2010年度地理B本試験[第5問]解説
2010年度地理B本試験[第5問]
今回の地誌はヨーロッパ!09B本の第1問でヨーロッパの自然環境が取り上げられており、まさか連続の出題とは思わなかったな。もっとも今年の方は工業や貿易など社会地理系の話題が多く、自然地理オンリーの前年とは趣きは異なるのですが。とはいえ、逆に問1と問2は自然地理であるがゆえに、前年との共通点が多すぎる!ま、似た問題だから難易度が下がるのはいいけれど、出題者側ももう少し工夫してくれよっていう感じやね。
<2010年度地理B本試験[第5問]問1>
[講評] ちょっと珍しい。かつて大陸ごとの高度別面積の問題が出たけれど、それとは内容が全然ん違うしね。古期造山帯と新期造山帯の高さについて、数字でイメージしてくれるとボクとしてはうれしいです。
ところでCの国はオーストリアといいます。センター試験ほとんど初登場の国です。まずオーストリアが出題されることはないので、とりあえず場所をイメージだけは作っておこうぜ。チロルチョコの「チロル」っていうのはオーストリアのことですよ。
[解法] Aのノルウェーは古期造山帯の国。侵食が進んだ丘陵性の山稜で、高度は高くない。それに対し、Cのオーストリアはアルプス山脈に接し、新期造山帯の国。高峻な山容を望み、その標高は高い。
さて、ここでちょっと困ってしまうのがBのポーランド。最近しばしば登場する国ではあるけれど、地形が問われることは今までなかった。どうだろうか。想像するしかないか。
ポーランドは石炭の国であり(酸性雨の被害が大きい国でもある)、石炭産出はヨーロッパ有数。国土の最南部に古期造山帯が走り、ヨーロッパ最大の産炭地域の一つとなっている。
しかし、だからといってポーランドが全面を古期造山帯に覆われた国と考えるのは早計。そもそもポーランドとは「平原の国」という意味なのだ。国土の北部から中部は、かつてこの地を覆っていた大陸氷河によって削られ、平坦な地形となっている。遮るものが何もなく、全体に開けた平原となっている様子を思い浮かべよう。ポーランドは、北ドイツからロシアにかけて広がる構造平野に含まれる国でもあるのだ。
さぁ、材料はそろった。あとはこれを巧みに当てはめていけばいい。標高の低い平原が広がっているウをポーランドとする。アとイはいずれも山国のようだが、1500m以上の高峻な山地の割合が高いアを新期造山帯のオーストリアと考え、せいぜい1000m程度の丘陵が広がるイを古期造山帯のノルウェーと考えよう。
最後におまけ。さらに雑感。本来ならこうした「3点止め」の問題は、2つのはっきりしたものを定め、残る一つは考慮しない(消去法で残ったものをあてはめる)ことで解答をあぶり出すのが基本なんだが、本問の場合はそれがあてはまらないのだ。3つの国を平等に考えていって、十分に手がかりがそろった状態で考え始めるのがベター。普通の問題とやや方策が異なることを考えても、ちょっとやっかいな問題だと思うよ。
[最重要問題リンク] 2年続けてノルウェーの標高に関する問題が問われている。確認してみよう。
2009年度地理B本試験第1問問3参照。選択肢2が、ノルウェーを含むスカンジナビア半島の断面図(A)である。左半分の丘陵部がノルウェー(スカンジナビア山脈)で、右半分の平坦部がスウェーデン。ここはノルウェーの標高を確認しておこう。古期造山帯であるスカンジナビア山脈は、侵食が進んだことにより、その標高が1000m程度となっている。選択肢4の断面図が新期造山帯を含むもの(Cのピレネー山脈)であるが、2000~3000mの高峻な山脈となっている点に注目。
単に「高い」「低い」だけでなく、具体的な数字にまで注目しておくことが重要。古期造山帯は原則として標高1000m程度!
