たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう
2004年地理B追試験[第3問]
「都市」に関する大問!こりゃキツイ。ある程度捨て問が出るのは仕方ないと思って実際の問題を眺めてみると。。。
問1は何とかなる。問2は無理。問3は確実に解く。問4は簡単。問5も簡単。問6は思考問題であり、時間はかかるが何とかなるだろう。問7はちょっと難しいかな。
というわけで実際にはさほど難易度が高い知識が求められているわけでもなく、1問ロスで乗り切りたいところ。
問1 [評価] 都市というキツいジャンルからの出題であるが、このくらいならなんとか解けたのではないかな。「人口最大都市と首都」ネタの問題は最近頻出であり、それがかなり意識されているという点で良問。スイス(ヨーロッパで唯一人口最大都市と首都が一致しない例)を取り上げている辺りなかなか作問者はセンター試験がわかっている。
[解法] まずはスイスから。ヨーロッパには40カ国以上の国があるが、首都と人口最大都市が一致しないのはたった一つスイスのみ。このことを利用してウをスイスと判定する。「連邦国家」もスイスのキーワードであるが、別に知っておく必要はない。
さらに残った2カ国について首都の位置を確認してみよう。イギリスの首都ロンドンは国土の南部に位置している。一方スペインの首都マドリードは国の中央。このことからイをスペインと判断でき、残ったアがイギリスである。
問題そのものはこれで解答できるが、もう少し突っ込んで解説していこう。やや知識に偏った説明になっているので、地理を勉強し始めたばかりの者は読み飛ばすこと。逆にセンター直前の時期にこそ読んでほしい。
ア;「人口第1位の都市」はもちろんロンドン。国土の南部に位置し、テムズ川の三角江(エスチュアリー。河口部分が大きく沈降し、船舶が入って来やすい形状となっている)に面するイギリス最大の港湾都市でもある。人口2位の都市はロンドンの北西部に位置するバーミンガム。イギリスは産業革命当時は全土で石炭の産出がさかんであったが、とくにここは鉄鉱石資源にも恵まれ、鉄山炭田立地型の鉄鋼業が栄えた。この都市を中心とするミッドランド地方は別名ブラックカントリー(黒郷)ともよばれ、製鉄所から排出される黒煙が空をおおったものだった。現在ではこの地の鉄鋼業は衰え(内陸部は鉄鋼業にとって不利な立地条件なのだ)、むしろ自動車を中心とした機械工業がさかんとなっている。日系企業の進出も多い。
イ;「人口第1位の都市」はマドリード。国土中央の半乾燥の高原に位置する首都で、内陸型工業の典型例である自動車工業が発達する他にはとくにこれといった産業はない。むしろ人口規模で劣るものの、商業や文化の中心は沿岸部のバルセロナである。スペイン第2位の都市であり、フランスに近く、観光業もさかん。世界遺産にも指定されている聖家族教会は建築家ガウディの最高傑作としてあまりにも有名。92年にはオリンピックも開かれている。
ウ;ヨーロッパで「連邦国家」とくればドイツやベルギーなどもあてはまるが、やはり典型的なものとしてスイスを挙げたい。とくにこの国は、先にも述べたように、欧州唯一の「人口最大都市が首都と一致しない」国なのである。ちなみにドイツの首都ベルリン、ベルギーの首都ブリュッセルはそれぞれ人口最大都市であるが、世界的にみれば連邦国家の首都は人口規模が大きくないことが多い。米国のワシントン、カナダのオタワ、ブラジルのブラジリア、オーストラリアのキャンベラなどが好例。
[関連問題] 03B追第4問問3が重要。ここで「首都がその国の最大都市にではない」国がいくつか挙げられており、本問もこの流れにある問題だったといえる。
ただしスイスという国そのものに関する問題は少ない。ここは非常にセンター試験で扱われにくい国なのだ。03B本第1問問5でスイスの図が登場した時にはビックリさせられたが、実はこれにしてもスイスを問うものではなく、北ヨーロッパの川・南ヨーロッパの川・東ヨーロッパの川、それぞれに関する問題となっているだけの話。
02B追第1問問4選択肢4もスイス特有の問題というわけでもないだろうが一応紹介しておく。「アルプス北麓」とはスイスのことであるが(スイスとイタリアの国境がアルプス山脈であることに注意)、ここに吹く地方風がフェーン。現在はこれが一般名詞化して、山脈の風下斜面側に吹き降ろす高温乾燥の風を、みなフェーンと呼んでいるが、もともとはスイスの風。
