2009年度地理B本試験[第4問]解説

2009年度地理B本試験[第4問]

 

都市のジャンルの出題はむしろありふれたものだが、内容がちょっと変わってるな。とはいえ、別に悪問ってわけでもないと思う。解こうとすれば何とか解答可能な問題も多いし、逆にできない問題については平均点調整のための失点問題と考えればいいだけなんで、とくに支障があるわけでもないでしょう。第2問や第3問で得点を十分に稼いだ人は、ここで数問落としても関係ないと思う。

 

2009年度地理B本試験[第4問]問1

 

[講評] 新田集落や屯田兵集落に関するネタっていうのは、今までもかすかに出題され続けていたわけで決して「絶滅種」ではない。今回こうやって真正面から集落に関する問題が取り上げられたのはむしろ受験生にとっては研究によって経験値を上げる効果が期待できるので、僕はいいことだと思いますよ。

ただし、ちょっと気になるのは、解答のポイントが「ヨーロッパ」の集落を問うているものである点。その分だけ難易度は高くなってしまっている。

 

[解法] まず「計画的集落」についておさらいを。碁盤目状の街路や、四角形の田畑を持つ集落は計画的集落である。計画的集落には「条里集落」「新田集落」「屯田兵集落」の3種類がある。

以下に一覧にしてみよう。

 

集落の種類

成立年代

みられる範囲

特徴的な地名

集落の形態

条里

古代(~奈良)

九州から東北地方南部。主に奈良盆地 

「条」「里」

戦乱の時代だったので防御機能を高めるため集村(塊村)

新田

近世(江戸)

台地上や扇状地の扇央などの乏水地、あるいは干拓地

「新田」「新開」

平和な時代なので散村

屯田兵

近代(明治)

北海道

「西一線」「北二号」のような方角や数字を組み合わせた道路

平和な時代なので散村

 

さらに屯田兵については、米国の中西部における開発方式「タウンシップ制」を参考にしていることをぜひ知っておこう。政府が中心となって開拓し、新たに開発された土地に入植者を送って、さらに農地としての整備を進める。

以上のことを頭に入れて考えよう。

まず1から。Aは典型的な散村であり、これは新田集落や屯田兵村にみられるもの。文中では「タウンシップ制」とあるが、屯田兵村とタウンシップ制の集落は形態が似ているので、タウンシップ制も散村であるとみていいだろう。正文。

そして2。やはり散村のAについての説明。「北海道の開拓地域」にみられることで屯田兵村のこと。正しい。おっと、しっかり時代にも注目しておかないと。「近代」になっているね。「屯田兵=近代」なのでこれもオッケイ。

さらに3。これはヨーロッパの説明だがどうしたもんか。とりあえず文章を読んでみる。どうだろう?ここで気になる言葉は「自然発生的」である。図を見る限り、一つの地割りに一つの家屋が割り当てられており、しかも整然とした区画や建物配置になっていることから、これは「計画的」に作られたものでないかという想像が成り立つ。決して「自然」にできたものではないだろう。これが誤文。

最後に4。これは3とは反対のことを言っている。新田集落は散村が基本だが、一部には路村形態のものもみられる。正文。

以上より、3が正解。

とか何とかいいながら適当に説明してしまったけれど、それなりの知識が問われるハードルの高い問題であることは間違いない。

 

[最重要リンク] Aにみられるのは典型的な散村であり、この形態は君たちの多くもよく見知っていると思う。問題はBなのだ。上でも説明しているようにこれは「路村」というもの。新田集落や屯田兵集落は原則として散村なのだが、例外的に集村である路村となることがある。これが取り上げられた例として、ちょっと古い問題で恐縮なのだが、93本第5問を参照してみよう。

ここでは新田集落が取り上げられている。まず地形に注目。標高は50m程度であり、これは台地(洪積台地)である。こういった台地は水はけがいい(水もちが悪い)ので開発が進まず、ようやく江戸時代になって耕地化が進み、人々が定住し始めた地域。