[今後の学習] ノルウェーは昨年に続いて出題されており、ノーマルの対策で十分に対応できた。それに対し、ポーランドとオーストリアっていうのはマイナーな国であり、ちょっと悩んでしまったりする。とくに気になる国はポーランドなんだよね。そもそも東ヨーロッパの旧社会主義国がセンター地理で取り上げられるケースは少なく、しかもこの「ポーランド=平坦な国土」っていうネタに至っては完全に初登場だと思う。今後ポーランドの出題が増えてくる可能性があるので、その備えは十分にしておこう。
以下に簡単にポーランドのポイントをまとめておきます。
人口・面積・・・人口約4000万人で東ヨーロッパ最大。面積は日本に近い約30万平方キロメートル。
地形・・・北ドイツ平原から広がる平坦な国土。ただし南部の国境付近には古期造山帯の丘陵。
気候・・・西ヨーロッパに比べ寒暖の差が大きい大陸性の気候。
農業・・・大陸氷河に削られた土壌でやせているため、混合農業が行われる。ライ麦とジャガイモの輪作とブタの飼育が有機的に組み合わされている。
鉱工業・・・南部の古期造山帯周辺は石炭産地であり、鉄鋼業が発達。ただし酸性雨の被害も大きい。臨海部では造船業。
民族・宗教・・・スラブ民族。カトリック教徒が多い。
<2010年度地理B本試験[第5問]問2>
[講評] 農業の問題。正確には農牧業というべきでしょうが、ま、面倒なのでここは農業で(笑)。農業の問題といえば、常に念頭にホイットルセー農業区分を置くこと。本問についても選択肢2から4まではそのものズバリ農業区分名が登場しているし(「遊牧」「企業的穀物農業」「酪農」)、選択肢1についても直接には書かれていないものの、「地中海式農業」であることは明らか。それぞれの農業区分の特徴をあぶり出していこう。
[解法] 農業に関する問題は2つのパターンがあって、一つはホイットルセー農業区分を意識する方法で、もう一つは農作物に注目するやり方。どちらでもいいような気がする(っていうか、どちらも重要)が、本問の場合は農業区分の方がベターみたい。
1は、明らかに地中海式農業の説明。地中海性気候が現れる地中海沿岸地域において行われる農業形態。この緯度帯は夏季に中緯度高圧帯の影響によって少雨となるため、乾燥に耐える樹木栽培が中心となる。本来なら「ブドウ」で覚えておくべきだけど、まぁスペインの場合は「オレンジ」もありかな。ケが該当。ちなみに「コルクガシ」はポルトガルで盛んに栽培されるもので、やはり地中海式農業で典型的に栽培される作物である。
2は遊牧であるが、ヨーロッパで遊牧がみられる地域は限定されている。それは穀物の栽培の困難なスカンジナビア半島北部一帯。本図においてはカに該当する。もちろんここは「トナカイ」にも注目するべき。なお「夏季に氷雪が融けた地表面に生育するコケ類」というのはツンドラのこと。ツンドラは北半球では北極海沿岸にみられる植生で、図のカの位置ではちょっと南すぎる気もするんだが、まぁ他の地点よりは明らかに高緯度にあるし、ここが「ツンドラ」で「トナカイ」だとしても、おかしくはないかな。
3は企業的穀物農業。企業的穀物農業というのは、肥沃な土壌を利用した大規模な小麦農業のこと。主に新大陸でみられる(米国の中央平原、アルゼンチンのパンパ、オーストラリアのマーレー川流域)ものだが、例外的に旧大陸で一カ所みられる地域があり、それが黒海北岸のウクライナから東方に広がるチェルノーゼム地帯。本図においてはクがウクライナであり、これが正解。「チェルノーゼム=ウクライナ」は覚えているかもしれないが、意外とウクライナの位置を知らない人が多い。黒海の北に接する国であるので、しっかり確認しておこう。もっとも、本図では黒海も完全には描かれておらず、読み取りにくい。白地図を「見る」力というのも大切なのだ。
