2018年度地理B本試験[第1問]解説

<2018年度地理B本試験 第1問 世界の自然環境と自然災害>

毎回最初の大問は自然環境に関するもの。ただし、高度な知識と複雑な思考を伴う問題が散見され、他の大問に比べて難度が高いのも例年通り。この大問から取り掛かるのではなく、他の大問を片付けてからこの第1問に戻ってくるというパターンもいいんじゃないかな。

問1はオーソドックス。火山の場所が問われている。

問2は湖の問題だが、死海やレマン湖は教科書で扱われていないアイテムなので、ちょっと難しいかも。

問3は土壌について名称ではなくその性質を問うている良問。しっかり対策して欲しい。

問4は図と文章が与えられている「重問」だが、有るポイントに気づけば簡単に解答できる。間違い探しみたいなもののかな。

問5は砂漠化の成因について。ちょっと考えないといけないね。一筋縄ではいかない。

問6は図を見るだけ。簡単だと思う。

1問ミスで乗り切ればベスト、問2や問3で落とすのは仕方ない。問1がスムーズに解ければ、センター対策はしっかりできているということ。問5が解けるといいんだけどなぁ。これができればかなりのもんだと思う。

【1】【インプレッション】例年一発目の問題は地形(とくに大地形)に関する問題であり、今回もそれを踏襲している。知識に偏った問題が多く厄介なイメージもあるが、固有名詞が問われているわけでもなく、ある程度出題される場所や事例は決まっているので、対策はしやすいと思う。とくに「火山」の位置は頻出。選択肢2の火山にまず注目してしまってもいいかな。

【解法】地形に関する問題だが、内的営力による大地形だけでなく、外的営力による小地形も合わせて出題されているのが目新しいかな。でも出題されるポイントは決まっているね。

地形の問題で最も重要視されるのは「火山」の位置。火山が分布する地域は限定的であり、太平洋一周(ただしオーストラリアを除く)、イタリア、アイスランド、キリマンジャロ、カリブ海、ハワイが代表的なところ。

選択肢2に注目しよう。「Bの山脈には、活火山が点在する」とある。Bはアフリカ南東端だね。アフリカ大陸では東アフリカの大地溝帯に沿ってキリマンジャロ山などの火山がみられるが、南東端には存在しない。これが誤りで、解答となる。

他の選択肢について。

①について。ケスタ地形とは安定陸塊の構造平野にみられる地形で、緩斜面と急崖の組合せによる非対称の丘陵が連続する。硬層と軟層が傾いた状態で重なり、差別侵食されることにより形成される。パリ盆地に典型的にみられる。他にはロンドン盆地や北米五大湖周辺。

②について。Bの位置には古期造山帯のドラケンスバーグ山脈が走行。火山は新期造山帯に主に位置し、また安定陸塊に形成されるものもあるが、古期造山帯にみられるものは全く無い。

③について。溶岩台地として重要であるのは、インド半島のデカン高原。安定陸塊であるが、古い時代にはホットスポットとして火山がみられ、その次代の玄武岩(火山岩の一つである)が積み重なっている。デカン高原には玄武岩の風化土壌であるレグール土が分布。他の溶岩台地には、朝鮮半島北部のケマ高原、ブラジル南部のブラジル高原がある。

④について。安定陸塊(6億年以上前)、古期造山帯(2〜3億年前)、新期造山帯(数千万年前)に比べて、氷食地形は数万年前の最終氷期(日本は縄文時代)に形成されたものであり、極めて新しい地形であることをまず認識してほしい。現在の高緯度地域の広い範囲は大陸氷河(氷床)に覆われ、その作用による地形が多くみられる。

フィヨルドはその典型で、氷河が削った侵食谷(断面の形状から「U字谷」と呼ばれる)が沈降(あるいは海水面が上昇)し、海水が侵入することで葉脈状の深い入江となったもの。ノルウェー沿岸やカナダ太平洋側(ヴァンクーヴァー)を含む北半球の高緯度一帯、ニュージーランド南部やチリ南部を含む南半球高緯度一帯に、それぞれみられる。

【関連問題】(2018年度第1問問2)

2018年の地理Bでは南アフリカ共和国の南東端が本試験でも追試験でもともに取り上げられている。本試験では第1問問1でBの位置として登場し、古期造山帯であることが扱われている。また追試験の第1問問2 ではキの位置として、温暖湿潤な気候がみられることが問われている。

