たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう
2019年地理B本試験第5問
比較地誌。第4問でヨーロッパがフューチャーされているのに、こちらでも東欧のウクライナ登場というのはかなり意外。しかもウクライナはクリミア問題でロシアと揉めている(どころか内戦状態だぞ!クリミア半島も実質的にロシアに併合されている)のにあえて出題対象とした思い切りには驚かされる。
さらにウズベキスタンにもびっくり。この国が大きく取り上げられたことは過去にはないんじゃないかな。図から判定して、中央アジアに位置することが何とかわかる程度。
ただ、解説全体を読んでもらえればわかるけれど、この「中央アジア」であることさえ分かれば問題を解くには何の支障もない。別に特殊な知識が必要なわけではない。
さらに、本問中の小問5つのうち、地誌的な内容はほとんど含まれておらず、問1は気候グラフの判定、問2は農産物統計、問3は経済原則、問4は食文化(とくにイスラムの特徴)、問5は言語と宗教(同じくこちらもイスラム)。
地誌が苦手という受験生は多いが、それは過剰な苦手意識であり、真正面から地誌的内容が問われるケースはそもそも少ないのだ。「兵は詭道なり」。相手を欺くことが大切とかの兵法かの孫子も言っている。斜めからちょっと視点をずらして見ることで、簡単に解けてしまう問題こそ多いのだ。
<2019年地理B本試験第5問問1>
[インプレッション]比較地誌だからといって、その国特有の知識が必要なわけじゃない。都市名も地名も登場しない。とくに本問は自然環境。同じ地球の一部なのだから、普通に当たり前に考えればいいでしょ。知らない惑星の問題じゃない。
[解法]自然環境が問われる。地形(標高)と気候の複合問題。ややこしい印象を持つかもしれないが、選択肢がそれぞれ2つずつ(普通の問題なら選択肢は4つだからね)と考えれば簡単。「じゃない方」を考えて消去法で解くこともできるしょ?
さて表1から。これはわかりやすいんじゃない?アは2000m以上の標高の高い地形もみられるけれど、イはほとんど全てが500m未満の低地。普通に考えれば、黒海という海に面しているからウクライナは低地が多く、内陸部のウズベキスタンは全体に高いといみていいでしょう。アがウズベキスタン、イがウクライナ。
気温はもっと簡単。ウクライナの方が北にあるから寒いんじゃないかな。BがウクライナでAがウズベキスタン。正解は④。
[最重要問題リンク]実はウクライナとウズベキスタンの都市の気候が問われた例が過去問にある。2002年地理B追試験第3問問2であるので、入手できるなら参照してみよう。
ウクライナの首都キエフでは冷涼な気候がみられる(冬の気温はマイナス)が、降水量は比較的年間を通じて一定である。ウズベキスタンの首都タシケントは温暖で気温年較差が大きい。夏は30℃、冬は0℃近く。降水量は少なく、とくに夏は全く雨が降らない。
[難易度]★★
[今後の学習]簡単だと言いつつ、難易度を★★としたのは、意外にこうした問題を解けない人っているんですよね。図や表を見るとパニックになる。これを防ぐためには問題慣れをしておかないといけない。やっぱりどんどん問題を解かないと。教科書や参考書を読んで分かったつもりになってはいけない。中学レベルでいいからとにかく問題をたくさん解いて、感覚を養うべきだと思う。
図1の標高についてはとくに言うことはありません。図2の気候グラフはもうちょっと付け加えを。
XもYも内陸部なのだが、Xは一応ヨーロッパに位置し、多少は海洋性の特徴も見られる。偏西風の影響が強いってことだね。それに対し、中央アジアのYは完全な内陸部で典型的な大陸性気候となる。つまり気温変化が大きいということ。気温年較差は30℃近くに達する。これはかなり大きいよ。緯度が近い東京の気温年較差は20℃ほど。東京も大陸の影響が強い気候だけれども(例えば冬はシベリアからの季節風が強い)、それでも海に囲まれている分だけ極端な大陸性気候とはならない。やはり中央アジアはユーラシア大陸のど真ん中であるし、明確な大陸性気候となる。