4は酪農。酪農が行われているのはバルト海沿岸を中心とした地域。過去にはデンマークやバルト3国が酪農をキーワードに出題されたことがある。本問でもデンマークのキが酪農に該当する。キ地域はバルト海には面していないが、まぁそんな細かいことは言わなくていいっしょ(笑)。酪農地域は厳密にはバルト海沿岸だけでなく、デンマーク全体からスウェーデン南部、さらにイギリス南部まで含む一帯で営まれている農業形態。
[最重要問題リンク] もちろん農牧業の問題はかなり多いのだが、ここではウクライナに注目しよう。最もダイレクトにウクライナが登場したものに1998年度地理B本試験第1問問2がある。世界の企業的穀物農業地域に関するもの。
選択肢3がウクライナに該当するが、その文は以下の通り。
「R地域(ウクライナから東方に広がる帯状の地域)では、肥沃な黒土(チェルノーゼム)が分布し、小麦をはじめ、ヒマワリ、ジャガイモの栽培が盛んである。」
ちなみに本問の選択肢3は以下の通り。
「この地域は、黒色土(チェルノーゼム)とよばれる肥沃な土壌が分布していることをいかして、企業的穀物農業が行われている。」
どう?本問の選択肢では「小麦」など農作物名が欠けているが、それ以外はほとんど同じでしょ?センター試験の問題って、選択肢の文章をそのまんま覚えるっていうのはスゴく有効ってわかるでしょ?
[今後の学習] ホイットルセー農業区分に対応する地域を考える。
・焼畑農業 熱帯雨林。インドネシア・コンゴ盆地・アマゾン低地。
・オアシス農業 砂漠の乾燥地域で、地下水路や外来河川から灌漑が可能なところ。
・遊牧 乾燥地域(羊・ラクダ)、チベット高原・ヒマラヤ山脈(ヤク)、寒冷地域・ツンドラ地域(トナカイ)、アンデス山脈(リャマ・アルパカ)。
・アジア式(集約的)米作農業 年間降水量1000mm以上の湿潤アジア。中国南半部、東南アジア、南アジア東半部。
・アジア式(集約的)畑作農業 年間降水量1000mm未満でやや少雨であるアジア地域。中国北半部、南アジア西半部。
・酪農 ヨーロッパ北部(バルト海沿岸)、米国北東部(ニューイングランド地方、五大湖沿岸)。
・混合農業 ヨーロッパ平原(ドイツ~ポーランド)、米国中西部(コーンベルト)。
・地中海式農業 地中海性気候。地中海沿岸(南ヨーロッパ・西アジア・北アフリカ)、米国カリフォルニア州、アフリカ南西端(ケープタウン)、チリ中部、オーストラリア南部(パース・アデレード)
・企業的(商業的)穀物農業 ウクライナ・チェルノーゼム地帯、米国中央平原、アルゼンチン・パンパ、オーストラリア・マーレー川流域(スノーウィーマウンテンズ計画)
・企業的(粗放的)牧畜 米国西半部、ブラジル・アルゼンチン・オーストラリア。
・園芸農業 オランダ、米国メガロポリス・メキシコ湾岸。
・プランテーション農業 熱帯・亜熱帯気候。かつての植民地など。
<2010年度地理B本試験[第5問]問2>
[講評] チェコが来ましたか!チェコは今回でセンター3回目の登場ですが、過去の2回は、チェコという国自体の特徴が問われたわけでなく、あくまでヨーロッパの国の一般的な例としてその名が利用されただけ。しかし今回はちょっと違うのだ。チェコという国のキャラクターが問われている。もちろん消去法でチェコを特定すればいいから、さほど困難なことではないが、今後こうしたマイナー国が頻繁に登場するとなると、ちょっと苦しいなっていう予感はある。
[解法] E~Gの3つの地域について確認しておこう。Eはドイツ、Gはイタリア。Fはよく知らん。
選択肢の文章に注目。サでは「衣料品」「装飾品」っていうのがポイント。これでいわゆるイタリアのブランド品を思い浮かべることができれば大成功!Gに該当。