南アフリカ共和国では南西端のケープタウンが地中海性気候であることがよく問われているが、この南東端が問われるケースは極めて珍しい。大陸東岸に沿って古期造山帯が走行し、乾燥気候である内陸側に対し、沿岸部(暖流も流れている)では温暖で湿潤な気候がみられる。オーストラリアとちょうど同じパターンなんだけど、わかるかな。ここ、要注意かも知れない。

【アフターアクション】いずれも分布に特徴がある地形について問われている。その中でも火山が重要であるのは言うまでもない。その分布を再度確認しておこう。

<新期造山帯にみられる火山>

・太平洋沿岸部・・・環太平洋造山帯に沿う。主に海溝に接して火山がみられ、ユーラシア〜北アメリカの弧状列島(アリューシャン海溝)、カムチャッカ半島・千島列島(千島カムチャッカ海溝)、日本列島(日本海溝・伊豆・小笠原海溝)、サイパン〜グアム(マリアナ海溝)、フィリピン(フィリピン海溝)、ニュージーランド(トンガ・ケルマデック海溝)、南アメリカ大陸太平洋岸(ペルー海溝・チリ海溝)、メキシコ沿岸(中央アメリカ海溝)。なお、海溝はみられないがアメリカ合衆国の太平洋岸にも火山。シアトル付近やカリフォルニア州など。

・インドネシア・・・アルプス・ヒマラヤ造山帯の東端であるインドネシアの島々も火山島が多い。スマトラ島やジャワ島のインド洋側には海溝(スンダ海溝)が走行。

・イタリア半島・・・地中海は海溝こそみられないもののプレートの狭まる境界に当たり、火山が多い。とくにイタリアの火山は有名。

・カリブ海・・・環太平洋造山帯から大西洋側に分岐している火山帯。多くの火山島が弧状列島を成し、プエルトリコ海溝も走行。

<それ以外の火山>

・キリマンジャロ・・・アフリカ大地溝帯はプレートの広がる境界である変動帯。地震の発生も多く、火山もいくつかみられる。キリマンジャロは標高6000mに達する成層火山。山麓部は熱帯、山頂付近は山岳氷河(寒帯)と、全ての気候帯がみられる山と言われている。

・アイスランド島・・・大西洋の中央にはプレートの広がる境界である大西洋中央海嶺が走行し、その北の延長上に位置するアイスランド島も火山である。北極圏には含まれない(つまり白夜や極夜にはならない)が、島の中央部には氷河がみられ、地熱により融解された水は発電に利用されている。

・ハワイ島・・・プレート中央部のホットスポットに形成された火山。ホットスポットの位置は変わらないが、プレートが東から西へと移動するため、ハワイ諸島は古い時代に形成されたものほど西に位置している。プレートの移動によってやがてハワイ諸島は日本海溝の下に沈むと言われている。ハワイ諸島最大の火山は標高4000mのマウナケア山だが、海底からの比高は(海底の広い面積を占める大洋底は深度5000〜6000m)10000m近くに達する。

逆に絶対に火山がみられない地域も挙げておくので、問題を解くヒントにして欲しい。

・南アジア・・・南アジア北部は、アルプス・ヒマラヤ造山帯の一部を成す「世界の屋根」パミール高原や世界最高峰エベレストを有するヒマラヤ山脈、標高4000mに達するチベット高原など急峻な地形がみられるが、火山は存在しない。またインド半島のデカン高原には火山性(玄武岩)の土壌であるレグールが分布し、過去には火山活動がみられたことが推測されるが、現在は全く火山はない。南方海上のモルディブもサンゴ礁の島々(ゆえに標高が低く、海水面上昇による水没の危機が生じている)であり、火山島ではない。

・古期造山帯・・・安定陸塊にはしばしば火山がみられるが(キリマンジャロなど)、古期造山帯に位置する火山は地球上に存在しない。主な古期造山帯の山脈としては、テンシャン山脈(中国西部)、ウラル山脈(ロシア西部)、ドラケンスバーグ山脈(南アフリカ共和港南東部)、アパラチア山脈(アメリカ合衆国東部)、グレートディヴァイディング山脈(オーストラリア東部)。

