たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう

2021年地理B共通テスト第2日程[第4問]解説

<2021年共通テスト第1日程・第4問問1[19]>

 

[インプレッション]地誌の大問。おっと、西アジアがテーマとなっているではないか。このようなちょっと変わった地域が登場するのが追試験の特徴。第2日程は追試験的な意味合いを持っているからね。

 

[解法]気候判定問題。Dがトルコ西部の沿岸部(これはイスタンブールという都市だね。有名だから知っているだろう)。海洋性気候がみられるだろう。Eがイランの中央部。図から判定するに高原上の都市だと思う。こちらは大陸性気候だろう。Fはアラビア半島の中央部。こちらは標高は高くないようだが、しかし砂漠の中央であることは想像できる。Gはアラビア半島の南岸。インド洋に面し、季節風の影響が強そうだ。

 

図を判定してみよう。今まで見たことのないような図だが、気温や降水量のデータが豊富に示されており、とても良いグラフだと思う。アバウトな形で見るのではなく、細かい数字を検討することが大切になるね。

 

それぞれのグラフを分析する前に、目盛からみてみよう。縦軸は気温。0℃から40℃まで示されている。とくに②は7月の平均気温が35℃に達する!これはかなり異常なこと。高温で知られる日本ですら、7月や8月の平均気温は30℃に達しない。というか、月の平均気温が30℃を超えることは原則としてあり得ない。赤道直下のシンガポールでも毎月の平均気温は30℃に達しない(もっとも、夏の平均気温は日本の方がシンガポールより高かったりするんだけどね。どんだけ暑いねん、日本!)。

 

しかし、②は明らかに30℃を超え、③もほとんど30℃である。これはどうしたことだろうか。

 

これについては「内陸の乾燥地域」でしばしばみられる特徴と考えて欲しい。内陸部は寒暖の差が大きく、例えば砂漠においては夜の気温がかなり低くなると聞いたことがあるんじゃないかな。雲がないので、上空に熱が全て逃げてしまうのだ。ただし、言うまでもないことだが、昼間は極端に暑い。日本では35℃を超えたら猛暑日だが、こういった場所ではその比じゃないよね。昼過ぎには40℃や50℃まで上がることもあるかもしれない。夜の気温は低いだろうが、昼の気温の高さが全体を引き上げて、月平均気温が30℃を超えるような「異常」な場所が出現することになる。

 

次に横軸を見てみよう。こちらは降水量。0mmから120mmまでだが、ほとんどのグラフは20mm程度までに収まっている。唯一、④の1月の降水量が100mmに達している。日本の年降水量は1500mm。よって1ヶ月当たりの平均降水量は100mmを超える。夏は200mmに達し、降水量が少ない12月や1月でも50mm程度はある(*)。そうして考えてみると、①〜③の地域は極めて降水量に少ない地域であり、乾燥地域と考えてみていいだろう。蒸発量が降水量を超えている。④にしても、1月はともかくとして7月は20mm程度と降水量は多くない。乾燥気候とまでは言えないだろうが、日本と比べれば少雨気候と言えるだろう。

 

では、各グラフについて検討していく。まず特徴的であるものが①。7月は27℃、1月は23℃、気温年較差が極めて小さい。日本の場合、気温年較差は札幌で30℃(7月25℃、1月マイナス5℃)、東京で20℃(7月25℃、1月5℃)、那覇で10℃(7月25℃、1月15℃)。気温年較差が4℃というのはかなり特殊。

 

しかし、あり得ないことではない。年間を通じ太陽からの受熱量に変化の少ない低緯度地域においては気温年較差は最小となる。地球は地軸を傾けて公転しているため、高緯度地域においては季節による太陽からの受熱量に大きな違いがあり、月ごとの寒暖の差が大きくなるが、赤道周辺においては年間を通じて気温のほぼ変わらない気候がみられる。

 