ただしここでは、散村ではなく、路村となっていることに注目しよう。北西部の「堀富」、その南の「上赤萩」、北部の「尾花」、北東部の「富倉」などの形態は全て路村である。一般的には散村となるはずの新田集落において、ごく珍しいことではあるが、このように路村形態がみられることをぜひ知っておこう。

道路に沿って家屋が並び、その背後に短冊状の細長い耕地が開かれている。このようにして、正面玄関は主要街道に沿うので交通の便が良く、また裏口を開けたら目の前が自分の畑であって、農作業に都合がいいというような「一挙両得」の形式となるのだ。

「新田集落は路村ともなる」ということをしっかり印象づけよう。

 

[関連問題] 94本第5問問1問2参照。屯田兵集落。散村となっている。

07B追第6問問3参照。地形図から散村の様子を読み取る。富山県の砺波平野。

99B本第2問問3参照。タウンシップ制に関する問題。ネタ的にはちょっと細かい気もするので、ポイントだけとらえよう。選択肢4に注目。「明治時代の北海道の開拓村落」というのはつまり屯田兵。

90追第4問参照。地図アが条里集落。

3種類の計画的な村落を目で見極めることができるようにしよう。

 

[今後の学習] 変わった問題なんだよね、ヨーロッパの村落が問われている点において。でも逆にみれば、選択肢1・2・4については実はかなりオーソドックスな内容しか述べられておらず、むしろこちらを重点的に学習しておけば、来年以降の対策にもつながってくると思う。

というわけで、ここでは路村を強調しておこう。村落は大きく「散村」と「集村」に大別でき、基本的に「新田集落・屯田兵集落=散村」なのだが、一部に例外的に集村の仲間である「路村」の形態をとることも知っておこう。

一応、選択肢3のヨーロッパの村落についても説明をしておく。

これは「林地村」とよばれるもので、東ヨーロッパの開拓村。それまで森林地帯だったところに一本の道路を通す。そして新たに入植者を送り込むのだが、彼らの新しく作る家は道路沿いに集ることになる。ヨーロッパの開拓村の形態として、この「林地村=路村」を知っておいてもいいかも。

 

2009年度地理B本試験[第4問]問2

 

[講評] 都市の形状に関する問題は地理Aで何回が出題されているが、最近の地理Bではめずらしい。でも、もちろんある程度の知識は必要ではあるけれど、さほど難易度は高くなかったんじゃないかな。

 

[解法] まっさきに分かるのはチュニスじゃないかな。わざわざ「旧市街地」って断ってあるもの。アやウは幾何学的な模様であり、どうみたって近代的。それに対し、イはいかにもごちゃごちゃしていて、これはまさか計画的に建設されたわけではなかろう。古い時代に自然発生的に生じた街路形態だと思う。これが「旧市街地」であり、チュニジアでしょう。

残った2つについてはある程度の知識は必要。ここでポイントになる都市はキャンベラ。センター試験では、国内人口最大都市と首都が一致しない例がしばしば問われるが、オーストラリアがその代表例。人口最大都市は最近オリンピックも開催された港湾都市のシドニーで人口400万人を越え、さらにこれもやはり港湾都市でかつて首都でもあったメルボルンも人口が300万人を越える大都市であるのに対し、首都のキャンベラの人口は数十万人程度でたいへん少ない。キャンベラのキャラクターは「計画都市」。首都機能に特化した政治都市として、シドニーとメルボルンの中間の内陸部に計画的に建設された都市である。

キャンベラはとくに個性的な街路形態を持っていることに特徴がある。山間部に建設された都市であるのだが、いくつも環状の街路を持った区画が建設され、そこから放射状に道路が何本も延び、それぞれの区画が結ばれている。98B追第1問問7選択肢3の写真がキャンベラなのだが、その様子を観察してほしい。このことからウをキャンベラとする。

残ったアがニューヨーク。ニューヨークでは縦方向の道路をストリート、横方向をアベニューというのだが、碁盤目状に機械的に区画された街路を持つ。ちなみに大阪でも、縦方向の道路は「筋」、横方向の道路は「通り」と言ったりするのだ。まぁ普通っちゃあ普通の街並みでしょう。