・ヨーロッパ北部・・・ヨーロッパでは南部の地中海沿岸と、離島であるアイスランド島を除き火山は存在しない。アルプス山脈やカルバティア山脈(これらは新期造山帯である)、フィンランドやポーランドなど、過去に火山の有無が問われたことがあるが、もちろん皆無。

【2】【インプレッション】おっ、死海は初登場じゃないかな。アフリカ大地溝帯や紅海は頻出であるので、その北側の延長にあたる死海も当然重要だったわけで、今回めでたく初めての主役。レマン湖とパトス湖というところはマイナーなので知る必要はないが、その位置から特徴は推測できるだろう。

【解法】湖の成因に関する問題だが、君たちに必ず知っておいて欲しいものが一つある。それが「死海」。湖面標高が極めて低く、湖岸の土地は「世界で最も低い陸地」なのである。アフリカ大地溝帯から紅海へと続く大地の裂け目の延長上に形成された断層湖。外海への流出河川を持たない内陸湖でもある。強い蒸発によって湖水の塩分濃度が高まり、生物種の少ない湖沼ともなっている。湖面標高が海水面より低いウが死海に該当する。

残った2つについては、位置が重要。イは湖面標高がほぼ海水面と同じで水深も極めて浅い。これは「潟湖(ラグーン)」と呼ばれるものだろう。入江や湾の入り口が砂の堆積物(砂州)によって囲まれ(2017年度地理B本試験第1問問4の図4で潟湖が描かれているので参照しよう)、海からほぼ切り離されることで形成された水域。日本でもサロマ湖が代表例で、天橋立にも類似した地形はみられる。海岸沿いに限られるのでレマン湖は除外され、パトス湖が該当する。

消去法でアがレマン湖。「氷食」という言葉があるが、レマン湖はアルプス山脈に位置し、極端に高い標高ではないものの、気温が低かった最終氷期には山岳氷河も周辺にはみられただろう。これによる侵食谷に水がたくわえられ形成された湖であることは容易に想像される。

【参考問題】(2008年度地理B追試験第4問問1)

古い問題なのでちょっと手に入らないかな。西アジアの図において紅海の位置が示され、「狭まるプレート境界にあたる」という文の正誤が問われた。もちろんこれは誤り。かつてアフリカ大陸とアラビア半島は完全に一体化していたが、プレートの移動によって現在は北部(スエズ運河周辺)でのみ地続きとなっており、大きく避けたそれ以外の部分は海水が侵入し、紅海となっている。なお、2000年度地理B本試験第2問問4選択肢4では「アラビア半島とアフリカ大陸を分ける紅海は、アフリカ大地溝帯の延長上にある」という文の正誤が問われている。これは正文。そして、その更に北の延長上に位置するのが死海なのだ。

【アフターアクション】ここでは徹底的に死海について理解を深めよう。

まずアフリカ大地溝帯〜紅海〜死海と一連の断層(プレート境界)になっている点を理解する。図1を参照すると、アフリカ東部に2つほど細長い湖が存在するよね。これらは断層に水がたまって形成された断層湖で、これに沿ってアフリカ大地溝帯が走行しているのがわかる。北にのばしていくと紅海に当たり、やはりこれも細長い形をしている。断層に海水が入り込んだ。なお、紅海は緯度の割に水温が高い海域として知られており(だから、熱をイメージする「紅」という名称が冠せられているのだろう)、熱帯魚が生息するダイビングのメッカなんだそうだ(本家メッカもこの近くにありますが)。そして紅海から更に目を北に移すと死海。断層がこの地域にまで続き、深い刻み目に水がたまり湖となっている。死海もプレートの広がる境界と考えていい。

さらに蒸発が激しい地域であり、塩湖となっていることを知る。西アジアは気温が高く降水量が少ない乾燥地域であり、周辺は植生がみられない(砂漠気候)。死海は極めて塩分濃度の高い水域として知られている。浮力が高く、人間の体も浮きやすい。

