たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう
2008年度地理B本試験[第5問]問1
[講評] すごい問題だ。日本の社会に対する強烈なアンチテーゼを含む批判精神に富んだ問題。僕はすごくおもしろいと思います。でもそれだけに問題としてはやや解きにくい印象。結構この問題でミスった人も多かったんじゃないかな。
[解法] まず「階級区分図」であることを確認。さらに階級区分図とは相対的な数つまり割合を表すものなので、取り上げられている指標が「女性議員の割合」という相対的な数であることも確認する。
例えば実数ならば、人口規模とある程度比例する傾向があるため、人口を意識しないといけないのだが、本問はそれとは関係ない。割合の場合は、例えば経済レベルと関係することが多いので、1人当たりGNIの高低を意識しながら考えるといい。
では、実際に問題に取りかかってみよう。
問題文には「国会の議席に占める女性議員の割合」とある。センターではほぼ初出の珍しいデータであるが、おおまかに想像できるのではないか。
こういった世界全体を表す図においては、日本に注目するのが最重要。具体的にイメージしやすい。本図においては日本は「B」のグループに属している。さぁ、これは高中低のいずれなのだろうか。
日本は経済レベルの高い先進国である。先進国では一般的に福祉が充実し、女性の社会進出も盛んなはず。このことからBを「高」とまず考えてみる。でも、本当にそうなのかな。20%っていったら結構なもんだぜ。日本の状況を考えてみるに、そんなに女性議員の割合って高いんだろうか。イギリスのサッチャーやドイツのメルケルのようにすでに世界には女性の首相っていうのが何人もいるわけだが、日本では今だにそういった人物は現れていない。経済的には先進国であっても、女性の地位が確立されているかといえば、必ずしもそうではないような気もするのだ。
そこでもう一度図を確認していく。日本以外に、経済レベルの高さに特徴がある地域はどこなんだ!?それは、、、、北欧じゃないか?人口規模が小さいために、相対的に1人当たりGNIが高くなるという理由はあるものの、世界で最も福祉が充実し、弱者を保護するための政策もいたるところで実施されている国々である。このことを意識して図を参照すると、たしかに北欧諸国はそろって日本とは異なり「A」となっているわけだ。
このことからAを「高」と判定し、Bを「中」と考える。これならつじつまが合うと思う。それにしても、日本が中国より「遅れてる」なんていう指標はすごくめずらしいと思うよ。日本もまだまだなんだね。女性の総理大臣が普通に登場するようになってこそ、日本は世界に追いついたと言えるんじゃないかな。いろいろ考えさせられる問題なわけです。
[学習対策] どんな問題であっても「ジャパン・アズ・ナンバーワン」でいいんだと思う。経済レベル、経済規模、工業力、貿易、いずれも日本は世界のトップクラスである。しかし本問にみられるような「女性の社会進出」については世界でも2流レベルっていうわけだね、つくづく反省させられます。
そういった「意外性」を含む問題であるだけに、本問の難易度は高かったと思う。「必ず正解せよ」というレベルの問題ではなかったと思うし、ここで失点しても仕方なかったでしょう。とはいえ、教訓としてはやはり「北欧の特殊性」に注目することだね。たしかに日本は世界最高水準の国ではあるけれど、その先を走っている国々が北欧諸国であり、まだまだ我々も見習うべき点が多いということ。ヨーロッパはすでに「次の段階」に進化しているのかもしれない。
2008年度地理B本試験[第5問]問2
[講評] 人口ピラミッドを用いた問題形式。日本国内の市町村の人口ピラミッドの登場頻度は高いものの、このように国ごとの人口ピラミッドが登場した例は珍しい。さらに形式も、特定の国を当てる問題ではなく、下に示された老年人口率との組み合わせを答えるというこれまた珍しい形式。ちょっとこんなパターン、私大の問題でも見たことない。問題を担当した先生が、たいへん工夫して作っていることが伺える良問です。この第5問にはこういったオリジナリティあふれる問題が目立つのも事実なのだ。手抜きなし!感服します。
[解法] 人口ピラミッドは大まかな形を見るのではなく、細かい部分を見ていかないといけない。
まず図2の人口ピラミッドが2000年の統計に基づいて描かれている点に注目。これを意識して、図3をみる。「2000年」のところに縦線を描いてみよう。図にはできるだけ補助線を描くと効果的。
そうすると、2000年の時点で最も高齢化が進んでいる国がアであり、次いでイ。最も老年人口率の低い国がウということがわかる。
これを上のグラフに当てはめる。ただしこれらの人口ピラミッドは65歳以上が示されていないので、想像するしかないのだが。