さらに注目して欲しいのは最暖月の平均気温が30℃に達するということ。これは極端に高い。例えば、熱帯地域でも最暖月平均気温が30℃となることはない。赤道直下のシンガポールの最暖月平均気温は28℃。これは内陸の乾燥地域の特徴。砂漠は極めて寒暖差が大きく、夜は冷えるが、日中の気温は極端に上がる分だけ、1日の平均気温は高くなり、それが月全体の平均気温にも作用する。夏の夜は冷えるとは言っても10℃までは下がらないよね(日本では25℃以上の熱帯夜なんていうのもあります)。でも昼の気温は40℃から50℃近くに達することも!こうした状況なら平均気温が30℃なんていうとんでもない状況もありえるわけだね。
「月平均気温30℃以上は、内陸の乾燥地域」というセオリーは絶対。
さらに降水量。ヨーロッパ的な気候がみられるウクライナは多雨気候。多少の季節による違いはあるけれど、年間を通じて湿潤であるとみていい。
それに対し、内陸部のウズベキスタンはやっぱり降水量が少ない。また、ここで注目して欲しいのは、冬はある程度の降水量があるものの、夏は極端に降水量が少なくなる地中海性気候特有のパターンがみられること。
ウズベキスタンはおおよそ北緯35°に位置する。この緯度がポイントだったね。ヨーロッパで言えば、北アフリカ沿岸部や南ヨーロッパのイタリアやスペインなどと同じ緯度帯。春や秋は北緯25°付近に位置する亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)が、北半球の受熱量の大きい7月を中心とした時期には北上し、北緯35°付近へと移動してくる。この影響によって、地中海沿岸、そしてウズベキスタンは、夏に少雨(乾季)となるのだ(*)。
それに対し、北緯50°に位置するウクライナは年間を通じ偏西風の影響が強い。
(*)同じ北緯35°でも日本を含む東アジアは状況が異なる。東アジアは巨大な大陸と海洋の存在によって、季節風が生じる。
<2019年地理B本試験第2問問2>
[インプレッション]今度は農産物統計の問題。農業区分の問題とも言えるかな。やはり地誌に関する特殊な知識を問う問題ではないね。
もう一つ、鉱産資源に関するネタも出題されているが、こちらは多少の知識が必要。でも決して難しくないからこの機会に覚えてしまえばいい。
[解法]まず農産物に関して判定しよう。農業区分や土壌とも関連づけて考えることができる。
小麦とヒマワリ種子と綿花。このうちヒマワリ種子はマイナーであるので、残る2つをメインに考えていけばいい。
綿花はどういった自然環境で栽培されるだろうか。綿の花が濡れてしまってはいけないから、乾燥気候に適応した作物だったね。もちろん全く雨が降らなかったらそもそも植物は成長できないから、乾燥地域とは言っても灌漑によって農業用水を確保しないといけないわけだが。乾燥地域における灌漑農業である「オアシス農業」地域でこそ生産が多い作物なのだ。
問1ですでに気候については結論が出ている。湿潤気候がみられるウクライナに対し、ウズベキスタンでは少雨であり、気温的にみてそれなりに蒸発量はあると考え、「降水量<蒸発量」のバランスより乾燥気候と判断される。綿花が世界6位であるキがウズベキスタン。
もう片方のカがウクライナ。みんなは「チェルノーゼム」という土壌を知っているかな。成帯土壌に分類される黒土の一種。第1問問1でも土壌は取り上げられているので、そちらの解説も参照してください。
黒土は、やや降水量の多いステップ地域(やや降水量の少ない冷帯や温帯も含む)に形成されるもので、草原の草が枯れて腐植となり表面に厚く積もっている。アメリカ合衆国のプレーリーからグレートプレーンズのプレーリー土、アルゼンチンのパンパのパンパ土、そしてウクライナから東方のロシア南部、カザフスタン北部に伸びるチェルノーゼムである。
これら黒土の分布する範囲については、いずれも「企業的穀物農業」地域となる。企業的穀物農業とは、ホイットルセー農牧業区分の一つで、大規模な小麦農業を特徴とするもの。新大陸が中心であるが、ウクライナ周辺は旧大陸(ユーラシアとアフリカ)でこの農業区分がみられる唯一の例外となっている。「黒土=企業的穀物=小麦」の組み合わせは絶対。
