学」に属する。実は追試ってこの地質学からの出題がしばしば見られる。逆に言えば、本試の方では徹底的に地質学からの出題は避けられているっていうことなんだけど。そういう意味ではいかにも追試らしい問題だなって思う。
[解法]地震に関する問題。まずは地震について知っておくべきことをまとめておこう。
まず地震には2つのタイプがある。一つは「海溝型」、一つは「内陸直下型」。海溝型の地震の例は、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震。海で生じる地震であり、海溝が震源となる。海溝とは海底の特に深くなっている帯状の凹地で、深度は海面下マイナス6000mより深い(6000mより浅いとトラフとなります)。海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むプレート境界に京成される。このプレートの狭まる境界を「沈み込み帯」と言ったりする。地球規模の大きな地殻変動が地震の原因であり、地震の規模は大きい。2枚のプレートの接する面が震源となるので、震源は深く、さらに断面を考えた場合、海洋プレート側から大陸プレート側へと向かって、震源分布は「斜め」の方向に深く潜っていく。
2019年地理B追試験の問題が手元にあったら参照してほしい。第1問問4の問題が参考になる。Hがアとなるのだが、この南米の太平洋岸には海溝が走行している。海洋プレートが西から東に移動し、南米大陸の下に潜り込む。アの図を参照しよう。プレート境界の断面図。西側が海洋プレート、東側が大陸プレート。震源分布が作り出している「斜めの線」が二つのプレートの接する面となっている。西から東へと海洋プレートが沈み、その圧力によって大陸プレートが持ち上がりアンデス山脈が形成され、多くの火山もつくられ、そして境界面では地震が多く発生しているのだ。
2024年の問題に戻って、図を参照してみよう。イがわかりやすいと思う。地表面(海表面)のプレートの境界を確認。この南西側が海洋プレート、北東側が大陸プレート。海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込んでいる。この接する面が「斜め」であることを考えれば、境界に近い○が「浅い」震源であり、遠い■が「深い」震源であることがわかる。mが「深い」、nが「浅い」である。
さらに先ほどの2019年の問題がそのまま参考になる(ほら、センター・共通テストって同じ問題ばっか出るって言ってるでしょ?これ、そのまんまやん)。南米の太平洋岸には海溝が走行し、海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込んでいる。多くの地震が発生し、その震源の様子から2枚のプレートの接する面についても想像が容易なイがBとなる。
アについては判定の必要はない。ただ、2009年地理B追試験でこの地域を取り上げている問題があるので紹介しておこう。この狭長な半島はカリフォルニア半島というのだが(半島とメキシコ本土との間の同じく狭長な湾がカリフォルニア湾)、これについて文章正誤が問われている。「イの半島(カリフォルニア半島)は、プレートとプレートがせばまる境界付近に位置するため、地震が発生しやすい)とあるが、これは誤り。カリフォルニア湾は、東太平洋海嶺の北に伸びる海域であり、(海嶺と同様)プレートの広がる境界と考えるのが妥当。アフリカ大地溝帯の北の延長上にある紅海と似ている。大地の裂け目に海水が侵入してできた強調な湾である。断層地形とみていいだろう。ちなみに、この北米大陸の低緯度から中緯度にかけての太平洋に沿う地域はおもしろいプレート構造がみられ、メキシコ沿岸には海溝が走行(南米のチリ海溝やペルー海溝から続く海溝である)するのに対し、南西側から東太平洋海嶺が入り込み、タイプの違うプレート境界(海溝=狭まる、海嶺・カリフォルニア湾=広がる)の接合点となっている。