98B追第5問問2選択肢1「アルプス山脈の北側の地域では、山脈を越えて吹き下ろすフェーンと呼ばれる風のために、高温乾燥となることがある」も、02年の問題と同じ。
マドリードは00B追第5問問1で気候グラフが問われている。図1でも場所が示されているのでチェックしておくといい。
ロンドンは出題例が多すぎるので省略。
首都の位置についてもしばしば問われているので、これに関する問題を挙げておく。
03A本第3問問5参照。ドイツの首都がベルリンは東部に位置している。
99A追第3問問5参照。イタリアの首都ローマは半島中央部西岸(半島を脚を見立てると、ヒザの部分)に位置している。
95本第5問問2参照。選択肢1「首都圏とそこから西にのびる」、つまり首都は少なくとも国の西端にはない。選択肢5「首都圏を含む南部」、首都は国の南部。
[対策・今後の学習] ポイントは2点。「人口最大都市ではない首都」と「首都の位置」。
前者についてセンター試験に出題されたところを中心にピックアップしてみる。
中国・・・首都はやや内陸のペキン。人口最大都市は港湾都市シャンハイ。
インド・・・首都は北部のデリー。港湾都市である西部ムンバイ、東部コルカタの方が人口は大きい。
トルコ・・・首都は内陸高原のアンカラ。人口最大都市は港湾都市イスタンブールで、かつてキリスト教の都だった歴史もあるが、現在はイスラム教の巨大モスクが有名。海峡に面し、下関市と姉妹都市。日本の協力によってアジアとヨーロッパをまたぐ巨大な橋が建設された。
ナイジェリア・・・首都は内陸部に建設されたアブジャ。ただし現在でも旧首都である人口最大都市ラゴスへの人口集中の勢いは止まない(それどころかさらにエスカレートしている)。
カナダ・・・首都はオタワ。人口最大都市はモントリオールであるが、都市圏人口ならばトロントの方が大きい。
米国・・・首都は計画的な街路を持つワシントン。人口最大はニューヨーク、以下ロサンゼルス、シカゴと続く。
ブラジル・・・首都はブラジル高原に建設されたブラジリア。港湾都市リオデジャネイロから移転。人口最大都市はサンパウロ。コーヒー豆の集散地。
オーストラリア・・・首都は計画的に建設されたキャンベラ。人口最大都市はシドニー、2位はメルボルンでともに300万人を越える。
首都の位置については少なくともヨーロッパについてはチェックしておいた方がいいだろう。イギリスのロンドンは国土の南部、フランスのパリは北部、ドイツのベルリンは東部、イタリアのローマは半島を脚と見立てるとヒザの部分、スペインのマドリードは中央部。
問2 [評価] マイナーな都市名も含まれており難易度は高い。失点してもやむを得ない。
[解法] ライン川はスイスからドイツ西部、フランス国境を流れ、オランダから北海に注ぐ河川。西ヨーロッパをその流域に収め、それより東側にあるオーストリアは流域から外れる。よってウィーン(オーストリアの首都)が答え。
他の3つの都市については知らなくてもいいだろう。一応参考までに。
バーゼルはスイスの工業都市で精密工業などがさかん。
ボンは西ドイツ時代の首都。さほど大きな町でもない。
ストラスブールはフランスの都市。ドイツ系住民が住み、国際的な都市となっている。
[関連問題] 難問でありながら、決して的外れな問題ともいえない。ポイントとなる都市については過去に出題されたことがあるし、ドナウ川についても03年度にいきなりヘビーローテーションになった国なので04年においても十分に出題が予想されていた。
明らかな類題は97B追第3問問2。類題というよりそのまんまと言って構わない。「河川とそこに立地する都市の組合せ」が問われているのだが、誤りは「ライン川・ミュンヘン」であり、「ドナウ川・ウィーン」は正しい。
同じネタの問題が、7年の時を越えて再度出題されたということ。
ドナウ川については03B本第1問問4、03B追第4問問1で出題。本試の方はスイスを源流とするドナウ川の支流に過ぎないが、それでもハンガリー盆地の豊かな農業地帯を通過しているという話題が登場してきており、やはりこれは見逃せない。また追試の方はいかにも追試特有のパターンなのかもしれないが、国境を問う極めて珍しい形式の問題であったため、やはり要注意であった。ドナウ川がルーマニア・ブルガリアの国境を流れているというネタなのだが、これと関連させて、ウィーン・ブダペスト・ベオグラードといった中央ヨーロッパ・東ヨーロッパの主要都市がこの河川沿いに位置していることを押さえておくべきだったのかもしれない。