この「気温年較差4℃」というのも低緯度地域であるがゆえと考える。4地点中、最も低緯度に位置するGを①と判定。インド洋に面しているので、夏の降水量はもっと多いようにも思ったんだが、どうやらそういうことでもなかったみたいだね。

 

そして、さらに気になるのはやはり月最高気温が30℃に達する2つのグラフ、②と③。これらは冬の気温も低く、気温年較差が大きい。とくに③の1月の平均気温は0℃に近く、東京よりも低い。

 

図1のような比較的緯度が低い地域で冬の気温がこれだけ下がるのはかなり特殊。寒暖の差が大きい大陸性気候であることを考え、EとFが②と③のいずれかとなる。②と③の違いは気温。全体的に気温が高い②に対し、気温が低い③。EとFを比較して、緯度が低いFで高温、Eで低温と考えていい。Eが③、Fが②。もちろん低緯度であっても標高が高ければ気温は下がるのだが(南米のアンデス高原にこうした都市は多いね。エクアドルの首都キトやボリビアの首都ラパスなど)、Fについては図から読み取るに、決して高原というわけではない。一方のEは高原。「低緯度・低地」のFの方が、「高緯度・高原」のEより当然気温は高い。

 

残ったDが④となる。4地点中、最も高緯度にあるので気温が低いことはわかるだろうか。典型的な地中海性気候がみられることもイメージしてみよう。

 

(*)もちろんこれは太平洋側の地域。世界有数の豪雪地帯である日本海側地域では、山間部などとくに雪深いところでは1月や2月の降水量は200ミリを超えることも。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第4問問2[20]>

 

[インプレッション]写真を使った問題だが、下にキャプションがあるので、写真をみるまでもないね(笑)。そもそも「外来河川」を写真で表すのって、かなり無理があるような気がするな。「淡水化施設」が問われているのが今どきの問題っぽい。

 

[解法]写真というか下のキャプションに注目して。

 

まず「外来河川」。異なる2つの気候を流域に含む河川が外来河川。具体的には、湿潤地域を水源とし、乾燥地域を流れる河川。そもそも乾燥とは「降水量<蒸発量」なので、河川は存在しない。源流部である湿潤地域で十分に水を蓄え、乾燥地域へと流れ込むのである。

 

さらに「地下水路」。これ、写真がかなりわかりにくいのだが、どうだろう。上空からみると、縦穴が連続している。この縦穴は建設用のもので、地下水路を掘った際に生じた土砂を地上へと排出する。地下水路の補修時に作業する人が地下へと潜る入り口ともなっている。乾燥地域の高原にみられ、イランがその典型的な地域。

 

「淡水化施設」については、海水を淡水化するのであり、沿岸部にこうした施設が設けられている。また、多額の資本投下が必要であることから、ある程度は豊かな国に建設が限定される。オイルマネーで潤う国など考えてみよう。

 

以上をふまえて図を検討してみる。

 

まず沿岸部に目をつけよう。イが該当するね。ペルシャ湾に面し、原油産出の多い国ではないか。当然、1人当たりGNIが高い裕福な国であると思われるし、このような巨大施設を有しているとしても不思議ではない。イがK。

 

さらにアとウ。アは低地でウは高原。外来河川が流れていそうなのはどちらだろう?アのイラクは、メソポタミア文明の栄えた土地であり、国土を雄大なチグリス川とユーフラテス川が流れる。メソポタミア地方は乾燥地域であり、両河川はまさしく典型的な外来河川なのだ。アがJに該当。

 

残ったウがL。ウはアフガニスタンだが、高原の国であり、イランと同様に地下水路を用いた灌漑農業が行われている。山麓の地下水を、遠方の村落や耕地へと導く。

 

地下水路が問われた例は過去にも多いが、本問のように高原と結びつけて出題されたケースは初めて。乾燥地域ではあるが、標高の高い山地には融雪など地下水が豊富。地上に水路をつくれば激しい蒸発で水がなくなってしまうので、地下に水路が設けられている。イランの地下水路はカナートというそうですが、アフガニスタンの水路にも何か名前があったような気がしたものの、私は忘れました(笑)

