たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう
[13]2020年地理B追試験[第3問問1]
都市人口率については、とりあえず「1人当たりGNIに比例する」と考えよう。さらに人口の自然増加率についても「1人当たりGNIに反比例する」。要するに「都市人口率と人口の自然増加率は反比例する」のでもある。
以上より、1人当たりGNIを基本線として考えてみよう。
選択肢は「アルゼンチン」、「インドネシア」、「日本」、「ルーマニア」の4つ。1人当たりGNIの高いのは日本。約40000ドル/人。新興工業国であるアルゼンチンも比較的高い。10000ドル/人程度である。同じく新興工業国で1人当たりGNIが約10000ドル/人であるのは、マレーシア、トルコ、メキシコ、ブラジル。イメージ通りじゃないかな。これに資源国のロシアも加わる。
実はルーマニアの1人当たりGNIも約10000ドル/人であるのだ。ルーマニアはEU加盟国の中では最も経済レベルが低いグループに含まれ、いわば労働力を供給する側。しかし、EUはそもそも1人当たりGNIが高い地域であり、その中で最下位であっても際立って低い値となるわけではない。世界平均の10000ドル/人ほどである。
逆にASEAN(東南アジア)は全体として1人当たりGNIの高い地域ではない。シンガポールやブルネイといった飛び抜けた国もあるが、彼らは例外。工業化の進むマレーシアでも前述のように10000ドル/人程度。インドネシアも近年はオートバイ組み立てなど工業化が著しいが、まだまだ鉱産資源の産出と輸出に依存する国である。人口が大きいこともあり、1人当たりGNIは4000ドル/人程度である(なお、人口が大きいからこそGNIは大きく、ASEAN最大となっている)。
以上より、インドネシアは4カ国中で最も1人当たりGNIが低い。都市人口率が低く、人口の自然増加率が高いものを選んでみよう。もちろんこの比例・反比例関係には誤差もあれば例外もあるのだが、ひとまずもっともそれらしいものを選択すればいいんじゃないかな。そうなると④が最もそれらしいね。これをインドネシアとしてみよう。
本問はここからが面白い。先に1人当たりGNIを中心にそれぞれの指標の関係を説明したが、実はこれには例外があり、ちょうど本問でそれらの国について取り上げられているのだ。
「1人当たりGNIと都市人口率の関係」
1人当たりGNIが低くとも、ラテンアメリカの国々では都市人口率が高くなる傾向がある。
これには2つの要因がある。
まず国家としての成立の歴史。ラテンアメリカはヨーロッパ(スペインやポルトガル)によって植民地支配されたが、その際に植民地支配の根拠地として都市が建設され、そこに多くの移民が生じた。まず都市の発達がみられ、それから国土全体に開発の手が及んだ。都市中心の国家構造になっているのである。
もう一つは新大陸の農牧業の形態。北米、中南米、オセアニアは新大陸と呼ばれる。広大な農園や牧場を少人数で運営する企業的な農牧業がみられる地域である。企業的穀物農業や企業的牧畜など。大資本が投下され、機械化も進み、農牧業にそれほどの人数を必要としない。発展途上地域ではあるものの、ラテンアメリカは比較的第1次産業就業人口率が低く、農村に多くの人々が居住していない。東南アジアの米作地域のような「豊かな農村」がみられない地域なのだ。相対的に都市居住者が多くなり、都市人口率が高くなる。
人口の自然増加率が高いのに。都市人口率も高い①がラテンアメリカのアルゼンチン。
「1人当たりGNIと人口の自然増加率の関係」
「人口増加=自然増加+社会増加」だったね。そのうち、世界の大陸別あるいは国別の人口増加率については社会増加は無視していいので「自然増加率」をメインで考える。
この値についてはおおかまに以下の通り。
2.0%;アフリカ
1.5%;南アジア
1.0%;ラテンアメリカ
0.5%;東アジア・アングロアメリカ
0.0%;日本・ヨーロッパ
