2009年度地理B本試験[第6問]解説
2009年度地理B本試験[第6問]
難しいと思う。非常に解説が作りにくいんだが、そのことでこの大問の出来が悪いというわけではない。いや、むしろたいへん興味深い大問といえる。今回の試験の中において、最も注目すべき大問であり、来年度以降に向けて十分な深い分析が必要なものだとも思う。そういう意味では、どちらかといえば良問であり、難易度も低いのだが、あまり分析の意味がない第4問とは対照的な位置にあるともいえる。
ぶっちゃけ全問落としても仕方ないから、逆にここで点を拾えたらラッキーぐらいに思いましょう(笑)。好きな問題は問5。これは深いな。
2009年度地理B本試験[第6問]問1
[講評] 変な問題(笑)。
[解法] 決定的に違っているものを探せばいいね。4に注目。イギリスやドイツって人口密度が低いんだろうか。いや、そんなことはないね。ヨーロッパには人口1億人を越える国は、ロシアを除けば、存在しないからね。でもイギリスは人口約6000万人、ドイツは約8000万人と、それなりに人口規模は大きい。しかも両国ともに日本より狭く、面積は小さい国である。人口密度が「低い」とは言えないと思うのだ。正解は4。
他の選択肢にも「赤道低圧帯」とか「中緯度高圧帯」とか一見するとおいしそうなキーワードがちりばめられているんだが、何だかあんまり意味を成していないような気がするんだよね。
[最重要リンク] 人口密度が話題にされている問題ではある。06A本第5問問1を参照してみよう。人口密度の高低が問われている。中国・インド・パキスタン・ナイジェリアなどの人口大国、東アジア、南アジア、そしてヨーロッパ諸国で高い値となっているものが人口密度。1~5のうち、どれが該当するか、わかるよね?
[関連問題] 06B本第5問問2参照。選択肢1に「赤道低圧帯」という言葉がある。低緯度地域において降水量が多い理由として、赤道低圧帯の影響が挙げられることをぜひ知っておこう。
06B本第5問問2参照。同じく選択肢2だが、こちらは「沖合の寒流」はNGキーワードなので除外するとして、「中緯度高圧帯」に注目。緯度20~30度付近において降水量が少ない理由の一つに、中緯度高圧帯の影響がある。
[今後の学習] 問題自体は簡単なんだが、興味深い言葉がちりばめられていて、なかなかおもしろいと思うんだわ。人口密度の高低についてはしっかりとしたイメージを作っておかないといけないし、赤道低圧帯や中緯度高圧帯という言葉についても意味を確実に捉えておかないといけない。
2009年度地理B本試験[第6問]問2
[講評] 難しい。アルゼンチンとケニア、フィリピンのイメージが特定しにくい。最悪捨て問にしてしまっても仕方がない。ストレートに「アルゼンチン=南アメリカ、ケニア=アフリカ、フィリピン=東南アジア」として考えるしかないような気もするが、アルゼンチンは農産物輸出国という特異なポジションであるし、ケニアは貧困国が居並ぶアフリカの中でも少しはマシな国、フィリピンは東南アジアでも出稼ぎが多く経済レベルが低いことで知られる。どうなんだろ、キャラクター設定が難しいぞ!?
[解法] アルゼンチン、ケニア、フィリピン。この3つをどう並べる?僕ですら全く見当がつかないぞ。仕方がないから、最も素直に、普通に、順列をつけていくしかない。残念ながら最下層に位置するのは「ケニア=アフリカ」だろう。ケニアは、干ばつの続くサヘル諸国や、飢饉にあえぐエチオピア、政治状況のヤバいコンゴ民主に比べれば、はるかにマシとは思うんだが、それでもやっぱりアフリカだもんね。残念だけど、最も経済レベルが低く、それに伴って各種指標も「最悪」のものを選ぶしかないと思う。結核の割合が高く、医師の相対的な数が少なく、最も乳児が死にやすいAをアフリカ、すなわちケニアと考えるのが妥当だと思う。
残った2つの判定もそれに輪をかけて難しいのだ。アルゼンチンとフィリピン、どちらが経済レベルが高い?すなわち1人当たりGNIが高いのはどちら?これ、難しいんだよね。具体的な知識がない。では東南アジアと南アメリカ大陸、どちらが全体的に経済レベルの高い大陸だろう。これも判定できない。ぶっちゃけ同じぐらいなんじゃないか?