スでは「ヨーロッパ有数の工業地域」がポイント。このキーワードだけでドイツ西部の鉄鋼地域であるルール工業地帯をイメージしなくてはいけない。もっとも、近年は鉄鋼業から先端産業など知識集約型工業への転換もみられるが。Eが該当。
残ったシがFとなる。正解は6。
せっかくなのでもっと詳しく見ていこう。
最も重要なのがE。ルール工業地帯については単に「ドイツ」と覚えるのではなく、しっかり「ドイツ西部」であることを認識。オランダとの国境に近いのだ。ドイツからオランダへと流れるライン川の存在を考えないといけない。国際河川ライン川は沿岸国の自由航行が可能であり、スウェーデンの鉱山で採掘された鉄鉱石などがライン川の流れを利用して、ルール工業地帯へともたらされるのだ。なお、ルール地方は石炭資源に恵まれていることはぜひ知っておいてほしい。「ドイツ=石炭」っていうイメージは持っておいていいよ。
さらにG。単にイタリアではなく、イタリア北部であることも意識しておこう。南北格差がキーワードの一つとなる国がイタリアであり、工業化の進まないイタリア半島に対し、アルプス山麓の北イタリアは各種工業の発達する経済レベルの高い地域である。ミラノという都市は有名だろう。ファッション産業の街であり、高級衣料や装飾品などが生産されている。
さて、残ったFに注目しよう。これ、チェコっていう国なんだよね。知ってたかな。これまでも2回センター試験には注目しているんだが、いずれも名前だけの登場で、深く特徴が問われたことがなかった。実質今回が「デビュー」なので、君たちが知らなくても無理はない。これを機会に覚えましょう。ドイツに隣接する東ヨーロッパの国で、最近周辺国と一緒にEUにも加盟を果たした。
これがシの文章に該当することは既に述べた。ポイントになるのはどこだと思う?「繊維やガラス」はどうでもいいと思う。「発達していた」ということは古い時代のことである。伝統工業など気にしていたらどれだけ覚えてもキリがない。ここで圧倒的に重要なキーワードは「賃金の安さ」である、もちろん!
[最重要問題リンク] ドイツのルール工業地帯の位置と性格について、確実に把握しておくことが重要となる。2007年度地理B本試験第2問問2参照。ドイツ西部に描かれているBがルール工業地帯に該当する。
ここでは以下のように表現されている。
(A)「炭田地域に位置し、工業の中心がかつての重工業から、エレクトロニクスや環境、医療技術などの分野に移行しつつある。」
本問の方ではE地域の説明は以下の通り。
(B)「近隣の資源を利用して鉄鋼業が発達したヨーロッパ有数の工業地域であるが、エネルギー革命や構造不況を経て、近年では工業の多様化が進んだ。」
これを比較してみる。
Aでは「炭田」、Bでは「近隣の資源」。ルール工業地帯が原料(炭田)立地型の工業地域であることは重要。
Aでは「重工業」、Bでは「鉄鋼業」。重工業という言い方では石油化学工業まで含まれるが、ここでは鉄鋼業であることを意識しよう。
Aでは「エレクトロニクスや環境~移行しつつある」、Bでは「工業の多様化が進んだ」。鉄鋼業だけではなく、高い技術水準をいかした新しい工業へと中心が移行しつつあることが強調されている。
ルール工業地帯の出題パターンを見切るのだ。「ルールのルールをつかめ」っていうことだね。
[今後の学習] ドイツ西部のルール工業地帯が最重要なのは言うまでもない。まさに「ルールのルールをつかめ」なのだ(しつこいって?・笑)。
イタリアについてはやっぱり「衣類」っていうのが重要。海外ブランド品を買いなさい!とは言いませんが(笑)、イタリアについては高級ブランドのイメージを持っておこうよ。