おおまかに1人当たりGNIと反比例するが(発展途上国で高く、先進国で低い)、一人っ子政策の影響で若い世代が少ない中国は1人当たりGNIが低いが人口増加率も低く、移民の流入が多く移民の出生率が高いアングロアメリカは1人当たりGNIが高いが人口増加率も高い。
注目はヨーロッパである。ヨーロッパは全体的に経済レベルが高く、人口増加率が低くなるのは当然なのだが、よく考えるとヨーロッパでも1人当たりGNIが低い(というか高くない)国々があるよね。それが「東ヨーロッパ・ロシア」なのだ。1人当たりGNIは10000〜20000ドル/人程度。この地域は1990年代以来の社会混乱や経済的な困窮によって出生率が上がらず、人口の減少地域となっている。まとめて「ヨーロッパ=人口増加率が低い」と覚えてしまっていいが、先進地域ゆえに出生率が下がる(女性の社会進出による晩婚化など)西ヨーロッパの国々と、東ヨーロッパ諸国とで理由が異なっているのだ。都市人口率が低く、人口の自然増加率も低い(というかマイナスとなっている)③がルーマニアである。
日本は②である。人口は微減傾向にある。年間に数十万人ほど減少。都市人口率については極めて高いと知っておこう。実はちょっと前まで日本の都市人口率は60%台だったのだが、最近になって統計の取り方が変わったせいで90%を越えてしまった。昔は「人口密度が高いエリア」を都市とし、「人口密度の低いエリア」を農村として計算されていた。日本の場合、「豊かな農村」がみられる国であり、意外に農村に住んでいる人も多い。しかし現在は行政区分で「○○市」に住む人を都市人口、市ではない「○○町」や「○○村」など郡部に住む人を農村人口と考え、計算がなされている。市町村合併で多くの町村がなくなり、ほとんどが市に含まれてしまった。現在の日本では、統計上の「農村人口」が極めて少なくなり、「都市人口率」が急上昇したのだ。
[14]2020年地理B追試験[第3問問2]
都市に関する問題だが、それ以上にこれらの都市が含まれる地域や国が重要となってくる。
まず国名を確認しよう。ウラジオストクがロシア、シンガポールがシンガポール(これはそのまんまだね)、ドバイがアラブ首長国連邦、ロッテルダムがオランダ。本問はロッテルダムを当てる問題なので、つまりオランダ、そして西ヨーロッパについて説明している選択肢を選べばいい。
選択肢の文章に目を移そう。
まず①について。ここでは「中継貿易港」がパワーワードだろう。これ一発で解いてしまえばいい。もちろんシンガポールだね。シンガポールは商業国家。人口の少なさと1人当たりGNIの高さによって、この国では製造業が発達しない。しかし、シンガポールの輸出品目としては機械類が最大であり、その割合は50%近くに達する。これは世界的にみて極めて高い値。シンガポールは外国から機械類を輸入し、それを港湾や倉庫に留め置いて、そこからさらに他の国へとその機械類を輸出している。まさに「中継」しているわけだ。
さらに「海峡」にも注目。これはマラッカ海峡。マレー半島(マレーシアが含まれる)とスマトラ島(インドネシアの西端に位置する巨大な細長い島)との間の海峡で、幅が狭く、水深も浅い。シンガポールはその南側の出口に位置している。
マラッカ海峡については「海溝が走行し水深が深い」という誤り選択肢で問われたこともあるので注意。
さらに「世界第2位のコンテナ取扱量」にも注目。シンガポールにはシンガポール港しか港がないものの、そのシンガポール港が巨大な貿易量を誇る港湾となっている。おそらく世界1位のコンテナ取り扱い量の港が中国のシャンハイであり、中国こそ世界1位の海運大国であるが、シンガポールも国別ランキングでは決して高い順位ではないものの、港別に考えた場合、世界有数の巨大港を有しているといえるわけだ。
わかりやすいものが③ではないだろうか。ここには「原油収入」という言葉がある。原油が産出され、その輸出によって外貨が稼がれているのだ。いわゆる「オイルマネー」のことだね。西アジアのペルシャ湾沿岸は世界最大の油田地帯であり、原油の産出と輸出に経済が依存する国がいくつもある。そういった国の一つがアラブ首長国連邦であり、主要都市がドバイであるのだ。