なるほど、ウクライナで小麦生産が多いのは納得だね。これと合わせてヒマワリについても覚えておくといい。
ここからは残った鉱産物について。これは統計に関する知識が必要。ウクライナは世界的な鉄鉱石と石炭の産出国であり、鉄鋼業も発達している。Dがウクライナ。消去法でEがウズベキスタン。金鉱の産出が多いようだが、これは知る必要はない。
[難易度]★★★
[最重要問題リンク]企業的穀物農業について問われた例が1998年地理B本試験第1問問2にある。引用しよう。
図1(省略)中に示した企業的穀物農業地域について述べた次の文①〜④のうちから、誤っているものを一つ選べ。
① P地域(北米大陸中央部)では、肥沃なプレーリー土が分布し、春小麦の栽培が大規模に行われている。
② Q地域(アルゼンチン東部のパンパ)では、大土地所有制にもとづく農業経営が展開して、小麦の栽培が行われている。
③ R地域(ウクライナ)では、肥沃な黒土(チェルノーゼム)が分布し、小麦をはじめ、ヒマワリ、ジャガイモの栽培が盛んである。
④ S地域(オーストラリア南東部のマリー川流域)では、灌漑用に多数の掘り抜き井戸を利用することによって、小麦の栽培が大規模に行われている。
正解(誤文)は④。オーストラリアのマリー川流域では、湿潤地域からトンネルによって農業用水を導き、小麦栽培を行う。「灌漑用に多数の掘り抜き井戸を利用する」のは北東部のグレートアーテジアン盆地。小麦栽培ではなく、「企業的牧畜による牧羊」である。
他の3つは全て肥沃な土壌と結びついたもの。北アメリカのプレーリー土、アルゼンチン東部のパンパ土、ウクライナから東方に伸びるチェルノーゼム。やや降水量が少なく(主にステップ。温帯と冷帯の一部を含む)草原の草が枯れて腐植となることで、肥沃な土壌が形成される。大規模な小麦栽培に利用。
[今後の学習]鉱産物の判定が難しいので、正解率は低かったと思うけれど、農産物については確実に知っておくべき。
「ウクライナ=小麦」は絶対。ウクライナは冷帯からステップへと広がる国で、腐植が豊かな黒土チェルノーゼムに覆われる。肥沃な土壌を利用した大規模な小麦農業が行われ(企業的穀物農業)、トウモロコシやヒマワリの栽培もなされる。
「ウズベキスタン=綿花」もぜひ知っておこう。アラル海の縮小と結びつけて考えるといい。
<2019年地理B本試験第5問問3>
[インプレッション]グラフを用いた考察問題と思いきや(選択肢④なんかはそうだけどね)、経済原則のセオリーを問うた問題となっている。ウクライナもウズベキスタンも旧ソ連の一員であり、かつては社会主義によって経済活動が行われていた、しかし、そうした歴史的背景を知らずとも十分に解ける問題になっている。あくまで一般的なセオリーが問われているのだ。
[解法]経済原則の問題だね。「市場経済から計画経済」が誤り。正しくは「計画経済から市場経済」。計画経済は社会主義政権における経済方式。政府(国家)が国内の生産活動を計画し、国民にノルマを課す。労働者による格差のない平等社会を理想とする社会主義であったが、しかし、計画経済は頓挫する。国民の生産意欲は減退し、経済は停滞。社会主義国であったソ連や東欧諸国は、資本主義(自由競争によって経済は大きく成長する)に差をつけられ、ついに21世紀を待たずに政権は崩壊、社会主義の理想も散り去った。
中国やベトナム、キューバなど未だに社会主義政権が続いている国もあるが、中国では1980年に改革開放政策が開始され、ベトナムでもやはり1980年代後半のドイモイ政策によって市場経済化がなされ、キューバもついに2015年のアメリカ合衆国との国交回復によって今後は市場経済を志向することになるだろう。名前だけは社会主義が残っているが、その本質は大きく変化し、とくに計画経済は消え去ったと思っていいんじゃないか。
[最重要問題リンク]社会主義は国営企業による生産活動でもある。これに関する問題は多い。
2015年地理B本試験第2問問1にこうした選択肢がある。問題そのものは自分でみてもらうとして、当該の選択肢のみ紹介しよう。
① イタリアでは、1970年以降の生産量の減少傾向が続いているが、これは農場の国有化を推進したものの、生産性が向上しなかったためである。