全くわからない。でもここで諦めてはいけない。登場している国は「フィリピン」なのだ。どうなんだろう?フィリピンって正直いって経済レベルって高いか?フィリピンで我々が連想するイメージは「出稼ぎ」なわけだ。実際わが国にも、興行(エンターテインメント)ビザで入国し、夜のお店で働くフィリピン人のお姉さんがたが多いことは君たちも知っているよね。このことを考えれば、まさかフィリピンが「経済レベルの高い国」というキャラクターでセンター試験に登場してくるわけがないんだわ。どうなんだろう?君たちには想像できるだろうか。やっぱり「フィリピンの1人当たりGNIは低く、アルゼンチンの方が高い経済レベルを有する国なのだ」と決めてしまっていいと思う。
さぁ、これで押し切ろう。フィリピンが下でアルゼンチンが上。Bがフィリピンで、Cがアルゼンチンと決めてしまっていいと思う。この判断ってちょっと強引ではあるけれど、これしかないんだよな。
[最重要リンク] 人口に関するネタならやっぱりこの問題が最高峰なのだ。06A本第5問問1。さぁどれが乳児死亡率だろうか。
乳児死亡率は「例外なく」1人当たりGNIと反比例する。1人当たりGNIの高い代表的な国として米国があり、同じく低い地域としてアフリカがある。米国で低く、アフリカで高いものを選択すればいい。1が乳児死亡率に該当。
で、ここからさらにみていく。アフリカの中では比較的進んでいるイメージもなくはないケニアであるが、そのイメージが錯覚であることに気付く。やはりケニアもワン・オブ・アフリカなのだ。ケニアの乳幼児死亡率は高い。
一方、ラテンアメリカや東南アジアはそこまで乳幼児死亡率は高くない。それなりに1人当たりGNIが高く、(それと反比例する指標である)乳幼児死亡率については「中」レベルとなっている。とはいえ、この図だけではアルゼンチンとケニアの差はわからないが。
[関連問題] 09A本第5問問1 何と同じ冊子の中に似たような問題が出題されていたわけだよ。でも残念ながら(やっぱりセンターってうまく考えられているんかな)、この問題もヒントになっているわけでもないんだよな。
[今後の学習] 国とは全てある特定のキャラクターを有しているものであり、そのキャラクターをどうとらえるかが難しい。もっとも重要なキャラクターは経済レベルであり、つまり1人当たりGNI。これを工業力や都市の発達の度合いはもちろん、人口増加率、さらには本問のように衛生環境や医療に関するデータにまで応用して考えること。とくに「1人当たりGNIと、乳児死亡率は反比例する」ことは絶対なのだ。それぞれの国のキャラクターを知るためには、多くの国の1人当たりGNIを書き出し、それを順列で並べてみることが必要。
で、今回の3つの国なんだけれど、よかったら1人当たりGNIを調べておいてください。どうだろうか?この機会に、アルゼンチンが意外と1人当たりGNIが高い国であることを知っておいてもいいかもしれない。
2009年度地理B本試験[第6問]問3
[講評] これ、ちょっとわかりにくいな。ウは簡単に特定できるんだが、アとイについてはよほどしっかり読み込まないとヒントが浮かび上がって来ない。逆にいえば、読めば読むほどに手がかりにあるキーワードがあぶり出されてくる、味わい深いなかなかの佳作ともいえるのだ。こういった問題こそ時間をかけて取組んでほしいね。
[解法] 簡単なのから行きましょう。Qはペルシャ湾に面し、おそらく原油生産の多い国だ。豊富なオイルマネーを利用して、国民の生活を高いレベルに押し上げているに違いない。Qがウに該当。なお、Qはアラブ主張国連邦という国で、当然のようにOPEC加盟国である。
Pはコンゴ民主、Rはインドネシア。というより、Pはアフリカの国、Rはアジアの国という捉え方の方がいいかもしれない。アとイを判定しよう。ここからが本番。
アにもイにも「人口増加が(も)著しい」とある。一般的には、人口増加率の高いのはアフリカなのだが、両方の選択肢にこのフレーズが含まれている以上、これは判定材料にはならないね。