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第4問問3[21]>

 

[インプレッション]印象からすれば、共通テストになってさらに1人当たりGNIを問う問題が増えたように思う。おおまかな数値だけでなく、これが経済レベルを表す指標であり、人口に反比例するという数字上の特徴も確実に理解しておくこと。

 

[解法]1人当たりGNIは経済レベルの指標。GNI(経済規模)を人口で割った値で、経済規模が大きい国で高くなるだけでなく、人口規模が小さい国でも高くなることを考えよう。

 

1人当たりGNIが1万ドルの国は知っておいた方がいい。中国、マレーシア、トルコ、東欧諸国(ルーマニアなど)、メキシコ、ブラジルといった新興工業国が並ぶ。本問においてはその「1万ドル」という値が境界線となっているね。

 

図4から国を判別しよう。カがサウジアラビアやアラブ首長国連邦など。キがトルコやオスラエル(ちょっと読み取りにくいけど、イスラエルは特徴ある国なのでチェックしておくといいよ)など。クがイランなど。dがアフガニスタンなど。

 

まず1人当たりGNIで区分してみようか。世界トップレベルの原油産出国であるサウジアラビアを中心としたカは、1人当たりGNIが高いとみていい。とくにここにはアラブ首長国連邦やクウェート、カタールなど、「原油産出+人口が少ない」国が並び、これらは極めて1人当たりGNIが高い。カを「1人当たりGNIが高く、「1日当たり原油生産量」が多いbのグループと考えていいだろう。

 

そうなると、イランを含むクが判定しやすい。イランはサウジアラビアなどと同様OPEC(石油輸出国機構)に加盟する産油国である。ただし、カ(サウジアラビアなど)とク(イランなど)は別グルーブであり、ここに明確な差があるものと考えられる。カが高所得国であるなら、キは低所得国ではないか。イランは世界的な原油産出國であるものの、人口規模も大きく8000万人を超える(ちなみにサウジは3000万人程度)。「1人当たり」の値は下がり、「1人当たりGNI」の低いaグループに該当する。

 

さらにイスラエルとトルコを含むキについても考えよう。トルコは「次のEU加盟国」と称されるほど、ヨーロッパとの関係が緊密な国である(というか、そもそも国土の北西端は海峡を越えヨーロッパ大陸に含まれている)。ヨーロッパ諸国に比べ低賃金であるため、衣類や機械、自動車など労働集約型の工場が多く進出し、工業化が進む。ヨーロッパに比べればたしかに経済レベルは低いが、1人当たりGNIは1万ドル/人であり、決して低いというわけではない。世界を代表する新興工業国の一つである。ただし、原油などの資源は産しない。

 

イスラエルもトルコ同様に資源をもたない国である。しかし、ダイヤモンド貿易など商業に特化した国であり、経済レベルは高い(人口が少ないことも、1人当たりGNIが高い一つの理由ではあるが)。イスラエルはユダヤ人国家であるが、ユダヤ系住民は世界中に散らばり、独自のネットワークを有し、それを貿易や金融に生かしている。とくにアメリカ合衆国の財界にはユダヤ系の企業が多く、彼らの「本国」であるイスラエルを積極的に支援している。イスラエルの腫瘍貿易品目にダイヤモンドがある。イスラエルはダイヤモンド鉱石を産出する国ではないものの、加工されたダイヤモンド製品の流通の拠点となることで、多くの利益を得ているのだ。1人当たりGNIは30000ドル/人に近く、これは世界的な工業国の一つである韓国と同じ水準。

 

「原油を産出しない」、「経済レベルが高い」という条件を持つキのグループはcに該当。正解は⑤になる。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第4問問4[22]>

 

[インプレッション]一転してシンプルな問題。こういう「コスパ」のいい問題を確実にゲットしないと。手間をかけずに簡単に3点を取るのっておいしいでしょ?

