2011年度地理B本試験[第3問]解説

第3問 生活文化と都市。新課程以降、毎回都市に関する大問が問われている。都市はすごく大切なジャンルなのです。

 

問1 [ファースト・インプレッション] 住居の問題って新しいね。ただし特別なことが問われているわけでないので慎重に解きましょう。

 

[解法] Dはインドネシアの熱帯雨林。1の「厳しい寒さ」は除外。これはCのことだろうか。また「樹木」は多いので2も除去。これはアフリカの砂漠のBと思われる。そもそも降水量の多い地域には「日干しレンガ」は不適。焼き固めていないため、雨が降れば溶けてしまう。4の「窓の小さな」も不適当。窓の小さな建物は乾燥地域にしばしば見られる。高温である外気を室内へと入れないための工夫。Dのような高温多雨な環境でそんな風通しの悪い家を作れば蒸し暑くてたまらない。4はAだろうか。地中海沿岸には石灰質の石造りの家が多い。3が正解。

 

[最重要リンク] 住居ネタって地理Aによく見られる。

2000年度地理A追試第3問問4。問題が入手しにくいと思うので、引用しておく。

 

次の写真1(省略。柱と屋根だけで壁のほとんどない簡易なつくりの家屋)の建物は、サモア(図省略。南太平洋の熱帯地域の島国)の伝統的な住居である。この建物からみたこの地域の自然環境について述べた文として最も適当なものを、下の1~4のうちから一つ選べ。

 

1 風通しの良い開放的な構造は、この地域の高温な気候に適している。

2 高床式ではない構造は、この地域の乾燥気候に適している。

3 軽い葉を用いた屋根は、この地域に熱帯低気圧が来ないことを反映している。

4 太い柱や横木を用いない構造は、この地域に地震がないことを反映している。

 

正解は1。高温で、多湿な環境では、衛生条件を考慮し、通気性のよい建物構造となる。なお、この住居は高床式とはなっていないが、サモアはサンゴ礁の島であり、排水性が良いため、家屋の底面を地面から離す必要もないのだろう。

 

[ここが新しい!] 住居の問題っていえば今まではシベリアの高床式の家ばかりが出題されてきた。生活熱によって地下の永久凍土が溶けないための工夫。だから、これが出題されない本問はちょっと意外なんだよね。だからといってイズバがこれから出題されるとは思わない。重要なのは、気候環境との関係性が強い乾燥地域の住居。「乾燥地域は窓が小さい」ことだけ知っておこうか。

 

[今後の学習] 住居は地理Bではこれまでほとんど出題が見られなかったので、今後注意した方がいいかもしれない。

シベリア・・・地下の永久凍土層を融解させないため、高床式の家屋となる。

乾燥地域・・・日干しレンガを用いた住居。窓は小さい。

熱帯地域・・・通風性が重視される。高床式のものもみられる。

地中海沿岸・・・硬葉樹は建築材料として適さず、石灰岩を用いた石材家屋。

日本の山間部・・・豪雪に耐えるよう、屋根の傾斜が急角度となっている。

 

 

問2 [ファースト・インプレッション] 宗教の問題。ラテンアメリカに注目すればいいので、困難な問題ではない。でも実はイスラム教徒の数がカトリックを上回っているんだね。これは知らんかった。驚きです。

 

[解法] こうした問題の場合は、まず数値に注目するべきなんだが、それではよくわからない。キリスト教を全て合わせた信者数はイスラム教のそれを上回ると思うのだが、このようにキリスト教を宗派で分けてみるとどうなるんだろう。ちょっと見当がつかないので、この方法はパス。

全体の数でわからなければ、中身に注目して、個々の大陸ごとの数値に注目していこう。最初はヨーロッパに注目。ヨーロッパはキリスト教地域であり、イスラム教徒の数は限定的と思われる。ヨーロッパの数が少ないアがイスラム教。イスラム教徒は西アジアや北アフリカに広まっていることとも一致したデータである。

イとウについてはラテンアメリカに注目しよう。中央・南アメリカは、スペインやポルトガルによって植民地支配された地域でありラテンアメリカとも呼ばれている。植民地化の過程でカトリックが布教され(最初に宣教師を送り込み、彼らを精神的に「支配」してから軍隊を送り込んだ!)、ラテンアメリカのほとんどの地域ではカトリックが支配的となっている。中央・南アメリカの値が大きいイがカトリックであり、ウがプロテスタントである。プロテスタントはアングロアメリカとよばれる北アメリカにおいて信者が多いのだが、そうでもないな、これを見ると。

 