問題はチェコなんだよね。ここでは「繊維」とか「ガラス」とかあるけどどうなのかな。「自動車」っていうのもあるし。でも結局この文って間違いなく「賃金の安さ」がポイントになっているのは間違いないじゃない?「講評」でも言っているけれど、チェコは今回3度目の登場。でも今までの2回はチェコそのものが問われたわけではなく、あくまで「ヨーロッパの一般的な国」っていうキャラクターで登場したもの。今回の出題もそれに近くて、「東ヨーロッパ=1人当たりGNIが低い=賃金の安さ」っていうことで、たまたま東ヨーロッパの国の代表としてチェコが取り上げられただけ。そう考えてみると、問2のポーランドほどにはチェコという国は重要視されていないということがわかる。国名と場所さえわかれば十分でしょ。
<2010年度地理B本試験[第5問]問4>
[講評] ちょっと変わった貿易統計の問題。今回のセンターは、気候グラフの問題なんかに典型的だけど、ネタ自体はたいしたことなくても形式がちょっと目新しいので、戸惑う問題が多いんだわ。この問題、そして表がその典型。迷わずに、しっかりと一つ一つの統計項目を確認していこう。
[解法] 貿易相手国の鉄則!「隣の国と貿易する」っていうごく当たり前のセオリー。そりゃそうだよね、よほど特別な理由がない限り、自分の国で足りないものは、できるだけ近くの国で買ってもってくるに決まっているよね。シンガポールの最大貿易相手国がマレーシアだったりするのが典型例。そうはいっても、キューバと米国がほとんど貿易していないように「特別な理由」を持った関係って決して少なくないんですけどね(笑)。
さて、ヨーロッパへと目を移そう。キューバと米国のような対立関係は現在のヨーロッパには存在しない。そもそもEUで国境線が実質的に存在しないのだから、日本でいうならば隣の県に行って買物するようなもの。「隣の国と貿易する」っていうセオリーが最も的確に当てはまる地域と考えていいでしょう。
ここで表を見て、最も気になる国を挙げるならば、それはベルギー。ついでにいえば、ベルギーってあまり出題されない国なんですが、この大問の問5でも大きく取り上げられており、来年以降要注意の国になりそうだね。
QとRにもベルギーは含まれているけれど、Pでは輸出も輸入もベルギーが2位という高位値にランクインしている。これってどう思う?ベルギーは人口1000万人程度の小国(*)なんだけど、このレベルの国が主要な貿易相手に入ってくるって珍しいと思うよ。よほどベルギーに近接している国に違いない。長く国境線を接している国の可能性が高い。Pをオランダと断定してしまっていいのではないか。オランダとベルギーの位置関係を想像しよう。
さらにQとPについては、スペインがやっぱり気になるかな。Pにしか含まれていない。あるいはイタリアでもいい。Qではようやく輸出の4位にランクしている程度だが、Rでは輸出も輸入も3位に入っていて、Rの重要な貿易相手国の一つになっている。Rはスペインとイタリアに接している国で、Qはこの両国から距離が離れている国だ。これより考えて、Rがフランス、Qがドイツになると考えていい。
実はもう一つ解法があって、それはドイツの「巨大さ」を意識するやり方。ドイツはヨーロッパで最も規模が大きな国である。1人当たりGNIも高い方であるし、人口規模は西ヨーロッパ最大。1人当たりGNIと人口の積であるGNIについても(GNI=1人当たりGNI×人口)、ヨーロッパ最大である。
このように何でもかんでもとりあえずヨーロッパで最も大きな統計があればドイツと考えてしまうという方法は実は案外と有効だったりする。ドイツが西ヨーロッパで最も大きいものは、「人口」「GNI」「工業力(鉄鋼生産・自動車生産)」そして「貿易額」である。