 

[解法]ドバイの人口ピラミッドをみて、なぜこのような形になるのかを考えないといけない。ドバイはペルシャ湾岸のアラブ首長国連邦に位置する都市。ペルシャ湾岸は世界最大の産油地帯であり、アラブ首長国連邦も原油産出が多い国と予想される。規模の小さい国であり、人口も少ない。原油産出に加え、人口の少なさゆえ、1人当たりGNIは極めて高い水準となる。

 

オイルマネーに潤う西アジアの産油国では、1970年代以降「建設ブーム」が興った。高層ビル群を伴う近未来的な都市開発がなされ、その際に周辺国から多くの労働者が流入した。1人当たりGNIが低い南アジアや、同じ西アジアであっても原油を産しない国からの労働者の移入が多かったことを想像しよう。彼らは豊富な雇用と高い賃金を求めドバイへとやって来て、都市建設に従事したのだ。

 

正解は簡単でしょう。もちろん③が該当。このパターンの問題は過去にも出題されているが、その際には「製造業」との相違が問われていた。「建設業のための流入」が正解で「自動車工場の労働力」が誤りという、ちょっと判断の難しい問題(西アジア地域に自動車工業は立地しないのだ)。2014年地理B本試験第4問問4参照。本問はそれに比べると、かなり簡単な問題だったんじゃないかな。

 

他の選択肢も検討しよう。

 

①について。イスラームの聖地はサウジアラビアのメッカなど。サウジアラビアは原則としてムスリム(イスラム教徒)しか入国ができない。厳格なイスラーム国家なのだ(それなのに、「王様」がいるっていうのがどうも矛盾しているような。。。イスラームはコーランの元に全ての人々が男女問わず平等であり、身分格差は存在しないのが本来の考え方)。ドバイは世界中から人々が集まり観光地であり、宗教による制約はない。

 

②について。出生率が高ければ人口ピラミッドの底辺が長くなるはず。ボリュームゾーンは20代から40代までの男性であり、肉体労働を中心とした労働者であることがわかる。

 

④について。アラブ首長国連邦は小国であり、国内の人口移動の規模は小さいものだろう。とくに西アジア地域は砂漠が広がり、多くの人々が都市で暮らしている。東南アジアのような「緑豊かな農村」はみられないのだ。かつてはラクダや羊を飼育する遊牧民もいたようだが、今がほとんどの人口が都市に定住している。農村人口は少ない。

 

ドバイについては先ほども挙げた2014年地理B第4問問4で大きくクローズアップされているので、ぜひ参照しよう。世界最大のリゾート地であり、多くの観光客を集める。ただ、おもしろいのはやはりイスラーム地域であるため、イスラームの教義は遵守されているということ。アルコールの提供には制限があり(もちろんムスリム以外は自由にお酒は飲めるのだが、店は限られている)、カジノなどギャンブル場は備えられていない。イスラームは不労所得を禁じ、ギャンブルは認められていないのだ。でも、世界最高峰の競馬場はあったりしてね。とはいえ、これも馬券の購入は決して自由ではなかったような。競馬に興味がある人は調べてみてくださいね。

 

さらにおまけ。。。

 

本問の人口ピラミッド、かなり気になるのだ。もちろん20〜40代の男性のほとんどは外国からの出稼ぎ労働力。つまり、アラブ首長国連邦の国籍は有していないということ。この人口ピラミッドに関しては、ドバイ市民として国籍を持っている人だけでなく、一時的に流入した外国人も含めた人口を示しているということになるね。そもそもオイルマネーで潤うペルシャ湾岸諸国において、外国人が新たにその国の国籍を得ることは不可能に近い。国民になれば教育や医療が優遇され、手厚い社会保障も受けられる。そんな「おいしい」ことを外国からやってきた労働者に許すわけがない。彼らの労働環境は劣悪であり、もちろん社会保障制度が整っているわけではない。例えば、これがヨーロッパのドイツならばこうした外国人労働者のケアも十分に行われる(かといって、国籍が与えられることはないが)。そこはさすが成熟した西欧諸国といった感じ。西アジアの国々では、そこまで社会が成熟しておらず、ひたすら労働者は使い捨てにされるだけなのだ。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第4問問5[23]>