そうなるとやっぱり気になるのはイの「多収量品種の導入」なんだよな。これって「緑の革命」のキーワードじゃない?耕地整備や灌漑施設の建設、化学肥料の使用、そして多収量品種の導入などによって農業を近代化し、自給作物(穀物)の増産に努めた改革が緑の革命で、インドなどアジア地域で広く行われている。インドネシアだってアジアの国だ。ここで緑の革命が行われていたとしてもおかしくないと思うんだわ。ちゅうわけでRがイとなり、残ったアがPとなり、これでおしまい。
でもせっかくなんでもうちょっと突っ込んでいこうか。アの「政治的混乱」ってどうなんだろうね。同じような状況はもちろんアジアでもあるけれど、どっちかといえば、ルワンダやソマリア(ともに過去問で登場しています)のように内戦が激化して多くの難民が生じた例も多いし、これはアフリカのキーワードと思っていいんちゃうかな。
またイの「輸出用作物の強制作付けの廃止」にしても、これはアフリカ諸国ではちょっと考えにくいことだ。輸出用作物とは要するにプランテーションで栽培されている商品作物のこと。具体的にはカカオやコーヒー、天然ゴムやラッカセイのこと。アジアの国ではかつて天然ゴムモノカルチャーだったマレーシアが、現在では工業国に転換しているなど、すでにモノカルチャーから脱している。似たような状況がインドネシアでも生じていることは簡単に想像できるだろう。植民地時代に当時の宗主国によってプランテーションが開かれ、商品作物の栽培が強制されたものの、独立以降はそれらの生産を重要視せず、資源国(インドネシアはOPEC加盟国である)、工業国(インドネシアの最大の輸出品目は機械類)へと転換していった。
これに対し、アフリカはどうだろうか。今だに輸出品目の第1位がカカオやコーヒーなど商品作物である国が多く、それらの生産と輸出に国内経済が依存するモノカルチャー国がいくつもあるでないか。輸出用作物に主眼が置かれているからこそ、自給作物の生産が進まず、小麦など主穀を米国やヨーロッパからの輸入に頼っている。東南アジアのタイやベトナムで、自給作物である米がさかんに輸出されているのとは全く違った状況ではないか。
このことから「輸出作物の強制作付けの廃止」はアフリカには該当せず、むしろアジアに適したキーワードであると考える。アがP、イがR。
[最重要リンク] 「アフリカ≠緑の革命」であることを印象づけよう。05B本第4問問3参照。選択肢2に「エチオピアは、気象災害などによって食料不足や飢餓に直面したが、緑の革命によって食料輸出国に変わった」という文が挙げられているが、これは誤文。「緑の革命」とは、農業改革の一つで、近代的な手法を用いて自給作物(穀物)の増産に努め、食料自給率をアップさせたもの。これが順調に進んだ国では、国内自給だけでなく、そうした穀物の輸出も可能となっている。しかし、エチオピアなどアフリカの国がそれに該当するだろうか。アフリカ諸国にはまだモノカルチャー経済に苦しんでいる国が多く、プランテーションでの商品作物の栽培が優先され、穀物の栽培はなおざりになっている。
[関連問題] コンゴ民主の登場の仕方が特殊なんだよな。
04A追代1問問5参照。コンゴ民主が登場しているレアケース。「先住民が、槍や弓などを用いてサルやカモシカなどを捕らえ、生活してきた。彼らは、付近のネグロイドに比べ平均身長が低く、森林環境に適応してきたと考えられる」といった説明。コンゴ民主の先住民の身長などどうでもいいが(笑)、ここでは「付近のネグロイド」がポイントになっているのはいうまでもない。ネグロイドの分布地域はサハラ砂漠以南の中南アフリカ。
05B本第1問問4参照。コンゴ川が問われている。赤道周辺に位置し、赤道低圧帯の影響が強いので、もちろん降水量が多い。その分だけ流量(ここでは「年流出量」とあるけれど、要するに流量ってことです)が多くなるということをスムーズに考えられたらいい。
[今後の学習] 今後の学習、っていうかコンゴの学習(笑)。コンゴ民主共和国ってほとんど出題がなかった国なんだけど、今回の問題をキッカケに今後出題が増えたらどうしよう?
