たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう

<[地理A]2025年/本試験・第3問解説>

たつじんオリジナル解説[地理A]2025年/本試験・第3問

 

<第3問問1>

南アジアは全体的に「西で少雨、東で多雨」である。西部のパキスタンのアでは降水量が少なく④が該当。パキスタンが少雨であることは今年は地理総合・探究でも登場している。外来河川インダス川でキャラクター付けしておくべき国。外来河川とは乾燥地域を流れる河川のことと考えていい。

南アジア全域が季節風帯に位置する。夏はインド洋からの季節風(モンスーン)の影響で多雨となり、冬はシベリア方面からの季節風で少雨となる。インド半島西岸のムンバイでは降水は夏の数ヶ月に集中し他の時期はほとんど雨が降らない。雨季と乾季の極端な気候は綿花栽培や映画撮影(晴れが多いことは撮影に有利だね)の発達に関係している。

ただ、やはり降水については地球全体の気圧帯も考慮に入れるべきだろう。地理Bでは第1問問2でまだガルカル島が出題され、貿易風の降水における影響の強いこの島において、実は夏(南半球なので1月)は熱帯収束帯の影響こそ強いのだという話題が問われている。エのスリランカも同じ状況が言えるだろう。たしかに季節風の支配下にある島であるが、低緯度(赤道に近い)ことから熱帯収束帯の影響も強い。赤道に近いこの島では激しい日射によって年間を通じ熱帯収束帯の影響が強く、常に一定の降水があることは想像されよう。つまり本来はほとんど降水のない冬の南アジアであるが(ムンバイが典型的)、スリランカは冬でもある程度の降水はあるのではないか。1月の降水量に注目し、この値が比較的大きい①が正解となる。

他の3つの地点では、冬に降水が生じる理由がみつからない。陸からのモンスーンが卓越し、乾いた空気が噴き出す。水分の供給がみられず降水もないはず。それに対し、4地点のうち、1月に降水が生じる可能性があるのはエだけである。赤道に近く熱帯収束帯の影響は十分に考えられる。

もちろん1月は南半球の日射量が多く地球全体の気圧帯も南下する。熱帯収束帯もやや南半球側に形成される。しかし熱帯収束帯は「帯」であり、赤道を中心とした比較的広い範囲に降水をもたらすはずだ。やや北半球側に位置するスリランカも、1月の熱帯収束帯の影響下にあると考えていいと思う。熱帯収束帯=スコールがみられる。

イとウが②と③のいずれかになるが詳細不明。インド洋に面したバングラデシュの方が熱帯低気圧(サイクロン)の来襲がみられそうで夏にとくに多雨となるのかなとも思うけれど、ヒマラヤ山脈の南麓こそ年間降水量の最大記録をつくった地域であり(もちろんモンスーンによる)、ネパールの降水量も多そうだ。

 

なおちょっと古い問題であるが2003年地理B第3問問1をぜひ参照して欲しい。ムンバイの季節ごとの極端な降水量の変化がメインテーマであるが、それ以外にインド半島東岸のチェンナイという都市も登場しており、ここは夏以外の季節も降水量が比較的多い。11月や12月にも一定の降水がある。南アジアのモンスーンの風向が「夏は南西、冬は北東」であることを考えて欲しい。インド半島西岸やヒマラヤ山脈の南側(ネパールやバングラデシュ)では夏にこそ湿った空気が入り雨季となる。しかしインド半島東岸のチェンナイに南西モンスーンが吹くならば、それは陸地(インド半島)からの乾いた風である。この時期の降水は多くない。南西モンスーンが弱まった秋以降に雨がみられるようになる。インド半島東岸ならばむしろ北東モンスーンこそ、海からの風となる(日本列島の日本海側が冬に北西モンスーンの影響で湿った空気がもたられることと同じ理屈)。

 

<第3問問2>

南アジアはかつてイギリスによって植民地支配されていた。独立の際に主な宗教分布によって国境が策定された。

ヒンドゥー教地域・・・インド・ネパール

イスラーム地域・・・パキスタン・バングラデシュ(両国は最初は一つの国だった、現在は分離)