最も老年人口率が高いのはEだろう。「60~65」歳の人口割合も男女ともに5%を超え、最も高齢化が著しいと想像できる。
次いで老年人口率が高いのはGではないか。「60~65」歳の割合はさほど高くないが、人口の多い年齢層が40代近辺であるなど、Fに比べて全体的に平均年齢が高いことが伺える。
そして、最も老年人口率が低いとみられるのがF。「60~65」歳の割合が最も低く、老年人口割合は低いと想像される。また40台以上の割合もEやGに比べて低く、将来的に急激な高齢化の可能性もない。
[学習対策] 本当に変わった問題だと思う。もちろん悪い意味でなく、いい意味で。解いていてやりがいがあるよね。それにしても作問者はどこからこういった問題を発想できたんだろうか、たいしたイメージ力だとも思う。
対策としては「ひたすら考える」だけなんだよな。もちろん、人口ピラミッドの判読や老年人口率に対する理解、さらには図やグラフに補助線を引くなどのテクニックなども重要ではあるんだが、それらを全部ひっくるめて、完全な「思考問題」として完成度が高い。
僕には何もいうことがありません。考えよ、そして答えを得よ。そういうことなのだ。
2008年度地理B本試験[第5問]問3
[講評] スラムの問題。今までとちょっと出題パターンが違う。注目すべき問題です。
[解法] 「不良住宅地区」とはスラムのことであるが、スラムについては「先進国では都心部に形成、発展途上国では都市周辺に形成、日本には存在しない」という公式がある。これに当てはめて選択肢3をみていくと、「農村部」という言葉が気になる。そもそも先進国だろうが発展途上国だろうがスラムは都市にできるものなのである。それが「農村部」ってのはそもそもおかしいんじゃないか。よって3を誤りとする。
本問については他の選択肢は気にする必要はない。それほどまでに「スラム」ネタは鉄板なのだ。
[学習対策] セオリー重視の姿勢を徹底する。
2008年度地理B本試験[第5問]問4
[講評] 民族・宗教・言語に関する問題。新課程となった06年以降の2年間、センター地理B本試験では宗教ジャンルからの出題はなかった(民族や言語はあったけれど)。久々の宗教ネタがここで登場。しかも正文指摘問題であり、つまり誤文を3つ指摘しないといけないという難解さがある。それぞれの文章の正誤判定は難しくないものの、どこかでミスをする可能性が大きいぞ。慎重に。
[解法] それぞれの選択肢を検討していこう。
1 「北アイルランド」とは国名ではなく、イギリスの地方名である。アイルランド島はそもそもカトリック教徒の多い地域であるが、北アイルランド地方のみはイギリス本国から流入したプロテスタント教徒が多く、複雑な宗教構成をみせている。ここは「多数派のプロテスタントと少数派のカトリック教徒」というように改める。なお「東方正教」はロシアなどヨーロッパ東部で主に信仰されている。
2 旧ソ連は15の共和国から構成されている連邦共和国であったが、そこから分裂して成立したロシアもまた多くの共和国から構成されている連邦共和国である。ロシア内の共和国の一つチェチェンはイスラム教徒が多く、分離独立運動もさかんである。
3 ブラジルは旧ポルトガル領であり、公用語はポルトガル語。
4 これが正解。
[今後の学習] 新課程になってこのジャンルは軽視されたと思いきや、今年に限っては出題が多く、ちょっとビックリ。ちょっと重点的な学習が必要かもしれない。とくに選択肢1のネタは出題率が高いので正確に覚えておくこと。「北アイルランド地方は、多数派のプロテスタントと少数派のカトリックが対立」である。
2008年度地理B本試験[第5問]問5
[講評] ネタとしては単純。ストレートに行きましょう。
[解法] ドイツは、高度経済成長期に主にトルコからの移民を多く迎え入れ、現在でも国内におけるトルコ人の人口が多い。2が正解。
[学習対策] 基本的な問題なので、本問はそのまま頭に入れてしまおう。
1はフランス。アルジェリアやモロッコなど旧植民地からの移民の流入が多いだけでなく、現在はEU圏内の同じラテン系言語の国であるポルトガルからの労働者の流入が顕著。
3はスペイン。エクアドルやコロンビアは旧植民地でスペイン語を使用する国。
4はスウェーデン。人口規模の小さい国であり、外国人労働者の数も多くはない。せいぜい近隣の北欧諸国からわずかに流入する程度。
とくに重要なのは、選択肢1。フランスとポルトガル、さらに旧植民地との関係を押さえておこう。
2008年度地理B本試験[第5問]問6