そして、死海はイスラエルとヨルダンの国境湖沼でもある。死海および死海へと流れ込むヨルダン川(なお、「死海から流れ出る」河川は存在しないことに注意。死海の湖面は海水面より低い)はいずれもイスラエルとヨルダンの国境を成す。イスラエル東部の「ヨルダン川西岸地区」は第二次世界大戦時までこの地に広く居住していたパレスチナ人の自治区である。ユダヤ人によるイスラエル建国によって住処を追われたパレスチナ人は難民となり、周辺諸国に流出した。1990年代になってイスラエル国内にガザとヨルダン川西岸の2つの自治区がもうけられ、帰還を果たすパレスチナ人は多い。

【3】【インプレッション】ベタ過ぎる問題やなぁ、わかりやすい。確実にゲットしないといけないよ。

【解法】例年、土壌に関する問題はほぼ一つずつ出題されていると考えていい。また、カタカナで示されることの多い土壌の名称が問われることは少なく、本問のように文章でその説明を述べる選択肢が登場することが多い。単純な一問一答式の暗記ではなく、成因や色などその特徴も整理しておかないといけない。

図1参照。まず黒海を確認しよう。バルカン半島の東側、トルコの北側に位置する海域。この黒海の北に接する国がウクライナであり、そこから東に向かって帯状に広がる土壌こそチェルノゼムである。ウクライナやカザフスタン北部、シベリア南部ではこの土壌を利用しての小麦栽培がさかん。

この一帯は降水量がやや少なく、半乾燥気候となっている。一面は草原となっているが、草が枯れ分解された有機物(腐植)が厚く積もることで、肥沃な土壌である黒土すなわちチェルノゼムが形成されている。正解は④である。

なお、チェルノゼムのように気候の作用によって形成された土壌を「成帯土壌」といい、気候帯に沿って広い範囲に分布している。熱帯のラトソル、ステップ(やや降水量の多い地域)の黒土、ステップ(やや降水量の少ない地域)の栗色土、砂漠の砂漠土、温帯の褐色森林土、冷帯のポドゾル(選択肢③)、ツンドラのツンドラ土がある。

それに対し、局地的に狭い地域に分布するのが間帯土壌。インド・デカン高原のレグール、ブラジル高原南部のテラローシャ(選択肢①)、地中海沿岸地域を典型例として石灰岩地域にみられるテラロッサ(選択肢②)、氷河が削った細砂が風によって散布された中部ヨーロッパのレス、黄土高原に集められた細砂が華北平原にもたらされた中国のレス。

【関連問題】(2015年度地理B本試験第1問問4)

こちらの問題では全て成帯土壌が扱われている。また、本問と同様にウクライナのチェルノゼムが取り上げられている。

【アフターアクション】本問では、成帯土壌と間帯土壌の区分、そして色が問われている。これらに注目して、土壌について整理してみた。

<成帯土壌>

気候帯土壌名分布地域キーワード

熱帯ラトソル東南アジア・コンゴ盆地・カリブ海・アマゾン低地金属

ステップ(やや降水量顔多い)黒土チェルノゼムウクライナ〜カザフスタン北部腐植

プレーリー土アメリカ合衆国中西部

パンパ土アルゼンチン東部

ステップ(やや降水量少ない)栗色土砂漠周辺栗色・・・

砂漠砂漠土砂漠・・・塩類化

温帯褐色森林土日本・ヨーロッパ褐色・・・

冷帯ポドゾルシベリア・カナダ(北半球のみ)灰白色色素が溶脱

寒帯ツンドラ土北極海沿岸・・・・・・

<間帯土壌>

名称分布地域成因栽培される作物

レグールインド半島西部黒色玄武岩の風化綿花

テラローシャブラジル高原南部暗紫色玄武岩と輝緑岩の風化コーヒー

テラロッサ地中海沿岸・石灰岩地域赤色石灰岩の風化オリーブ(地中海)

レスロンドン・パリ・ハンガリー・・・大陸氷河の末端から風で周辺に散布小麦(ハンガリーでは小麦とトウモロコシ)

華北平原(黄河流域)・・・風により黄土高原に集められた細砂が下流へと運ばれる小麦・トウモロコシ

土壌はほぼ例年問われているので、勉強すれば確実に3点がとれる「おいしい」ジャンル。コスパが高いから真っ先にマスターしてしまえ。

【4】【インプレッション】「Hの線上」ってどこか探してしまった(笑)。めちゃめちゃ狭い範囲なのね。よく見たら、白丸と黒丸とがあって、短い線で結ばれてた。ペルーとボリビアのアンデス地域。ここは東西で全く自然環境が違うところなので、そこがポイントになっているのかな。