仏教地域・・・スリランカ

とくに興味深いのがインドとパキスタンの国境。ここはとくに宗教と国を明確にするため、住民の転居が行われた。ヒンドゥー教徒はインド側にムスリムはパキスタン側に移住。しかし北部のカシミール地方ではこういった住み分けが進まず両信者の混在地域となっている。(身分制度を認める)支配者層はヒンドゥー教徒であり、(平等が原則である)一般の住民はムスリム。インドとパキスタンが帰属を争って紛争が生じた地域でもある。

インドで多数派のカがヒンドゥー教となり、一方のキがイスラーム。Aはヒンドゥー教徒の割合が高くネパール。Bは仏教でスリランカ。Cはイスラームでパキスタン。

なお、インドについてはイスラームも比較的割合が高い(14.4%)ことも知っておこう。インドの総人口は14億人を超え、ムスリム人口は2億人に近い。スリランカは北部にインドから移住したヒンドゥー教とも多く、総人口の13.6%に達している。

 

<第3問問3>

都市の形態としては計画的に開発された街路区画を読み取ることがポイントとなる。2024年にはブラジリアが出題されている。航空機の形に似た幾何学的な街路区画を持つ都市です。人工的に建設された政治都市。

本問の写真の都市もそういった幾何学的なものを感じないかな。中央に円形の広場があり放射状に周辺に街路が走っている。直線化された道路が多いことも現代になって整備された都市の特徴であり(古い時代につくられたものでも長安や京都の碁盤目状区画のような例外はあるが)、とくにHの中央に東へと続く太い幹線道路は最近になって作られたものではないか。

一方のGであるが、ちょっと見ただけでは分からないけれどよく見るとどうだろう?細かい曲がりくねった道路が縦横に走り、やや無秩序な印象である。計画的に都市デザインがなされたものとは思えないし、自動車の走行にも不便なので古い時代につくられた伝統的な街区であることが想像される。

写真を判定してみよう。いずれも中央に大きな建物がみられるが、視点はその周囲である。サは建物が雑多に密集し、道路もさほど広いわけではない。それに対しシはどうだろうか。周辺は広く公園のようになっており、道路も広そうだ。整備された街区であることが想像される。雑多なGがサ、整備されたHがシであると見ていいんじゃないか。

さらにHは現代になって新たに設けられた街区であるので、近代的な都市機能としていわゆるCBD(中心業務地区)となっているのではないか。南アジアのように古くから商業が発達した地域(シルクロードや海の道に沿う)ならばむしろ古い街区にこそ伝統的なバザールがみられ、現在でも活況を呈した市場となっていることも考えられる(日本のような農業地域は市場の発達はあまり見られなかったよね。農業地域と商業地域の違いも想像してみよう)。一方で先に挙げたブラジリアの例をみるまでもなく、幾何学的な街区がみられる都市は首都として整備された計画都市も多く、本問で取り上げられている都市も少なくとも写真の南部地域については首都の機能を有する「政治都市」とみていいのではないか。古くから商業の中心地として栄えた都市が、植民地時代にイギリス(南アジアは全域が旧イギリス量)によって行政区が置かれ、独立後も首都として行政機能が集中しているのではないか。Hは「行政」である。

都市がテーマとされている点は最新の地理総合探究の傾向とは異なるが、しかし取り組むに価値のある良問であると思う。

 

<第3問問4>

誤文判定問題だが、これっていきなり①がおかしくない?「1人当たり州内総生産が大きい州ほど、州の人口が大きい」とあるが、「1人当たり」の指標は原則として人口に反比例する傾向があるよね。計算式は「州内総生産」÷「人口」である。北部の人口最大の州(最も円が大きく描かれている)の1人当たり州内総生産の指数は「50未満」であり小さいね。これが正解。

 

