20008年度地理B本試験[第1問]問1
2008年度地理B本試験[第1問]問1
[講評] だいたいしょっぱなの問題は難しいもんなんだが、今回に限っては簡単な問題。図がちょっと変わった角度から描かれていて一瞬戸惑うんだが、落ち着いて見ればとくに問題ないと思うよ。
[解法] とりあえず図が見にくいと思うんで、練習として、陸地を赤、海を青のように塗り分けてみよう。aはカナダ東部の都市、bは米穀中央部の都市、cは中国東北部の都市、dはイタリア半島の都市ということがわかる。このうちdを特定するのだから解答は容易だと思う。こういった地域でみられる気候パターンは「夏季乾燥型」の地中海性気候。素直に4を正解とすればいいだろう。
なお、解答以外に注目するべきはc。冬季に発達するシベリア高気圧の影響によって、1月を中心とする時期にほとんど降水がみられない気候パターンがみられる。これに該当するのが1であるが、降水が夏季に集中し、冬季に少雨であることを確認しておこう。cをはじめ、シベリアや中国東北部などユーラシア大陸東部一帯でみられる典型的なグラフである。
aとbについては特定の必要はない。
[学習対策] 「解法」でも述べているけれど、僕が最も注目するのは。むしろcと1の組み合わせだったりする。cを含む東アジアにおいては、季節風が気候とくに降水量に及ぼす影響が強い。南西からの季節風が卓越する夏季には、日本列島の太平洋岸やユーラシア大陸の日本海岸など、海からの湿った風が吹き込む地域ではとくに多雨な気候がみられ、それに対し、内陸部からの季節風が卓越する冬季には、同じ地域の降水量は極端に少なくなる。このような降水量のパターンをしっかりと目に焼き付けよう。
2008年度地理B本試験[第1問]問2
[講評] おっと、このネタが登場したかっ!びっくりですよ。たしかに「赤道直下で熱帯低気圧は発生しない」っていうのは、わりとおもしろいネタなんで授業でもしばしばしゃべったりしているんだけど、こうしたテストでメインの話題として取り上げるなんで考えていなかったので、取り立てて強調して君たちに伝えなかったんだよね。
でも逆にいえば、こうしてテストではっきりと登場する重要な話題でもあるし、これからは堂々と授業で十分な時間を取って強調して教えることができるわけで、僕的にはラッキーかな。
[解法] どうだろうか、図を見るだけで判定できる問題なんかな。とはいえ、熱帯低気圧については「赤道直下では発生しない」ということを知識として知っておいていいように思う。
台風やサイクロン、ウィリーウィリー、ハリケーンなどを「熱帯低気圧」というが、いずれも低緯度の海面上で発生し、転向力(地球の自転による力)を受けて渦を巻きながら成長し、低緯度から中緯度にかけての沿岸地域に激しい風雨の害を与える。このように熱帯低気圧の成長には転向力の作用が必須なのだが、転向力とは北半球では進行方向に対し右向きにはたらき、南半球では同じく左向きにはたらくものであるのに対し、赤道直下の地域では転向力そのものが存在しないのだ。赤道直下で生じた雲は移動することなくそのまま上方に成長し、積乱雲となって毎日午後にスコールによる降水をもたらす。赤道周辺の降水パターンは、低気圧性降雨(熱帯低気圧など移動性の低気圧による降水)ではなく、対流性降雨(積乱雲によるスコール)なのだ。
選択肢2参照。「地球の自転の影響」というのは、転向力のこと。「転向力によって赤道上で発生しやすい」というのはもちろん大ウソである。むしろ「転向力が作用しないので赤道上では発生しない」とするべき。
他の選択肢についても検討していこう。
1;一般に、水温27℃以上の海域で発生する低気圧のうち巨大化したものを熱帯低気圧という。27℃っていったらかなり暖かいよ(っていうか熱い!)。そもそも図をみても、台風の発生域は日本の南方海上。もちろん「日本近海よりも海面水温の高い」とみていいよね。
4;台風が主にやってくる時期とは9月なんですが、このことを頭に入れて、図1を参照しよう。台風は、低緯度から高緯度方向への動き(北半球では、南から北への動き)が大原則なのだが、貿易風や偏西風の影響によって、多少進度を変える。
具体的にみていこう。台風が発生する低緯度海域は貿易風帯に位置し、発生直後の小さな台風は南から北へと動く際に、まず西の方向に流される(貿易風が東寄りの風のため)。
9月(秋)における地球の風系は、夏季のように北上してもおらず、冬季のように南下もしてもいないので、レギュラーポジションであるのだが、その時、中緯度高圧帯はほぼ北緯25°付近に位置している。図1でいれば、台湾と重なる一帯。この緯度帯においては、台風は南東から北西への移動をやめ、一瞬ではあるが素直に南から北へと移動している。中緯度高圧帯は下降気流が卓越し、つまり垂直方向の空気の動きが主であるので、風によって東西方向に流されることがないのだ。