【解法】植生に関する問題だが、むしろ降水量を中心とした気候が問われているね。解答は簡単なんじゃないかな。選択肢①に注目。「主に冬季の豊富な降水」とあるけれど、冬が夏より降水量が多くなるのは地中海性気候。地中海性気候は、「大陸西岸・緯度35度付近」のみに出現する気候区であり、これについては必ずその位置を知っておかないといけない。この緯度帯は、夏に亜熱帯高圧帯の影響下に入り少雨となるが、東岸は季節風の影響によって海洋から湿った空気が持ち込まれるため該当せず。

南アメリカ大陸では太平洋岸のチリ中部(図1のD付近)でみられ、H付近ではそういった降水パターンとはならない。①が誤り。

他の選択肢については検討の必要はないが、一応コメントを。

②について。高度が100m上がるごとに0.55℃ずつ気温が低下するので、「標高4000〜5500m」ならば20〜30℃ほど低地より気温が低い。低緯度地域の低地では、月平均気温が30℃近くに上るので、たしかにチチカカ湖周辺は0〜5℃という計算になるので「寒冷」と言えよう。森林はみられず「高山草地」となっている。リャマやアルパカの遊牧がみられる。

③について。こちらは「2000〜3000m」なので、10〜15℃ぐらいだろうか。冷涼といえる。気温が低い分だけ蒸発量が少なく、降水量は多くないとしても「降水量>蒸発量」のバランスになると考えられ、「湿潤」。なるほど、低木林が広がっているようだ。「主に湿潤である期間の短い気候」についてはよくわからないが、雨季と乾季が生じているのだろうか。

④について。これはとくに重要。というか、君たちは十分に知っているね。沿岸部を寒流が流れ、大気が安定することにより雲が生じにくい状態となっている(イラストには雲が描かれているのだが??? 無視しましょうか・笑)。沿岸部の低地を中心に乾燥地域が広がっている。図からも「砂漠」であることがわかる。

【関連問題】(2017年度地理B第1問問3)

クはサンフランシスコ。「緯度35°、大陸西岸」の条件を完全に満たす典型的な地中海性気候。さらにここは気温年較差が温帯としては極めて小さく(10℃程度)、降水量も少ない(500mm)。カリフォルニア州はブドウの産地。

なお、2018年度地理B追試験第1問問2でも、チリ中部の地中海性気候がダイレクトに問われているので確認しておくと良いね。追試なので過去問集には掲載されていない可能性もあるけれど、「大学入試センター」のホームページで公開されているので、良かったら検索して調べてみよう。

【アフターアクション】ケッペンの気候区分は出題されないものの、地中海性気候は以下の2つの点からその例外となる。この気候が極めて理論的に説明されるものであり、さらに農業や植生と強く結びついているからである。詳細を述べよう。

1)気候の成因が理論的に説明ができ、現れる地域が限定されている。

地中海性気候の出現する場所は、緯度35°周辺に限定されているが、この35°という緯度は、亜熱帯高圧帯が支配下に収める限界なのだ。春や秋はおおよど緯度25°付近に亜熱帯高圧帯が形成されているが、夏はそれが緯度35°付近まで移動してくる。地球が地軸を傾けて自転しているため、季節による太陽からの受熱量が変化し、上昇気流である熱帯収束帯の形成される位置が移動することにより、下降気流である亜熱帯高圧帯の位置もそれに連れて移動するのだ。

ただし、大陸西岸に限定される理由として、内陸部はより乾燥の度合いが強くなりステップ気候や砂漠気候になってしまう(イラン高原など)こと、東岸ではモンスーンの影響で海洋から湿った風が運ばれ夏の降水量が多い(日本など)ことが挙げられる。

2)農業や植生と強く結びつく。

センター地理では農業区分が非常に重要で、もちろん「地中海式農業」も必須ワード。乾燥する夏季に樹木栽培が行われ、湿潤な冬季には小麦栽培が行われる。農業に対応する気候区として、地中海性気候は大切なのだ。