基本的には「熱帯雨林」の国って捉え方でいいと思うんだよね。低緯度に位置し、年間を通じ赤道低圧帯の影響が強く、降水量が多い。多様な常緑広葉樹からなる熱帯雨林に覆われている。例えば、土地利用割合の問題で「コンゴ民主=森林面積割合が高い」なんていうネタが出題されるかもしれない。
また「コンゴ盆地」であることも強調しておきたい。同じ赤道直下でも大陸東岸のケニアは高原となっているため、やや降水量が少なく熱帯草原となっている(サバンナ)。それに対し、コンゴ盆地は全体が低地となっている。このアフリカ大陸における高低差が断面図問題として出題されるケースも考えられるので要注意。「西側から中央にかけて低く、東側で高い」っていうのは、北アメリカ大陸や南アメリカ大陸とは反対のパターンだから問題を作りやすいぞ。
またこういった地域で行われている農業が焼畑農業であることも大切。キャッサバの生産など。また国土の過半が熱帯林に覆われているということは、熱帯林の減少量も大きく、環境問題でもクローズアップされるかもしれない。
社会的なネタとしてはやはりベルギー植民地であったことが外せない。コンゴ盆地はダイヤモンド鉱の重要な産地であり、この原石がベルギーに送られ、光り輝くダイヤモンドに加工される。ベルギーとの関係、そしてダイヤモンド鉱産出国であることをチェック。
そしてやはり外せないのは難民ネタだろうか。本問でも「政治的混乱」というネガティブなキーワードが与えられてしまっている。そもそも近年ザイールからコンゴ民主に名前が変わってしまうほどの社会体制の大きな変化があった国であり、残念ながら「政治的混乱」という汚名を着せられても仕方ないだろうか。
さらにコンゴ民主に隣接する国でルワンダがあるので、ここもぜひ確認しておこう。90年代に内戦によって多くの難民を生じてしまった国。難民の多くは先進国や国連には保護されず、自分の足で辛うじて難を逃れて、隣国のコンゴ民主へと国境を越えた。現在でもコンゴ民主には難民キャンプに暮らすルワンダ難民が多い。
こんな風に、コンゴ民主はいいことなんか一つもないような極端な国ではあるけれど、しかしそれはむしろアフリカ大陸においては最もありふれた国ともいえるわけだ。
なお、「緑の革命」については今回は省略しているけれど、最重要リンクで挙げた05B本第4問問3の解説を参照してください。これも非常によく出題されるネタ。
2009年度地理B本試験[第6問]問4
[講評] もっと理論的に解けるかなと思ったらそうでもなかった。これは難問かもしれない。シンガポールはやっぱり「ジョーカー」なんだな。この国だけ例外的にいろいろなことを考えなくてはいけない。手持ちの札に「シンガポール」のカードが含まれていたら、気をつけないといけない。
[解法] 「出生率」と「幼年人口率」は比例し、「人口増加率」とも比例する。しかし「人口増加率」と「老年人口率」は反比例。老年人口率とは「65歳以上人口の割合」のこと。
ということは「出生率」と「65歳以上人口の割合」は反比例する、という公式が成り立つ。
しかし本問の図3においては、意外とそうなってないんだよな(苦笑)。どうしたもんかなぁ。ま、ちょっと危うい感じはするけれど、とりあえず考えを進めて行きましょうか。
人口増加率については2つ考えるべきことがある。一つは大陸別の人口増加割合で、以下の表。
年人口増加率 大陸
3% アフリカ
2% ラテンアメリカ・南アジア
1% 東アジア・アングロアメリカ・オセアニア
0% ヨーロッパ・日本
表中にない東南アジアは、南アジアと東アジアの間をとって「1.5%」と考える。
これに従って、4カ国を順列に並べると、ヨーロッパのドイツとフランスが「0%」のグループ、東南アジアのシンガポールとタイが「1.5%」のグループになる。