そしてこの中緯度高圧帯を越えて、台風はその勢力を強めながら偏西風帯に入り、ここでは西方向からの風が卓越するため、北へと移動しながら、西から東へと流されることとなる。この南西から北東に向かっての進路が、日本列島の形状と一致しているため、9月日本に上陸し大きな被害を与える台風が多くなるのだ。
3;選択肢4と全く同じ内容について、別の観点から説明している。選択肢4では、貿易風帯、中緯度高圧帯、偏西風帯の位置関係において説明がなされていたが、選択肢3では太平洋高気圧を中心に説明がなされている。
太平洋高気圧とは中緯度高圧帯の一部である。台風の発生が著しい9月における中緯度高圧帯の位置はほぼ北緯25°に沿った一帯であり、台湾島が目安となる。台湾島から横に延ばした帯状のエリアが中緯度高圧帯であり、全体的に気圧が高い。とくに気圧が高いのが、海上の空気。夏に近い時期であることから、海上の空気は陸上の空気よりも低温であり、その分だけ空気が収縮し気圧が高くなっているのだ。つまり、緯度25°付近の海上には強い高気圧が発生することになる。これが太平洋高気圧なのだ。
太平洋高気圧からは空気が外側に向かって吹き出しており、つまり逆にみれば、外側から太平洋高気圧の内側に向かって風が吹き込むのは困難である。太平洋高気圧の南側で発生した台風が、北へと進む場合には、太平洋高気圧を避けて、つまりその外周に沿いながら、ぐるっと半周するように移動する。
台風の軌道はひらがなの「く」の字を描いているが、この「く」の内側に位置するのが太平洋高気圧であり、台風がこの外周に沿って移動しているのである。
[学習対策] 台風など熱帯低気圧に関する問題は実はかなり多く出題されている。要点を改めて整理しておこう。
・台風、ウィリーウィリー、サイクロン、ハリケーンの区分・・・熱帯低気圧はその発生地域ごとに名称が異なる。フィリピン海周辺が台風、オーストラリア北東側のサンゴ海がウィリーウィリー、インド洋全域がサイクロン、北アメリカ周辺がハリケーン。
・発生域・・・熱帯低気圧は低緯度の海上で発生する。その目安は海水温27℃以上。ただし、成長に転向力の影響が必須であるため、転向力の作用しない赤道低圧帯では熱帯低気圧は生じない。なお、低緯度海域であっても、南米大陸西岸のように寒流(ペルー海流)が卓越する海域では熱帯低気圧はみられない。海水温が低いからである。逆にフィリピン近海から日本の南西諸島など、日本海流のような強い暖流が流れる海域では、熱帯低気圧の発生が顕著である。
・移動の仕方・・・フィリピン海や南シナ海で誕生した台風は、南から北へと移動するのだが、最初は貿易風の影響により北西方向に進むのだが、やがて偏西風帯に入ると西からの風に流され、北東へと進路をとる。その軌道は大きく「く」の字を描いている。
・影響を及ぼす範囲・・・熱帯低気圧が上陸し被害を及ぼす範囲は、主に中低緯度の沿岸地域。たとえば日本でも東北地方や北海道のようにやや緯度が高い地域にまで達する台風はほとんど存在しないことを考えてほしい。過去に「ヨーロッパに上陸する巨大なハリケーン」という選択肢が出題されたが、さすがにヨーロッパのような高緯度地域にまで達する台風はあり得ない。
・高潮・・・台風のような巨大な熱帯低気圧によって生じる最大の災害は高潮である。高潮とは、低気圧のもたらす激しい上昇気流の影響で海水面が持ち上がり、沿岸の低地に洪水などの被害を及ぼすものである。サイクロンに襲われるバングラデシュではこの高潮による被害が大きい。なお、高潮と対になる語に「津波」があるのだが、こちらは「海底地震」が原因である。低気圧が原因ではないので注意。高潮と津波をしっかり区別しよう。
2008年度地理B本試験[第1問]問3
[講評] 本年はやたら「火山」がキーワードとなっている問題が多いのだが、これもその1つ。そういえば昨年はやたら「冷害」が取り上げられていたのだが、このようにネタの重複が最近のセンターの特徴となっているような気もする。なお「火山」ネタも昨年の追試験で強調されていた話題。要チェックだったわけやね。
[解法] どのような順で解いてもいいと思うが、とりあえず最もオーソドックスなものを。
ウに注目。「火山」というキーワードが含まれている。火山の位置は頻出なので必ず知っておかないといけない。
火山の場所は以下の通り。
・環太平洋造山帯に沿う一帯。太平洋一周およびカリブ海。
・アルプスヒマラヤ造山帯には火山はみられないが、イタリアとインドネシアには火山が多い。