そもそも、気温が高い夏は、上昇気流が発生しやすく、大気中の水蒸気量も多い(飽和水蒸気量が大きくなるよね)ため、雨が多くて当たり前。それが逆に暑くなると雨が降らなくなるなんて、これは極めて異常な気候だよ。「緯度35°付近で、大陸西岸」に限定される気候区、地中海性気候はセンター地理において最もキャラが立ったトピックである。

【5】【インプレッション】おっと、砂漠化に関するずいぶんベタな問題。ありがちっちゃあありがちなんだが、でもちょっとひねった内容になっていて、正確な理解がないと思わぬ泥沼に入る。じっくり考えることが必要は良問であり。この問題がスムーズにできれば、君はかなりセンター試験に習熟していると言える。いわば、リトマス試験紙的な問題だね。

【解法】ステップ地域における植生(草原)の喪失による裸地化。それが砂漠化である。本問はそれに関する問題だが、多面的な内容が問われている。それぞれ検証していこう。

①について。サヘル地帯は、北緯15°付近一帯で、この緯度帯では夏は熱帯収束帯(赤道低圧帯)、冬は亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響によって雨季と乾季が生じる。もともと降水量の多い地域ではないが、1970年代よりしばしば干ばつに襲われ、作物不良による食料不足と飢餓が生じた。①は正しい。

②について。砂漠化の要因としては。自然的要因と人為的要因の2タイプがある。前者が主であるが、従である人為的要因についても軽視できない。

自然的要因としては「降水量の減少」がある。原因不明の降水量の減少で干ばつとなり、草原が失われる。この原因は地球レベルの大気の変動であり、人類が抗うことのできるものではない。

しかし、人為的な要因による砂漠化の進行もみられる。4つの「過」を覚えておこう。「過放牧・過伐採・過耕作・過灌漑」である。まず「家畜の過放牧」。人口が増えることにより生乳や肉類の需要も増え、家畜の飼育頭数が増える。家畜が草を根こそぎ食い散らかし、草原は失われる。

また「薪炭材の過剰な伐採」も問題。やはり人口の増加によって、燃料として樹木の伐採が過剰に行われる。草原であっても多少は樹木が存在する。樹木は木陰をつくり、木陰は水分蒸発を和らげるため、雨水は乾くことなく地下に浸透する。地下水が育まれ、農業や植林にもそれらは利用される。しかし、樹木がなくなることで地下水は涵養されず、大地は裸地となる。

さらに「過耕作」。土地に負担をかけて耕作をする、もしくはもともとやせた土地で無理に耕作を行うことで、地力を大きく損ない、農業ができないどころか、草すら生育しない「裸地」となってしまう。例えば連作。休閑期間を十分に設けずに連続して栽培することは土地に大きな負荷をかける。また、かつては耕地は肥沃である河川沿い(洪水によって上流から腐植など有機養分がもたらされる)を中心に開かれていたが、人口増加による食傷増産の必要性から山間部のやせた土地にも耕地が開かれるようになる。しかし、そうした土地はそもそも地力に乏しいので、少しの作物栽培でわずかな地力も失われてしまい、土地はやせる。これらを総称して過耕作という。

そして「過灌漑」。過剰な灌漑によって塩害が発生するシステムはわかるかな。わかる人は次の段落へ進んでください。わからない人は以下の文を読むこと。乾燥地域では農業のために灌漑(人工的に水を与えること)が行われる。ただし、この際に過剰に水分が与えられることで地表面への塩類集積がみられる。灌漑用水が地中に浸透すると、土壌中の塩分(カルシウムやカリウム、マンガン、ナトリウムなど)を溶かし込む。強い蒸発作用によってその水溶液は地表面にまで持ち上げられ、水分のみ大気中へと蒸散するものの、塩分は地表面に取り残されることになる。とくに水酸化カルシウムが地表面を覆い尽くすことにより、土壌は強いアルカリ性を呈し、植物の生育は困難となる。このような塩類集積を「塩害」といい、農業不振だけでなく、植生喪失すなわち砂漠化の原因ともなる。

これを禦ぐための方策としては「点滴灌漑」がある。農作物(植物)が吸収できる分だけの水を与え、そこで灌漑をストップする。土壌は乾いた状態が保たれ、地下からの塩類の上昇はみられない。このような節水農法は、西アジアや北アフリカの乾燥地域では伝統的に行われてきた。しかし、近年は北アメリカやオーストラリアなどの企業的な農業地帯において、機械を用いた大規模な灌漑が行われ、これが塩害を引き起こす要因となっている。サハラ砂漠周辺の砂漠化については緩和の方向にあると言われているが(植生が回復している)、新大陸の企業的農業地帯で砂漠化が深刻化し、それに伴う土壌流出(土壌侵食)も生じている。