アラブ首長国連邦およびドバイについては2014年地理B本試験第4問問4で大きく取り上げられているので、過去問が手に入る人は参照しておこう。
一応、ここでも紹介しておく。
次の写真1(省略)中のサ〜セは、図1(省略)中の都市K(ドバイである)における特徴的な景観を撮影したものである。写真1中のサ〜セが示していることがらとその背景について述べた文章として下線部が適当でないものを、下の①〜④のうちから一つ選べ。
① サは、林立する高層ビル群を示したものである。国際的な金融拠点としての発展にともない、世界中から多くの投資が集中している。
② シは、臨海部に整備された人工港を示したものである。輸出思考型の工業化の結果、西アジア最大の自動車生産・輸出拠点が形成されている。
③ スは、海上に建設された居住・リゾート施設を示したものである。非石油部門での経済発展をめざし、大規模な観光開発が急速にすすめられている。
④ セは、外国人労働者が働く建設現場を示したものである。不動産開発ブームを背景に労働力需要が高まり、国外から多くの労働者が採用されている。
正解(誤文)は②。西アジアの産油国は経済レベル(1人当たりGNI)が高く労働コストが高いため、自動車工業のような労働集約型の製造業は発達しない。ただし、労働力に依存しない資本集約型工業についてはむしろ大規模工場の建設が進み、近年は石油化学工業のみでなく、安価な電力(石油が豊富であるため、火力発電によって安価な電力が得られる)を利用したアルミニウム工業が立地し、世界有数のアルミニウム生産国に成長している。
他の③つの選択肢にしっかり注目しておこう。いずれも正文。これらを元にドバイの特徴をまとめると以下のようになる。
ドバイは高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市であり、経済レベルの高さゆえ、金融業も集中。世界の経済の中心地の一つである。
また石油に依存しない経済も指向されており、その一つが観光業である。ドバイは世界的なリゾート地として注目を集めており、それに見合う投資も十分に行われている。
高賃金国であるため労働集約型の製造業は成り立ちにくいが、それでも周辺国から多くの出稼ぎ労働者が流入する。彼らは主に都市施設の建設業に従事し、その数はアラブ首長国連邦の人口の数割にまで及ぶ。ただし、社会保障などは十分ではなく、待遇は恵まれていない。
どうだろうか。おおまかなイメージはできただろうか。
では②に注目してみよう。ここでは「大陸を横断する長距離鉄道」とある。これが「シベリア鉄道」であるとピンと来れば勝ち。シベリア鉄道は20世紀初頭に敷設されたロシアの鉄道であり、ヨーロッパ地域と極東地域をつなぐ。シベリア地域は石炭資源が豊富であり、これを輸送する手段としても重用されるが、それより最も重要な役割としては当時の歴史背景を鑑み、その軍事利用がある。当時、日露戦争が開戦し、日本軍がロシアの支配する中国東北地方に侵攻した。これを迎え撃つロシアは、人口が多く産業の発達した西部から多くの軍隊と支援物資を送る必要性が生じた。この際に利用されたのが当時開通したばかりのシベリア鉄道だったのだ。その起点と終点となる都市がウラジオストク。日本海に面する港湾都市であり、軍港にも近接している。そもそもウラジオストクとは「東方を侵略せよ」というロシア語に由来している。極東アジアそして日本を支配することを目論んでこの名前が冠せられたかと思うと、ゾッとするものがあるね。なお現在のウラジオストクは日本との交流も盛んな街となっている。新潟市との間に定期航路もあり、さらにウラジオストクには太平洋戦争の時代にロシアで無くなった日本人を弔う日本人墓地があり、遺族の方々もよく訪れているそうだ。