[最重要リンク] 「ラテンアメリカ=カトリック」というのが最重要とは思うのだが、あえてちょっと違ったところに目を付けてみようかな。

2006年度地理A本試験第4問問5参照。

ここではボスニアヘルツェゴビナについて、「主にスラブ系の言語が話され、イスラム教や東方正教が信仰されている」とある。ヨーロッパにおけるイスラム教っていうのも意識しておいた方がいいかもしれない。

本問の図にあるように、ヨーロッパにも1千万人程度のイスラム教徒が存在している。ボスニアヘルツェゴビナの一部(民族はスラブ系)の他、アルバニアとコソヴォ(ともにアルバニア系住民)にイスラム教徒は多い。イスラム教国のトルコも、ヨーロッパに領土を有しており、そういう意味ではヨーロッパにおけるイスラム教徒と言っていいかもしれない。

 

[ここが新しい!] イスラム教っていうのは、意味不明な特殊な宗教ってイメージが今まではあったと思う。とくに9.11以降の21世紀の社会においてはそういったイメージがさらに強調されていて、30代を越えた我々よりも、実は10代の君たちの方がイスラム教に対する偏見が強いんじゃない?イスラム教って全然特殊な宗教ではなく、むしろ真面目で純粋な宗教だと思いますよ。テロのイメージがあるかもしれないけれど、そもそもテロを容認している宗教がこの世にあると思う?あれはイスラム教の教えを曲解した集団が、テロ行為の言い訳にイスラム教を利用しているだけ。巡礼や礼拝、断食だってよく考えたら宗教としては当たり前でしょ?逆にそれらがない宗教っていうものに出会ってみたいよ(笑)。豚が忌み嫌われているのは、飼料の少ない乾燥地域で生まれた宗教としては当たり前だし、一夫多妻は戦争未亡人を救済するための、むしろ「女性に優しい」システムなのだ。イスラム教の「当たり前さ」を述べたらキリがないんでこの辺りにとどめておきますが、センター地理の世界においても、イスラム教はムダに虐げられることはないにしても、かといって他の宗教から秀でている部分が強調されることもなかった。

でもその傾向がちょっと変わった。それが本問である。イスラム教徒の数は世界で14億人に達し(これは中国の人口に匹敵する。EUNATAを合わせたより多い人口)、世界で最もメジャーな宗教と言えるのだ。「国際化」というと、やたら欧米に合わせた政治や経済、文化を考えるかもしれないけれど、これからの時代、真の国際化とは、イスラム的な価値観を理解することにほかならないのである。そんな、イスラム教にポジティブなイメージを与える、革新的な問題といえる。センター地理は、イスラム教を嫌ってはいないぞ。

 

[今後の学習] 宗教分布を考える際に最も重要な地域がラテンアメリカなのだ。メキシコ以南のアメリカ大陸をラテンアメリカといい、アングロアメリカ(カナダとアメリカ合衆国)と区別する。アングロアメリカがアングロサクソン人つまりイギリスによって主に植民地支配されたのに対し、ラテンアメリカはラテン民族であるスペイン人とポルトガル人によって主に植民地とされた。その影響で、ラテンアメリカはカトリック地域となっている。カトリックは離婚と中絶を厳格に禁じているので、比較的出生率が高くなる。ラテンアメリカの人口増加率が世界平均を上回っており、人口抑制政策も行われていないのは、それが理由の一つ。

なお、東南アジアではフィリピンがカトリック国だが、たしかに他の東南アジア諸国に比べやや出生率が高く、人口増加率も同様に高い値となっている。

他のカトリック国のポーランドとかアイルランドはどうか知らないけど(笑)。

 

 

問3 [ファースト・インプレッション] ここでチェコが出たのか!センター地理は特定の国ばかりが出題されるけれど、チェコは前年に続いて登場。こうした関連性はおもしろい。

それはともかくとして、ここで問われているのは国の人口。それぞれの国に人口規模を考えれば絶対に解ける。

 