さらに北に向かうと、プレートのずれる境界であるトランスフォーム断層(サンアンドレアス断層)がカリフォルニア州にみられ、狭い範囲に3種類のプレート境界が揃っていることになる。このサンアンドレアス断層に典型的なように、アメリカ合衆国ではプレート境界が内陸部を通過しており、太平洋岸には海溝がみられないことに注意。北米大陸太平洋岸の開港は、メキシコ沿岸の中央メリカ海溝と、アラスカ州からユーラシア方向に至るアリューシャン海溝のみ。一般に海溝に沿って火山が京成されるが、アメリカ合衆国太平洋地域の火山は例外であり、例えばシアトル付近は多くの火山がみられるが、それらはプレート中央部のホットスポットにつくられたものであると解釈するのが一般的な考え方。
なお、今回は話題とされなかったが、もう一つの地震の種類が「内陸直下型」であり、こちらは阪神淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震が例。プレート表面に形成された「小さな傷」のような断層が震源となり、一般に震源は浅く、地震の規模は小さい。とはいえ、兵庫県南部地震がそうだったように人の居住地域の近くで発生するため、神戸市にみられたように被害は甚大なものとなりやすい。
さて、冒頭の「地形学」と「地質学」の話を最後にしておこうと思うのだが。本問と2019年、2009年の問題がいずれも同じネタについて問われていることに気づいたと思う。そしてそのネタとは「海溝型地震が発生するメカニズム」に関するものである。プレートが沈み込むことによって、地下に向かって斜めに震源が並ぶではないか、という地震の生じるしくみについての問いだった。これって、まさに「地質学」ジャンルに分類されるものであることにも気づいたよね。なんだ、センター・共通テストでも地質学が重視されているじゃないかと考えた人も多いと思う。でもちょっと考えて欲しいのだが、これ、3つとも「追試験」の問題なんですよね。受験者数が圧倒的に多い本試験ではなく、ごく限られた人しか目にしない(後から過去問として公開はされますが)追試験でひっそりと出題されたに過ぎない。
[2][ファーストインプレッション]南アジアにおける季節風の風向という、非常にベーシックなアイテム。
[解法]南アジアの季節風の風向を考えてみよう。海陸の比熱差の影響で、夏は海上に高気圧、内陸に低気圧となり、風は海から陸に向かって風が吹く。南アジアの場合、北が陸地(ユーラシア大陸)、南が海洋(インド洋)であるので、基本的には夏は南風、冬は北風になる。これに転向力の作用が加わる。転向力とは地球の自転によって生じる力で、動いているものに作用する。北半球では進行方向に対し右向きの、南半球では左向きの、赤道直下では作用しない。南アジアは北半球なので右向きの力となる。海からの南風は右に曲がり南西からの風となる(南西風)。大陸からの風は同じく右に曲がり北東からの風(北東風)になる。この「夏(7月)は南西風、冬(1月)は北東風」という風向を意識してみよう。
明らかな南西風になっているものは1。これがsの7月になる。北東風になっているものが3。こちらはsの1月。正解はこの3番となる。
2と4はほとんど風向に違いがない。こちらは南アジアとは違って、比熱差(気圧さ)を作り出す大陸の存在がみられないtの範囲であることがわかる。地球全体の風系を考えた場合。これは低緯度一帯で卓越する貿易風だろうか。東寄りの風になっている。ハワイ諸島の辺りかな?ハワイでは年間を通じ貿易風の影響を受けるため、島々の北岸や東岸で雨が多く、南岸や青眼でカラッとした気候がみられる。
ちなみに、インド洋はかつて香料を交易するアラブ商人たちが活躍した海域である。「七つの海」という言い方があるが、これはアラブ商人たちが航路としたヨーロッパから東南アジアまでの海域が大きく7つに区分されたことに由来する呼称であり、インド洋もその一つ。アフリカ大陸東岸とインドは重要な交易路であった。この海域を帆船で移動する際に季節風が利用され、1月には北東風によって南アジアから東アフリカへ、7月には南西風によって東アフリカから南アジアへと、アラブ商人たちは移動した。なお、東アフリカの言語であるスワヒリ語(ケニアやタンザニアの公用語)は、アラビア語の影響を受けた商用語の性格も有している。