以上より、ロッテルダムは④となりこれが正解。ロッテルダムはオランダの沿岸部の都市であり、ライン川の河口を含む。「国際河川」とはもちろんライン川のこと。なお、国際河川の定義は「沿岸国の自由航行が条約によって認められた河川」のこと。ライン川は凍結もせず、年間を通じて水量もほぼ一定、さらに最上流部を除けば傾斜も緩やかであり、船舶交通に適している。ライン川の河口は三角州が形成され、砂浜海岸が広がる。水深が浅いため天然の港湾には適さない。さらに外洋に面しているため波も荒い。西ヨーロッパの大西洋は偏西風によって海が荒れているのだ。
そのため、ライン川のちょうど海に出る手前の部分の両岸を掘削し、人工港が建設された。ユーロポートである。ヨーロッパ随一の貿易額を誇る巨大港湾であり、「商業国」オランダを象徴する存在でもある。
臨海型の工業も発達し、タンカーによって輸入された原油を利用した石油化学工業が立地する他、この地にはロシアからパイプラインが伸び、これによって供給された原油も利用されている。選択肢④の文章中にもあるが、この「パイプライン」が非常に重要で、ロシアの原油や天然ガスがドイツやオランダに輸出されている。ロシアの輸出相手国の上位3カ国は、1位中国、2位ドイツ、3位オランダである。近接する中国(しかもGNIも大きい。経済大国である)が首位であるのは納得できるが、遠隔地のドイツやオランダが上位にあるのはちょっと不思議な気もする。とくにオランダは人口1500万人の小国である。種明かしをすれば、「パイプライン」に秘密があるのだ。かつてソ連時代にウラル地方やシベリア地方から原油や天然ガスを輸送するために、東ヨーロッパ地域までパイプラインが敷設された。現在はそれが西ヨーロッパにまで延長され、中継地のドイツや終点のオランダまでこれら鉱産資源が輸送されている。西ヨーロッパ諸国にとっても、主な原油輸入先がロシアであることをぜひ知っておこう。
なお、中国やヨーロッパとの貿易が盛んなロシアであるが、対アメリカ合衆国の輸出額は少ないことはぜひ知っておこう。
[15]2020年地理B追試験[第3問問3]
「首都以外」がポイント。要するに首都以外に大きな都市があるかどうかという問題。例えばタイの首都はバンコクだが、これは典型的な首位都市(プライメイトシティ)。国内で他に追随するものがないほどの圧倒的人口を誇り、経済や産業、文化の中心となっている(首都なので政治的な中心でもある)。他に目立った都市はないので、バンコク以外で国際会議が開かれることは稀だろう。
先進国であるがフランスも似ている。パリを中心とする大都市圏には国内人口の10%以上が集中し、中央集権的な傾向の強い国となっている。国内にはリヨンやマルセイユなどそれなりに大きな都市もあるが、やはりパリ大都市圏の存在感にはかなわない。さらに言えば、パリは世界全体でもとくに重要な都市の一つであり(こういった都市を世界都市という。ニューヨーク、東京、ロンドン、そしてパリ)、多くの国際会議が開催されているはず。
ではベルギーはどうだろうか。ヨーロッパの小国で人口は1000万人程度。ヨーロッパでは、特殊な例外を除き「人口最大都市=首都」であり、ベルギーにおいても首都が中心的な都市であることは十分に予想され、小国であるだけに他に大都市は存在しないのではないか(*)。首都に国際会議は集中するはず。
(*)ベルギーは厳密には「人口最大都市=首都」の例外なのだ。首都ブリュッセルの市そのものの面積は極めて小さく、人口も限られている。ただし、ブリュッセルの都市圏を考えた場合、その範囲は行政区分としての市の範囲を越え、周辺地域にまで広がっている。そしてその人口は100万人を優に超え、国内最大の「人口規模」を有する。市としての人口は少ないが、都市圏人口としては巨大であり、実質的に「人口最大都市」と考えていいし、政治のみでなく、産業や経済、文化の中心となっている。もちろん国際会議の数も多いだろう。
(参考1)ヨーロッパにおける「人口最大都市=首都」の例外は(上記のベルギーは実質的に「人口最大都市=首都」に当てはまっている)スイスである。スイスは、それぞれ独自の文化を有する州の連合体である「連邦国家」という特殊な形態。工業都市バーゼル、金融都市チューリヒ、国際都市ジュネーブなど国内に多くの重要都市が並ぶが、首都は国土の中央に近いベルンという小さな都市。