以上が砂漠化の人為的な要因の説明である。僕は個人的には砂漠化は99%が自然的要因によるものであり、それだけ自然の力というものは驚異的なのだが、しかし!%といえでも人為的なあるならばそれは無視できない。このことを問題文に結びつけたらどうだろう?選択肢④が気にならないかな。「農地の拡大や家畜の増加は、砂漠化の進行を抑制する」とある。これ、おかしくない?「農地の拡大」は「過耕作」だよね。「家畜の増加」は「過放牧」だね。いずれも砂漠化の進行を助長するものであり、環境に大きな負荷をかけるもの。この選択肢が誤りで、解答は④となります。

他の選択肢についてはとくに検討の必要もないかな。サヘル地帯は③のように「環境難民」が増加しつつあり、彼らはラゴスなどギニア湾岸の大都市へと流出する。

【関連問題】(2009年度地理B追試験第6問問3)

オーストラリアのマリー川流域の企業的穀物農業地域について「過耕作や過放牧による土壌侵食の問題がみられる」という説明が与えられている(正文)。

マリー川流域は小麦農業地域となっているが、やや降水量が少なく、大規模な灌漑が行われている。このため塩害が進行し、砂漠化の深刻な地域となっている。砂漠化とは裸地化のことであり、植生がなくなる。植物の根には土を支えるという重要な役割があるが、植生喪失により根が失われることで、斜面からは土壌が流れ落ち(土壌流出)、風や雨によって土壌が削り取られていく(土壌侵食)。地表面に積もっていた肥沃な土曜(腐植)も失われ、土壌劣化が生じる。「砂漠化」、「裸地化」、「土壌流出」、「土壌侵食」、「土壌劣化」については、ほぼ同じ意味の言葉と考えていい。こうした環境問題が、大規模灌漑農業地域でみられるということを理解しよう。

【アフターアクション】砂漠化についてダイレクトに問われた問題だが、砂漠化に関連する事項は「解法」で十分に説明したので、ここでは問題の形式について分析しよう。

長文が与えられ、その下線部が付された言葉について正誤を問うパターンである。ただ、下線部だけに注目してはいけない。前後の文章の流れを捉え、その関連性に辻褄の合わないところはないか、判定しないといけない。

例えば、本問の解答である④だが、「砂漠化の進行を抑制する」とある。この下線部だけでは正誤の判定の仕様がないが、その前の部分、「農地の拡大や家畜の増加は」という部分を付け加えることによって、意味が通じてくる。選択肢②についても「砂漠化が進行する要因」では意味がわからず、「干ばつは、この地域の砂漠化が進行する要因の一つである」という一連の文章によって、やっと意味が通じてくる。

下線部判定だからといって、下線部のみに注目するのではなく、その前後のキーワードにも留意しないといけない。「農地の拡大」とは「過耕作」ではないか、「家畜の増加」は「過放牧」ではないか。見落としがないよう、より広い視点をもって文章を読解してほしい。下線部以外にカギになる言葉が潜んでいる場合があるぞ!

【6】【インプレッション】エルニーニョ現象は、砂漠化の自然的要因と同様に、それが生じる理由がはっきりせず、センター地理の問題でも「原因」ではなく「結果」が出題されやすい。「ペルー沿岸の海水温の上昇」が生じ、それが「海域におけるプランクトンの減少→漁獲不振」、「沿岸の降水量の増加→洪水の発生」を誘発する。そして、さらに世界的な異常気象の原因になるとも言われているのだが、これこそはっきりした根拠がみえない事象であり(ホンマにエルニーニョが原因なん?)、とくに知っておくべきことはない。

【解法】問題文が長く、さらに図も与えられ、さらに説明文も極めて長い。こうしたビックサイズの問題って、必ずそれらの中にヒントが含まれているから、じっくり読んで考えたら絶対に解ける。むしろラッキー問題だね(笑)。分量に圧倒されないように。