[3][ファーストインプレッション]図はないけれど、おそらく答えはあれなんじゃないかな。過去に出題例のあるネタなので、それを考えると解けちゃったりするのです。
[解法]これ、おそらく答えは4なんじゃないかな。過去問でも何回かこの話題は出題されている。森林限界とは、「この高さまで森林がありますよ」という限界の高度。これより標高の高いところは主に低温であることが理由で森林が生育しない。草原や荒地、高山植物の世界となり、さらに高所は万年雪や山岳氷河となる。
例えば現在の地球では温暖化が進んでおり、氷河の融解が生じているのはわかるよね。万年雪や山岳氷河が縮小する一方で、高所でも温暖となることで森林限界は上昇する。森林が分布する範囲が広がっているのだ。
これがイメージできれば選択肢4の内容は十分に検討できるね。「地球規模で寒冷な時期であった氷期には、森林限界は、現在の位置よりも『高かった』と考えられる」とある。これ、どうなんだろう?暖かいと森林の面積が増え、森林限界は上昇する。寒くなると森林の面積が減り、森林限界は低下する。選択肢4は逆のことを言っているんじゃないかな。寒冷な時期は山岳氷河も増え、そして森林は高所では存在できないことになる。森林限界は「低かった」となるね。これが誤り。
[4][ファーストインプレッション]これも地質学に関する問題だね。歴史的経緯や成因が問われている。いかにも追試っぽい問題だし、地理の正統派の問題ではないので、ちょっと解きにくい。
[解法]これは地形に関する知識が問われているね。そもそも「地形」ジャンルは理論より知識が重視されるのだが、本問もその典型に思う。文章内にヒントが多く隠されているように思うが、決して文章だけから解くことはできない。それぞれの地形が何であるかをあらかじめ判定しておかないといけない。
まずサから検討しよう。「隆起」を伴う地形であることがわかる。「階段状の急崖」と「平坦面」の組み合わせから成り、「段丘」地形である。段丘には河岸段丘と海岸段丘があるが、ここでは「浅い海底」という言葉もあり、おそらく「海岸段丘」なのではないか。とはいえ、河岸段丘も海岸段丘も形成のされ方に違うがある地形ではないので、厳密な区分は必要ないが。
さらにシ。こちらは隆起という言葉はなく、土地が動くことによって形成された地形ではないことがわかる(土地の隆起や沈降は、地球内部の力すなわち「内的営力」によるもの。反対語が「外的営力」で、これは太陽に起源を持つ。風は雨による作用)。河川の周辺に形成された土砂の堆積地形であり、これは「自然堤防」だね。自然堤防は氾濫原にみられる微地形だが、氾濫原は沖積平野に含まれ(沖積平野とは主に河川による土砂の浸食・運搬・堆積でつくられた平坦な地形。扇状地、氾濫原、三角州。いずれも規模の小さな小地形。なお、扇状地には扇頂・扇央・扇端、氾濫原には自然堤防・後背湿地といった微地形がみられる)、規模は小さな小地形である。沖積平野の沖積とは「沖積世」のことであり、つまり「現在」のこと。今、現在進行形でつくられつつある地形と考えてもいい。土地の動き(隆起や沈降)は関係ない。
そしてス。土地の隆起や沈降はなく、むしろ侵食による地形であるため、一見するとこれは規模の小さな、そして新しい地形と思われるが、実はそうではない。これ、「ケスタ地形」であることがわかるかな。「硬軟」に重なった地層が侵食される際には、軟層は大きく削られる一方で、硬層は完全に平坦になるまで削り取られることはない(差別侵食)。これにより、「急斜面と緩斜面が繰り返される」地形が形成され、これを「ケスタ地形」と呼ぶ。ケスタ地形が典型的にみられる地域としてパリ盆地を知っておこう(これはセンター試験で何回も問われているので、必須アイテムだと思うよ)。パリ盆地はフランス北部に広がり、卓状地(構造平野)の一部を成す。なお地理では卓状地と構造平野や全く同じものとして考えてほしい。