ストラスブールについては97A本第1問問1で登場しているが、あまり参考にならないかな。
[対策・今後の学習] ドナウ川をマークしておくこと。白地図を用意し、どこを流れているかを確認。さらにオーストリアの首都ウィーン、ハンガリーの首都ブダペスト、セルビアモンテネグロ(旧名ユーゴスラビア)の首都ベオグラードがその沿岸にあることをチェックしておこう。
問3 [評価] 問1・問2とちょっとキツめの問題が続いた後なのでちょっとホッとするが、それでもややあいまいな文章正誤問題となっており、やっかいさは変わらない。ただしパリという都市名が登場しているものの、決して解答そのものにパリに関する知識が求められているわけでもなく、一般的な都市に関する理解が必要なだけであって、そういった意味では確実に得点してほしいところ。
[解法] 選択肢の文章をざっと見渡してみよう。1については知らない。こんな特殊な知識がそもそも問われるのだろうか。保留。
2については、北アフリカやインドシナにはアルジェリアやベトナムなどの旧フランス植民地があり、ここから移住者がいてもとくにおかしくはないだろう。また先進国においては都心がスラム化するというセオリーは絶対的なものなので、パリ市内にもこういった移民が集中する地区が形成されていたとしてもおかしくはないだろう。
3;パリは巨大な人口を抱える大都市である。日本の東京などの大都市と同じように、郊外に都心へと通勤者が居を構えるニュータウンが建設されていたとしてもおかしくないだろう。先進国の都市など、世界中どこもそう変わらないものなのだ。
4;「都市再開発によって巨大な副都心が形成され」という部分は日本でも考えられる部分である。それに対し「そこに中央官庁と主要企業の本社の大部分が移転した」というのはどうだろう?あくまで副都心とは都心の機能をサポートする立場のものであり、それが都心に取って代わるというほどのものではないと思われる(副都心が「都心」になってしまったら、もはやそれは「副都心」とは呼ばれるべきではないだろう)。
以上より4を誤文と判定する。あいまいで難しいだろうか。
[関連問題] すでに述べているように、本問の解答にはとくにパリという都市についての知識は必要とされていない。とはいえ、パリはセンター試験での登場率の高い都市であるので紹介しておこう。
98B追第1問問6参照。フランス北部にパリは位置する。ここが「都市型の消費財工業」がさかんなのは当然。人口の1割が集中する大都市なのだ。
98B追第3問問1参照。まさにパリの市街地。写真から判断する問題であり、知識は必要ではない(ただし難問であるが)。
98B追第3問問4選択肢3参照。明らかに誤っている選択肢があるので、この選択肢については正誤判定の必要すらない。とにかく、一般的な先進国の大都市においては、副都心がしばしば形成されていることを想像する。
00B追第1問問7選択肢2参照。上の問題が伏線となっている。ラデファンスというのはパリの副都心。
97B追第5問問1参照。パリ盆地にはケスタ地形が見られる。
96追第3問問1参照。パリとは関係ないが、外れ選択肢としてケスタが登場。
95本第2問問2参照。X川はパリを通過するセーヌ川。その河口はエスチュアリー(河口がラッパ状に沈降している。水深が十分で、良港となりやすい)。
95追第7問問1参照。ケスタ地形の断面図が描かれている。パリは盆地となっていること、軟らかい層が削られて硬い層が取り残されていることが重要。
95追第7問問2参照。パリはブドウの栽培北限である。
都市構造に関する問題は非常に出題例が多いので、ここでは省略。
[対策・今後の学習] 結局のところ考えるだけの問題なんだよね~。パリという固有名詞にとらわれず、一般的な都市に関する問題として解くセンスが必要となってくる。センター地理を苦手とする生徒には、カタカナの専門用語(つまり地名)にこだわりすぎて、考え方を窮屈にしてしまう者がいる。より自由で柔軟な思考回路を持とう。
問4 [評価] この問題は問1~3に比べれば断然難易度が低い。たまにはこういう問題もないと辛いよね。時間をかけてじっくり解きましょう。
[解法] とくに解説はいらないような。
1;砂漠の分布している地域というのは、降水が少なく、気温が高い(蒸発量の多い)国土の南西部。カリフォルニア州の沿岸部はさすがに砂漠ではないが、それより内陸部のネバダ州(カリフォルニアに隣接するほぼ五角形の州)、ユタ州(その東側の右上が欠けた形の四角形)、アリゾナ州(その南に隣接。南端はメキシコ国境、北端と東端は直線で切られている)などは砂漠の分布する州とみていい。「50万以上の都市」は1つのみなので「ほとんどみられず」という記述はとくに誤りではないが、「新設企業数の割合」は高いので、この選択肢は不適切。