(参考2)ベルギーの首都ブリュッセルは、EU(欧州連合)とNATO(西欧諸国による軍事同盟)の本部が置かれる「ヨーロッパの首都」。当然、多くの国際会議が開催されているだろう。本問については「ブリュッセル=実質的に人口最大都市=国際会議が多い」ではなく、「ブリュッセル=EUとNATOの本部=国際会議が多い」というアプローチで解答する問題だったのかも知れない。
そしてカナダについて検討していこう。人口4000万人の中堅国であるが、面積は世界2位の広さを持つ。こうした規模の大きな国には首都と人口最大都市が重ならない国が多いので、例を上げておこう。[国名・首都・人口最大都市]の順。
(人口1位〜7位まで)
中国・ペキン・シャンハイ(*)、インド・デリー・ムンバイ、アメリカ合衆国・ワシントン・ニューヨーク、インドネシア・ジャカルタ(**)、パキスタン・イスラマバード・カラチ、ブラジル・サンパウロ・ブラジリア、ナイジェリア・アブジャ・ラゴス
(*)統計上はチョンチンが1位。ただし、チョンチンは市の面積が極めて広大であるため、数字が大きくなっているに過ぎない。実質的な市街地の人口(都市圏)を比較すればシャンハイの方が大きい。
(**)インドネシアはカリマンタン島に現在新たな首都を建設中。現在の首都ジャカルタからの移転が計画されている。これが実現すると、人口上位7カ国は全て「人口最大都市と首都が一致しない」国ばかりとなる。
(面積1位〜7位まで)
ロシア・モスクワ、カナダ・オタワ・トロント、アメリカ合衆国・ワシントン・ニューヨーク、中国・ペキン・シャンハイ、ブラジル・ブラジリア・サンパウロ、オーストラリア・キャンベラ・シドニー
カナダの人口最大都市は「トロント」。五大湖に面する都市で、五大湖の水運によってアメリカ合衆国と直接につながっている。アメリカ合衆国から多くの工場が進出し、カナダの自動車工業の中心地になっている。 MLB(野球)のトロント・ブルージェイズ、NBA(バスケット)のトロント・ラプターズの本拠地であり、経済や産業だけでなく文化的にもアメリカ合衆国との一体化が顕著。もちろん英語使用圏である。
それに対し、首都は人口の小さなオタワ。カナダ東部のケベック州はかつてフランスによって植民地支配され、かつては分離独立の動きもあった。現在もフランス語が使用され「北米のヨーロッパ」と呼ばれる地域である。
カナダはこのような多言語国家であるのだが、英語圏のトロント、フランス語圏のモントリオールとそれぞれ巨大な都市が存在し、地域の中心的な存在となっている。しかし国家を統一する首都としてはどちらに偏ってもバランスが取れないだろう。フランス語圏(ケベック州)と英語圏(オンタリオ州)との間にたまたま位置していたオタワに白羽の矢が当たり、首都に選ばれたのである。オタワはそもそもビーバーの皮の取引がなされていた田舎町。それなのに首都という大役を仰せつかってしまい、ちょっとかわいそうではあるんだけどね(笑)
そういったカナダの状況を考えてみたらどうだろうか。首都ではあるが人口の少ないオタワより、カナダを代表する都市として重要性が高いのはトロントの方だろう。どういった国際会議が開催されているかはわからないが、選択肢中の4カ国の中で、首都の地位が低いのは唯一カナダだけである。①が正解。
[16]2020年地理B追試験[第3問問4]
問題文に「都市間の結びつきには、都市の規模や位置関係が大きく影響する」とある。規模と位置について考慮しながら解いてみよう。
まずそれぞれの都市の「旅客数」を計算してみる。これらの都市の間だけの話であるし、他の都市への旅客も多いだろうが、参考程度にはなるだろう。
東京が「90+54+17」で「161」。
アが「54+11+4+4」で「73」。
イが「90+11+2」で「103」。
ウが「2+4」で「6」。
エが「17+4」で「21」。