いずれも、古代(先カンブリア時代。6億年以上前)に形成された安定した地盤の上に地層が堆積し(土地の沈降や温暖化による海面上昇などにより、海面下となった時代があったっていうこと。その時代に土砂が堆積し、地層が形成されている)、それが陸化した際に風や雨による長期間の侵食によって完全に平坦化されたもの(*)。「やすり」で磨いて、表面がつるつるになった状態をイメージするといいんじゃないかな。ヨーロッパにおける卓状地(構造平野)の典型的な地形は、北ドイツ平原から東ヨーロッパ平原にかけての地域。さらに地層の影響で完全な平坦面ではなく凹凸のある地形となるが、上述のパリ盆地(ケスタ地形)も卓状地の一部である。
さて、ここまで地形について考えてきて、そのスケール感ってどうだろうね。もっとも規模が大きい地形っていうのは、卓状地に含まれるケスタ地形って考えていいんじゃない?卓状地は安定陸塊の地形であり、時間スケールで考えれば6億年以上前につくられたもの。ケスタ地形もそういったスケール感で考えていい。空間スケールにしても、パリ盆地、北ドイツ平原、東ヨーロッパ平原は世界地図(あるいは地球儀)でも確認できるような、極めて巨大な地形。Jをケスタ地形(卓状地・構造平野)のスと考える。「1000キロ」は地球一周が40000キロ(北極点から赤道までが10000キロ)であることを考慮すれば、やはり地球規模の巨大な空間スケールである。時間スケールは10の8乗なので「1億」ってことだよね。時間スケールも大きい。Kと考えていいだろう。
逆にスケールの小さい地形をみてみよう。時間スケールは数十年といったところだろうか。人間の一生の間にも変化する地形である。また空間スケールも数十メートル程度。我々が普通に暮らす中で作られている地形であると考えていいだろう。これが「自然堤防」と見ていいんじゃないかな?河川の侵食・運搬・堆積作用にって作られている平坦な地形が「沖積平野」であり、これは土地の隆起・沈降を伴わないものであり、スケールは小さい。大きな地殻変動とは無関係であることがわかるよね。沖積平野には「扇状地」、「氾濫原」、「三角州」であり、いずれも「小地形」に分類されるもの。巨大な山脈や平原が「大地形」と呼ばれるのは対照的。扇状地とは山地と平野の間に形成された緩斜面、氾濫原とは河川沿いの中下流域に見られるほぼ平坦な低地、三角州は河口に形成された泥地の土地。
こういった小地形にはさらに微地形というものがある。小地形をさらに区分したもので、扇状地ならば「扇頂」、「扇央」、「扇端」があり、氾濫原ならば「自然堤防」と「後背湿地」がある。ここではとくに氾濫原の自然堤防と後背湿地に注目しよう。
氾濫原は河川の中下流に広がる低地であるが、氾濫の名前通り、洪水の多いところである。洪水の際、水かさを増した濁流が周辺に流出することによって、同時に上流から運ばれた土砂も河川の周囲に撒き散らされることになる。やがて洪水は収まり、氾濫していた水も河川に戻ったり、地下に浸透したりする。しかし、その「傷跡」は残されているのだ。河川の周囲に吐き出された土砂についてはそのまま居続けることになる。このわずかな土砂の堆積が「自然堤防」であり、河川沿いの細長い「盛り土」になるのである。微地形の「微」という言い方からわかるように、これは極めtスケールの小さな地形。自然堤防の高さ自体僅かなものなので、地形図上では等高線で示されることもなく判別がしにくいほど。高さはせいぜい数メートル、長さも数十メートル程度だろうか。また京成される年代も「沖積平野」という言葉が示すように(沖積とは沖積世つまり現在のことを表している)極めて新しい。現在進行形でつくられつつある地形と考えていい。Lとなる。
残ったサがKとなる。海岸段丘は日本の沿岸部にしばしばみられる地形。日本列島は変動帯による「新しい地形」であり、過去(とは言っても地球スケールから見ればごく最近のことだが)にいくつもの地殻変動を経験し、現在の地形がつくられてきた。