[解法] しかしこの問題もトラップだね(笑)。「売上高が世界の上位500位以内の企業本社数」だけに注目してしまうと、世界最大のGNIを有するアメリカ合衆国のニューヨークが「20」の1とするのは正しいとしても、やはり巨大なGNIを誇る中国nシャンハイを「13」の2としてしまいがち。でも違うんだな(笑)。センター地理っておもしろい科目で、決して中国を過大評価しない。新聞やテレビなどマスコミってやたら中国を持ち上げるでしょ。必要以上にスゴい国だと思わせる。でもそれは彼らが、統計データによる冷静な分析を行っていないからであり、思い込みや主観でしゃべっている「感情論」に偏っているから。中国なんかそんなすごい国じゃないって。たしかにGNIは大きいかもしれないが、1人当たりGNIが低いのは決定的な要素。人口の流出地域であり、中国の優秀な人材は間違いなく日本やアメリカ合衆国へと流出する。外国からどんどん企業が入り込んで来るのだから、中国の工業生産力がスゴいように思えるけど、それは実は外国の企業が行っている生産活動なのだ。現に、中国のGNIの半分は外国企業によるもの。つまり中国全体で100のお金があって、これはスゴいことなんだけど、そのうちの50は中国にいる外国人が持っているのであって、純粋に中国人が持っているのは50に過ぎないっていうこと。その50も一部の富裕層が独占しているし、その富裕層の多くは将来は先進国へと移住してしまうだろうから、中国国内に何が残るっていうんだ?

とはいえ、「0」の4についてはわかるんじゃないかな。上位500位に入る企業がないっていうんだから、結構マイナーな都市だと思うよ。選択肢中で、これ何だ?っていう都市が一つ入ってるじゃない?「プラハ」だよね。こんな都市、初耳でしょ。いくらなんでも他の3つの都市より経済活動が活発とは思えない。これ、外しちゃいましょう。4がプラハです。

さぁ、ここからが本番です。残りの3つの判定。本問の最大のポイントは「国の総人口に占める市域人口の割合」。ニューヨークもシャンハイもソウルも巨大な都市であるのは間違いない。でも具体的な人口規模ってどんなもんなんだろう?人間なら例えば180cmを越えたら背が高いなんて言ったりするわけじゃない?サッカーなら3点以上入ったら、ゴールシーンがたくさんあった試合みたいにみんな考えるでしょ?こんな風に、大都市と言った場合に、具体的にどれぐらいの人口なら大都市と言えるのかって目安となる数字は感覚として知っておいてほしい。

日本の国内なら100万人ていうのは一つの目安だね。東京や大阪だけでなく、札幌や福岡、さらに広島やさいたまなんかも大都市って言っていいと思う。でもそれを世界的規模にヒ広げた場合はどうなんだろう。当然世界的な大都市の一つに数えていい東京の人口は、東京区部で800万人。これに対し、ちょっと世界的な都市とは言いにくいなという大阪市の人国は300万人を下回る。どうかな。おおよそ(四捨五入で)1千万人っていうのが、世界的な大都市の規模としては適当なんじゃないかな。うん、覚えやすいし、1千万人でいいでしょ。

で、ニューヨークもシャンハイもソウルも全部東京と同じくらい有名な都市だし、全部1千万人と考えてしまう。

これを手がかりに1~3までの人口を計算してみよう。1は、1千万人が約3%に該当するのだから、これを30倍すればその国の総人口が産出される。そう、3億人ですね。2も同様に、5千万人、3も同じく10億人。

ここまで来れば、キレイにハマるでしょ。1が人口3億人のアメリカ合衆国のニューヨーク、2が人口4千5百万人の韓国のソウル、3が人口14億人の中国のシャンハイ。誤差すら少ないほとんどピッタリの数字で逆に驚いた。人口こそ、センター地理の最強アイテムなわけです。

 

[最重要リンク] ソウルが気になる。ソウルの登場例は2009年度地理A追試第4問問3。韓国北部北朝鮮との国境に近い都市(これがソウルなんですが)の説明として、「国内における政治・経済・文化の中心地であり、外資系企業が多く進出している。とある。「政治」の中心地でまさに首都なのだが、「外資系企業」っていうのも特徴的なキーワードだね。韓国はもはら低賃金国ではないので、安価な労働力を求める日本や欧米の工場が進出しているけではない。経済力が上がってきたため、金融や商社などの企業が進出していると考えたら妥当だろう。でもそのくせ、本問にみられるように世界的な企業の本社も13もあるんだものね。ソウルは、東京に匹敵する(東京を越えている?)世界的な大都市なのだ。

 

[ここが新しい!] 都市の人口を具体的に意識させている点が新しい。「大都市=人口1千万人」と考えてしまえ。この辺の説明は「今後の学習」にあるので、読んでおいて。

それよりおもしろいと思ったのがプラハの存在。いやぁ、センター試験って、思わぬマイナーな国が数年連続して登場するってホントなんですね。2010年度地理B本試験でチェコが出てるじゃないですか。そして今回プラハでしょ。あ、言い忘れていたけどプラハってチェコの首都なんですよ。普通に考えて、チェコなんていうマイナーな国が出るわけがない。でもこうして登場しているのってどうしてなんだろう?センターっておそらく、前年に取り上げた国については、マイナーな国であっても出題していいっていう不文律があるんだと思うよ。今年の作問者にしても、昨年の試験でチェコが登場しているから、プラハも使っちゃえって感じだったんじゃないかな。前年の試験をしっかり「覚えて」しまえば、今年どんな国が取り上げられるか、予想ができるっていうことなのです。おもしろい傾向でしょ?

