2012年度地理B本試験[第3問]

<第3問>

 

問1 [ファーストインプレッション]同じ問題を模試で作ったなぁ(笑)。多少数字のセンスも要るかもしれない。ポイントはイスタンブールが巨大都市っていうことですね。

[解法]トルコは人口最大都市と首都が一致しない国の代表。人口最大都市は国土西部の海峡都市イスタンブール。非常に規模が大きいが、みんなは大都市の基準として「人口1000万人」っていうのは知っておくべきだと思う。みんなが名前を知っているような大都市は人口1000万人レベル。アジアなら東京、ソウル、ペキン、シャンハイ、ムンバイなど。新大陸ならニューヨーク、メキシコシティ、サンパウロなど。ヨーロッパでもパリ、ロンドン、モスクワの規模が圧倒的に大きく、いずれも1000万人レベル。ちなみにパリとモスクワは問2に登場しているね。イスタンブールもその一つで、正解は②。首都のアンカラは人口規模がイスタンブールに及ばない。

また選択肢中に他にも人口最大都市と首都が一致しない国がある。それがオーストラリア。こちらは③に該当。人口2千万人の小国であり、さすがに②のように人口最大都市に1000万人が集中していたらおかしいよね(笑)。しかしそれでもやっぱりシドニー(400万人)とメルボルン(300万人)は、人口小国にしては規模が大きな都市である。

①がメキシコ。首都メキシコシティは巨大な都市。④がイタリア。ヨーロッパは(スイスを除いて)人口最大都市と首都が一致しているが、ローマもその一つ。ただし、パリやロンドンといった巨大都市の比ではない。

[今後の学習]首都と人口最大都市が一致しない例は多いが、とくに重要なのはこのトルコ。人口6千万人の中堅国であるが、ヨーロッパとの間にまたがるイスタンブールは人口1000万人の巨大都市。首都アンカラは独立運動の中心だった都市で、国土中央部の高原上に位置している。

 

問2 [ファーストインプレッション]この図はたまに教科書や地図帳で見かけるが、ちょとと問題のネタとしては厳しいなと思っていた。本問についても図の読み取りよりも、文章の中からヒントを拾うことによって解答が導かれる。パリがやっぱり重要ですね。

[解法]「歴史的建造物の保全」が最大のポイント。パリは歴史の古い町であり、市街地には歴史的な街区も多くみられ、開発が制限されている。日本で言えば京都を考えてみるといいだろう。ウがパリに該当する。「周辺部には高層ビルからなる副都心」とあるが、これはラデファンス地区という場所。パリの郊外にはこうした副都心が新たに設けられ、パリに集中する都市機能の一部が移動している。

アとイについて。ここでは「政府機関」がポイント。このキーワードからアを首都と考えていいだろう。アがロシアの首都モスクワとなり、消去法でイがシカゴ。アメリカ合衆国の首都はワシントンである。

[今後の学習]パリの特殊性を知っておこう。先進国の大都市では都心部の再開発が積極的に行われているが、パリは例外。歴史的な建造物の保全のために、市街地の開発は制限されている。

 

問3 [ファーストインプレッション]あ、いい問題ですね。思考問題でもあり、キーワードをしっかり拾っていく問題でもあり。都市構造の理論的な内容も含まれている。正文判定問題であるので、3つの選択肢の誤っている部分を確実に指摘することも必要。

[解法]①農家の背後に広がる短冊状の耕地。川越街道沿いに家屋が並ぶ路村である。新田集落にしばしば見られる形態で、計画的に作られたもの。②「インナーシティ」は、欧米の先進国のキーワードであり、日本には該当しない。都心部の建物や施設が荒廃し、人口や産業が流出。移民や失業者が入り込んでスラムが形成されること。ここはスプロール現象に直しましょう。っていうか、この図のスプロール感、半端ないね(笑)。ごちゃごちゃ。④都心部に工場は立地しない。都心部は地価が高く、広い面積を必要とする施設は立地しない。もともと都心部に工場があったのなら仕方ないが、少なくとも後から新たに進出することあり得ない。消去法により③が正解。

[今後の学習]すごくいい問題で、いろいろな要素が入っているので、研究のしがいがある問題に思う。①については、路村というキーワードを確実に。基本的に散村形態となる新田集落だが、路村もしばしば。道路沿いに家屋が並ぶが、その背後に短冊状の耕地が開かれ、農作業が便利。「自然発生」と「計画的」が反対語であることも意識。②インナーシティは直訳すれば都心だが、ここではインナーシティ問題という地理用語であることに注意。④都市構造。埼玉県南部ということで、新座市は東京大都市圏の郊外に位置する都市である。地価が比較的安いことから宅地開発が進み、人口増加率も高い。一方、東京の都心部は地価が高く、さすがに工場や倉庫は新設されないだろう。