さらにここからが重要。人口増加率に関するもう一つのセオリー。それは「1人当たりGNIと人口増加率は反比例する」というもの。「人口増加率と老年人口率は反比例」し「人口増加率と出生率は比例」するので、要するに「1人当たりGNIが高い国は、65歳以上人口の割合が高くて、出生率が低い」ということ。このとからタイとシンガポールを判定する。東南アジアでも例外的にシンガポールは経済レベルが高い国、それに対し、タイも極端に低いわけではないが、しかしそれでもせいぜい2000ドル程度。どうだろうか、普通に、タイの方が老年人口割合が低く、出生率が高いような気がしないだろうか。このことから4がタイとなる。ここまではいい。
でもここからが厄介なんだよな。シンガポールとドイツとフランスをどうやって特徴付けていく?っていうか、図3で残った1・2・3については、老年人口割合が高く出生率が低いという先進国の典型的な傾向を示す1を除けば、出生率が高いのに老年人口率も高い2、出生率が低いのに老年人口率も低い3という、わけのわからない傾向を持っている。さぁどうしよう?わからん。そりゃ最後は知識で解いてしまうしかないんだろうけど、それにしても決定的な位置だというものがないのだ。どうしたもんだろうか。。。
[最重要リンク] 「老年人口率と出生率は反比例する」のだから、本来ならこのようなグラフは意味がないんだよね。だって、出生率がわかれば老年人口率もわかるんだから、わざわざ示す必要がない。4は出生率が高い時点で老年人口率が低いことは推測できるし、1や2は出生率が低めだから、それだけで老年人口率が高いことは当たり前。
そうなると、やっぱり3がおかしいんだよな。3は出生率が低いよね。それなのに老年人口率も低い。これってどうしてもおかしいんだよ。謎の国なんだよなぁ。
で、この謎の国がシンガポールなわけだ。シンガポールってやっぱりジョーカーなんだよな。世界でも珍しい「都市国家」として、普通の国では考えられないような状況が生じていると推測するしかない。
そんなシンガポールの変態性(?)が象徴された問題が、01B第2問問4。一般的には「イギリス=第1次産業人口割合が低い」ということなんだけれど、低いにも限度はある。イギリスは実はたいへんな農業国で、小麦の輸出国でもある。まさかそんな国で第1次産業人口割合が「0.3」%なんてことはありえないよ。一応、農業を十分に行うことができる範囲で、最も低い値になると考えるべきであって、ここでは「1.8」%の4がイギリスとなる。
では、0.3%なんていう異常な値になる国はどこなんだろう?ここで浮かび上がってくるのが「都市国家」であるシンガポールなのだ。イギリスは農業が徹底的に合理化されたからこそ、第1次産業就業割合が1.8%という低い値に落ち着いた。シンガポールは全くそうではなく、農業そのものを「諦めて」しまったために、農民がほとんどいない極端な国になってしまったのだ。都市国家として商業や貿易に特化した国となっている。農業を捨てても、商業などで稼いだ金で食べ物を買えばいいじゃないか。
このようにシンガポールは非常に特殊な国なのだ。世界190を越える国々の中でたった一つ例外的な存在、それがシンガポール。そしてそこでは我々の想像を越えた変態的(?)な状況が生じているのだ。
[関連問題] 人口の公式はあくまで「出生率と老年人口率は反比例する」であるけれど、それを越えた例外的な状況が出題された。実は新課程になって、このように人口についてセオリーから逸脱した国が出題される傾向もなくはないのだ。
07B本第5問問1参照。合計特殊出生率に関する問題。ここでは中国がジョーカー。合計特殊出生率は出生率と比例、つまり人口増加率と比例するので、ここでは南アジアに位置し人口増加率の高いバングラデシュが1、人口増加率の低い日本が4となり、中国とタイは2か3のいずれか。