 

[今後の学習]

それにしてもおもしろいなと思うのは、上でも書いたように、世界の大都市の人口は1千万人が目安なんですが、ヨーロッパの小国の人口規模の目安も1千万人ていうこと。

 

主な大都市の市域人口を並べてみると。。。

 

テヘラン・7797千人

ムンバイ・11978

デリー・9879

コルカタ(*)・13211

ジャカルタ・8839

ソウル・10456

バンコク(*)・6842

シャンハイ・11740

ペキン・9019

ホンコン(*)・7055

イスタンブール・10757

東京・8476

カラチ・12827

マニラ(*)・11553

ホーチミン(*)・7123

カイロ・6758

ラゴス・9733

ロンドン・7619

パリ(*)・10142

モスクワ・10470

ニューヨーク・8363

メキシコシティ・8403

サンパウロ・10886

リオデジャネイロ・6093

 

(*)都市的地域人口。いわゆる都市圏のことで、市域人口の値より1.5倍程度大きくなる。パリなどは実質的な都市としての人口は1千万人に達するが、行政区分としての「パリ市」の人口は200万人にすぎない。

 

どう?怖いぐらいでしょ。統計によると、市域人口が最も大きな都市はカラチなんですが、それがちょうど人口1000万人ぐらい。でもこの都市がダントツというわけではなく、他にも1000万人以上の都市だけでも10以上もある。いや、それどころか、キミたちが大都市としてその名前を知っている都市のほとんどは、およそ人口1000万人の範囲にあると思っていい。っていうか、東京とニューヨークとロンドンってほとんど人口同じなんですね。すごくない?

ちなみに、あまり人口が大きくない大都市(変な言い方?)で有名なものには、ケープタウン、ローマ、マドリード、ベルリン、ロサンゼルス、シカゴ、トロント、ブエノスアイレス、シドニー、メルボルンなどがあるが、いずれも人口300万人程度で、こちらは横浜とか大阪と同じ規模。妙な偶然、おもしろいでしょ?

 

さらにヨーロッパの中小国の人口を。

 

オーストリア・8364千人

オランダ・16592

ギリシャ・11161

スイス・7568

スウェーデン・8249

セルビア・7379

チェコ・10369

ハンガリー・9993

ブルガリア・7545

ベラルーシ・9634

ベルギー・10647

ポルトガル・10707

 

ヨーロッパ45カ国中、12カ国が人口約1千万人のグループに該当。EUならば、27カ国中9カ国が該当。1つの民族の広まる人口規模が1千万人なのかって思うけど、ベルギーとかスイスって多民族国家でしょ?それぞれの民族の規模ならそれ以下になるわけだし。これもおもしろい偶然だと思います。

 

というわけで、これからもこうした都市や国の人口が問われるケースが増えてくると思う。人口上位10カ国、ヨーロッパの人口上位国、韓国、タイ、カナダ、メキシコ、オーストラリアなどは必ず人口を知っておかないといけないし、逆に人口が少ないことがキャラクターとなるシンガポールや北欧諸国、ニュージーランドもチェックしておくこと。で、それらに加えて、ヨーロッパには人口1000万人程度の国が多いってことも絶対に知っておこう。日本でいえば、北海道が500万人、九州が1500万人です。

 

 

問4 [ファースト・インプレッション] 問題としてはオーソドックスじゃないですか。こういう問題ってたいがい一つはわけのわからん都市名が登場しているもんだが(問3におけるプラハみたいなね)、本問においては4つともそれなりに知られている都市であるし。しかもシドニーを除けば、いずれもある特徴を有し、過去にも取り上げられたことのある都市ばかり。重要事項の整理に適した問題だと思います。

 

[解法] 正文判定問題っていうのがハードルが高い。3つの選択肢の誤りを指摘しないといけないので。誤文判定問題より3倍の手間がかかりますが、仕方がない。やりましょうか。

1;シドニーはオーストラリアの都市。これは知っておきましょう。オリンピックが開催された都市はこのように容赦なく(笑〕名称が出題されるのでやっかりかもしれない。ただ、シドニーについて特殊な知識は要らないと思う。これがオーストラリアの話であることさえわかれば十分。オーストラリアで「黒人」ってどうなんだろう?黒人は奴隷貿易によってアフリカから運ばれてきた人々たちの子孫。アメリカ合衆国には多いけれど、遠く離れたオーストラリアでそれはあり得ないでしょう。誤文です。