 

[最重要リンク] 本問と最も相関性の強い問題がこれ。97B追第1問問7。「北アフリカの歴史的区域」を問う問題なのだが、正解は1。どうだろうか?その特徴が読み取れるかな。非常に複雑というか、直線状のはっきりとした街路がなく、迷路状に道路が入り組んでいる。さらに「オーストラリアの近代的な計画都市」の写真である3はもちろんキャンベラのもの。こちらも環状の曲線道路と放射状の直線道路が組み合わされた様子が読み取れるだろうか。

関連問題

08B本第3問問2参照。キャンベラが登場。

04B本第3問問5参照。おそらくチュニジアがセンターで取り上げられたのはこの問題だけだと思う。でもここでも「旧市街」の話が登場しているんだよね。

04B本第4問問1参照。ニューヨーク市街地の写真が取り上げられている。どうかな?直線状の街路になっているんだけど、わかるかな。

98B本第3問問3参照。ニューヨークの市街図。どうかな。これはわかりやすいね。

00A本第3問問6参照。ダマスカス(西アジア)の都市の街路。迷路状に入り組んでいる。西アジアから北アフリカの乾燥地域においては、都市はこのように複雑な街路を持っていることが多い。そもそも(熱風が入ってくるだけなんで)風通しがよくても仕方ないし、日干しレンガで建物がどんどん増築されてしまうので、道路は細く、時には行き止まりともなっている。

06A本第3問問6参照。本問と同じ形式で、アムステルダム、シーアン(西安)、パリの街路が問われている。

 

[今後の学習] おそらく問題自体は難しくはなかったと思う。キャンベラは比較的有名な都市だし、それにチュニスにはわざわざ「旧市街」なんていう注釈もあったんだから。

でもそれより重要なのは過去問との整合性だね。キャンベラとチュニスは97年に、ニューヨークは04年に、それぞれ都市景観の写真が取り上げられている。問題そのものよりも、センター試験で出題される内容というのは、過去のセンター試験で出題歴があるものばかりであることをしっかり印象づける。センター試験はセンター試験の内側からしか出題されないのだ。教科書や参考書はいらない。センター過去問を常に持ち歩き、それに習熟することが、センター試験対策の鉄則なのだ。

 

2009年度地理B本試験[第4問]問3

 

[講評] どうなんだろう?今回のセンター試験においてある意味最大の「問題作」とも言えるわけだが、僕は気にしていない。君たちはボローニャとかハーローとか全くわけのわからない地名が出てきて戸惑ったかもしれないが、僕はこう思うんだよ。あえて「誰も知らない都市名を出題した」と。中途半端に知られている地名を出題すれば、その地名を知っている者は得点し、そうでない者は失点するという「不公平」が生じる。センター試験がそもそも知識重視でない以上、知識の有無で決定的な差異が生じてしまえば、それはセンター本来の意味から逸脱してしまうことになる。だからそういった「不公平」が生じないように誰も知らない都市名を出題して、そして「君たち、カンで解きなさいよ」っていうメッセージを与えているんだと思う。

え、それじゃあ、全員間違えるって?うん、そうだよ、それでいいんじゃない?他の問題できちんと得点しなさい。そしてこの問題で間違えなさい。センター試験にはこのような平均点調整用の問題がいくらでも隠れている。平均点が高くなり過ぎるのを抑えるために、当然このような問題が用意されてしかるべきなのだ。だから、僕はこれが悪問とは思わない。すばらしい問題であり、君たちはこの問題を「キチンと間違える」ことが求められているのだ。

 

[解法] 平均点が高くなりすぎるのを抑えるための問題なので、全員失点してくれればいい。とはいえ、4択なんで適当にやっても25%の人は正解するんだけどね(笑)。

1;これはハーロー。20世紀の中ごろにロンドンの郊外に多くのニュータウンが建設されたんだけど、ハーローっていうのはその一つなのだ。

2;これはわかりにくいけど、シドニーかな。シドニーっていうか、港湾を中心に発展してきた都市ならば、ほとんどこの文章に該当するよね。

3;これはデリー。デリー市内には政治機能に特化した地区があり、そこはニューデリーとよばれている。大阪市に例えれば、大阪城公園だけがイギリス人の手によって街路が整然と建設され、政治地区になった感じ。