 

問4 [ファーストインプレッション]ここで宗教!?っていう意外な感じ。地理Bでは宗教の出題はほとんど見られないんだが、これはどうしたことだろうか。

[解法]とにかく宗教で絶対に覚えておくのは「ラテン→カトリック」の法則。キリスト教の一派であるカトリック。もちろんラテン民族以外にも信者は多いが、ラテン民族のほとんど全てがカトリック教徒であることは間違いない。だからラテン民族を確実に知っておけば、カトリックも判別できる。ポルトガル、スペイン、フランス、イタリアの南西ヨーロッパがラテン民族の主な分布地域。彼らがカトリック教徒であることを考え、キがAに該当する。

さらにCに注目しよう。旧ユーゴスラビアである。中央がセルビアで、その南にコソボ。コソボはヨーロッパにおけるイスラム分布地域の一つ。イスラム教が含まれるカがC。

クがBに該当するが、ドイツ北部はプロテスタント、ドイツ南部からオーストリア、イタリアはカトリック。

[今後の学習]ここまでストレートに宗教分布が問われるケースは珍しい。とりあえず「ラテン→カトリック」は大切。ヨーロッパにおいて、ラテン以外のカトリック地域としては、アイルランド(ケルト民族)、ドイツ南部(ゲルマン民族)、ポーランド(スラブ民族)などがある。アイルランドはマイナーであるし、ドイツ南部も今回登場しているので、ここではポーランドを強調して覚えておこう。Bの枠内の過半を占める国がドイツだが、この東に隣接するのがポーランド。「スラブ・カトリック」である。

また旧ユーゴスラビアについては特別にチェックしておく。Cの枠内で、一番大きな、面積を占めているのがセルビア。その真南に位置する丸い形状の国がマケドニア。マケドニアとセルビアに接する菱形がコソボ。コソボとセルビアに接するのがモンテネグロ。その北の三角形の国がボスニアヘルツェゴビナ。ボスニアを挟んでいるハサミのような形の国がクロアチア。その北で、西端がBの枠線と重なっている国がスロベニア。旧ユーゴスラビアを構成していたのが、以上の国々。うちスロベニアとクロアチアがカトリック。ボスニアヘルツェゴビナはカトリックとイスラム教と東方正教が混在。セルビアとモンテネグロとマケドニアが東方正教。コソボがイスラム教。ヨーロッパではボスニアヘルツェゴビナ中部とコソボにイスラム教が分布していることを確実に知っておこう。

 

問5 [ファーストインプレッション]さらに宗教!地理Aの問題なんじゃないか。地理Bとは思えない。

[解法]スリランカは仏教国。北部にインドから移住してきたタミル人が分布していて、ヒンドゥー教徒ではあるが、多数を占めているのは仏教徒である。①が正解。②がウズベキスタン。中央アジアのシルクロード沿いでイスラム教の国。③がフィリピン。山地斜面の棚田。④がスウェーデン。北部の北極圏に近い地域に鉄山が位置。

[今後の学習]スリランカがテーマなのでそんなに難しくなかったのかな。南アジアの宗教は重要。

インド→ヒンドゥー教が主。イスラム教徒なども一部に。

パキスタン・バングラデシュ→イスラム教

スリランカ→仏教が主。北部にヒンドゥー教徒も存在し、対立している。

カシミール地方→ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が混在。インドとパキスタンで帰属を争う。

 

問6 [ファーストインプレッション]食文化。これも地理Aっぽくも思えるんだが、地理Bの問題としてもさほど特殊ではないかな。

[解法]宗教的な理由から牛肉を食さない。ヒンドゥー教では牛を神聖視しており、肉は食されない。豚を嫌悪するイスラム教徒も比較的多い。④が正解。①がカナダ、②がイラン、③がイタリア。

[今後の学習]インドと牛の関係。高温多雨のインドにおいてはそもそも肉食は一般的ではないので、厳密には宗教と食文化に関係はない。しかし一般的に「インド人が牛肉を食べないのは、ヒンドゥー教の牛を神聖視する宗教的戒律ゆえである」と思われているので、それで構いません(笑)。