2;パリのネタは非常によく出題されるので知っておこう。パリは京都と類似性がある。都心部の伝統的な市街地は保護され、大規模な開発は制限されている。京都も例えば市街地に高い建物をつくってはいけないとかあるでしょ。選択肢2の文章は真逆です。当然誤り。パリとは反対に、荒廃した都心部の一部が再開発され、活性化が図られた都市にニューヨークやロンドンがあるので、知っておくといいね。

3;メキシコシティは高原の都市で、空気が薄いので、何となくそれっぽく思える。でもここはやっぱり「発展途上国の都市におけるスラムの形成される位置」の大原則に乗っ取って考えようよ。

不良住宅地区いわゆるスラムは、世界各地の大都市にみられる。しかし、その形成される位置が先進国と発展途上国とで異なっており、これが出題のカギなることが多い。先進国のキーワードは「インナーシティ問題」。古い時代につくられた都心部の施設が老朽化・荒廃し、人口と産業が流出した後に、失業者や移民が入り込みスラムを形成する。「先進国のスラム=都心付近」は絶対的なセオリー。

これに対し発展途上国のスラムのキーワードは「プッシュ&プル」。人口増加率が高いが、十分な雇用の無い農村から人口が押し出される(プッシュ)。彼らは仕事と高賃金を求め都市へと移動するが、都市にも十分な雇用はなく、あふれた人口は都市周辺の土地を勝手に占拠し、住み着くことになる。都市が労働力を引き入れる力を「プル」というのだが、要するにこれが十分ではないということ。このようにして、スラムは都市周辺に拡大していく。

このことを念頭に要れ、まず選択肢の4は正解となる。一方、選択肢3については、「市街地を取り巻く」ところに高級住宅地となっているが、これが大きな疑問。都市の外周部はスラムが発達するところ。高級住宅地どころか、所得のない失業者が住み着く不良住宅地区である。ここは「高級住宅地」を「スラム」と入れ替えよう。

なお、高級住宅地については都心部に近いところと解釈してほしい。発展途上国ではあるが、高級住宅に住むような富裕層は存在する。いや、発展途上国こそ貧富の差が激しいのだから、国民のほとんどが貧しい人々であっても、ごく少数の、富を独占する大富豪は存在するのだ。それが経済というものだろうか。

 

[最重要リンク] パリに関するネタとしては2007年度地理B本試第3問問2に「パリでは、中・低層の古い建物が多かった都心部で再開発が行われ、高層化が進んでいる。」とう誤り選択肢が登場しており、本問と全く同じなのですが、これを最重要リンクとするのはおもしろくない(笑)。

よって、こちらにしましょうか。1999年度地理B追試験第2問問5。

ブラジル国内でも日本と同様に農村から都市への人口流動が問題となっておるが、異なる点も多い。両国の相違点っを述べた文として適当でないものを、次の1~4のうちから一つ選べ。

1 都市へ流出する農民は、ブラジルでは小作農や農業労働者が多いが、日本では自作農が大部分である。

2 都市への人口流入によってブラジルではスラムの拡大が生じているが、日本ではそのような現象はほとんどみられない。

3 家族で都市に移り住んだ場合、ブラジルでは子供も働くことが多いが、日本ではそのような現象はみられない。

4 都市への流出者の年齢構成は、ブラジルでは高齢者に偏っているが、日本では若年層が中心である。

 

正解(誤り)は4で、都市への移動者は労働目的なのだから、日本だろうとブラジルだろうと、若年層が中心である。

注目するべきは2。スラム(不良住宅地区)は、失業者が少なく雇用が安定している日本にはみられないが、ブラジルでは都市に雇用は十分でなく、仕事にあぶれた失業者が都市周辺にスラムを形成している。

なお、1については、日本の農民は自作農(自分で土地を所有している)だけなので、小作農(土地を借りて農業を行う)や農業労働者(プランテーションで働く)はいない。3については、子供の就労率は1人当たりGNIに反比例するので、1人当たりGNIの高い日本においては子供は働かない。

 

[ここが新しい!] オーストラリアの黒人っていうのがちょっと興味深い。2007年度地理B本試第5問問5で、オーストラリアの移民問題が取り上げられているが、そこでは「ラテンアメリカ出身者が移住者の大半を占める」とある。これは誤り。中国をはじめとするアジアからの移住者が多い。ちょっと統計を調べてみたのだが、オーストラリア人口2000万人のうち、アジア系は5%を越え、100万人以上に達する。多文化主義のオーストラリアでは、公用語の英語以外にもいろいろな言語が使用されているが、2%を越える約5万人が中国語人口である。英語以外の使用人口では最大である。