4;これがボローニャ。これはイタリアの都市なのだが、「イタリア=中世」っていうイメージはわからないでもないよね。

 

[最重要リンク] 「都市再開発にともなう街区保存」っていうのは実はパリのネタが登場しているんだよね。07B本第3問問3参照。選択肢2に「パリでは、中・低層の古い建物が多かった都心部で再開発が行われ、高層化が進んでいる」という文章があるんだが、これは誤文。パリでは歴史的な都心部はその文化的価値ゆえに保存され、郊外に副都心(ラ・デファンスという地区)を建設し、そちらに都市機能の一部を移転している。本問のボローニャにしても、選択肢4を見る限り、古くからの街区はそのまま保存され、それ以外の場所に新しい都市機能を集中させる地区が建設されている。こういった「新旧の共存」という景観はヨーロッパの都市においては一般的にみられるものなのだろう。

 

[関連問題] 4つの都市とも初登場(デリーは一応気候判定問題では登場しているが、今回のネタとは関係ないね)。だからこそ「捨て問」と考えてみていいと思う。過去に出題例がない問題は、平均点が上がり過ぎないように調整するための問題なのだ。

 

[今後の学習] 「見慣れない問題があったら無視しなさい」。それでいいと思う。こういった問題に意識が行ってしまい、全体の問題まで難しいという印象を持ってしまったら絶対にマイナス。こういった問題もあるんやな、と割り切って、他の問題にどんどん取りかかる。逆にこうした平均点調整用の問題があるということは、全体的には簡単な問題が揃っていて平均点が上がり過ぎる危険性まであるということなのだ。変な問題だなと思ったら、「他の問題は楽なんやろな」っていう感じで、ポジティブにとらえなさい。実際、そんなもんだよ(笑)

 

2009年度地理B本試験[第4問]問4

 

[講評] 実は今回僕が一番悩んだ問題がこれ。思考問題っていえば思考問題やねんけど、それにしても正解を絞りにくいんだわ。最も特徴的な傾向をみせるのは「白人」なんでこれを答えさせる問題にすればいいのにあえて「ヒスパニック」だもんな。まぁ、出題者のセンスが悪いっちゃあ悪いんだけど、そこは何とか乗り切りましょう(笑)。

 

[解法] ヒスパニックを当てるのだから、文章からヒスパニックの特徴を探す。っていうか、逆に考えて、他の3つに共通し、ヒスパニックにだけ該当しないキーワードをあぶり出す。

そうなると面白い言葉があるんだわ、気付いたかな?アジア系には「かつて都心に隣接して」って言葉があって、これは黒人の「かつて都心部に多く居住していた」っていうのとかぶるんだよね。これは非常に興味深い。

ま、それは置いといて、問題を解いていきましょう。

とりあえずテーマは「スラム」の問題だよね。スラムに関しては絶対的なセオリーがあって、それは「先進国の大都市では都心部がスラム化し、発展途上国の大都市では都市周辺部にスラムが拡大する」というもの。本問で取り上げられている都市は米国のロサンゼルスなので、先進国のスラムの形成のされ方がポイントになっている。

先進国では、成立年代の古い都心部の施設が老朽化し、そこにもともと住んでいた富裕層もやがて郊外へと転出してしまう。廃虚が並ぶ都心部に、移民や少数民族など失業者が流入し、ちょっと「ヤバい」状況となってしまう。これがスラム。

そのことを考えると白人がわかるんだよね。社会的に恵まれた白人は失業率も低く、経済水準も高いため、彼らの多くは郊外に一戸建てを建てて移り住む。★がCBD(中新業務地区)なんだが、要するにこの周辺が都心なんでしょう。都心から最も離れた郊外がグレーに塗られている3が白人。ロサンゼルスの郊外といえばビバリーヒルズなどの高級住宅地で有名だったりするんだよな~、って「ビバリーヒルズ高校白書」を見ていた世代としては思うわけだ(笑)。