例えば関東平野。平野の多くは河川下流に形成される沖積平野が広い範囲が占めるものなのだが、関東平野は異なっている。関東平野はほとんどが台地(洪積台地)からなっており、茨城県や千葉県の沿岸部には海岸平野。これらはともに地形の隆起によって形成された地形であり、上述の海岸段丘と重なる(沖積平野が土地の動きを伴わない地形である点に注意)。縄文時代は地球の気温の高低が激しかった時代であり、氷河期もあった一方で、それ以前には気温の極めて高い時代もあった。その時期に作られていた平野が現在の関東地方に存在し、そして沿岸には土砂の堆積によって遠浅の海底がみられた。やがてその温暖な時期も終わり、気温が低下すると陸上の氷が増えることで海の水が減少。海水面が低下することで、「縄文の海退」が生じた。それまで平野だった部分は(相対的に)隆起し、海面からの標高が上がることで台地となった(洪積台地)。そして同じく浅海底だった部分は海面上に持ち上がり、陸地となった。茨城県の鹿島灘に沿う平野や千葉県の九十九里平野のように海岸線に沿う細長い平野となっている。これが海岸平野。
もちろん縄文時代には海水面の上下のみでなく、日本列島の各地で地殻変動も頻繁に生じた。新期造山帯の変動帯に位置し、プレートの動きによる大地震や火山噴火なども多発していたはずだ。現在ももちろんこうした地殻変動はみられるが、縄文時代の数万年にわたる長い期間を考えれば、さらに大きな大地の動きは多く生じていただろう。
日本列島各地で海面の動きや地殻変動はみられ、その際に岩石海岸だったところは隆起したことで「海岸段丘」となる。海岸段丘はこのように土地の動きを伴う地形であり、そのような地殻変動が生じた縄文時代に作られたものが多い。再三指摘するように、「現在の土地の動きがない時代」の沖積平野に対し、「過去の土地が大きく動いたいた時代」に形成された台地(洪積台地)、海岸平野、海岸段丘の方がワンランク古い地形となる。日本に当てはめれば縄文時代であり、数万年ほど前の時代、なお、洪積台地の「洪積」とは「洪積世」の意味。洪積世とは沖積世より一段階古い時代のことであり、沖積世が1万年より手前の現在(弥生時代より新しい時代)と考えれば、洪積世は数万年前の縄文時代。現在は洪積世という言葉は使わないようになったので、洪積台地という言葉は単なる台地と言い換えられている。洪積世とは「洪」の字からわかるように、歴史を動かすような巨大な洪水があったという伝説に基づいている。その伝説はみんなもよく知っている「ノアの方舟」に関するキリスト教聖書に由来する。ただし、現在はノアの方舟が科学的事実に基づくものではなく、信憑性の低いものであるため学術的には否定されている。よって「洪積」という言葉は使いにくく、この言い方が消えてしまったのだ(だから洪積台地は単なる台地となった。でも、こうしてしまうと、正式な地形用語である台地(固有名詞的な使い方をする)と、単なる高台を表す一般名詞としての台地との違いがなくなってしまい、とてもわかりにくくなってしまうんだけどね。不都合だなぁ)。
Kがサであることは問題ないだろうか。空間スケールとしては数kmにわたるもの。関東平野を考えれば数十km規模のものだが、その一部にみられるものと考えれば数kmと考えても妥当だろう。時間は10の4乗で1万年スケール。地殻変動や海面の上下があった縄文時代が数万年前と考えれば、これはジャストミートだよね。
(*)この例外がケスタであることがわかるだろうか。本来ならば完全に平坦化されるはずの卓状地(構造平野)だが、地層が硬い層と軟らかい層が互いに重なっている場合は、軟らかい層のみ深く削られ、硬い地層が侵食から取り残されることで、特徴的な地形(つまりケスタ)が生じる。
[5][インプレッション]これもよくある問題かな。火山はやっぱり頻出だね。火山がある場所は限られているので、ぜひ知っておこう。