下線部の正誤判定だが、これが誤りであることにはお気づきだろうか。国有・国営の反対語は「民営・私有」である。社会主義政権では計画経済による生産活動を行い、国営企業が中心である。財の私有化は認められず、全て国家が所有する。しかし、これでは生産性は上がらず、やがて経済の衰退がみられる。選択肢の文章が表す「国有化の推進」により「生産性が向上しない」ことはまさにその通りなのだが、そもそも国有化を推進するjこと自体が経済原則から外れている。国有化は忌み嫌われるべきものであり、できるだけこれを廃し、「民営化」に移るべきなのである。
イタリアは西ヨーロッパの資本主義国であり、市場経済(自由経済)によって経済成長をしてきた国である。まさか「国有化」に舵を取ることがあり得るだろうか。本選択肢は全くのデタラメということ。
[難易度]★★
[今後の学習]
すでにソ連が崩壊し、社会主義が実質的にこの世界から消えて30年近くが過ぎている。それでもこのように「社会主義=国有化」がテストで問われるのだから、それだけ強力な思想だったのだろう。
「社会主義=計画経済=国営企業」は消え、「資本主義=市場(自由)経済=民間企業」の世界となる。このベクトルの向きは絶対的。
資本主義国である日本ではあるが、かつては国営企業も多かった。しかし、すでにその多くは民営化されており、生産性の向上がみられる。国鉄からJR、電電公社からNTT、専売公社からJT、農協からJA、郵政省からゆうちょ銀行など(しかし、「J」が多いな・笑)。
<2019年地理B本試験第5問問4>
[インプレッション]食生活の問題なんだが、おそらく宗教絡みの問題なんだろうなとは思う。つまり「イスラム教=豚肉を食べない」というパターンですね。ただ、イスラム教とは豚以外の肉はたくさん食べるので、そこは誤解なきように。魚があれば日本を特定しやすいんだけどね。
[解法]食生活の問題。ただし、選択肢に「豚肉」が含まれているので、まずはイスラム教について整理しよう。
イスラム教は乾燥地域の代表的な宗教。乾燥地域では農業が困難であり、とくに家畜の飼料となる作物の栽培は行わない。家畜に食べさせる分があれば、人間がそれを食べた方がいいよね。牛や羊と異なり、豚は人間が資料を与えることでようやく成長する。「イスラム教=乾燥地域=農業困難=豚の飼育が行われない」というセオリーを意識しよう。もっとも、インドネシアのようなイスラム教が広まった国では、湿潤地域であってもやはり豚肉は食べられませんが。
ただし、ここで気をつけてもらいたいのは、豚肉は食べないけれど、他の肉についてはむしろ盛んに食されるということ。農業が困難なのだから、お腹は肉で満たさないといけないよね。穀物もない、野菜もない、もちろん魚もない。乾燥地域のイスラム教徒は、(豚以外の)肉食民族であるということなのだ。
さらにイスラム教については「商人の宗教」であることも重要。三大宗教のうち、もっとも新しく成立したイスラム教は経済の概念を含み、商人に受け入れられやすかった。またコーランの教えを順守し、アッラーのもとに人々はみな平等という考え方も合理的な思考を良しとする商人に支持された。そもそも開祖のムハンマド自体が商人だったのだ。キリスト教が封建社会において武力を背景に広まり、仏教が自然環境の豊かな農業地域に広まったのに対し、イスラム教は商人たちによって交易路沿いの都市へと広がっていったのだ。
ここで重要となるキーワードが「シルクロード」。古代の通商路であり、ローマなど西洋文化、ペルシャなどオリエント文化、中国など東アジア文化を結んだ「絹の道」。商才にたけたアラブ商人がたちがこの道を往復し、東西の宝物をもう片方の世界へと届けた。この交易の際に同時に伝えられたのがイスラム教である。先にも述べたように、身分差別のない平等を旨とし、さらに金銭にまつわる経済に関する教義が多いイスラム教は、都市の商人たちに受け入れられ、やがて地域全体へと広がっていった。シルクロードが通じるユーラシア大陸中央部はイスラム化されていき、ウズベキスタンなど中央アジアはその代表的な地域となったのだ。「シルクロード=イスラム教」のセオリーもぜひ知っておこう。