というわけで正解は1・2・4のいずれかになる。ここで最初に言ったことがヒントになるのだ。アジア系は「かつて都心」、黒人も「かつては都心部」。つまり両者は「現在は」都心部に住んでいないってことになるよね。まさにその通りで、1・2・4のうち、2つの図は都心部がグレーに彩られていないのだ。そして残った1つ、つまり選択肢2のみが都心部と居住地域が一致している。どうだろうか?これをヒスパニックと断定していいんじゃないか。

ちなみに、選択肢4の文章そのものにはあまりヒントになるような内容は書かれていないのだが、ちょっと気になるのが最初の部分。「1970年代以降の人口増加」である。グレーの面積を比べてみると、1・3の黒人やアジア系に比べて、2のヒスパニックの居住地域の面積が広い。ロサンゼルス市においてヒスパニックの人口そのものも多いのではないかと想像できるわけだ。

 

[最重要リンク] 扱われている内容がそのまま同じものがある。99A本第3問問4参照。ロサンゼルス市内の民族構成の変化について。最初は白人が居住していたが、やがて彼らは郊外に流出。「空白」になった都心部に住みつくのはまず黒人であるが、しかし近年はヒスパニックなど移民が増加している。

 

[関連問題] ネタとしてはスラムの話題なんだよね。スラム(不良住宅地区)は、先進国の大都市においては老朽化した「都心部」に形成され、発展途上国では首位都市の「周辺」に拡大していく。非常にポピュラーな話題なので、これに関する問題も多く出題されている。

07B本第3問問4参照。発展途上国の大都市の話。スラムが形成される位置などについては言及されていないが、一応目を通しておいてほしい。

05B本第2問問5参照。発展途上国のスラム。選択肢1「農村から流出した人口は、近隣の中小都市に集中するため、大都市の人口の伸びは小さい」は誤文。特定の大都市(首位都市)に集中するため、むしろ中小都市は生まれにくく、たった一つの都市のみがひたすら巨大化していく。選択肢4「大都市では人口増加に社会資本の整備が追いつかず、不法占拠した土地で劣悪な住宅に住む人も少なくない」は正文。農村から流入した人口は都市においては十分な職を得られず、都市周辺に勝手に家を建てて住みついてしまう。これがスラム。

05B追第2問問5参照。先進国の大都市において、いかに都心部にスラムが形成されていくかが丁寧に記述されている。しっかり読んでおこう。

05B追第4問問7参照。不良住宅地区つまりスラムに関する問題。選択肢1と選択肢4が先進国のスラムなので「都心部」についての話題。1は正文だが4が誤文。ロンドンにグリーンベルトはみられるものの、それは市街地の無秩序な拡大を防ぐもので、都市周辺部に設けられたもの。都心部ではない。選択肢2と選択肢3は発展途上国のスラムなので「都市周辺」についての話題。ともに誤文であるが、重要なのは選択肢3。都市周辺が「中心業務地区」では矛盾する。

04B追第1問問5参照。選択肢2はロンドンの話題。インナーシティつまり「都心部」がスラム化し、再開発がなされた。選択肢3はインドの大都市であるコルカタの話題。「無秩序に拡大」という言葉から、市街地の外側にスラムが広がっていく様子を考える。

04B追第3問問6参照。本問と同様に図が用いられた問題。白人が郊外に住み、黒人が都心部に黒人地区を形成している様子を読み取る。

04B追第4問問2参照。選択肢1は発展途上国のスラムの問題だが、とくにスラムの形成される場所については言及されていない。選択肢4は先進国のスラム化した都心部の再開発の話題。

02B本第4問問6参照。「アメリカ合衆国では大都市郊外に広大なスラムが形成され、大都市域が拡大している」とある。どこが違っているかわかるよね。

 

