たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう
たつじんオリジナル解説[2017年度地理B本試験]第2問
問1[ファーストインプレッション]最新の食料事情を反映したいい問題ですね。本問に限らず、現代の社会情勢に関する問題が目立つのは、やはり将来的は「地理総合」を意識してのものなのでしょうか。
[解法]選択肢①はあいまい。選択肢②についても「トレーサビリティ」という言葉は初登場なので、ちょっと判定しにくい。選択肢③に注目しよう。「遺伝子組み換え作物」は非常によく出題されるネタ。
最低限知っておくことは次の3つ。日本国内では、遺伝子組換え作物の栽培は禁止されている(*)。しかし、輸入品についてはそうした制限がなく、アメリカ合衆国などから遺伝子組み換え農作物は国内に流入している。ただし、それを使用して加工した食品については(その使用について)表示義務がある(**)。
このことを前提条件として、選択肢③について考えてみよう。「遺伝子組み換え作物を使用した加工食品が輸入されている」かどうかということ。「遺伝子組み換え作物そのものは輸入されている」ことは間違いない。そして、「遺伝子組み換え作物を使用した場合には表示が義務付けられている」のだから、加工食品の製造自体は禁止されていないことになる。つまり、日本国内において、遺伝子組み換え作物を使用した加工食品の流通は十分に認められているのだ。それならば、そうした食品の輸入についても禁止されていないと考えるのが適当ではないだろうか。日本国内の農家については遺伝子組み換え作物の栽培が認められていないが、その輸入や使用については特に制限がない(表示さえすれば)ことがわかるだろう。遺伝子組み換え作物およびその加工品の輸入は一般になされている。正文。
④についてはどうかな。例えば野菜の中でもとくにカボチャの輸入が多いことはよく知られている。カボチャは夏野菜であり、7月から8月を旬として日本の市場には国内産のカボチャが出回っているが、端境期である冬の時期についてはニュージーランド産が主となっている。北半球とは逆の季節となる南半球で栽培されたものが輸入されているのだ。
野菜については一般的に果実や肉(冷凍)に比べ鮮度が重要で輸送が困難なこともあり、外国からの輸入は比較的少ないが、それでもカボチャのように保存がしやすいものについては輸入が盛んに行われている。
ただし、近年はその傾向は決してカボチャだけにとどまらない。選択肢の文中にあるように「輸送技術の発達による冷凍野菜の輸入量は増加」しているが、冷凍せずとも空輸などによって鮮度を保ったまま迅速に輸送することも一般的に行われるようになった。野菜全体で輸入量は増加している。もちろん現在でも高い国内自給率は維持されているものの(80%)、野菜は種類も豊富であり、そもそも国内での消費量(供給量)も増加していることもあり、外国産のものがスーパーなどでよく見られるようになった。そもそも現在のグローバル化する世界の中で、貿易量が減少する品目があるだろうか。政治的には日本と中国、韓国の関係は微妙な時もあるが、経済においてはさらに緊密性を増し、一体化を強めている。中国産や韓国産の野菜は日本の市場に多く出荷されている。④が誤りである。
よって、上で曖昧としておいた①と②については正文である。
まず①について。「政府が支援」といっても、もちろんこれは国有化や国営化ということではない。規制緩和によって民間企業の参入を促し、より企業的な経営を目指すということ。そのための法整備が行なわれる。日本の農業は小規模零細的であり生産性が低い。アメリカ合衆国など「新大陸」でみられる企業的な農業を模範とし、大規模化や省力化を進め、生産性を上げることが求められている。
②についてはセンター初出。牛肉など「トレーサビリティ」によってどこで飼育され加工されたものかが分かるようになっている。食の安全性につながっている。
(*)厳密には「商業的栽培が禁止されている」のだが、そもそも遺伝子組み換え作物を自給的に栽培する人もいないので、全面的に禁止されていると考えて問題ない。
(**)実際にはそうした食品はほとんどないので、むしろ逆に「遺伝子組み換え作物を使用していない」ことが示されているケースが多い。
[難易度]最大のポイントは遺伝子組み換え作物。遺伝子組み換え作物をめぐる状況については理解していたとしても、「加工品の輸入」というようにちょっと変化球を投げられたらわかりにくいよね。意外に難儀した人が多そうな。★★☆