2;五大湖周辺では自動車工業が発達しているので「自動車工業の盛んな五大湖南岸地域」は正解。
3;プレーリーとは北米の温帯草原のこと。あるいはプレーリー土が広がる豊かな穀倉地帯と解釈してもいい。具体的には、中央平原(ここは小麦地帯となっている)から五大湖南岸(コーンベルト)にかけての広い範囲と考えてみよう。さて、この地域に「人口50万以上の都市」が比較的多いと言えるだろうか。五大湖の南方はともかくとして、中央平原(ノースダコタやサウスダコタ、その周辺の州)にはそのような大都市は存在しない。またこれらの地域の「新設企業数の割合」も高くはない。中・低レベルである。
4;メガロポリスとは米国大西洋岸の巨帯都市群。ボストン~ニューヨーク~ワシントンにかけての地域には巨大な都市が並ぶ。図1参照。米国の北西部に5つの大都市が見られるが、これは北からボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、ボルチモア、ワシントンであり、まさにこの地域に人口が集中している様子がうかがえる。濃く着色されているエリアも多く、新設企業数の割合も高いようだ。まさに米国の経済機能が集中する心臓部である。
[関連問題] 例年このように考えるだけで解ける問題はいくつか出題されており、00B本第1問問4、00B追第4問問4などが典型例。
米国の工業については、02B本第2問問5、99B本第2問問2などで出題。
メガロポリスについては、02B追第2問問4。
[対策・今後の学習] 必要とされている知識のレベルは高くなく(「砂漠の分布している地域」「プレーリー」「メガロポリス」などに関する知識は必要だが、さほど難易度の高いものではないだろう)、問題をじっくり読みさえすれば確実に得点できる。とくに対策は必要ではないが、普段から焦らずに余裕を持って問題を解く習慣だけは身につけておくべき。
問5 [評価] 問4に続いてこれも簡単。っていうか簡単に考えて簡単に解くしかない。
[解法] 問題文に全て書いてある。「シリコンバレー」というぐらいだから近年成長が著しいであろうサンノゼ、そして「衰退」が激しいと思われるピッツバーグ。ニューヨークはこの中間か。
さらに表1。このように年代によって表が区分されている場合は、現在の数値を優先して考える。この表ならば、「1980~1990年」は無視して「1990~2000年」の数値だけに注目すれば、シンプルにこの表をとらえることができよう。Aは高い人口増加率を示し、これをサンノゼと考える。人口が減少しているCがピッツバーグ、残ったBがニューヨーク。簡単に解こう。
ここでひねって「Bは『3.5』から『9.4』に数値が上昇した。これが発展を続けるサンノゼに違いない」と考えるとミスをする。年代による変化をみるよりも、現在の数値一発で解いてしまった方が簡単だし、正解にも近い道である。
[関連問題] 問題の形式としては02B本第5問問6に似ているかな。ここでも「大阪郊外の都市宝塚」というように文章中に大きなヒントが隠されている。
ニューヨークは米国を代表する都市であるだけに出題例はかなり多い。ここでは省略する。
ピッツバーグは初出だと思うが、鉄鋼業のさかんな都市の一つとして02B本第2問問5の図2でも登場している。五大湖周辺に5つある■のうち、五大湖に接していない唯一の■がピッツバーグ。アパラチア炭田上に立地しているのだ。
サンノゼについては、99B本第2問問2選択肢3において「シリコンバレー」として登場。
[対策・今後の学習] 都市名が挙げられているが、都市についての知識は必要とされていないので、これについての対策は不要。むしろ問題文を確実に読解して、これに従い素直に解くことが重要となる。難しく考えることはない。
表については、このように過去と現在の統計が示されている場合には、いっぺんに見ようとはせず、現在の数値のみに注目してそこから考えていくのがベター。シンプルな見方をする。
問6 [評価] 非常におもしろい問題。時間はかかるが、その代わり考えれば必ず解答に達するはず。ボストンという固有名詞にだまされてはいけない。一般的な都市の問題であると考えて、解いていこう。