[今後の学習] いい問題なんでしっかり分析しておきましょう。とくに重要なのは「白人」の居住地域。都心部を避けて、郊外へと居住地が移動している様子をしっかり印象づけておく。逆に都心部付近は、ヒスパニックだけでなく黒人街やチャイナタウンもあるなど、民族構成が複雑。スラムといっていいだろう。

さらに印象づけておくのは、米国における都心部の様相を表す「人種のサラダボウル」という表現。この図をみてもあきらかなのだが、ヒスパニック地区、黒人地区、アジア系地区と境界線がはっきりしていて、それぞれが混じることなく別々のエリアに住んでいる。ブラジルなどラテンアメリカにおいては人種間の交流も活発で、その都市は「人種のるつぼ(メルティング・ポット)」と形容されるのに対し、米国のそれはあまりにドライで殺伐としている。こういった他民族に無関心で、敵視すらする傾向はあの「9.11」以降緩和の方向にあるとも言われているが、それでもやはり人種間のカベが存在するのも現代アメリカの実情だろう。

 

2009年度地理B本試験[第4問]問5

 

[講評] いきなり良問ですね!この第5問は最初から平均点調整用というか、あまり力を入れて作られているような気がしないんだが、この問題だけは違うね。本年のベスト問題の一つです。こうした正統派の問題がガッチリ解ければ、君たちがいざ社会に出ても十分に思慮深い人間になれるんじゃないかと思うのです。

 

[解法] 日本の都市名が登場しているが、いずれもメジャーな都市であるし、ハードルは高くない。キャラクター分けをしていこう。日本の地域は「都心部」「郊外」「地方中枢都市」「地方」に分けられるのだが、この3つの都市はどのキャラクターに含まれるかな。

まず「仙台」について。仙台は宮城県の県庁所在都市であるばかりでなく、東北地方の中枢的な機能も担っている「地方中枢都市」である。

さらに「千葉」。これは典型的な「郊外」である。東京大都市圏に含まれ、人口増加率は高いものの、経済や文化を東京に依存しているなど独立性は低い。

残った「浜松」についてはどうでもいいだろう。

最大のポイントは「昼夜間人口指数」。これは「都心部」で最も高く、それに次ぐのは「地方中枢都市」。「地方」はやや低く、とくに低いのは「郊外」。大都市圏において、郊外の住宅地から都心部のオフィス街へと通勤する様子を考える。地方中枢都市は「小さな首都」であるので、周辺からそれなりに通勤者が集まる。

このことから、昼夜間人口指数が100を下回っている(つまり、昼間人口の方が夜間人口より小さい)キが「郊外」の千葉市である。それに対し、この値がたいへん大きいカについては、仙台市と考える。「地方中枢都市」である仙台市の昼夜間人口指数が、まさかキャラクターなしの浜松市より低くなることはなかろう。

昼と夜とで大きな違いのないクが浜松市。

 

[最重要リンク] 本問で一番わかりやすい指標は「昼夜間人口指数」だと思うけれど、あえてここは「銀行本・支店数」に注目してみようか。地方の中枢的な機能をもつ都市(要するに地方中枢都市)は、その地方の政治・経済・文化の中心地として各種機能が発達している。政治的機能すなわち官公庁の地方局が置かれ、経済的機能すなわち企業の本社や支社が集り、さらに卸売業も発達、文化的機能すなわち大学や教育機関が多く、新聞社や放送局も多い。

このことを頭にいれ、97B追第3問問3を参照してみよう。ここでは、「地方中枢都市」のキャラクターを有する都市として金沢(石川県の県庁所在地。北陸地方の中枢的な機能を有する)、「郊外」として奈良(大阪大都市圏に含まれる)が取り上げられている。ちなみに静岡と長野はキャラクターなし。

商業など第3次産業の発達度合いを示す指標として「銀行の本・支店数」に注目してみよう。商業がさかんで、卸売業も集中する地方中枢都市であるが、もちろん金融業も発達し、銀行の数も多い。2の「119」という数が飛び抜けているんだよな。これが地方中枢的な機能を有した金沢市であることは間違いない。富山県、石川県、福井県の中心的な都市であり、経済機能が集中することで、当然金融業も発達する。