もっとも、中国人(中国系)は金持ちなので、都心部のスラムに住むようなことはないので、本問の選択肢について「黒人」を「中国人(中国系住民)」と単純に変えても仕方ないのだが、それでもオーストラリアにおける移民についてはアジアからの流入が増加傾向にあり、とくに中国出身者が多いことを知っておくべきだろう。

 

[今後の学習] 3の選択肢で悩んだ人がいたんじゃないかな。でもこれにしてもしっかりと「発展途上国のスラムは都市周辺」の大原則を考えれば絶対に解ける。選択肢1や2についても過去問に類似した問題があったはずだ。あくまでセンターは「判例主義」なので、過去に出題された内容に沿って、同じことが繰り返して問われているに過ぎない。答えに迷ったら、同じテーマの問題が過去にどうやって問われていたかを思い出して、それに沿って思考を進めていくことが重要なのだ。

 

 

問5 [ファースト・インプレッション] 長崎が出ましたか。長崎は特別な都市なんだよね。日本全体の人口にはほとんど変化はないが、東京など特定の大都市圏に人口が集中する一方、地方のほとんどの道県においては人口が減少しつつある。とはいえ、そういった人口減少県においても、その道県における中心的な役割を果たす都市では人口が増加傾向にある。北海道なら札幌、地方の県にとっては県庁所在都市。

農村では仕事に恵まれず、仕事が厳しい。かといって、東京など遠方の大都市に移り住むのはちょっと無理な話。だからとりあえずその県で最も規模が大きく、経済活動が活発な県庁(道庁)所在都市へと転居し、そこで仕事を探すのだ。そのようなパターンを考える。

例えば過去には鹿児島市の人口の様子が出題された例がある。鹿児島県は地方の県であり、県全体では人口は間違いなく減少している。でも、その一方で、鹿児島市は人口が増加し、県内において一極集中の度合いは高まっている。「貧しい地域では人口が流出し、特定の大都市に人口は集中する」というセオリーは、ちょっと形は違うが、発展途上国の人口移動にもみられる傾向である。

 

[解法] 西宮市が難しい。これがわからないとちょっとキツいと思う。でも、センター試験がそもそもそんな高度な知識を求めるものか。ここにちゃんと「兵庫県」とあるではないか。兵庫県なのだからシンプルに大阪圏の郊外に位置する市と見てしまっていいと思う。大阪都心部へと通勤する者が多く住む住宅都市であり、昼間人口は夜間人口より少ない。人口増加率は高い。最近は古いニュータウンを抱えるような住宅都市においては人口が停滞ぎみという例もみられるようだが、さっきも言ったように、センターがそんな意地悪なネタを出題するわけがない。素直に考えてしまっていい。郊外だから人口増加率は高いと決め付ける。つまり「兵庫県西宮市は、兵庫県なので郊外の都市であり、郊外の都市なので人口は増加している」と。

このように考え、西宮市を考えるとFかGが当てはまる。人口が減少しているHは外していいだろう。FとGは、いずれも人口増加率が高い。Fの方がより高いが、ちょっと断言するには早いかな。

さて、ここで注目はGの第2次産業就業者の割合の「48.6」%という数値。これ、むちゃむちゃ高いでしょ。主に製造業と思っていいんだが、まさにトヨタ自動車のお膝元、愛知県豊田市がこれに該当するんじゃないか。みんな、さすがにトヨタは知っているよね。Gが豊田市となり、Gが西宮市となる。

で、残ったHが長崎市なのだ。本年は別に造船業の問題もあったけど、それと対照させて考えるといいかもね、一般的に各都道府県の県庁所在都市はいずれも人口が増加している。減少している都市もあるものの、減少率は小さなものであり、その地域全体の経済レベルの低下などその都市だけに限った特殊な理由があるわけでもない。そのたった一つの例外と言えるのが、この長崎市なのだ。キーワードは「造船不況」。

かつて世界全体の船舶竣工量の8割を占めるなど、日本は世界最大の造船国だった。しかし近年は韓国など諸外国での船舶竣工量が増加し、それに押される形で日本での造船業は衰退の一途を辿る。造船がさかんだった都市では産業の空洞化による不況が訪れ、

多くの労働者が仕事を失い、町を出ていった。そんな都市の一つが長崎市である。県庁所在都市の中では唯一、明確な理由によって人口が減少した都市。

以上より5が正解。

 