ただしここでは3の「動きの異常さ」がポイントになる。中国は強力な社会主義の元で、人口増加率が極めて高かった時代があったが、それに続く混乱期に出生率は急激に低下。1980年代以降も、一人っ子政策の実施によって出生率は低い水準に抑えられてしまっている。こうした中国の特殊性がグラフにはっきりと表れている点は興味深い。
07B追(問題番号忘れた)参照。米国と韓国において、韓国は将来的に人口が減少するものの、米国は増加の一途であるというネタが出題。これも難しいよね。アングロアメリカの米国と、東アジアの韓国は、いずれも「人口増加率1%」であり、同じ水準にある。ここでは米国における移民の流入を考える。国の人口は基本的には出生数と死亡数の差である自然増加を中心に考えるべきで、実際に日本では出生数が減少しているため、人口増加率が低い値にとどまっている。ただし、米国やシンガポールといった移民国家においては、社会増加(転入と転出の差)も考えないといけない。現在、メキシコや中国からの移民の流入が顕著な米国において、将来的に人口が減少すると考えられるか。移民の流入は今後も続くだろうし、もしかしたらその数はさらに増加するかもしれない。海外からの人口の流入がほとんどなく、高齢化する国内の人口構成の中で人口が減少に転じる可能性がある韓国にくらべれば、米国の人口は多くの移民を迎え入れる可能性があるだけにさらに増加すると予想される。
本問と合わせて、米国やシンガポールといった移民国家の特殊性を意識しないといけない。
[今後の学習] 解法が途中で終わって申し訳ない。でも僕が論理的に説明できるのはここまでなんだわ。結論から先に言ってしまえば、3がシンガポールだと思うよ。シンガポールの人口増加率の高さを支えている一つの要因は、移民の多さなのだ。これは米国など新大陸の国々とも共通することで、要するに「国が若い」のだ。若年層や壮年層が多く流入する国において、老年人口率が15%という高率になるとは思えないのだ。どうだろう?
残った1と2がヨーロッパのイギリスとドイツ。どっちがどっちかはわからないけどね(笑)。ただ、日本と同様に、老人の割合が高い高齢社会に突入してしまっていることはヨーロッパの特徴の一つではある。
ん、ちょっと待てよ!今ちょっと思い付いたんだが、これってもしかして「高齢社会」の問題じゃないのか?65歳以上人口が7%から14%までが「高齢化社会」といい、14%以上が「高齢社会」という。
2000年における状況を紹介しておくんで、参考にしてください。
高齢社会;日本(17.2%)・フランス(16.3%)・ドイツ(16.4%)・スウェーデン(18.2%)・イギリス(15.9%)・
高齢化社会;韓国(9.0%)・中国(7.5%)・シンガポール(8.2%)・米国(12.3%)・アルゼンチン(9.9%)・オーストラリア(12.4%)
アルゼンチンが意外ではあるけど、おおよそ人口増加率「0%」のグループである日本とヨーロッパが高齢社会に既に突入しており、同じく「1%」のグループの東アジア・アングロアメリカ・オセアニアが高齢化社会となっている。シンガポールは東南アジアの中では経済レベルが高い分、やや高齢化しているということだろうか(それでもヨーロッパなどよりは低いが)。
いずれにせよ、イレギュラーな内容が問われた特殊な問題だと思う。シンガポールなんて「妙な」国が出題されたら、明らかに「おかしい」統計をそのまんま答えにしたらいいのかもしれない。出生率が低いのに老年人口率も低いなんておかしいもんね。そうやって開き直って解いた方が意外と簡単に得点できた?