[解法]アジアにおける火山噴火、地震、暴風雨に関する問題。最もわかりやすいのは火山噴火だと思うよ。「火山」の分布はマストだね。火山分布で最も重要なトピックは「南アジアに火山はない」ということ。南アジアの北部には世界で最も険しい地形であるヒマラヤ山脈やチベット高原が形成されているが、それらは火山を伴うものではない。火山はあくまで「海」周辺にみられるもの。原則として海溝と火山がセットであり、海洋プレートが大陸プレートの下に沈む込む一帯において火山が形成される。日本海溝(プレートの狭まる境界)と日本列島(火山帯)が一つの例であるが、これ以外にも太平洋の外周部に沿って火山が並んでいる。
それに対し、ヒマラヤ山脈やチベット高原は大陸プレート同士が衝突して形成された巨大な褶曲山脈であり、海からは大きく離れている。こちらは火山分布はみられず、もちろん火山噴火による災害もみられない。タ~ツのうち、南アジアで円が描かれていないチが火山災害となる。図から判定して、火山災害が生じているのはフィリピンとインドネシアであるが、いずれも海溝に近接し、多くの火山が分布する国である(地熱発電も盛んだね)。
残った2つはどうだろう?例えば火山が噴火すれば地震も生じる。インドネシアとフィリピンは地震の発生も多い国だろう。インドネシアに注目し、さすがにインドネシアで「ゼロ」はありえないと思うので、タと「地震」とする。南アジアは火山はみられないが、地震はそれなりに生じている。火山ではなく、例えば男装活動に由来するような地震が多いのだろうか。
残ったツが「暴風雨」だが、これはどうだろうか。これ、インドネシアが全く無いでしょ?かなり興味深いと思うよ。暴風雨って具体的に何だろう?そう、巨大な低気圧によるものであり、この地域ならば「台風」や「サイクロン」だよね。フィリピンなら台風、インド洋沿岸ならサイクロン。
熱帯低気圧の発生条件ってわかるかな?一つが「海水温の高さ」。一般に海水温が27℃以上の海域で、豊富に水分を含んだ空気が激しい上昇気流を生じ、低気圧が発生する。もう一つが「転向力」。転向力はコリオリの力とも呼ばれるもので、地球の自転によって空気や水に対して生じる力。北半球では進行方向に対し右向きの力となり、南半球では左向きの力となり、そして赤道直下では「生じない」。低気圧が渦を巻き、周辺から大量の空気や水分を巻き上げて発達するためには、この転向力が作用することが絶対条件となる。
以上の二つの条件を満たす場所として、「両半球の緯度10~20度ぐらいの海域」こそ熱帯低気圧の発生域となるのだ。緯度が高すぎると海水温が十分でない。緯度が低すぎると転向力が作用しない。ちょうどバランスの取れた海域として上記の場所が挙げられる。こちらの図で言えば、フィリピン周辺からベトナムにかけての南シナ海、バングラが面するベンガル湾、パキスタンが面するアラビア海など。なるほど、たしかにフィリピン、ベトナム、バングラなどで被害が大きくなっている。それに対し、同じく熱帯の国であってもインドネシアでは暴風雨の災害がみられない。赤道に近い低緯度に位置し、転向力が弱いため、熱帯低気圧の発生や成長がみられないのだ。インドネシアは降水量の多い国ではあるが、降水パターンは「対流性降雨(収束性降雨)」。激しい太陽直射で地面が熱せられ、強い上昇気流を生じる。日中に積乱雲がつくられ、午後になると激しい雨が降る。熱帯収束帯においてみられる降水パターンで、スコールをイメージするといい(日本なら夏の日の夕立かな)。こういった雨は、台風がもたらすような雨(暴風を伴う)ものとは違うね。台風やサイクロンは低気圧性降雨。赤道直下の地域は毎日スコールが降るので、人々は傘を持ち歩かないのだそうだ。午後になると雨が降るってわかりきっているから用事は午前中に済ませてしまい、午後は建物の中にいたらいいもんね。
[6][ファーストインプレッション]これは難問っぽいなぁ。以前にもこういった河川の氾濫に関する考察問題があったんだが、それが難しかったんですよね。というか、ちょっと捻り(ひねり)の効いた、一筋縄ではいかない問題。これもその手の一つのような気がするんですよね。
[解法]図を確認。北から南に向かって流れる河川。Pが上流、Qが中流、Rが下流。周辺に支流も描かれており、流域(集水域。降った雨水が流れ込む範囲)もかなり広そう。下流側での水量は大きなものになるんじゃないかな。
