2012年度地理B本試験[第5問]改定

<第5問>

 

問1 [ファーストインプレッション] 世界全体の階級区分図であるが、模試ではなかなか手間でここまで作れないだよね(笑)。死亡率を取り上げた点がちょっと目新しいかな。

[解法]いわゆる「見るだけ問題」で、しかも誤文指摘。こういうタイプの問題は得てして最後の選択肢(つまり④)が答えっていうパターンが異様に多いんだけど、本問はどうだろう。

①カナダ・アメリカ合衆国と、メキシコ以南の国々を比べる。たしかにその通り。

②「人口が自然減少」とは、出生率<死亡率の状態。たしかにロシアなどその通りのようだ。しかしここで一つ気になるキーワードが。それが一人っ子政策。これは中国で行われている人口抑制政策だよね。当然他の国には当てはまらないので、誤文である。これが正解。

③「サハラ以南アフリカ」という言い方にも慣れておこう。いわゆる中南アフリカ。北アフリカにはアラブの産油国が多く比較的経済レベルも高いが、中南アフリカは経済的に恵まれない貧困国が多い。出生率は未だに高い。

④「自然増加率=出生率−死亡率」の公式を意識。日本やドイツなどでは自然増加率が「0‰」を切っていて、たしかに「出生率<死亡率」となっている。

おっと、「一人っ子政策」についての知識が問われていたね。「見るだけ問題」でもなかったってことかな。

[今後の学習]死亡率が登場したのは珍しいな。そもそも人間は1回ずつ死ぬのだから、死亡率はどこの地域もたいして変わらない(誰が死ぬのかは違うよ。子供が死ぬアフリカと、高齢者が死ぬ日本)。死亡率の図に注目。高い国でも「15.0‰以上」であり、実は高い国と低い国の間の差って、出生率ほどではない。だからあまり考慮しなくていいデータなのだ。それこそ、戦争とか食料不足とか特殊な事例が生じた国において一時的に死亡率が急激な上昇をみせるぐらい。本問についても、旧ソ連や東ヨーロッパ諸国は政治的経済的混乱という特殊な事情があった。

よってここでは出生率と自然増加率に注目しよう。「自然増加率=出生率−死亡率」という公式が重要なのだが、そもそも死亡率があまり変わらないのだから、自然増加率が高い国はそのまま出生率も高いと考えていい。本問でも、出生率の図と自然増加率の図は似ている。出生率については自然増加率と比例すると考えておけば十分。

自然増加率に注目しよう。大陸ごとに数値として頭に入れておくことが重要。第1問問2でも述べているが、日本の気候を数字で覚えたように、数値のイメージは重要なのだ。

世界全体の人口増加率は10‰をやや上回っている。最も人口増加率(自然増加率)が高いのはアフリカで20‰を越えている。次いでラテンアメリカ(中南アメリカ)と南アジアで15‰程度。東南アジアなどは平均的で10‰。アングロアメリカ(北アメリカ)と東アジアはやや低く約5‰。日本とヨーロッパは人口が増えていない(0‰)。

表にまとめるとこうなる。

20‰;アフリカ

15‰;ラテンアメリカ・南アジア

10‰;(世界平均)

5‰;東アジア・アングロアメリカ

0‰;日本・ヨーロッパ

(*)本来、「人口増加率=自然増加率+社会増加率」であるが、世界規模で考えた場合、国家間の人口移動(すなわち社会増加)は自然増加に比べれば小さいので、ここでは無視してしまってもいい。

 

問2 [ファーストインプレッション] これ、解ける?全然意味がわからない。おそらく正解はあれだと思うんだが。解答不能でしょ。

[解法]緑の革命とは何か。「農業の近代化」、「穀物の増産」と覚えておけばよく、アジア地域が中心ではあるが、ラテンアメリカでも行われている。その手段として「化学肥料の使用」、「灌漑施設の整備」、「品種改良」などがあるが、いずれも多額の資本の投下が必要となるので、もともと富裕層だった農民が利益を上げることができ、貧困層との間に「経済的格差が広がる」という問題が生じている。

これに従って考えていこう。

①はオッケイだと思う。食料の増産がポイントであるが、要するに主食となる穀物の生産が増えるわけだ。インドは緑の革命によって米の輸出国へ転化し、小麦の生産もアメリカ合衆国を抜いて世界2位となった。

②もオッケイでしょ。土地生産性とは1ha当たりの収量を考えれば良く、狭い土地から効率よく農産物を得ること。化学肥料の使用や品種改良による高収量米の栽培などで、土地生産性は当然上がるだろう。

③から微妙。「化石燃料」とは石油や石炭のことだが、高いテクノロジーによって農業を行うならば、当然そうしたエネルギー資源の消費は増加するだろう。化学肥料を製造する過程で原油を使用するかもしれない。おそらくこれは間違っていない。

となると誤っているのは④か。「自給的農業を営む地域にかたよって普及した」とあるんだが、「自給」の反対語は「商業」。商業的地域で緑の革命が行われた例を探せばいい。大陸ごとで考えると、アジアとアフリカが自給的な農業地域、ヨーロッパと新大陸が商業的農業地域。緑の革命がメキシコなどでも行われたことを考えると、決して「自給的農業を営む地域にかたよって普及した」とは言い切れないのではないか。④が誤りと思う。

[今後の学習]緑の革命は頻出ネタ。上記の事項を整理しておこう。

 

問3 [ファーストインプレッション]パッと見、難しい。一見しただけでは解けない。

[解法]ゆっくり考えていくしかないんだわ。全て指数となっていて、絶対量でないところが難しい。絶対量ならば人口規模とか統計の順位とかを考えることもできるんだが、これはそうでもないしね。問2でも取り上げられていた緑の革命について考えるのも大切なのかな。