では説明文を読解していこう。まず「エルニーニョ現象」とは「太平洋東部の赤道付近における海面上昇」が生じる現象のこと。その影響は「広範囲」に広まる。なるほど、その様子は図からも伺えるね。

さて、ここからは( カ )の解析。風の名称が問われているが、もちろんポイントは「低緯度地域」。地球の恒常風のうち、低緯度地域で卓越するのは貿易風であり、偏西風は中高緯度。まず選択肢を③と④に絞る。

さらに( キ )だが、こちらは図をみたらいいんじゃないかな。南アメリカ北西部は「高温・多雨」、北アメリカ南部は「低温・多雨」。多雨であることは共通しており、もちろん導く言葉は「洪水」。④が正解になりますね。

【関連問題】(2006年度地理B本試験第3問問4)

やや古い問題なので、問題全体を抜粋しておく。

エルニーニョ現象は、異常気象の要因の一つとされている。エルニーニョ現象にともなって発生する異常気象について述べた文として適当でないものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

① インドネシアでは、高温少雨となり、干ばつや森林火災が発生することがある。

② オーストラリアでは、少雨となり、干ばつが発生することがある。

③ 東アフリカでは、大雨が多発し、洪水が発生することがある。

④ ペルーでは、低温少雨となり、干ばつが発生することがある。

正解(誤り)は④。ペルー沿岸部ではもともとの状態が「低温・少雨」。寒流が流れているため気温が下がり、地表面の空気が冷やされることで大気が安定し雲が生じない。エルニーニョ現象によって低温・少雨となるわけではない。ここは「高温・多雨」と変えること。雲が発生し、豪雨も生じる。

その一方で、①〜③の選択肢はすべて正文ということになる。まず①について。インドネシアでは「高温・多雨」。これは本問の図3からも読み取ることができる。エルニーニョ現象によって、低緯度の太平洋東部で「多雨」となるのに対し、太平洋西部では「少雨」となるのだ。

ただし、それ以外の2つについては図3には示されていない。選択肢②「イーストラリアで少雨」、選択肢③「東アフリカで多雨」についてはとくに確認するほどのものでもないだろう。2012年度地理B本試験問5では「アメリカ合衆国西部で多雨」と説明されているが、これも考慮の必要はない。

【アフターアクション】問題がボリュームある場合はその中に答えがあるっていう典型的な問題。風の吹く緯度帯(偏西風が中高緯度、貿易風が低緯度)に関しては知識が必要だったけど、それはたいしたことないよね。基本的には思考力だけで解ける考察問題だったわけです。

せっかくなんで、図と説明文からそれ以外の情報も導き出しておきましょうか。まず図を参照。太平洋東部(ここではずいぶん広い範囲になっていますが)の低緯度海域で水温が上がり、ベルー沿岸など本来少雨である地域において「高温・多雨」という異常気象が生じる。その一方で、本来は多雨地域であるインドネシア周辺において降水量が減少し、「高温・少雨」の状態となる(気温についてはもともと高温であり、そのまま変化なし)。この太平洋東部と西部のバランスが崩れることがエルニーニョ現象の非常に重要な部分。

図ではこれ以外にアメリカ合衆国南東部で「低温・少雨」、アフリカ南東部で「高温・少雨」となっているが、これについては個別に覚える必要はない。とりあえず地球全体で様々な異常気象が生じていることだけ確認しておこう。

さらに文章に目を移すと、エルニーニョ現象については「太平洋東部の赤道付近における海面水温の上昇が数か月から一年以上にわたって生じる現象」と説明されており、まさにその通り。気象への影響は地球全体に及ぶ。

エルニーニョ現象と同時に生じる現象として、貿易風が弱まることが挙げられる。赤道周辺では比較的強い東風が吹いており、これが貿易風。この風によって太平洋東部の海表面の海水が西へと運ばれ、冷たい海水が深いところから湧き上がってくる。

ただ、この風が弱まることで海表面の暖かい水がその場に留まり、深海からの冷たい海水の湧昇が抑えられる。海面付近の水温が上がり、降水量が増えるエルニーニョ現象が生じる。海底から有機塩類の供給も減少し、プランクトンの発生も減ることで、漁獲量も低下する。

「エルニーニョ現象=水温上昇=多雨=漁獲量減少=貿易風弱まる」というのはセットで頭に入れておくと良い。