それに対し、キャラクターのはっきりしない静岡市や長野市、さらに「郊外」の奈良市においては金融業は発達せず、銀行の数も少ない。

 

[関連問題] 00B追第1問問1参照。「地方の中枢的な都市」である仙台市が問われている。東北地方の行政や商業の中心地であり(選択肢1・2)、とくに物流の結節点として卸売業が発達している(選択肢4)。ただし製造業のような工業は全く関係ない(選択肢3)。スマートな問題です。

01B本第5問問5参照。千葉市が含まれる千葉県と仙台市が含まれる宮城県に注目してみよう。1が昼夜間人口比だが、地方中枢都市の宮城県は「高」で、郊外の千葉は「低」。2が人口増加率だが、宮城県も千葉県も「高」。3が老年人口率で、宮城県も千葉県も「低」。

08B本第6問問5参照。地方中枢都市の代表例として広島市が取り上げられている。卸売業が集積。

07B本第3問問6参照。ここでは札幌市がテーマとなっている。ただし、地方中枢都市ならではの特徴というものは問われていないが。

07B本第3問問5参照。今回の問題の難しいバージョン。鹿児島県の中枢的な都市である鹿児島市、郊外の都市である八王子市、工業都市の東大阪市。卸売業は鹿児島市、人口増加率は八王子市、製造業従事者は東大阪市。

 

[今後の学習] 07年の八王子市、鹿児島市、東大阪市は無茶だと思ったけれど、今回の仙台市、千葉市、浜松市はまだわかりやすかったと思う。キャラクターが明確。

それぞれのキャラクターを有する典型的な都市を挙げてみよう。

「都心部」・・・東京23区(とくに千代田区・中央区)、大阪市。名古屋市もいちおうここかな。

「地方中枢都市」・・・札幌市、仙台市、金沢市、広島市、福岡市。実は出題されていないのは福岡市。

「郊外」・・・さいたま市、千葉市、川崎市、横浜市、奈良市などが代表例。これ以外に八王子市も出題されたので注意。県単位でいうと滋賀県も「郊外」なので、滋賀県の代表的な都市である大津市も郊外の都市の例と考えていいかもしれない。私大の試験では、千葉県の船橋市や神奈川県の相模原市などもよく出題されている。

「地方」・・・それ以外の名前も知らないような都市は全て「地方」キャラクターとして人口減少が著しいとみていいと思う。例外が県庁所在都市で、県庁所在都市はその県の中枢的な都市なので、一部を除いて人口は増加傾向にある(*)。

これ以外に、しばしば登場する工業都市も。

「工業都市」・・・鉄鋼業の北九州市、中小工場の多い東大阪市、オートバイの浜松市が近年出題されたところ。これ以外には、臨海部に製鉄所と石油化学コンビナートのある岡山県倉敷市、自動車工業の愛知県豊田市など。

(*)このイメージは捉えにくいかな。日本の多くの県は「地方」キャラクターで、県全体でみると人口は減少している。しかしそれ以上に一部の都市に人口が集る傾向も顕著で、その県の最大都市(それは多くの場合、県庁所在都市である)の人口はむしろ増えている。例えば「大分県の人口は減少しているが、大分市の人口は増えている」という感じで頭に入れておこう。

 

2009年度地理B本試験[第4問]問6

 

[講評] 都市構造の問題。ということで一見すると鋭い問題のような気もするが、解いてみると意外とそうでもない(笑)。

 

[解法] 都市構造の問題にみえるけど、実はそうでもないんだよな。一般常識のレベルで解いていきましょう。

1;「鉄道のターミナル」といえば地価は高い。そういったところでは土地利用が集約的となる。ん、ちょっと意味がわかりにくい?要するに、狭い土地を有効に使うために、建物は上に伸び、下にも伸びる。高層ビルや地下街が発達するのはこういった地点。駅前のビルや地下街にはデパートや専門店街があり、多くの客でにぎわっている。これは正文でしょう。