東南アジアを含むアジアでは広い範囲で緑の革命が行われた。さらに、もともと集約的な農業地域であり、狭い土地を有効に使用する農業が工夫されている。土地生産性の向上がとくに見られたのはアジアではないだろうか。アがアジアに該当。

さらにアフリカと南アメリカの判定。アフリカはプランテーション農業など商業的な農業が優先されている地域。焼畑農業のように粗放的な自給農業もみられるが、穀物よりキャッサバのようなイモ類が栽培の中心。こちらは穀物の増産の度合いは低く、土地生産性もあまり上昇していないのではないか。イがアフリカ。

消去法でウが南アメリカとなり、③が選ぶ。

これでどうだ?答を確認。あ、③で正解や、よかった(笑)

[今後の学習]以上のように何とか力ずくで解いてはみたものの、決して確信を持って解いたわけでもなく、科学的な視点があるわけでもない。結局「何となく」解いたに過ぎないんだな。難問だわ、手がかりが少なすぎる。2012年度本試験全体を象徴する悪問の一つです。

 

問4 [ファーストインプレッション]ちょっと変わった印象。資源についてこんな風に世界地図を使った問題があったかな。でも納得。これ、資源の問題じゃなくて、外来河川の問題ですね。そういう意味ではツボを押さえたオーソドックスな良問です。

[解法]ニジェール川は必須。西アジアの外来河川で、サハラ砂漠やサヘル地帯を貫流。河口は巨大なデルタになっていて、油田地帯となっている。Aが誤り。石炭ではなく原油。ナイジェリアはOPECにも加盟する産油国である。

[今後の学習] 外来河川は必須。さらにOPECも重要。当然、ニジェール川やその河口に位置するナイジェリアも重要となってくる。ニジェール川の流れを確認し、統計でナイジェリアの原油産出や輸出についてもチェックしておこう。

本問については形式的におもしろいなと思う。こうした世界地図を用いたこのタイプの問題をこれから模試で作っていこうかな。参考になる問題です。やっぱ良問だわ。

 

(スイマセン、、、解説を間違えていました。。。)

 

答えは3ですね。正文判定問題なので、他の3つの選択肢について誤りを指摘していきましょう。

まず1について。Aはナイジェリアですが、この国で産出がさかんなのは「原油」であり、石炭ではありません。アフリカで石炭が多く産出される国は南アフリカ共和国です(古期造山帯もありますね)。

2について。「鉄道」が誤りです。ロシアからヨーロッパ(ドイツやオランダ)へと多くの原油・天然ガスが輸出されていますが、輸送には「パイプライン」が用いられています。

さらにD。ここはナンシャー諸島というところで、周辺海域では原油(石油)や天然ガスの埋蔵が確認されています。これに接する国々の間で領有が争われていますが、インドネシアはこの海域には接していませんよね。

 

なお、旧課程の時代にもナンシャー諸島の領有を主張する国が問われており、「タイ」が誤り選択肢となっていました。なるほど、タイもインドネシアもこの島が含まれる南シナ海には接していません。ナンシャー諸島を争うのは「中国・台湾・フィリピン・ベトナム・マレーシア・ブルネイ」です。南シナ海周辺国という覚え方でいいと思いますよ。

 

問5 [ファーストインプレッション]西ヨーロッパで風力発電がさかんっていう問題は地理Aで出題されている。どうもこの2012本試地理Bでも追試験でデンマークの風力発電の話題が登場したが、こちらは人口を計算する問題だったし、若干意味合いが違う。

[解法]スペインを当てる。スペインなど西ヨーロッパで大西洋に面する国々は偏西風の影響が強く、風力発電がさかんに行われている。風力の値が高い②がスペインに該当。

[今後の学習]それにしてもすばらしい問題ですね。震災と原発事故の翌年の問題として非常に適切と思うし、何よりバイオマスの可能性が提示されている。例えば現在の日本で強く押し出されている太陽光発電と風力発電。しかしこの2つが全然有効でないことがよくわかる。そもそも太陽光は新エネルギーとして期待している国自体が少ない。太陽光にあふれるスペインですら、この割合。GNIが日本の4分の1程度のスペインで、太陽光発電は全体の1%にも満たない(7.7%のさらに10%未満だからね)。日本でこれがまともに行えると思うか?さらに風力にしてもやっぱりこれは特殊な条件を満たす特別な国でないとある程度の発電量は期待できないよ。偏西風の影響が強く、一年中一定方向から一定の強さの風を受け続けるスペインですらこの値。季節風で、しかも山がちな日本で風力発電が有効とは僕は思わない。

それよりこの問題をみてみんなが思うことは絶対にこれだよね。「バイオマスって凄いじゃん!」。バイオマスとは生物性エネルギーのことで、一部に動物の糞尿から得られるエネルギーも含むが、多くが植物性のもの。①のフィンランドは木くずからバイオマスを得ている。アメリカ合衆国やブラジルで、トウモロコシ、サトウキビなどからアルコールが抽出されて、燃料として利用されているには知っているよね。日本は高温多雨で植物の生育には適した国である。しかも減反政策で休耕地となってしまった田畑も多い。そこで何らかの油脂植物を栽培したらいいんじゃないか。世界ではこんなにバイオマスが有効利用されているのだ。今さら太陽光や風力といっている国は日本だけだぞ。

センター地理の問題作成者は、この問題を通して、バイオマスの世界的な注目の高さを訴えたかったんじゃないかな。フィンランドは小さい国であるけれど、全体の5分の1(25.8%のうちの8割なので)がバイオマス。カナダのような資源が豊富に余って、さらに水力発電もさかんな国ですら、バイオマスの割合は5%程度はある。日本はなぜバイオマスに注目しないのだ!?