[講評] さらに民族の問題。Lのイスラエルはセンター地理Bで既出なので、とくに問題ないと思うけれど、KとMの判定が難しいかな。今年のセンターの傾向の1つである「2つに絞ってからが難しい」というパターンに当てはまるもの。とはいえ、ボスニア・ヘルツェゴビナ(K)はセンター地理Aでは06年に出題されており、全く対策が不可能なわけでもなかったんだけどね。
[解法] 真っ先にわかるのはLとカの組み合わせ。カの「ユダヤ」に注目してほしいのだが、世界中にユダヤ人国家は1つだけ、イスラエルである。イスラエルを含むLの地域に該当する。
ただしここからがやっかいだったりするんだよね。とくにKの地域(旧ユーゴスラビア)についてある程度の知識がないと明確には答えづらい。しかし、それでもクの「干ばつ」に注目すれば何とかなるだろう。Mはソマリアという国だが、この隣国であるエチオピアについては、しばしば干ばつなどによる食糧不足が生じ、多くの餓死者や病死者が生じているなどのニュースを見聞きしたことがあるだろう。そうでなくても、アフリカ大陸の半乾燥地域などでは砂漠化が進み、それにともなう干ばつで多くの人々が環境難民とならざるをえないということはよく知られているはずだ。Mをクと判定するのはとくに無理のある話ではないだろう。そもそもヨーロッパのような湿潤地域で干ばつはないだろうしね。
消去法でキがKとなる。「国の体制が崩壊し」とはユーゴスラビアが崩壊し、6つの国に分裂したことを表す。「複数の民族・国家間紛争が生じて」とは例えばボスニア・ヘルツェゴビナのキリスト教徒やイスラム教徒などの内戦を指す。もちろん多くの難民も生じた。
[学習対策] 今後もこの3つの地域の民族問題は出題が予想されるので、要点を整理しておこう。
Kは旧ユーゴスラビア。1980年にそれまで強権的な力を持っていた大統領が死去したため、彼の影響力によって統一されていた6つのユーゴスラビア構成国は分裂していった。西より、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアである。なお地図上には5カ国しか示されていないが、これはまだセルビアとモンテネグロが連邦を形成(セルビア・モンテネグロ)していた時代のものだろう。連邦解消は2006年。
宗教構成の複雑な地域で、西側のスロベニアやクロアチアではカトリック教徒が多く、東側のセルビアやモンテネグロ、マケドニアでは東方正教徒が多い。中央のボスニア・ヘルツェゴビナ(三角形の形の国。わかるかな)は両勢力にはさまれカトリック教徒と東方正教徒が分布する他、先住のイスラム教徒も存在し、3つの宗教が混在する非常に危ういバランスの上にある国なのだ。ボスニア・ヘルツェゴビナが独立した90年代前半には、「人間が想像しうる範囲の凄惨なことなら全て起きた」と言われるほどに悲惨な内戦が勃発し、国民の多くは難民化した。
ボスニア・ヘルツェゴビナの位置をしっかり目に焼き付けておいて、ヨーロッパではめずらしいイスラム教徒が存在する地域であることを印象づける。さらに「内戦」「難民」もこの国のキーワードである。
Lの西アジアはイスラエルとその周辺諸国である。第二次世界大戦時までこの範囲は全てアラブ民族の土地であったが、終戦後世界中からユダヤ人たちがこの地へと集まり、土地を占領し、打ち建てた国が「イスラエル」である。この時にもともと住んでいたアラブ系の民族(パレスチナ人)は国外へと難民として流出した。この「パレスチナ問題」は21世紀にまで至るアラブ民族とユダヤ民族の対立の原因の一つである。
イスラエルについては「ユダヤ民族」であることが最重要。パレスチナを滅ぼし、イスラエルを建国したのだが、これによりアラブとの対立が決定的なものとなった。
Mのソマリアについてはセンター初出ということもあり、しばらくは突っ込んだ問題も問われないだろう。とりあえず「アフリカの角(つの)」と呼ばれるその位置だけは目で確認しておこう。さらに国連軍を巻き込む大規模な内戦が勃発した国として知っておいてもいい。
とはいえ、実はソマリアって国民の大多数はアラブ系の民族から構成される単一民族国家であり、宗教もイスラム教徒がほとんど。つまり「民族対立でも、宗教対立でもなく、内戦が生じた国」だったりするのだ。このことはとくに覚えなくてもいいけれど、世界にはそういった国もあるのだなって知っておいてもいいんじゃないかな。っていうか、我々は「内戦は、民族や宗教の対立によって生じる」という固定観念に縛られ過ぎているんじゃないだろうか。おそらく内戦(っていうか戦争そのもの)を引き起こす負のパワーっていうのは「貧富格差」に起因するものが最大じゃないかな。民族とか宗教っていうのは二次的な要素で。民族や宗教が違ったって人を殺そうとか思わないでしょ?人を殺戮に誘う悪魔の心は、経済にあるんじゃないかと僕は思うよ。
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