まずはXから判定しよう。観測地点はマが上流、ミが中流、ムが下流とのこと。これは正しいか。一見すると、これ、合っているようにも思うんですよね。一般に河川の幅って上流側が狭くて下流側に向かうにつれてだんだんと広がっていく。同じ水量が流れた場合は、幅の狭い上流側で深くなり、幅の広い下流側で浅くなりそうなものだね。最大でマは9メートル、ミは5メートル、ムは4メートルも水位が上がっている。ただ、これはあくまで「水量が同じ」だった場合。先ほども述べたように、この河川は支流も多く、周辺からも多くの雨水が集まってきている。多くの河川の水が流れ込むことによって、下流側こそ水量が極めて多くなり、もしかしたら水位も上昇しやすいのかも。そういった想像は十分にできると思う。だから、ここでは水位そのものは判定の材料にしない。
だからこそ、ここで大切になるのは「時間」なんですよね。河川は当然上流から下流に向かって流れる。上流側で水位が高くなると、やがて中流で水位が高くなり、そして最後に下流側で水位が上がる。図8の1日目から2日目のマ~ムの水位の上がり方を見てもらえるかな。まずムで水位が上がり、その後にミ、最後がムで上昇する。上流側から下流側に向けてだんだんと水位が上昇していくという時間差を考えるならば、ムが最上流であり、次いでミ、最下流がマなんじゃないかな。おそらくこれが最も自然は考え方。全体の水位については先に述べたように、支流が流れ込み、周囲から水がより多く集まることで、下流側で水量が大きくなるというのはとくに不自然でもないだろう。Pはム、Qはミ、Rがマとなることで、Xの文章は誤りとなる。
さらにYも判定しよう。堤防の決壊はマに対応する観測地点つまりRで生じたとある。でも、これはどうなんだろう?Rで堤防が決壊すなわち周辺に河川から水が流出する。Rより下流側では河川の水量が減少することになるが(周辺に低地に水が排出されるので)、上流側ではその影響はないんじゃない?下流側で氾濫が起きようが、上流側の流れには全く影響はないはず。
それに対し図8はどうだろう?堤防の決壊後にマの水位が大きくガタンと低下しているのがわかるよね。興味深いのは、水位が最高に常翔したのは5日の未明であるが、そのピークを超えた5日の午前中に堤防が決壊している。最も水流が激しかったのが5日未明なのかもしれないが、その時点では堤防はもちこたえていて、やや雨が弱まった(それでも十分に激しい雨だが)5日の午前中にいよいよ堤防が持ち堪えらえず、決壊してしまったということなのだろうか。それによって一気に水流が周辺の低地へと排出され、大きくガタンと水位が低下したのだ。
これに照らし合わせて考えてみると、ミとムはどうだろうか。ムでは4日目の深夜に水位が最高となっており、ミでは日付の変わるころに水位が最高(そして上述のようにマは5日未明に最高位。時間差があることは納得だね)。この地域全体の雨が4日深夜にピークを迎え、それに伴って河川水も増加したが、そこからは雨が弱まってきたのだろう。全体的に水位が下がる方向にある(それでもマでは堤防が決壊してしまったのだが)。マでみられるような、急激な水位低下がミやムではみられないことに注目してほしい。雨が弱まったことにより、自然に、なだらかに水位が減少し続けているではないか。下流側で堤防が決壊したことなど全く知らないかのように。どうかな、「堤防決壊による急激な水位の低下」がみられないことから、ミとムは堤防決壊した場所より上流側に位置していると考えていいんじゃない?R(マ)のちょっと上流側で堤防が決壊し、大きく水位に変化があったのが下流側のマ(R)であると考えるのは妥当。Yの選択肢は正しい文となる。正解は3になるね。
どうかな。かなり力技で解いてしまったのだが、納得できるかな?ちょっと素直じゃないというか、捻り(ひねり)の効いた問題だったでしょ?これで問題ないと思います。解答も確認しましたが、正解でした。しかし難しい。例年第1問の最後の問題(問6)は難問が多い傾向にあるが、その典型の問題だったね。