・これ以外に、大西洋中央海嶺の上のアイスランド、東アフリカ大地溝帯の上のキリマンジャロ、太平洋プレート中央部のハワイも火山。
これらの定義からして、火山があると思われるのは、太平洋沿岸で環太平洋造山帯による地形と思われるGである。よってウがG。
アとイの判定は、アの「古期造山帯」に注目。Hの山脈(スカンジナビア山脈)は古期造山帯である。この山脈が典型例であるように、ヨーロッパ北半部の山脈が古期造山帯であることは知っておきべきだろう。Hがアとなる。
残ったFがイとなる。なお、本問においてフィヨルドはとくに問題を解くカギにはなっていないようだ。
[学習対策] 火山の位置は非常に重要。上に記したように、火山の位置については詳しく知っておかなくてはいけない。
また古期造山帯については、ヨーロッパ北半部が最重要。ヨーロッパの山脈は、南半分が険しい新期造山帯であるのに対し、北半分が古期造山帯。古い時代に造山運動を受け、長い年月の間に山頂部が侵食され平坦となり、なだからな丘陵となったもの。ノルウェーに沿うスカンジナビア山脈、イギリスの脊梁(せきりょう。背骨のこと)山脈であるペニン山脈、ヨーロッパ最大の石炭国であるポーランド周辺の山脈(スデーティ山脈など)が主な例。
これ以外の古期造山帯としては、ヨーロッパとシベリアの境界ともなっている巨大な山塊であるウラル山脈、いずれも石炭の重要産地とも重なる米国東部のアパラチア山脈とオーストラリアのグレートディバイディング山脈などが重要。
本問ではさらに楯状地が出題されている。楯状地とは安定陸塊に含まれる地形で、古代に形成された岩盤が露出した表面にやや凹凸のみられるほぼ平坦な地形。図においてFで示されているカナダ楯状地と、スウェーデンやフィンランドを含むバルト楯状地がよく知られている。センターでは出題例はほとんどないが、知っておいてもいいかもしれない。
せっかくの機会なので、安定陸塊について説明しておこう。安定陸塊とは、6億年以上前の先カンブリア代の造陸運動によって形成された地球上で最も古い陸地のこと。大きく「卓状地」「楯状地」「構造平野」に区分される。
卓状地として重要なのは、アフリカ大陸。アフリカ大陸はかつて地球上に存在した古大陸であるゴンドワナランドの一部であるのだが、このゴンドワナランドから分裂した大陸は世界中の各地に残存しているのだが、それらはみな卓状地とよばれる台地状の地形である。
楯状地として重要なのは、カナダ楯状地とバルト楯状地。楯状地とは、古い時代の岩盤が露出した緩やかな起伏のある地形であるが、カナダ東部のハドソン湾の周辺の土地や北欧のバルト海周辺の土地がいずれもこれに該当する。
構造平野として重要なのは、北ドイツからロシアまでのヨーロッパ平原と、プレーリーとよばれる草原が広がる北米中央平原。古い時代の岩盤の上に地層が堆積し、それが長い年月の間に侵食されほぼ完全に平坦となった地形。
この3つの地形についてはさほど深いところまで突っ込んでは問われないので、何となく知っておけば十分。
2008年度地理B本試験[第1問]問4
[講評] 最近しばしば出題されている大地形の断面図問題。しかも最近の傾向に沿って、やっぱりこれも難しいんだわ。実は僕もお手上げだったりします。
[解法] これ、キツいんだよなぁ。とりあえずキがKであることだけはチェックしておいてください。インド北部にはヒマラヤ山脈やチベット高原などの標高が高い地域が連続し、そしてシベリアには広大な平原が広がっている。断面図から、こういった地形の特徴を読み取ること。
でも、ここからが難しいんだわ(涙)。カとクについては全くわからない。過去問でもこのエリアの断面図の出題例はなく、判定不可能。
[学習対策] 「ヒマラヤ山脈・チベット高原」と「シベリア平原」の断面図については過去にも出題例があり、必ず視覚的に理解しておかなくてはいけないところ。
ただし、本問については、これ以上の分析は不要と思う。カとクについては全然わからない。そもそも断面図問題は難易度の高いものが多く、ある程度、諦めるしかないかなとも思う。申し訳ないけれど、僕にはこれだけしか言えません。
2008年度地理B本試験[第1問]問5
[講評] またしても「火山」ネタ。しかもベタベタの「南アジアに火山はない」というネタ。ここまでストレートに問うてくると作問者の手抜きじゃないかとも思うんだが(笑)、でもしっかり過去の出題例をふまえて作られているわけだから、非常に適切な問題ともいえるのだ。
[解法] 「南アジアに火山はない」。よって2が誤り。
[学習対策] センター試験は「セオリー重視」。特定の約束事に沿って問題は作られているのだ。そういったセオリーを過去問から探し出すことが大切!