[解法] 最も簡単なのは「通勤に自動車を利用する人の割合」だろう。これは日本における一般的な都市の通勤風景を考えれば解ける。ボストンだから特別なんてことはないだろう。都心に近ければ、公共の交通手段も発達しているだろう。渋滞も多いと思われ、高地価で駐車場のスペースが確保できないこともあり、自動車に頼った通勤はむしろ不便と考えられる。都心に企業が集中していることを考えれば、徒歩や自転車で通勤している人も多いかもしれない。
このことから、都心に近い地域で「低」、遠い郊外で「高」になっているものを「通勤に自動車を利用する人の割合」を表す図とみなす。明らかにRである。
残った2つについてはやや判定が難しい。ただしPで「人口1人当たり収入」というデータが与えられているので、これを利用しない手はない。この収入差を米国における人種問題と対応させて考える。社会的に低い地位に置かれている黒人は、おそらく満足な仕事も与えられず収入水準も低いのではないかという想像がはたらく。このことから高低の配置がPと真逆にあるものを「黒人人口の割合」とみていいのではないだろうか。つまり黒人が多い地区は全体の所得水準も低く、黒人が少なくところでは豊かな白人などが多数を占めているということ。何の知識もなくとも、これぐらいのイメージはもてるだろう。このことからQを「黒人人口の割合」とする。
さらにQを観察すると興味深い傾向がある。先進国の大都市においては、老朽化が激しい都心地区にスラム(低級住宅地)が形成されることが多く、また、そのようなところはしばしば黒人街のように少数民族の居住地区となっている。このことと重ね合わせると、Qにおける「高」地区はまさに都心近くに形成されたスラムであり、黒人街となっていることが想像できよう。ボストンは米国の北部に位置し、もともと黒人の割合が高い土地ではない。しかし歴史の古い都市であるがゆえに都心には荒廃した地区があり、このような場所に社会的地位の低い黒人たちが入り込み、スラムを成しているのだ。
消去法でSは「世帯主が25歳未満の世帯の割合」となる。これについてははっきりとよくわからない。ただしボストンの学術都市としての特性を考えた場合、「高」を示しているエリアについてはおそらく大学が立地しており、そこに通う学生が一人暮らしをしているのではないかと予想される。そう考えて不都合はないだろう。
[関連問題] 形式としては03B追第2問問2に似ているような雰囲気がある。最初に一つの図が提示され(「人口1人当たり収入」あるいは「地価の地域的差異」のように)、それに続いて3つの図の組合せが問われるというパターンが共通。
また、凝ったグラフィックが使用されている点においては、04B第4問問7と共通点がある。
「郊外の方が自動車保有割合が高い」ことや、「先進国においては都心にスラムができる」ことについても、しばしば出題されているので、各自でチェックしておこう。
[対策・今後の学習] ボストンなどといった固有名詞に惑わされない習慣をつけておくべきだろう。日本だろうが外国だろうが、例えば郊外における自動車保有割合の高さのように、共通するセオリーはあるのだ。このような原理・原則をつなぎ合わせ、じっくり取り組むことによって必ず解答に達するという確信を持つことが大切だ。
問7 [評価] やや難しいと思う。都市についての知識が問われている。ここまであからさまに出題されるのは今までのセンター試験ではほとんどありえなかったこと。珍しい。
[解法] 都市についての知識であるが、決して都市名が問われているわけでもなく、キーワードを丁寧に観察していけば何とか解答可能。
1;「新期造山帯」とはロッキー山脈のこと。位置的に考え、これは正しそうだ。「石油」「天然ガス」についてはよくわからない。保留。
2;米国の中央平原を縦断する西経100度の経線に沿って小麦地帯が広がっている。ホイットルセー農業区分では企業的穀物農業地帯に分類されるところであり、米国中央部では冬小麦、米国北部からカナダ南部にかけては春小麦が栽培されている。このことから考え、「春小麦地帯」は正しいだろう。「東端」のように微妙なところが間違っているとも思えないし、「小麦の集散地」「鉄道交通の要衝」については大平原の真ん中の都市ならばとくに不自然なものではない。
以上より選択肢1・2については、あいまいな点もあるものの、とくに決定的な誤りはないようだ。ここで選択肢3・4を検討する。
3;カナダにはフランス語圏の地域があることは間違いない。大西洋に面した国土東部がその中心である。