貿易の面においてヨーロッパの主役であるドイツは、他の国にとっても最大の貿易相手国となる可能性が高い。この手がかりだけで、Qとドイツと特定できるはず。他の2か国(PとR)からみて、Qが1位に座にある。
あとはRとPだが、ドイツだけにしぼって考えてみると、Pは輸出相手5位・輸入相手1位であるのに対し、Rは輸出相手1位・輸入相手2位。どうだろうか。全体の輸出額や割合が書かれていないので、実際の輸出額や輸入額は計算できないものの、単純にRの方とより盛んに貿易していると考えてしまっていいと思う。つまりRの方が規模が大きな国と考える。オランダは小国であるので、Rがフランスとなる。どう?ちょっとギャンブルな解き方ではあるけれど、国のサイズを意識するだけで十分解けてしまうのだ。
ちなみに、民族分布を考えてもいいかなっていう気もしないでもない。本問に登場するヨーロッパの国は、オランダ・ドイツ・イギリスがゲルマン系、フランス・イタリア・スペインがラテン系、そして(問6でも話題になっているが)ベルギーがゲルマン系とラテン系がハーフとなっている。もちろん位置的に近いっていうのもあるけれど、ゲルマン系の国はゲルマン系と貿易し、ラテン系はラテン系と貿易している傾向もある。
(*)西ヨーロッパは、ドイツ(8千万人)、フランス・イギリス・イタリア(それぞれ6千万人)、スペイン(4千万人)の「ビッグ5」を除けば、人口1000万人あるいかそれ未満の小国ばかり。例外はオランダで、若干多くて1500万人。でもベルギーはやっぱり1000万人。
[最重要問題リンク] ヨーロッパの国の貿易を取り上げた統計問題って実はものすごく少ない。本問にしても、貿易品目ではなく、貿易相手国が問われているちょっと変わった問題であるし。真っ正面からの問題じゃないよね。
というわけでこの最重要リンクにしてもちょっと視点を変えて考えてみよう。2009年度地理B本試験第5問問6参照。NAFTAの3カ国の貿易関係が示されている。米国にとって最大の貿易相手国がカナダということが重要。
2009年にNAFTA、2010年にEUということで、2年続けて、同じ自由貿易圏の中での貿易相手国のネタが出題されているのだ。これってちょっとおもしろい傾向だと思うよ。
[今後の学習] 例えばASEANなんかはEUやNAFTAとは違って自由貿易が実現しているわけではないけど、東南アジアの各国間の貿易相手国の関係なんていうのは出題されてもおかしくないと思う。もっとも、ASEAN諸国の主な貿易相手国って日本や中国、米国が多かったりするんですけどね。
参考までに東南アジアの国それぞれの最大の輸出相手国と最大の輸入相手国をリストアップしておきます。どういった傾向を感じるでしょう。
フィリピン (輸出)米国 (輸入)米国
ベトナム (輸出)米国 (輸入)中国
タイ (輸出)日本 (輸入)中国
マレーシア (輸出)米国 (輸入)日本
シンガポール (輸出)マレーシア (輸入)マレーシア
インドネシア (輸出)日本 (輸入)シンガポール
資源(天然ガス)輸出国のインドネシアの最大の輸出先が日本っていうのは知っておいてもいいかな。
<2010年度地理B本試験[第5問]問5>
[講評] 民族の問題。地理Bでは軽視されるジャンルであるが、このように1問ぐらいは出題されると覚悟しておいた方がいい。ただし、問題の難易度はまちまちで、ムラートやウルドゥー語といった難しいネタが問われたことのある反面、今回のような平易な問題もみられる。でも、平易だからといって油断しないように。難しいネタの方が、全員間違えるから実はあまり差がつかない。簡単な問題こそ、他のみんながゲットできるだけに、ミスった時のダメージがでかいぞ!