どうだろうか。東京はもちろん大阪も札幌も規模が大きい都市だが、新潟や長崎はそうでもない。値の小さなウとエが新潟と長崎のいずれかだろう。
ここで注目すべきは東京からの旅客数。東京からエはそれなりの数が存在するが、ウに向かっては無い。東京からウへ赴く人はいないのか。
いや、そうではないだろう。本図はあくまで「空港」間の旅客数のデータ。つまり東京からウについては比較的距離が近いか、あるいは他の交通手段を使った方が便利であるため、空路を用いた移動が「無し」となっているのではないか。この条件から考えるにウは「新潟」になるだろう。なるほど、東京〜新潟間には上越新幹線が走行している。航空機を使うよりこちらの方が移動しやすいということもあるのだろう。
一方のエが長崎。こちらも新幹線などを利用し陸路で達することは可能であるが、しかしそれではさすがに時間がかかりすぎるし、運賃も高いかも知れない。遠隔地であるからこそ航空機を用いた移動が主流であり、値も「17」と大きくなっているのだろう。エが「長崎」である。東京〜九州間は空路を使うのが一般的。正解は④。
ではアとイはどうだろうか。こちらが大阪か札幌になる。先ほどの「新幹線」や「遠隔地の移動は空路」という考え方が生かせるのではないか。東京と大阪の間は東海道新幹線によって緊密に結ばれ、3時間かからない直でお互いの街を行き来できる。もちろん航空機を使えば1時間足らずで双方の空港間は移動できるが、空港から市街地へのアクセスを考えたら決して便利とは言えない。新幹線を使う人も多いのではないか。
その一方で札幌はどうか。最近になって東京から札幌まで新幹線は通じたが、長い時間がかかるし、コストも安くない。九州と同様に、空路を利用した方が移動しやすいだろう。また新潟への直行便はあるようで旅客数は「2」となっているが、長崎とは結ばれていないようだ。位置関係を考えれば、これは妥当なんじゃないかな。イが「札幌」。
残ったアが「大阪」となる。こちらは西日本の中心的な都市として、九州地区とも深い関係があり、長崎にも直行便があるようだ。
[17]2020年地理B追試験[第3問問5]
モスクワはわかりやすい。モスクワはクレムリン(かつての宮殿。ソ連時代に政府機関が置かれた)を中心とした「放射環状」型の街路網がみられる。カがモスクワ。
残る2つは勘で解くしかないが、難しくはないだろう。自動車化が進み、直線的な道路による整然とした街路区画がみられるキがロサンゼルス。農村からの人口流入によってスラムが拡大し、無秩序な街路網がみられるクがフィリピンのマニラ。⑤が正解。
[18]2020年地理B追試験[第3問問6]
いや、本当に素晴らしい。本当に感動しかない。センター史上に燦然と輝く名作。現代日本で生じている大きな問題を、統計データによって示して、我の面前に示してくれる。言葉や文章でガタガタいうのではなく、こうしたシンプルなグラフ一つで全てを表す。そしてそれは、我々日本人が直面している大きな社会的な課題なのだ。こんなに素晴らしい問題をつくることができるセンター試験。美しい文化として未来永劫胸に刻むのだ。
都市や村落に関する問題である。取り上げられているのは近畿地方の3市区町村(3つなのに「市」「区」「町」「村」っていうのはおかしい気もしますが(笑)気のせいでしょう)。この形の問題って、それぞれ「都心部」「郊外」「都市圏外」の3つの地域のどれかに当てはめて考えるパターンが多いのだが、おそらく本問もその一つなんじゃないか。
まず最初に確認しておこう。「都市圏=通勤圏」だったね。そして「都市圏=都心部+郊外」である。都心部とは「昼間人口>夜間人口」となるところ、郊外は「昼間人口<夜間人口」となるところ。都市圏全体では昼も夜も人口は変化しないことも理解できるね。都市圏内の「郊外」から「都心部」への人口流動が一日の中で行われるだけなのだから、「都市圏」全体で考えた場合、その内部の人口には変化がない。