このことから、豚肉の割合がとくに低い(とはいえ、1.2%もあることが意外なのだが。イスラム地域ならここは「0」であるべき)サがウズベキスタンとなる。牛肉が多いのが意外だが(乾燥地域には牛は適応しない)、羊肉が他の国に比べて高い値になっているのは納得だね。「乾燥地域=羊」なのだから。
1人1日当たりの食料供給量が低くなっているが、これはとくに意識する必要はないだろう。欧米の先進国(アメリカ合衆国など)ではこの値が大きくなるのだが、本問の選択肢にはそういった国は含まれていない。
さらに残ったシとスだが、ここはその1人1日当たり食料供給量に注目すればいいだろう。先に述べたように、この値は欧米の先進国でとくに高くなる。ヨーロッパ型の食生活はやはり高カロリーなのだ。肉食であり、油脂も多く使用する。
例えば、先進国では飽食が進み、逆に発展途上国では飢餓が生じているなんていう一般的なイメージはあるよね。もちろんそれはある意味正しく、原則として「1人当たりGNIと1人1日当たりの食料供給量は比例する」のは間違いない。ただ、これには絶対的な例外があって、先進国(すなわち1人当たりGNIが高い)にもかかわらず、日本の値はアフリカの後発発展途上国並みに低い。日本とエチオピアの1人1日当たりの食料供給量には大きな差はない。エチオピアはしばしば食糧不足による飢餓に苦しむ国であるが、平均値としては日本と大差がないのだ。日本が欧米の比べ、極めてヘルシーな食生活を送っているのがわかるよね。コンビニ弁当など小売の段階で廃棄される食べ物も多いのにこの値であるということは、実質的にもっと低いのかも知れない。
このことから、ヨーロッパのウクライナと日本とを比較した場合、1人1日当たりの食料供給量が多いシをウクライナ、少ないスを日本と考えることができる。正解は③となる。
人口1人当たりの年間生産量でもウクライナと日本の違いが明確。それぞれの値を合計すると、シの方が圧倒的に多い。肉食中心のヨーロッパと、魚介類の消費も多い日本との違いが現れている。また、羊は乾燥気候に適応するもので湿潤国の日本では飼育されない。スの羊肉の値が「0.0」であるのもつじつまが合う。
[難易度]★★
[最重要問題リンク]イスラム地域というか、乾燥地域に豚が分布しないというネタは頻出だね。
たとえば、2011年地理B本試験第4問問3ではアフリカにおける家畜の分布が出題されているが、サハラ砂漠を中心とした北アフリカには豚がみられない。この地域は乾燥地域であると同時に、イスラム圏でもある(さらにいえば、アラブ圏)。
[今後の学習]食文化の問題だが、宗教を含めた総合的な問題になっているね。ただ、宗教ジャンルとはいえ単なる丸暗記の知識ではなく、理論的な思考が重要になっている。商業宗教イスラム教の伝播の範囲と、交易の道であるシルクロードを結びつけるのだ。ウズベキスタンを含む中央アジアはイスラム地域であるが、彼らがムスリム(イスラム教徒)となったことにはしっかりとした理論の裏づけがあるのだ。
さらにカロリーについてもしっかりセオリーを知っておくこと。原則として「1人当たりGNIと1人1日当たりの食料供給量」は比例するが、日本はその例外でその値は低い。そもそも今回はウクライナとウズベキスタンの1人当たりGNIはわからないので(おそらく低い値なんだろうが)、経済レベルで考えることはできなかった。単に「日本はヘルシーな食生活である」という一点突破で解くべき問題だったと思う。
<2019年地理B本試験第5問問5>
[インプレッション]言語は民族である。地理ではこの考えが徹底しているね。世界中で様々な民族対立が生じていて、それについて「民族が違うのだからしょうがない」という諦め論もあるみたいだけど、果たしてそうなのかな。民族が違うって結局言語が違うだけ。お互いの言葉を理解することで民族の壁は越えられるじゃないか。言語の重要性を考えて欲しいとは思います。
[解法]言語(民族)系統を判定し、さらに宗教と建造物を結びつける。
実は写真1のGが著作権の関係で見ることができないのですが(大学入試センターのサイトからダウンロードしているので)、これ、おそらくモスクなんじゃないかなとは思うんだよね。おそらくそうでしょ?