[参考問題]2012年度地理B本試験第2問問6。遺伝子組換えに関する問題は、地理A・B、本試験・追試験とわず比較的よく出題されている。その中で、最も参照しやすい問題としてこの問題に注目しよう。世界中で栽培されている遺伝子組み換え作物だが、日本では栽培は禁止されている(厳密には「商業的栽培の禁止」だが、そもそも「自給的」に遺伝子組換え作物を栽培する農家はないだろうから、実質的に完全禁止と考えていい)。ただし、なぜか「加工食品用の遺伝子組換え作物の輸入」は認められており、(法律的には)これを使用した食品の販売は一般に行うことが可能。
問2[ファーストインプレッション]一見シンプルな問題と思いきや、①と②の判定がちょっと難しいかもしれない。「農林水産業」以外の産業って何だろうって考えてみると、解きやすいと思うよ。
[解法]「農林水産業従事者1人当たりの農地面積」については、経営規模の大小を考える。「家族中心の零細経営的」な農業がみられるアジアやアフリカでは当然小さいだろうし。「企業的」な農業がみられる新大陸ではとくに大きな値となるだろう。第1次産業就業人口割合を考えてみても、発展途上地域のアジアやアフリカでは高く、先進地域の北アメリカやオセアニアでは低い。農民の数が相対的に多いアジアやアフリカでは1人当たりの面積は小さくなるだろうし、逆に新大陸は大きくなるだろう。①と②がアジアかアフリカ、③と④が北アメリカかオセアニア。
ここからちょっと考えないと。①と②の判定はちょっと難しい。「GDPに占める農林水産業の割合」だが、アジアとアフリカどちらが高いのだろうか。
ここは逆に「どちらが低いか」を考えるべきで、逆に言い方をすれば「農林水産業以外の産業の割合がどちらが高いか」ということである。農林水産業以外ならば、例えば鉱業があるだろうか。しかし資源は両方とも豊富な地域と思われる。ならば、工業を考える。工業には製造業と建設業があるが。特に製造業の分野においては中国や東南アジアなど先進国から工場が多く進出している地域も多く、アジアの工業生産力は世界一のレベルである。さらに(農林水産業は第1次産業、鉱工業は第2次産業であるので)第3次産業を考えてみてもいい。商業や金融業を考えて、それらがアフリカで発達しているとは想像しにくい。農林水産業以外の産業がさかんなアジアを②と判定する。①がアフリカ。
③と④は判定の必要がないが、③がオセアニア、④が北アメリカかな。ヨーロッパで1人当たりの農地面積が狭いのは納得だけど、GDPに占める割合が北アメリカより高いのは意外だね。
[難易度]2つに絞ってから迷うかもしれないね。★★☆
[参考問題]これ、ちょうどいい問題があったんですが、年度を忘れてしまし(涙)ただいま探し中。また追加で解説つくりますんで、ちょっと待っててね。
問4[ファーストインプレッション]ん、今年やたらドイツとオーストラリア多くない?しかもそのドイツを問う問題だわ。イギリスとの差異が難しいが、あることに気づけば何とかなるんじゃないかな?
[解法]選択肢はイギリス、オーストラリア、ドイツ、日本。いずれも1人当たりGNIの高い先進国だが、資源の供給状況については差異がある。
まず輸入依存度が百に近い①が日本であることは明らかだろう。石炭、原油(石油)、天然ガスなどエネルギーは国内でほとんど産しない。これに対し、この値が大きくマイナスとなっている④がオーストラリアというのもわかりやすいのではないか。問3では石炭の輸出が多い国としてオーストラリアが登場しているし(問題かぶってるやん!)、それ以外の資源についても輸出国であることは十分に想像できる。人口が少なく、工業が発達していないので、国内の供給量(地理では供給と消費は同義語と考える。つまりエネルギー消費量という意味)が小さいことも、輸入に頼る度合いが低いことの一つの目安となる。
さて、ここからがポイント。問題はドイツとイギリスの比較なのだ。いずれもヨーロッパの先進国であり、キャラクターにさほど差はないように見える。さて、エネルギーの需給についてはどうだろうか。エネルギー供給(消費)量については差はないはず。ポイントは生産量なのだ。ドイツとイギリス、さてどちらがいわゆる「資源国」なのか。たしかにドイツにはルール地方に炭田はある。しかし、近年はルール地方における鉄鋼生産は停滞し、むしろ再開発によって先端産業地域へと変貌しつつある。ドイツで石炭が産出されないとは言えないが、しかし決して国内需要を満たすのに十分であるとは思えない(問でも、ヨーロッパで石炭産出が世界8位までにランクインしているのはポーランドのみである)。一方、イギリスはどうだろうか。かつては古期造山帯であるペニン山脈周辺で石炭が多く産出されたが、それが過去の話であるのはみんなも知っている通り。そう、エネルギーっていうか化石燃料って石炭だけじゃないよね。もちろん「原油」もあれば「天然ガス」もある。1970年代に発見された北海油田は現在でも採掘が進み、これに接するイギリスやノルウェーは西ヨーロッパ有数の原油・天然ガスの産出国となっている。輸入依存度が低い(つまり自給率が高い)③をイギリスとし、②がドイツである。