 

[インプレッション]あれ、ここで比較地誌が登場。この形式は、2017年および2018年の共通テスト試行調査でもみられなかったし、本年の第1日程も同様。2016年から2021年のセンター試験で問われた比較地誌(第5問)は難易度の高い問題が多かったがこちらはどうだろう。なお、トルコは2017年地理B追試験でも比較地誌に登場。イランと比較されている。

 

[解法]農産物の問題。ナツメヤシが問われているね。ナツメヤシは乾燥地域で栽培される自給作物。伝統的な灌漑農業であるオアシス農業と結びつき、外来河川のほとりなどで栽培されている。生産上位国はエジプトやイランなど、砂漠で人口規模が大きい国。ナイル川からの灌漑、カナートと呼ばれる地下水路を用いた灌漑が行われる。

表2参照。「1人当たり」の値なので、当該国の人口規模は関係ないね(「総供給量」ならば人口規模に比例するだろうけれど)。というか、そもそもトルコとモロッコの人口は知らないけどね(笑)。シンプルに気候環境だけ考えればいいだろう。トルコは地中海に面し、比較的降水量が多い。内陸部には乾燥地域もみられるが、決して砂漠が広がるような国ではないね。それに対し、モロッコは北アフリカの少雨地域に位置し、全体として乾燥気候が卓越する。サハラ砂漠にも接し、トルコに比べれば乾燥の度合いは高いだろう。ナツメヤシを主に食するのはモロッコの方だろう。

 

豚肉については簡単だと思う。いずれもイスラームが中心の国であり、豚肉は嫌悪されているね。イスラームは乾燥地域で生まれた宗教である。穀物の生産が限られている乾燥地域では、それを飼料として家畜を飼育することは許されない。穀物は貴重な食糧であり、人間が直接食べてこそ価値があるものなのだ。もっとも、「イスラームが豚を嫌悪する」という教義は、乾燥地域のみでなく、インドネシアなど湿潤地域においても遵守されているのだが。

いずれにせよ、ムスリム(イスラム教徒)地域であるトルコとモロッコでは豚の供給量は原則ゼロである。表2中のPが豚肉。

 

一方のQがナツメヤシと判定され、この値が多いいシがモロッコ、少ないサがトルコである。4が正解となる。

 

 

<2021年共通テスト第1日程・第5問問6[24]>

 

[インプレッション]なるほど、これがトルコとモロッコの違いなのか。トルコとモロッコはむしろ共通点の多い国だね。ヨーロッパに接し、EU諸国との関係が深い。1人当たりGNIが比較的低いことから(トルコは10000ドル/人程度。モロッコはわからないが高い値ではないだろう)、衣類など労働集約型工業の生産拠点がEU圏内から移動している。工業製品の生産と輸出が多い国となっているのだ。

ただ、そういった共通点がある一方で、ヨーロッパのいずれの国と関係が深いかという点においては明確な違いがある。トルコはドイツと結びつき、モロッコは旧宗主国であるフランスや位置的に隣接するスペインとの関係が深い。なるほど、この点が出題の対象となっているわけか。まだ問題内容は見ていないが(笑)おそらくそんな感じじゃないかな(違っていたらスイマセン。。。)。

 

[解法]「人口の国際移動」の問題。問題文が長いので、まずはしっかり読もう。「教育・雇用機械の獲得」や「紛争からの逃避」といった人口移動があると述べられている。モロッコもトルコも紛争中の国ではなく、紛争からの逃避は考えなくていいだろう。そもそも地理はそういった国際政治や安全保障、軍事に関する話題は問われない科目である。「教育」はどうだろう?例えばこれが言語を考えてみてもいい。西アフリカに多く存在する旧フランス植民地だった国ではフランス語が公用語とされ、高い教育を求めフランスへと多くの留学生を送る国もあるようだ。コートジボワールが例。ただし、アラブ圏のモロッコはアラビア語を公用語とし、トルコもアジア系(アルタイ系)のトルコ語を公用語とする。言語的にはヨーロッパとの関係性は薄く、教育は考慮しなくていいかな。