[解法] ベルギーとスイスが示されている。ベルギーの民族や言語については地理Aを中心に非常に出題率が高いので、問題ないだろう。
ベルギーは、代表的な多民族国家で複数の言語が用いられている。北半分の地域に住むフラマン人はゲルマン系の民族でオランダ語を使用し、南半分の地域に住むワロン人はラテン系の民族でフランス語を使用している。「北半分がゲルマン系の言語、南半分がラテン系の言語」である。
このことから、ベルギー北部で使用されているaは「ゲルマン」語派である。タが決定する。
さらにチについても考えていこう。っていうか、まず公用語っていうのがよくわからないよね(笑)。いや、ここはあまり神経質になる必要はありません。そもそもセンター地理っていうのはそんなにひねくれた試験ではないので、素直に考えた方があっさりと答えが出てベター。この問題にしても、Y国では言語b~dがあり、さらに「その他」があるのだから、素直に「複数」にしてしまえばいい。図を見てそのまま考えましょう。チは「複数」です。
[最重要問題リンク]
スイスは珍しいな。ほとんど初登場じゃないかな。それに対しベルギーネタはかなり多いです。
ちょっと文章読解が必要な変わった問題を。1997年度地理B本試験第2問問1です。
西ヨーロッパの多くの国々では、(a)多数派民族を中核にして近代国家が形成された。
下線部(a)に関して、単一の多数派民族によって形成された国家の例に該当しないものを、次の1~4のうちから一つ選べ。
1 イタリア
2 オランダ
3 デンマーク
4 ベルギー
この問題を解いてみよう。
まず「多数派民族を中核にして近代国家が形成された」っていう意味がわかるかな。日本でも日本民族を中心にして日本という近代国家が形成されたよね。でも日本って決して日本民族だけが住んでいるわけではなく、アイヌ民族や琉球民族、さらには帰化して日本の国籍を得た元外国人の人々もいる。そういった中で日本民族が多数派を占めている現在の状況を考えよう。こうした日本のような国が「単一の多数派民族によって形成された国家」に該当するのだ。
ではそうではない国ってどんなんだろう?「単一」の多数派民族ではないのだから、「複数」の多数派民族っていう言い方になる。多数派民族が複数っていうのはおかしい言い方からな。ある程度の規模をもった複数の民族が存在し、それらが共存することで一つの国が形成されている例を考えなさいということなのだ。これなら別におかしくないでしょ。
で、そうした国の典型例にベルギーが該当することになる。ベルギーには例えば「ベルギー民族」といったような単一の多数派民族は存在しない。しかしフラマン人とワロン人というある程度の人口規模を持った民族が複数存在している。多民族国家かつ多言語国家としてベルギーは非常に重要なのだ。
[今後の学習]
ベルギーは本当に鉄板!絶対に知らないと話にならない。またスイスについてもこの機会に整理しておこう。
図3を用いて説明します。
まずX国ことベルギー。言語aはオランダ語でこれはゲルマン系の言語。言語bはフランス語でラテン系の言語。このようにベルギーは北半分がゲルマン系、南半分がラテん系となっているのだ。なお言語cはドイツ語。ドイツと国境を接する一部の地域ではドイツ語も使用されている。これはゲルマン系。
Y国ことスイス。多数派を占めているのが言語cのドイツ語。スイスで最も使用人口の多い言語がドイツ語であること(さらに民族系統で言えばゲルマン系であること)を知っておいてもいい。フランスに近い西部では言語bのフランス語が使用され、イタリアに接する南部では言語dのイタリア語が使用され、「その他」のレートロマン語(ロマンシュ語)と合わせて、これらはラテン系である。スイスもまたベルギーと同じく、ゲルマン系とラテン系が並立する国なのだ。
このように民族的な面では共通点が多い両国ではあるが、実は宗教はちょっと状況が異なる。ベルギーは国民の全体がカトリック教徒。一般に(ラテン系にはカトリックが多いけれど)、ゲルマン系にはプロテスタントが多い。しかしベルギーのゲルマン系民族はカトリックなのだ。
これに対しスイスは「ゲルマン系=プロテスタント、ラテン系=カトリック」の区分けがはっきりされている。スイスの過半数を占めるドイツ系住民がプロテスタントであるのに対し、フランス系、イタリア系、レートロマン系の各住民はカトリック。
<2010年度地理B本試験[第5問]問6>