東京の場合、東京都区部を都心部とする都市圏の規模は極めて巨大で、おおよそ半径50kmの円に相当する。この範囲は東京都だけでなく、隣接する神奈川県や埼玉県、千葉県の広いエリアを含み、茨城県の南部もカバーされる。一方で、東京都でも山梨県に接する奥多摩地域は東京大都市圏からは外れる(東京都区部への通勤はできない)。東京大都市圏では産業が発達し、雇用も多く、さらに高賃金である。多くの人口が流入を続けている。
それに対し、大都市圏の「圏外」はどういったところになるだろう。若年層は流出し、高齢者のみが取り残される。いわゆる「過疎化」であり、極端なところでは高齢者の割合が極端に高い「限界集落」もみられるのではないか。「大都市圏外・非大都市圏」は都心部への通勤が不可能なエリアであり、活発な経済活動からは取り残された地域となる。
さて、以上のような都市構造と人口動態に関する基本を押さえた上で問題に取り掛かろう。本問では「近畿地方」とあるが、これにこだわることはない。東京大都市圏だろうが、大阪大都市圏だろうが、名古屋大都市圏だろうが、日本国中のいろいろな都市圏において生じている一般的な事例を考えればいい。個別の特殊な事象ではなく、あくまでスタンダードな、どの大都市圏においても生じている現象を考えて欲しいのだ。そう、考えること。本問は究極の思考問題なのだ。頭を目一杯使って、思考しながら問題を読み解いていこう。
こうした問題では図(グラフ)ではなく先に文章を読んでしまうのがコツ。A〜Cの文章に目を通す。
まずAから。「京阪神大都市圏の中心部に位置する区」となり、「都心部」に該当するだろう。「中心業務地区」とも書かれているね。
Bは「郊外」。「1960年代から1980年代」とは高度経済成長に始まる時期。この時期には多くの典型的な「ニュータウン」がつくられたと思われる。当時は若年層が流入し、さらに子どもたちも多く「若い街」として活気があったのかもしれない。しかしそれから40年が経過し、この街はどういった変化を遂げているだろうか。40年ならば、30代の若い夫婦が高齢者となる年月であり、子どもたちも成人しこの町を出て行ってしまったかも知れない。
Cは「大都市圏外」と示されている。都心部への通勤が困難な地域。「山間部」であり、人口密度は低い。過疎化が進んでいるのだろう。
どうだろうか。大変わかりやすい文章だったのではないか。「京阪神」という言葉を外してしまって何の問題もなかったね。AからCの地域については疑問の余地もないほどに明確なキャラクター分けができている。
図3に目を移す。これらの都市の特徴がグラフではどうやって表されているか。真っ先に見るべきは「老年人口率」である。これは人口増加率との関係性が高い指標。日本国内の市町村の人口変化については。自然増加(出生マイナス死亡)より、社会増加(転入マイナス転出)をメインに考える。「移動するのは若者」であり、人口移動の対象となるのは常に若い世代である。仕事を求めて人々は農村(非大都市圏)から都市(大都市圏)へと移動すするが、彼らは若年層が中心である。人口流出地域は若年層の流出によって相対的に高齢者が増加。老年人口率が高くなる。
1990年における「老年人口率」を比較。「ス<サ<シ」になっているね。人口増加率は「ス>サ>シ」であるはず。先にも言ったように、日本国内の人口増加率については社会増加をメインで考えるべきで、つまり社会増加も「ス>サ>シ」となる。転入人口が多いのがスであり、転出が多いのがシである。若い世代の流入により老年人口率が下がるスと、同じく若い世代が流出することで老年人口率が上がるシ。
これだけで答えは明確ではないだろうか。スが郊外のB、シが大都市圏外(非大都市圏)のCとなり、正解は②。