そうなるとやはり「雇用」が重要になるね。つまり「経済」。地理では政治は無視できるが、経済は非常に重要な要素。トルコ人やモロッコ人の「出稼ぎ」を具体的に考えればいいんじゃないかな。

 

図7はヨーロッパ各国に居住するトルコ人とモロッコ人の数を示したもの。第4問問4と同様に、国籍については説明されていない。それぞれ出身国の国籍を持ったままの出稼ぎ労働者と、現地の国籍を得た人々(モロッコ系ドイツ人っていう感じ)の両方が含まれているのかな。

 

ただ、拍子抜けするぐらいにシンプルな統計であることにビックリ。「ドイツ=トルコ」でいいじゃないか。出稼ぎ労働者の移動についても、原則としては上で説明した「宗主国←植民地」の関係は成り立つ。アラブや西アフリカに多くの植民地を有していたフランスは、やはりこの地域からの労働者・移民の流入が多い。フランス語を公用語とするため言語の障壁が少ない国も多く、またフランス語を使用せずとも(例えば北アフリカのアラブ諸国)歴史的文化的にフランスと密接な関係を有する国もある。ただ、ドイツとトルコの関係は特別。敗戦国ドイツは植民地をほとんど持っておらず、一方でトルコは長くオスマントルコが独立を保っていたため欧州の植民地とはならなかった。ドイツが終戦後に復興を果たし、高度経済成長の時期を迎えた時に、労働者が不足するという事態を迎えた。本来ならアジアやアフリカの旧植民地からその労働力を賄うのだが、ドイツの場合はそれが不可能。一方で、トルコ人としても本来なら経済成長の著しいヨーロッパ地域へと出稼ぎに行きたいのだが、「宗主国・植民地」という密接な関係を持つ国がなく、それもおぼつかない。いわゆる「子のない親」であるドイツと、「親のない子」であるトルコとの間に利害の一致が生じ、戦後の復興期、トルコからドイツへと多くの人口が流入したのだ。都市建設な自動車工業において、トルコ人の労働力はドイツの復興と経済成長を支えた。

 

こういった背景を考えて、ドイツでとくに値が大きい(というか、ほとんどドイツだけ)Tとトルコ人とみていいだろう。オイルショックの低成長期にトルコ人の多くは仕事を失うが、そのままドイツ国内に滞在し、都市にはトルコ人街が成り立った。言語や文化の相違から排斥運動も受けることがあったが(例えばトルコ人はムスリムであるので、豚とアルコールがダメなのだが、豚肉料理とビールはドイツ人がとくに好むものでもあるよね)、現在でも多くのトルコ人がドイツで生活を続ける。

 

一方のSがモロッコ。モロッコはアラブ民族の国でアラビア語を公用語とするが、かつてのフランス植民地であり、社会文化的にも経済的にもつながりが強い。フランスへの移民が多いようだ。また位置的に近接するためスペインへの流入も多い。モロッコは1人当たりGNIが低く、豊富な雇用と高賃金を求めヨーロッパへと流入している点はトルコと同じ。

 

さらに問題を読み進める。あれ?ここで「難民」が登場しているじゃないか?先ほど、地理では政治的な状況は出題されないと言ったばかりだったんだが、ここでちょっとイレギュラーなことが起きてしまったね。前言撤回、申し訳ないです。とはいえ、この地域の紛争としてはよく知られているものがあるんじゃないかな。そう、それは「シリア」だね。時事問題というわけでもないし、新聞を読んだりニュースを見たりする必要もないかと思う。すでに長い間、内戦が生じている国であり、多くの難民がシリアからヨーロッパ地域へと移動している。