4;ケベック州とオンタリオ州の位置はよくわからないが、「政治の中心」というぐらいなのでここが首都なのだろう。
さあ、ここで考えるわけだ。カナダに関しては国土の東部がフランス語圏であるという事項はぜひとも知っておいてほしい。さらにこのフランス語を使用している地域がケベック州ということも知っておけば完璧だろう。このことを考えると、選択肢3と4に不整合な点が出てくる。つまり「ケベック州の範囲はどこまでだろうか」ということ。Yは「フランス語圏」とある。ここまでケベック州に含まれているのだろうか。それとも、Zには「ケベック州とオンタリオ州との境界付近」とある。大西洋岸から始まるフランス語圏の範囲はここまでなのだろうか。
ここで考えてほしいのが、Yの都市の位置的な重要性。五大湖沿岸に位置し、米国との関係性がとくに深いことが想像される。NAFTA(北アメリカ自由貿易協定)によって米国との間に自由貿易圏が成立し、相互に最大の貿易相手国として密接な関係を持つわけだが、この五大湖沿岸という米国最大の工業地帯の一つに隣接するこの都市が「フランス語圏」だと思われるだろうか。それならば、民族的・文化的そして何より言語的障壁が大きく、両国の交流はさほどにまで一体化しないのではないだろうか。むしろYの都市は英語圏の代表的な都市として、(言葉は悪いが)米国に従属する立場にあることが想像される。このことから選択肢3を誤りとし、選択肢4は正文、つまり英語圏オンタリオ州とフランス語圏ケベック州との境はZ付近となるわけだ。
ではさらに各都市について簡単なコメントを付け加えておくので参考にしてほしい。
Wはカルガリーのはずなんだが、この町って実は石油や天然ガスより石炭の方が有名なんだよね(笑)。この地域で油田が有名な都市はその北方にあるエドモントンという都市。僕が問題をチェックする立場の人だったらここは突っ込みを入れておくけどなあ。まあ、ともにマイナーな都市なのでセンターレベルではどうでもいいってことかな。
Xは重要。ウィニペグ。氷河によって作られたウィニペグ湖の南端に位置する都市で、カナダの大陸横断鉄道の要衝として開拓時代はとくに大きな役割を果たした。 現在では春小麦地帯に位置する都市として小麦の集散地としての機能が大きく、カナダの平原地帯を代表する都市となっている。ただしこの都市で興味深いのが典型的な大陸性気候が見られるという点。北緯50度、西経100度というまるで計ったような位置に存在し、ここはまさに北米大陸中央部、最暖月平均気温が約20℃、最寒月平均気温が-20℃(つまり年間平均気温0℃、気温年較差±40℃)という絵に描いたような大陸性気候が表れるところなのだ。ちなみに降水量は、西経100°の経線に沿うことからもわかるように、年間500ミリである。これもわかりやすい。
Yはトロント。都市圏人口カナダ最大(都市圏なので周囲の小規模な都市まで含んだ人口。単独の都市の人口ならばケベック州に位置するモントリオールに劣る)。オンタリオ州の州都で、カナダを代表する工業都市でもある。とくにさかんなものが自動車工業で、米国内からカナダの比較的安価な労働力を目的として多くの自動車工場がこの地に進出している。米国のプロ野球やプロバスケットボールの球団もここに本拠を置き(トロント・ブルージェイズ、トロント・ラプターズ)、文化的にもほとんど米国!
Zはオタワ。カナダの首都であるが、人口規模は小さい。英語圏(オンタリオ州)とフランス語圏(ケベック州)の境界付近に位置し、「多文化主義」カナダの象徴的な都市でもある。
[関連問題] 本試験の方では中国の都市が問われている。04B本第4問問2参照。とにかくこのように都市が話題となることはこれまでのセンター試験にはなかったこと。注意をはらうべきか、それとも開き直って無視してしまうべきか。
[対策・今後の学習] 本問に代表されるように、都市に関する知識を問うのが04年度の特徴の一つである。この傾向が今後も続くのかどうかはわからないものの、ある程度の備えは必要ではないかと思う。センター過去からかつて出題された都市をピックアップして整理しておくといいだろう。
しかし、だからといって必要以上に過敏になる必要もない。今回の問題にしても「ケベック=フランス語圏」ということさえ分かっていれば、何とか解答できたのではないかと思う。むしろ民族ジャンルからの出題と言っていいかもしれない。都市名など覚えたくない!と断言する君は、そう開き直っても大丈夫!?
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