[最重要リンク] 似た形式の問題はいくつもあるけれど、あえてこれで行きましょう。長崎が今回出題されたことと関連している。

2007年度地理B本試第3問問6参照。鹿児島市、八王子市、東大阪市が問われている。ここでは、それぞれ県庁所在地、ベッドタウン、工業都市というキャラクター。

本問と違うのは、鹿児島市は(長崎とは違って)普通の県庁所在地であるので人口は増加しているということ、それから東大阪市は中小工場の町で産業の空洞化が激しいので(豊田市と違って)人口が減少しているということ。同様に人口が減少している工業都市には北九州市がある。

どう?似た形式で似たようなキャラクターが問われながら、実は全然違う問題に仕上がっているのだ。

以上より、この2つのセオリーを知っておけ。

「県庁所在都市は人口が増加しているが、長崎市だけは減少」

「工業都市は特別なキャラクターはないが、東大阪市と北九州市は人口が減少」

ところで東大阪市と北九州市って名前が似ているでしょ。「東」「大阪」と「北」「九州」。いかにも人工的に付けられた地名っぽい。いずれも複数の中小都市が合併して成立した都市である。商業都市ならば、中心となる地域が明確で、そこの地名を取って新しい市名にしたらいい。しかし、工業都市が集まって一つの市になったために、明確な中心地が存在しなかった。だから全体のバランスを取ってこのような市名になったのだ。一時は隆盛を極めたが、やがて産業の空洞化によって衰退し、人口も減少してしまっているという運命まで重なっている2つの都市である。

 

[ここが新しい!] 西宮市の出方が難しい。でもここでは兵庫県という注釈もあることから、単純に「郊外」と決めつけてしまっていいと思う。これからもこうした形で良く知らない都市名が登場するかもしれないが、頭に「埼玉県」「千葉県」「神奈川県」「滋賀県」「奈良県」と書かれていれば、それは郊外の特徴を真っ先に考えるべきなのだ。

 

[今後の学習] 西宮市については上でも説明しているように「兵庫県=郊外」と思って解いてしまっていい。兵庫県は、神戸市のイメージがあるから都心部的な地域を想像しているかもしれないが、県全体では昼間人口の方が夜間人口より少なく、まさに「郊外」的な特徴をはっきりと有している地域となる。なお、神戸市については昼間人口の方が夜間人口より大きい「都心部」であるが。

これ以外の2つの市については、それなりに名前を知られている都市だろうし、問題ないよね。

ただし、どうなんだろうか。やっぱりこのように日本の都市については、図を用いて位置など示されることなく、このように直接その名称だけが示されて、問題が作られていることが多い。世界の都市名はとくに知らなくていい。本年でいえば第1問問3のように図でその位置が示される。第3問問4のように都市名のみ出題の場合もあるが、しかしそれらは過去に出題例のある「前科持ち」ばかりだ。ド素人がいきなり登場しているわけではない。

しかし翻って日本の都市はどうだろうか。全く前歴のない都市名が、図を用いることなく出題され、その知識が求められている。センター地理における一つのお約束、「世界地理は知識は不要だが、日本地理は知識が問われる」ということである。今、まだ春先で時間がまだまだあるのならば、日本地理を徹底的に勉強することをお勧めする。中学校の社会科(地理だから中学1年だろうか。あるいは高校受験用のものでもいい)の問題集を用意して、何冊か解いてみよう。簡単なものもあるかもしれない。難しいものもあるかもしれない。よく見る問題もあるかもしれない。特殊な問題もあるかもしれない。それら、全部ひっくるめてチャレンジしてみようよ。まだ4月とか5月で受験まで余裕がある時期ならば、夏までに取り組む地理の課題としては、この中学地理の復習がベストです。そもそもセンター地理って中学までの知識しか出ないし、中学のことまでを知っておけば十分に対応できる問題ばかり。基礎固めの意味もあるし、もちろん高校地理では勉強しない日本地理の学習の意味合いもあるし、とにかく中学地理の問題集を解きまくってください。

 

 

問5 [ファースト・インプレッション] あれっ、どこかで見たような(笑)。東京大都市圏半径50kmがテーマとされた問題はたくさんあるぞ。「通勤率」という言葉は初めて聞いたが、とりあえず多くの人が東京に通勤してるっていうことだし、要するに「郊外」っていうことでしょ。簡単だね。

 

[解法] 東京大都市圏の問題だが、ん?半径50kmは意識しないでいいかもしれない。東京都区部の南西側のLについては、東京都区部に最も近い北東端で最も東京への通勤者の割合が高いんじゃないかな。これがキに該当。