 

ここで「難民」の動きについても整理していこう。例えば国連は、国連難民高等弁務官事務所の活動などによって紛争や内戦による難民については保護を進めている。しかし、それは決して十分でない。先進国によって救助される難民はごく一部であり、多くの人々は戦乱を避け、自分の足で他国へと避難するしかない。1990年代にはアフリカのルワンダで難民が生じた。フツ族とツチ族の対立による。難民の多くは隣国のコンゴ民主へと流出した。同じく1990年代には旧ユーゴスラビアのコソボで難民が生じた。セルビアによる弾圧であり、この時、NATO(EUを中心とした軍事組織)によるセルビア制裁のための空爆も行われている。コソボ難民は隣国のアルバニアへ流出。2000年代に入ってからも、アフガニスタンでは内戦が生じ、さらにアメリカ合衆国など先進国による介入もあった。アフガニスタンの難民はパキスタンへと向かうが、パキスタンも決して「平和」な国ではない。インドとの間にカシミール問題(ヒンドゥー教徒とムスリムが混在する地域であり、インドとパキスタンにより帰属権が長く争われている)を抱えている。「留まるも地獄、行くも地獄」であるわけだ。

 

そして2010年代だが、王家を中心とした勢力や軍隊勢力など多くの勢力が乱立し、国内が大混乱に陥っている国がシリアなのである。東京オリンピックの開催地決定の際にライバルとなっていた都市がスペインのマドリードとトルコのイスタンブールだったのだが、マドリードはその直前にバスクの民族活動家によるテロ行為があったため、イスタンブールは隣国シリアの内戦のため、それぞれ候補から外れ、東京に決定したという経緯がある(東京もフクシマの放射能問題はあるんだけどね)。シリアの内戦はトルコ社会にも大きな影響を与える。

 

このことから、2010年代に入り大きく数字が伸びているタがトルコの難民数であり、その背景にはシリア内戦があることがわかる。モロッコはSとチの組み合わせとなり、正解は②である。

 

なお、このシリア内戦で生じている難民だが、彼らの「逃げ先」は決してトルコではない。彼らはトルコを経由し、ヨーロッパへと逃れることを願っているのだ。陸伝いにトルコに達する者もいるが、船で地中海に出て、海洋からギリシャに達しようとする人々も多い。陸路を移動することも安全とは言い切れないが、海を小さな船で外国まで達しようとする行為こそまさに危険きわまりない。命の危険を冒して、彼らはヨーロッパへと「逃げ先」を求める。

 

とくにヨーロッパでも彼らが目的地とするのは、北西の経済レベルが高い国々。社会保障が確立され、難民や移民に対しても手厚いケアがなされる。シリア難民はトルコを経由し、ブルガリアへの入国をもくろむ。一旦、EU加盟国であるブルガリアに入ってしまえば、あとはフリーバス。EUの多くの国々はシェンゲン協定に調印しており、国境線を越える人々の移動は自由となっている。トルコ・ブルガリアの国境さえ越えてしまえば、彼らはドイツへと達することができるのだ。

 

ただし、ドイツはそもそも移民受け入れに寛容な国であり、難民の人道的支援も積極的に行うのだが、さすがにシリア難民は数が多すぎる。ドイツでもいよいよこうした難民の受け入れに対しては懐疑的な見方をする世論が強くなり、今後はどういった状況になるかわからない。

 

いち早く、難民の受け入れに「ノー」を宣言した国がイギリス。イギリスはシェンゲン協定に調印していないため、本来は難民が入り込む余地は少ないのだが、英仏海峡を越え、不法に入国しようとする難民は後を絶たない。難民の受け入れによる社会混乱を懸念し、イギリスはドイツなど他のEU諸国との間に決定的な断裂を招く。これが、ブリグジットすなわち「イギリスのEU離脱」の最大の原因となった。

 

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