2008年度地理B本試験[第1問]問6
[講評] マダガスカル登場。かなり珍しいね。地理Bでは初登場。
とはいえ、問題そのものは風と降水量に関する問題で簡単に解けると思う。最大のキーワードは「地形性降雨」。ついでに、おまけキーワードは「貿易風」。
[解法]
山脈に向かって海の方向から湿った風がもたらされた場合、海岸に沿う一帯は多雨地域となる。「地形性降雨」である。
図において、降水量が200mm以上の部分を青く塗ってみよう。月の降水量が200mmっていうのはかなり多いよ。日本の年間降水量が1500mm程度なのだが、梅雨や台風の影響で特別に降水量が多くなっている6月や9月の降水量で約200mmぐらい。
島の南東部で降水量が多いのだから、当然、卓越する風向も南東方向からのものであるに違いない。正解はもちろん2となる。2の方向からもたらされた湿った空気が山脈(図に1000m以上の山地が示されている)にぶつかり、持ち上げられることによって雲を結ぶことを想像しよう。
さらにおまけ。マダガスカル島は南半球の低緯度エリアに位置し、つまり貿易風帯に含まれる。南半球の貿易風の風向は南東である。中緯度高圧帯から低緯度方向に吹き出した風が、転向力によって左方向に進路を曲げる。このことからも正解を2とすることができる。
[学習対策] 「風が吹いて雨が生じる」という地形性降雨のパターンは必ず知っておこう。
風には大きく「恒常風」と「季節風」があるが、それぞれの違いも意識しながら考えていこう。
・恒常風による地形性降雨(年間を通じて同じ側で降水が多い)
マダガスカル・・・南半球の貿易風帯に位置する。南東貿易風の影響によって、東岸で降水量が多い。米作もさかんに行われている。
ノルウェー・・・北半球の偏西風帯に位置する。南西からの偏西風の影響によって、スカンジナビア山脈西側で降水量が多い。豊富な降水量を利用し、水力発電がさかんな国でもある。
ニュージーランド・・・南半球の偏西風帯に位置する。北西からの偏西風の影響によって西岸で多雨となり、東岸で少雨となる。これにより、西部は牧牛地域、東部は牧羊地域となっている。
チリ南部・・・南半球の偏西風帯に位置する。北西からの偏西風の影響によって、アンデス山脈の西側に当たるチリ南部は多雨となる。ただしこの一帯はフィヨルドが広がる険しい地形であり、豊富な降水も農業などには活かされていないが。
ハワイ・・・北半球の貿易風帯に位置する。北東からの貿易風の影響によって、島の北東岸の降水量が多い。山かげの南岸はおだやかなビーチが広がっているのに対し、波の激しい「ノースショア」はサーフィンのメッカである。
・季節風による地形性降雨(夏季あるいは冬季のみ多雨)
インド半島南西岸・・・南アジアでは季節風の風向は、夏季が南西方向から、冬季が北東方向から。よってインド洋から湿った風が吹き込む夏季に、風上斜面となるインド半島南西岸などで極端に多い降水がみられる。ここに位置する主な都市はムンバイ。
日本列島・・・東アジアでは季節風の風向は、夏季が南東方向から、冬季が北西方向から。夏季は太平洋岸で降水が多く、冬季は日本海沿岸で降水(降雪)が多い。