2009年度地理B本試験[第6問]問5
[講評] ラストのラスト。今回のセンター試験の中で最も歴史に残るであろう一問。アルバム全体の雰囲気もいいけれど、実は最後の一曲がすごい名曲で、聴いた後に余韻が残る。まさにそういった感覚なのです。僕はこの問題は好きだなぁ。ま、決して簡単ではないけど(苦笑)。
[解法] 女性に関する話題。最近ちょっと多いんだよね。しかし、この問題はとくに登場している国が絶妙だったりする。カンボジア、パキスタン、メキシコ。カンボジアは初登場だぜ、ちょっと具体的なイメージが掴みにくいかもしれない。
しかしここは何とかやってみよう。いつものパターンでとりあえず1人当たりGNIの高低でキャラクターを作っていく。最も1人当たりGNIが高い国はどこだろう?それはNAFTAの一員で、工業化の著しいメキシコではないか。っていうか本当にメキシコやねんけど(笑)。メキシコの1人当たりGNIは約5000ドル。これはマレーシアやブラジルなど発展途上国の中でも工業化が進む国の典型的なレベル。
それに対し、パキスタンとカンボジアはどうだろうか。カンボジアはとくにこれといった産業もないような農業国だろうし、パキスタンもメジャーな国ではあるが、人口規模が大きい分だけ1人当たりGNIの値は相対的に低くなるはずだ。よくわからない。残念。
とはいえ、メキシコだけ1人当たりGNIが飛び抜けて高いことは十分想像できるよね。
識字率も第3次産業の割合も、1人当たりGNIに比例すると考えていい。よってカがメキシコになる。これは確実に言える。
さて、問題はここからだ。両国の1人当たりGNIが見当もつかないからには、他のよりどころを探さないといけないのだ。ここで最後の指標を考える。「労働力率」っていうやつだ。キの国は、80%の女性が働いているが、クでは30%程度なんだわ。これって極端じゃない?そしてカンボジアとパキスタンを分ける決定的な要素がここにあると、僕は推理する。
で、それって何なんだ?考えろ。女性が働きやすい社会って何だ?それは例えば福祉が充実した北欧の国だ。でもカンボジアもパキスタンも北欧の国じゃないぞ。では逆に女性が働きにくい国って何だ?何らかの制約があって、女性の社会進出がさまたげられている国。。。そう、それが「イスラム教」の国なんだ。そしてパキスタンはイスラム国家なのだ。これで全てがつながった。クがパキスタンで、残ったキがカンボジア。
以上、このように、まず1人当たりGNIで考え、それから他のファクター(本問の場合はイスラム教)で考える。このような重層的な問題である点が何より本問の特殊性を押し上げているのだが、よく考えてみると、最初の思考要素は「1人当たりGNI」という「経済学的要素」であるのに対し、もう一つの思考要素は「宗教」という「人文学的要素」なのだ。これって難しくない?経済のことも考えないといけないし、宗教のことも考えなくてはいけない。どちらの要素も十分に深い理解があってこそ、初めてこの問題を解くことができるのだ。どうだろう?本問はかなり深いぞ。今回の全37問の中で僕が最も印象深かったのはこの問題だという意味が、君にも伝わっただろうか。
[最重要リンク] 女性の社会進出に関するネタっていうのは新課程になってとくに重要視されてきたジャンルであるが、あえてここではちょっと古めの問題を。00B本第2問問6参照。きちんとパキスタンが「低」、カンボジアが「高」となっているんだな、これが。この問題の解法としては、オーストラリアとアラブの産油国に注目。いずれも経済レベルの高い国であるが、前者は「高」、後者は「低」という違いが明確となっている。1「5歳未満の子供の生存率」は経済レベルに反比例するというはっきりとした特徴があるので、両者で値が異なるのはおかしい。2「識字率」「テレビの所有率」はいずれも経済レベルに比例するはずなので、これも両者で値が違ってはおかしい。よって正解は3「就業人口に占める女性の割合」となる。これについては経済レベルは関係なく、むしろ宗教的な理由が重要となる。イスラム諸国ではイスラム教の教義によって女性の社会進出が制限されている(*)。アラブ諸国はみなイスラム国家なのだが(**)、こうした国々で「低」になっている点に注目だね。
ちなみにアラブ以外で「低」になっているイランやパキスタンもやはりイスラム国家であるのだが、同じイスラム国家であってもバングラデシュやインドネシアについては「高」となっているので、必ずしも絶対的な傾向でもないのかもしれないね。
(*)僕はそうは思わないけどね。実際イスラム教国の多くではとっくに女性元首だっているよ。今どき女性が国のトップあるいはそれに近い立場に就いたことがない国なんて日本ぐらいじゃないの?