2;いわゆる「シャッター通り」ですね。たしかに地方中小都市の駅前商店街なんかはこんな感じかもしれない。でも今どき、たいがい大きな都市でもこういった風景はみられるよね。とりあえず正文。

3;文章正誤問題は「対になる言葉」を探すのだ。対になる言葉をひっくり返すだけで簡単に誤り選択肢ができるのだから、問題作成者にとってこんなにおいしいものはない。その「対になる言葉」の代表例が「形容詞」。本選択肢でも「古い」てわざわざ強調してあるじゃない?こういった言葉を中心に、この文章が誤っているかどうかを考えていけばいいのだ。そうなると「古い」と連動して「地元資本」っていうのも怪しくなる。「全国展開している大規模チェーン店」っていう反対語が簡単に思い浮かぶじゃない?「古くからある地元資本」を「新しいチェーン店」なんていう風に入れ替えることは可能だろうか。

ここで写真を参照してみよう。とりあえず「靴」なんていう文字しかみえないけれど(笑)、こういった風景はどこでもみられるものだと思う。で、そこにある店鋪の多くは、テレビで熱心にコマーシャルを流しているような大規模チェーンに含まれるショップじゃないのかな。これが誤文となり、正解。

4;写真をみる限り「古い街並み」になっているね。ただ「商店街」には僕はちょっと見えないんですが(笑)。ま、問題文で最初に「様々な商業地の景観」とすでに断られているので、そこはツッコミどころではないんでしょうが。「城下町」や「宿場町」など伝統的な街を起原にもつ都市にはこういった風景もあるんでしょうか。とくに矛盾はないと思う。正文。

 

[最重要リンク] この第4問を作った人ってスゴく真面目だと思うんだわ。問題の作り方にも誠意があって、よく工夫されている。もちろんセンター過去問をしっかり参考にして、それからネタを引っ張ってこようとする創意工夫も感じられる。でも、残念ながら、能力に未熟な部分があるというか、絶対的に経験値が足りていない。本問も、昨年のベスト問題である08B本第3問問4を意識して作ったのが明らかなのだが、08B本第3問問4の方は過去のセンター試験の都市構造の問題すべてを研究して作られた絶対的な優良問であったのに対し、本問の方はその表面的な部分だけを「模倣」したにすぎず、何ら本質に迫っていない。地理とは理論科目であって、論理的な部分で正誤を判定させないといけないのだ。本問はごく表層的な「目に見える」部分だけを問うており、それはセンター試験の本質ではない。経験がある人間はこのような問題は作らないよ。幸いにも、真面目で熱心な作問者だと思うんで、今後には期待できるんだが、やっぱり「まだまだだね」としか言い様がないんだな。

 

[関連問題] キーワードだらけでがんぱってるのは伝わってくるんだが、何だかちょっとズレているんだよな(笑)。とりあえず解答にもなっている3のネタだけでも紹介しておきましょうか。

97B本第1問問3参照。「幹線道路」をキーワードにするならこうして作らないと。選択肢2の内容を確認。幹線道路沿いにはショッピングセンターができるのだ。ショッピングセンターには、全国展開している巨大チェーンの店鋪があったりするよね、っていう点で本問との関連性がある。

02B追第2問問3参照。今回の大問の作成者が参考にしたと思われる02B追の第2問だが、こちらは良問が多くて、完成度が高いんだよね。これぐらいのいい問題を作ってくれないと。この問3でも「ショッピングセンター=幹線道路」である。ショッピングセンターは広い駐車場を備え、乗用車で訪れやすくなっているからこそ、「幹線道路」が重要なキーワードとなっているのだ。本問のように「地元資本」とは全然ポイントを外しているように思うんだが。

今後の学習

上でもごちゃごちゃ書いているけど、この問題を作った人が、センター試験を理解しているとは思えない(がんばっているのは認めるけど)。この問題のことは忘れた方がいい。歴史から抹殺しましょう。