中央アジアは「商業の宗教」であるイスラム教が広まった地域。古代の通商路であるシルクロードに沿って、アラブ商人たちが交易をしたため(ちなみに、イスラム教自体は新しい宗教であるので、シルクロードの方が成立年代は全然古いんだけどね)、中央アジアを含むユーラシア大陸中央部にはイスラム教が広まっている。トルコからイラン、中央アジアそしてウイグル。
イスラム教を代表する建造物は「モスク」。イスラム教はアッラーの元に人々は完全平等であるので、仏教の僧侶やキリスト教の神父や牧師にあたる役職はない。モスクは基本的には無人であり、金曜日の礼拝日に人々が集まり、礼拝を捧げる。ドーム状の屋根と、周囲を囲む複数の尖塔が特徴的。ドームの下は広い空間となっており、ここが礼拝の場所となる。尖塔は、内側の螺旋状の階段によって上まで登ることが出来、高所よりコーランの語句を朗々と歌い上げる。周囲の人々はこの歌声によって礼拝の時刻が来たことを知る。
おそらくGにはこのモスクが写されているのでしょう(違ったらゴメン。。。)。Gがウズベキスタンに該当。モスクについては各自画像検索してみてください。イスタンブールのブルーモスクが有名でこれが典型的と思うんですが、イランや中央アジア、さらにはアフリカのサヘル地帯など、独特な形状のものもある。いずれも「ドーム状の屋根」と周囲の「複数の尖塔」は必ずチェックして。
よって反対のHがウクライナ。こちらはヨーロッパで一般的に広まっているキリスト教。ちなみに、今回は関係ないが、東方正教が信仰されている。
次に言語に目を移そう。これは難しいっていうか、感覚で解いたらいいと思うよ。トルコとロシアが挙げられているわけだ。さて、ウクライナとウズベキスタン、どちらがどちらの国とより関係が深いのだろう。
本来、宗教と言語(民族)って無関係であるし、短絡的に決めつけるのは危険。でも、ここは他に手がかりがないから、シンプルに考えるしかないと思うよ。
トルコがイスラム教であり(これは絶対に知っておいて)、ロシアがキリスト教。トルコと関係が深いのはウズベキスタンで、ウクライナがロシア。トルコと言語が似ているタがウズベキスタン、ロシアと近いチがウクライナとなる。
図1を見ると逆にトルコとウクライナの位置が近くて関係が深そうなんだけどね。ウズベキスタンはトルコ系民族(言語)で、トルコ系の国はトルコから中央アジア、ウイグルにかけてユーラシア大陸中央部の乾燥地域を横断する。まさにシルクロードが通るイスラム地域。一方、ウクライナはロシアと同様のスラブ系民族(言語)の国。宗教も東方正教(*)で一致する。ウクライナもウズベキスタンも旧ソ連の国ではあるが、旧ソ連のメインの国であるロシアと密接な関係にあるのはウクライナで、ウズベキスタンはそうでもないんだね。
(*)東方正教は、カトリック、プロテスタントと並ぶキリスト教の3大宗派のうちの一つ。国ごとの伝統宗教を結びつき、教義内容が変化するという特色があり、ローマ中心で世界全体で教義が変わらないカトリックとは対照的。東方正教が信仰されるのはセルビア、ロシア、ウクライナ、ギリシャなどだが、それぞれ国内ではセルビア正教、ロシア正教、ウクライナ正教、ギリシャ正教と呼ばれる。
[難易度]★★★
[最重要問題リンク]ウズベキスタンについて問われた問題が過去にある。
(1998年地理B追試験第2問問7)
次の写真2(省略。人々が路上で買い物をし、背後にはモスクが見える)は、図1(省略。旧ソ連全体の図。砂漠地帯は中央アジア)の砂漠地帯のあるオアシス都市で写したものである。この写真あるいはその付近の説明として最も適当なものを、次の文①〜④のうちから一つ選べ。
① シルクロードの交易で栄えた時代の伝統を受け継ぐバザールであり、ときおりコーランの一節をよむ声が聞こえていた。
② 衣料品や食器などに加えて、香辛料やマンゴー、パイナップルなどの特産品を売られていた。
③ 羊肉や鳥肉などが大量に並べられ、名物の豚の串焼きは人気が高かった。
④ 付近は社交場であり、その土地に住む年老いた男性が数人ずつまとまり、酒を飲みながらおしゃべりしていた。
正解は①。モスクの尖塔の上では、コーランを歌う人がいる。②は誤り。香辛料やマンゴー、パイナップルは多雨地域の作物。③も誤り。肉は多いが、豚肉はない。④も誤り。イスラム教ではアルコールは禁じられる。代わりに水タバコを楽しむ人は多い。
[今後の学習]中央アジアがトルコ系言語(民族)であるというトピックが知られていなかったんじゃないかと思い、難易度については「難」と判定してみた。これは知らなくてもしかたなかったんじゃないかな。
トルコと中央アジアがともにイスラム地域であり、ついでに(?)言語系統も同じであると覚えておけば十分でしょう。
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