なるほど、ドイツで製造業を中心とした第二次産業(鉱工業)就業人口割合が高いのも、イメージ通りじゃないかな。日本もドイツも世界的な自動車生産国であるしね(統計を確認しておいて。イギリスは自動車生産が少ない。もちろんオーストラリアも)。
[難易度]簡単な問題とは思わないが、ドイツを当てるなら絶望的でもないかな。★★☆
[参考問題]2008年度地理B本試験第2問問3。「輸入依存率」という言葉が登場した問題。自給率の反対だと捉えましょう。
問5[ファーストインプレッション]原油や天然ガスでこれと似たパターンの問題があったから、当然石炭もあって然るべき。統計に基づく問題で、簡単とは思うけれど、中国に気をつけましょう。
[解法]石炭の生産、輸出、消費が問われた問題。あいまいにではなく、具体的にみていくことが重要。たとえば、日本に注目してみる。世界をテーマにした統計問題で日本を最初に考えるのは定番。
日本は、アのみ丸が描かれ、イとウでは全くない。日本は少なくとも石炭の生産国や輸出国ではないのだから、これが「消費」となる。なるほど、中国の値が圧倒的である他、アメリカ合衆国やドイツを中心としたヨーロッパなど経済大国(GNIが大きな国)が並ぶ。
イとウについてはオーストラリアがわかりやすいかな。人口が少ない国であり(つまり、GNIが小さいということ)、工業もとくにさかんではない。大量に採掘される資源の多くは海外への輸出とされているのだ。生産も少なくないが(世界の8位までに入っているのだから)、それ以上に輸出国としての地位が高いと考えるのが妥当だろう。ウが「輸出となり、イが「生産」。ちなみに、ヨーロッパで生産が多いのはポーランドなので、これもチェックしておくといい。
なお、石炭といえば何といっても中国が真っ先に頭に思い浮かぶが、アとイからわかるように、生産量が圧倒的に多いだけでなく、消費量はそれに輪をかけて莫大である。本図にはないが、輸入量も世界1位。
[難易度]日本やオーストラリアといったわかりやすい国に注目すればいいね。★☆☆
[参考問題]2012年度地理A追試験第4問問2。地理Aの追試験ということで入手しにくいかもしれませんが、可能な人は参照してください。天然ガスの国別の産出量と輸出量が示された問題ですが、解答自体は図とは関係ありません。「日本では、天然ガスの産出量がほとんどなく、西アジア・アフリカからの輸入が大半を占めるため、輸入先の安定的な確保が課題となっている。」という選択肢が登場し、もちろんこれは「誤り」です。日本の天然ガスの輸入先は。オーストラリアやマレーシアになります。あえて産出量の多くない国から輸入をしているという(天然ガスの主な輸出国はロシア)不整合がそこにあるわけです。ちなみに、2011年度地理B本試験第2問問1では原油の産出、輸出、輸入も登場。こちらも参考にしてください。
問6[ファーストインプレッション]ダイレクトに都市名が登場する問題。いずれもよく知られた都市であるし、過去問にも出題されているので大丈夫でしょう。
[解法]カ;ロッテルダム。オランダの都市でライン川デルタに位置する。沿岸部を掘削して、人工港ユーロポートが建設された。石油化学工業も立地。
キ;デトロイト。アメリカ合衆国五大湖沿岸の都市。周辺の鉄鋼都市(ピッツバーグなど)から鉄鋼が運ばれ、集積地として自動車工業が発達した(しかし現在は不況により市の財政は破綻している)。
ク;バンコク。主に日本などから工場が進出。とくに近年は日本とタイとの間で自動車部品については自由貿易協定が結ばれていることから、自動車の生産が急増している。
[難易度]これは解かなくちゃ!今気づいたけど、ロッテルダムにカッコで「ユーロポート」って書いてあるね。めちゃめちゃヒントやん(笑)。★☆☆
[参考問題]2011年度地理B本試験第2問問6。以外にデトロイトが登場する問題はめずらしい。なお、バンコクは2005年度地理B追試験第5問問5で、ロッテルダムは2010年度地理B追試験第4問問2で登場。
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