(**)これも乱暴な定義で、そもそも民族と宗教は無関係なので、アラブ人でありながらイスラム教徒でない人なんかいくらでもいるよ。まぁでもセンター試験のレベルでは「アラブ=イスラム」「イスラム=女性の権利を制限」という決まりごとがあるんで仕方ないかな。
[関連問題] 04A本第2問問7参照。エジプトが登場しているが、北アフリカに位置するエジプトは典型的なイスラム国。女性の社会進出が制限されている。男性と女性の比率は1:1なのだから、「全労働力に占める女性の割合」も50%になるべきなんだが、4だけ異常に低い。これがイスラム国家エジプトなのだ。
08B本第5問問1参照。「女性議員の割合」に関する問題。日本の値と北欧の値が異なるのだが、もちろん北欧が「高」で、日本は「中」。そして多くのイスラム国で「低」。ただし、これではカンボジアが「低」でパキスタンが「高」となっているんだよね。全体の傾向をみればいいので、そこまでこだわることはないんだろうけど、ちょっと本問との不整合性を感じなくもないんだわ。
07B本第5問問3参照。「識字率」に関する問題。とりあえず識字率は先進国で高く(日本ならほぼ100%だ)、発展途上国で低い。つまり「識字率と1人当たりGNIは比例する」のだが、それだけ知っていても解ける問題じゃないんだよな。まぁ、ここで登場しているベトナムと、本問で登場しているカンボジアはともに「東南アジアにおける経済レベルの低い国」というキャラクターを有するので、比較してみてもいい。ベトナムは比較的識字率が高く、さらに他の2カ国に比べ、男性と女性の差も小さい。本問でカンボジアはキに該当するが、たしかに女性の識字率はそれなりに高い。経済レベルの高いアルゼンチンには及ばないが、イスラム国家のパキスタンよりは高い水準。
[今後の学習] 本問の非常にすぐれたところは、1人当たりGNIという経済学の面と、イスラム教という人文学の面とを平行に扱っている点。これってなかなか貴重だよ。
地理の問題をジャンル分けする時に、これは自然地理だ、それは社会地理だ、こっちは人文地理だ、みたいに区分するんだけど、ほとんどの問題はこのジャンル分けはスムーズにできる。それなのに、この問題と来たもんだ。経済の問題と考えるべきか、宗教の問題と考えるべきか、非常にジャンル分けが困難。
これからはこのような重層的な問題が増えてくるんじゃないかと予想している。もちろん経済レベル(1人当たりGNI)は絶対。しかしそれだけでは解けない問題も出てくるので、そこからさまざまな社会的事象や人間生活に関連した事項なども考慮に入れながら解く技術が必要になってくる。これはちょっと手強いぞ。
こういった技術はセンター問題を「一通りこなした」程度の浅い習熟度では決して身につくはずもない。これまで以上に「センター試験を繰り返し解く」ことが必要になっているだろう。センター問題を深くまで分析し、その解放パターンを研究し、「思考の過程」を固めていかないといけない。