[講評] 結構おもしろい問題だね。でも解いている内容はシンプル。ま、こういう問題もアリっちゃあアリだな。
1人当たりGNIは非常に重要なアイテムなので、この問題を通してどんなもんかイメージだけども知っておくのもいいなと思います。
[解法] それぞれの選択肢を検討していこう。
選択肢1;「社会主義体制が採用されていた」とある。ヨーロッパの国で社会主義体制が採用されていたのは、ソ連と、ソ連の影響下にあった東ヨーロッパ諸国。2000年代に入ってからEUに加盟した国の中でそういった例に該当するものは、エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト3国(旧ソ連構成国)、ポーランド・チェコ・スロバキア・ハンガリー・ルーマニア・ブルガリアの東ヨーロッパ諸国など。これは正文。
選択肢2;「紛争や政治的に不安定な状況」については、旧ユーゴスラビアを考えればいいだろう。かつてユーゴスラビアという国が存在したが、現在は分裂し、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、コソボが成立している(ヒマな人は地図帳で位置を確かめてくださいね)。2004年段階では、セルビアとモンテネグロが一つの連邦を形成し、コソボも独立を果たしていないものの、旧ユーゴスラビアに含まれる国々のほとんどは1人当たりGNIが「低位」となっている。これも正文。
選択肢3;1人当たりGNIの高い国々の中には、EUに加盟している国と未加盟の国がある。これはノルウェーとスイスを考えたらいいだろう。ノルウェーとスイスは世界有数の1人当たりGNIの高さを誇る国であるが、EUには入っていない。正文。
選択肢4;共通通貨ユーロは、必ずしもEUに加盟する全ての国で使用されているわけではない。近年EUに入った経済レベルの低い国々の多くでは導入されておらず、1人当たりGNIが高くとも、イギリスはまだ「ポンド」を使用し、ユーロ圏ではない。このことを考え、この選択肢を誤文すなわち正解とする。
[最重要問題リンク] ユーロがテーマとされた問題が2000年度地理B本試験第1問問7。4枚のヨーロッパの図が登場し、それぞれEC加盟国、EU加盟国、通貨統合参加国(これがユーロを使っている国っていう意味ね)、1人当たりGDPが高い国のいずれかを示している。
本問については、EU(EC)加盟国をしっかり知っておくことが最大のポイントとされ、むしろユーロ導入国については消去法で考えるべき問題であるが、せっかくなので主な国の中でユーロを使用していない国を知っておいてもいい。これに該当する国は、イギリスの他、デンマークとスウェーデンである。
[今後の学習] 4つの選択肢のうち、選択肢3以外はちょっとした知識が必要なものになっている。決して難しいネタではないものの、確実に知っておかなければ解けないので要注意。
選択肢1;どの範囲がかつての社会主義国だったかは必ず知っておこう。とりあえず、ポーランドをしっかり押さえておけばいいと思う。ポーランドは問1でも話題とされているし、重要性はかなり高いとみる。さらにバルト3国も知っておこう。旧ソ連構成国で、もちろん社会主義体制が採用されていた範囲。しかし、ヨーロッパから社会主義が消えた現在、すでにEU加盟を果たしている。
選択肢2;旧ユーゴスラビアは実は頻出だったりするので、その範囲を知っておこう。ユーゴスラビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボなどの名前と、そこで内戦が生じたということは知っていても、その具体的な場所がわからなかったりするんじゃない?この機会にしっかり目で確認しておきましょう。
選択肢4;ユーロを導入しているように思われながらも、実はそうではない国をしっかり知っておきましょう。それがイギリス。実はユーロ使用国って微妙に増えたりしているんですが、それはややこしいのでどうでもいい。とにかくイギリスがユーロを使っていないことを絶対に知っておく。
ちなみにユーロについては、ドイツ中南部の都市フランクフルトにユーロを統括するヨーロッパ中央銀行が位置していることも知っておこう。ヨーロッパ最大の金融都市といえばイギリスのロンドンであるが、イギリスはユーロ圏ではないので、こちらにはユーロを扱う銀行は存在しない。