同様に、北東部のKについては南西端で高い値になると思われ、カに該当。

ちょっと離れたクではさすがにそこまでみんなが東京へは通勤していないだろうから、クとなる。正解は5。

 

[最重要リンク] 形式としては2004年度地理B本試第4問問7がそっくり。この問題がイメージできた人は、本年の問題についてもスムーズに解答できたと思う。

でも、実は両者、全然違うんだよね。東京大都市圏の大きさが半径50kmの円をイメージするのいうのは絶対的なことで、この2004年の問題はその典型的なものだった。YZは半径50kmの内側すなわち東京大都市圏に含まれ、郊外としての特徴を有しているのに対し、Xのその外側であり、東京への通勤者はほとんどいないことになる。2004年の問題の図の方が、今年の問題の図より広い範囲を表しているのがわかるかな。Xの図は、今年の問題ならば、図から外れてしまっているんじゃないかな。もしカ~クと同じような図がつくられたとすれば、そのほとんどのエリアが「1.5未満」の真っ白になってしまったんじゃない?

2004年の問題が、「東京大都市圏・都心部」、「東京大都市圏・郊外」、「東京大都市圏の外側」という3者の比較によって問題が作られていたのに対し、今年の問題の方は、同じ東京大都市圏の郊外の中で、東京に近いエリアと離れたエリアについて、どんな違いがあるかを問うている問題となっている。実は全然コンセプトにおいて異なる問題だったっていうことだ。

 

[ここが新しい!] 実はこの問題って新しいぞ!「最重要リンク」でも指摘したように、過去に形式的に似た問題はあったかもしれない。でもその内容においては全然違うのだ。

都市圏を考えてみよう。都市圏は通勤圏のことで、中心に近い「都心部」とそれ以外の外周部に当たる「郊外」に分けられる。2重円を考えてみたらいい。中央の小さな円の内側が都心部、大きな円と小さな円の間が郊外。目玉焼きでいうならば、黄身の部分が都心部、白身の部分が郊外となる。都心部は「昼間人口>夜間人口」、郊外は「昼間人口<夜間人口」となる。

で、2004年度地理B本試第4問問7の問題では、老年人口割合の比較的高い都心部、老年人口割合の低い郊外、老年人口割合の高い都市圏外という3つの地域が対照されて登場し、この判定が問題を解くカギとなっていた。

翻って今年の問題。テーマとなっているJLの3つの地域は全て郊外なのだ!だから同じ郊外であっても、都心部のとの距離によってどのような違いが生じているかが問われている。問われるポイントが違っているでしょ?

で、さらに。この問題で問われていること。郊外でもとくに都心部に近いエリアは、都心部への依存度が高く、大半の人が都心部へと通勤しているのに対し、同じ郊外であってもより外周に近いエリアではさほど都心部への依存度が高くなく、東京区部への通勤者も少数を占めるに過ぎない。郊外にも種類があるっていうことを強く訴えているのだ。これ、新しいと思わない?

だから今後出題される問題については、この都心部からの距離がポイントになってきそうだ。郊外を、都心部に近いところから「郊外A」、「郊外B」、「郊外C」と置いてみよう。郊外Aは古い時代から住宅地だったところで、人口増加率はさほど高くないが、もともと都心部とのつながりが強いところで、通勤者も多い。一方、外周に近い郊外Cは、もともとは都市圏に含まれず都心部とは関係ないところだったが、近年交通手段が整備されニュータウンが建設されるようになって人口増加率が急上昇した。とはいえ、さすがに遠隔地であるため、住民のほとんどが東京に通勤しているというわけではない。都心部への「通勤率」は低い値にとどまる。もっとも、ゼロになるということはないが。一応、都市圏には組み込まれているのだから、都心部への通勤者は確実に存在している。

 

[今後の学習] このように同じ郊外であっても、その特徴は異なることを考えよう。2004年度地理B本試第4問問6では、同じ郊外の都市であっても、古い郊外都市(カ)と新しい郊外都市(キ)の間で差があることが問題とされている。さらに2007年度地理B本試第3問問1選択肢4では、郊外のどの位置に衛星都市(つまりニュータウン)が建設されているかが問われている。

最も都心部に近接した郊外・・・通勤率は高いが、人口増加率は高くない。古い時期につくられたニュータウンの中には住民の高齢化の問題を抱えているところもある。

最も外周に近い郊外・・・現在もニュータウンの建設がさかんで、もともとの人口が少ないこともあり、人口増加率は高い。ただし都心部とのつながりは希薄で、通勤率はさほど高くない。

このように整理しておくのがベターかな。模試でこれに関する問題は作っておかないと!