ちなみに都心部の人口も減少傾向にあり、そのため比較的老年次効率が高くなっていることにも注目しよう。20世紀の日本において、人口流出がみられた地域は、都市圏外の農村ばかりではなく、都心部もそれに該当する。高度経済成長以来の過密化の進行により、都心部では急激な地価高騰が生じた。騒音や大気汚染などの都市公害も生じ、居住環境は悪化。鉄道の整備などによって通勤可能な範囲が拡大し、郊外へ転居する人が増えた。とくに時代は「マイカー」と「一戸建て住宅」が人々の夢とされた時代。夢の実現のために都心部から郊外への人口流動が生じたのだ。ただし、この人口移動もやはり若い世代が中心である。代々その街に居を構え、先祖以来長くその地に根を下ろした家庭もこのような旧市街地には多いはず。とくに高齢者は今さらその街を[捨てる]ことはないだろう。結果として若者が流出し、高齢者が残ることで、都心部の老年人口率も比較的高い値となっているのだ。
ただし、本問の素晴らしさがわかるのはここからだ。問題を解き終わって満足してはいけない。地理の世界の本質に触れよう。
2015年の老年人口率についても確認。今度は「サ>ス>シ」となっている。この25年の間に、サでは16→18%と値が微増であったのに対し、スでは8→26%と、急激な値の上昇がある。これによりサとスの間で逆転が生じたのだ。日本全体で高齢化が進んでいることを考えれば、都心部でわずかしか老年人口率の上昇がみられなかったということは、実質的には「若返り」なのではないか。一方で、郊外では急激な高齢化が生じている。君たちはこの変化についてどう考える?
考えやすいのはスだろう。郊外については具体的にニュータウンを考えればいい。ここで1990年から2015年までの25年間に何が起きたのか?
答えを言えば「何も起きていない」からこそ高齢化が進んだわけだね。当時40代の働き盛りが、25年後には65歳になる。もちろん人口100年時代に65歳なんかまだまだ若造だろうが、それでも数字上は高齢者の仲間入りだよね。そもそも地縁のない「新しい町」。ここで生まれた子どもたちも成人したら親元を離れ旅立っていく。郊外とはいえ都心部への通勤にはちょっと不便だろうし、あるいはこういった土地にはちょうどいいワンルームマンションのようなものも少ないし、地域全体から「子ども世代」も流出してしまうのだろう。これによりかつて「若い町」だったニュータウンはやがて「老人の町」へと変化し、住民たちの年齢層が特定の世界に偏っていることを考えれば、ある意味、地方の山村よりも高齢化の影響は深刻なのかも知れない。
その一方で都心部では何が起こっている?ここで注目するべきは「総世帯数に占める1人世帯割合」である。この値が急上昇しているね。都心部では再開発によって古い住宅地や商店街、町工場が撤去され、その後に多くの集合住宅(マンション)が建設された。そのうちの少なからぬ割合は単身者向けのものであろう。若い世代が都心部のマンションへと移り住み、都心エリアの人口が増加(いわゆる「都心への人口回帰」ですね)、そして若年層の増加によって相対的に高齢者の数が伸びなかったということなのだろう。20世紀中は人口が減少していた東京都であるが、21世紀に入ると国内で最も人口増加割合が高い都道府県となり、とくに特別区部の人口増加が目覚ましい。今、都心部では再開発によるマンション建設ラッシュと若年層や壮年層の人口流入によって急激な人口増加がみられる。現代日本を特徴づける人口動態の様子が、数値によって明確に表される。非常に興味深いデータを用いた、極めて優れた問題なのだ。
最後に。この「都心への人口回帰」について君たちはどう思う?本来なら都心部はビジネスの拠点として多くのオフィスビルが立地するべきであるし。人々が集まり豊かな経済活動が行われるのだから商業施設や娯楽施設、飲食店なども多く集中しないといけない。しかし、現在の日本においては経済活動も衰え、人々の購買意欲も上がらない。結果として「空白」となってしまった「都心の一等地」が単なる人々の住居になってしまうのだ。僕はこれは恐ろしいことだと思っている。もちろん、今さら高度経済成長やバブル時期のような「モーレツ社員」や「24時間働けますか」が流行る時代ではない。しかし都心への人口回帰によって都心部の人口が増加する背景には、日本社会の衰退が、薄暗く浮かび上がっているのである。
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