問題そのものはこれだけで解けるが、せっかくなので補足説明もしておこう。

選択肢①について。北部の「50未満」の州はガンジス川の低地に沿っている。農業が盛んな地域であり、人口が多い。しかしこの人口の多さが仇となって「1人当たり」の値は低くなってしまう。同じガンジス川沿いで共通の文化圏(具体的に言えば、ヒンディー語を使用している)に含まれるデリーへの出稼ぎ移動は多くなっている。

選択肢②について。「経済格差」については経済レベルの差を考えればよく、経済レベルは国家間でいれば1人当たりGNI。もちろん今回の図においては1人当たりの州内総生産。北部には「50未満」もあれば一部には「150以上」もみられる。格差は大きい。人口にばらつき(農業が盛んなガンジス川沿いは人口が多く、ヒマラヤ山脈に接した山間地は人口が少ないなど)があることも一つの要因。

選択肢③について。

選択肢③について。デリーへの人口移動数が多い2つの州はいずれも「50未満」であり、1人当たり州内総生産が低い。つまり経済レベルが低い。

選択肢④について。これは図からは判別できないが、経済のセオリーを考えれば問題ないだろう。「人は金を求めて動く」。経済レベルが低い(賃金水準が低い)地域からデリーへと多くの人口が移動しているが、これはもちろん豊富な雇用機会と高い賃金水準を求めてのもの。

「北インド」の最も南西の州にはムンバイが位置している。この州は人口も比較的多いが、1人当たり州内総生産も「150以上」になっている。ムンバイを中心に各種産業が発達し、地域全体の経済レベルも高くなっている。世界最大の工業地域の一つである。

 

<第3問問5>

製造業に関する問題。まずPとQから判定しよう。バングラデシュはその低賃金であるがゆえに製造業が発達している国。付加価値の低い軽工業とくに繊維工業(衣服縫製業)の工場が外国から進出している。バングラデシュは極めて1人当たりGNIの低い国であり、そして他の南アジアの国々同様女性の地位が低く、女性の賃金水準はとくに安い。安価な労働力を利用し衣服が作られており、この国の主要輸出品目でもある。「繊維・衣料・皮革」の割合がとくに高いQをバングラデシュとする。

残ったPがインドである。インドは世界第4位の自動車生産国であるなど、重工業も発達している。「輸送用機械」など各種工業の割合も高い。インドは鉄鋼の生産は世界第2位であり、さらに原油の輸入も多く石油化学工業もみられる。

 

さらに1人当たり二酸化炭素排出量であるが、これは先ほどの重工業の発達の度合いと対応させればいいだろう。鉄鋼生産で大量の石炭が使用され、原油も世界有数の輸入国である(なお鉄鉱石や石炭も輸入している)。あくまで衣類など軽工業中心のバングラデシュとは化石燃料資源の使用については大きな差があるだろう。1人当たりの石炭や石油の消費量が多いと考えられ、1人当たりの二酸化炭素排出量も同様である。タがインドであり、チがバングラデシュである。

 

<第3問問6>

これはおそらく③が正解なんじゃないかな。トイレの設置と人口の増減については関係性が見えない。トイレがなかった時代には例えば人々は河川に直接排泄し、下流側の住民が病原菌に汚染された河川水を飲むことによって伝染病が蔓延することになる。排泄物を一箇所にまとめ土中に埋めたり燃焼させて廃棄することでそういった病気の伝染は防がれ、衛生環境は改善される。病気でなくなる人が減るのだから平均寿命は伸び死亡率は低下する。こういった状況を考えればむしろ人口は増加する(高齢者が増える)のではないか。もちろん長期的に考えれば高齢者の割合の上昇によって相対的に若年層の割合が低下し、出産年代が減ることで子どもも減ることになるのでいつかは人口増加率の低下に寄与することにはなるだろう。しかしインドはまだその段階にはないと思う。ようやく人々がトイレを利用するようになっただけの社会状況だ。

トイレと人口増加との間に因果関係がないので、これが誤りとみていいだろう。

 

 

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