たつじん先生の共通テスト(センター試験)地理解説!楽しく勉強していきましょう
たつじんオリジナル解説[地理B]2025年/本試験・第1問 |
<[地理B]2025年/本試験・第1問問1解説>
[ファーストインプレッション]
最後の「地理B」ですね。第1問は絶世の良問揃いです。最後の最後までこれほどまでに圧倒的な問題たちを残しておいたのか!とくに問2以降の気候など理論に基づいた問題は素晴らしいです。こちらの問1は大地形に関する問題なのでそうでもいないけど(笑)。でもこれまでに出題された大地形ジャンルの問題の内容を確実に反映した良問であることは間違いないです。地理B「大地形」の集大成。
[解法]大地形に関する問題。地理Bの大地形ジャンルは教科書では地質学と地形学のハイブリッド(というか中途半端)になっている。地質学とは過去に遡って地形の成因を考える学問。この地形はどうやってできただろうか。地形学とは現在どこにどのような地形がみられるか。そのまま観察するだけの科目。地理が「理論」科目であることを考えると、前者の「地質学」こそ大きく取り上げられるべきものだと思うかも知れないが、実は全くの反対で試験で問われているのは「地形学」に関するものばかり。つまりどこにどんな地形があるかという「現在の姿」のみが問われる。
例えばロシアや北米にみられる広大な平原は「卓状地」あるいは「構造平野」と呼ばれる。古代の岩盤の上に地層が堆積し、それが長期間の侵食によって平坦化された地形であるが、地形学の観点では現在の形に注目し「テーブルのような形」であることから卓状地と呼ぶのに対し、地質学の観点では「地層が侵食される」という形成過程に注目することから構造平野と呼ばれる。同じ地形なのに見方によって名前が異なる。このようなダブルスタンダードが地理Bにおける大地形ジャンルの本質であり、もちろんこれは好ましいことではなかった。新課程の地理総合・探究では大地形ジャンルは大きくブラッシュアップされ、地形学が強調されるようになった。
そして前述のようにテストにおいても地形学の考え方がメインとなる。本問がその典型だね。海底地形が問われているが(この海底地形がよく問われるのもセンター・共通テスト地理Bの特徴の一つだったのだ)、その「深さ」というやはり「現在の姿」が問われている。まさに地形学だね。
では地形学のコンセプトを意識しながら問題を解いてみよう。海の深さに関する問題。まずは「深い」ところに注目しよう。海においてとくに深くなっている海底地形ってなんだろう?そう、「海溝」だよね。地質学(地形の成因に注目)に基づいていえば「海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む一帯に形成された溝状の低地」だけれども、もちろんここでは成因は関係ない。単に「海溝の分布」にだけ注目しよう。
海溝は次のものをチェックしておくこと。おおまかな位置さえ分かれば問題ないが、地図帳で確認しておいてもいい(一般に地図帳は地理では使用しないので必須ではない)。
日本列島周辺の太平洋北西部に海溝は集中している。千島列島の南岸に沿う「千島カムチャッカ海溝」、北海道や東北地方の太平洋岸に沿う「日本海溝」、そこから南に伸びる「伊豆小笠原海溝」と「マリアナ海溝」。とくにマリアナ海溝はグアム島やサイパン島に沿う世界最深地点(海面下10000m)を含む。
マリアナ海溝の西に位置する「フィリピン海溝」。フィリピンの西に広がるフィリピン海海溝の西縁がフィリピン海溝、東縁がマリアナ海溝。
海溝はほとんどが太平洋をぐるっと囲む環太平洋を走っているのだが、数少ない例外が「スンダ海溝」。インド洋唯一海溝であると同時にアルプス・ヒマラヤ造山帯に沿う海溝でもある。しかし、このような「例外」があえて出題されるのが大地形ジャンルのおもしろいところ。気候など理論に基づくジャンル(そして地理はほとんどがこうした理論ジャンルである)ではセオリーが徹底的に出題され、例外的な事項は無視されるのだが、大地形ジャンルはそうではない。海溝はそのほとんどが「環太平洋造山帯・太平洋」なのだが、テストで最も多く出題されているのはこの例外である「アルプス・ヒマラヤ造山帯・インド洋」のスンダ海溝なのだ。インドネシアのスマトラ島やジャワ島の南に沿う(なお、スマトラ島の北はマラッカ海峡で浅い海域。スマトラ島を挟んだ海の「浅さ・深さ」は頻出ネタ)。Cはインドネシアであり、この円内に海溝が存在していることは明らか。最も深い「6000m以上」の値が大きい(というかアとウはこの値がゼロである)イがCに該当する。他の海溝については後述。なお最近では2022年地理B本試験第1問問1でもインドネシアの海溝(さらにメキシコの海溝も)が出題されているのでチェックしよう。同じネタばかり出題されているなんて、真面目に勉強するのがアホらしくなるね(笑)
さらにAとB。これは島の分布を見ればいいんじゃないかな。Aは「500m未満」がほとんどを占める浅い海域。瀬戸内海をイメージすればいいけれど、浅い海域ならばちょっとした土地の凹凸によって島が多く浮かぶ海域になるはず。多くが島で占められているBがアとなり、正解は⑤。
Aは全体に深い海域(とはいえさすがに海溝ほど深くない)が広がりイに該当。ちょっと待て!Aにも島が見られるじゃないか!いやいや、この島々こそ去年出題されているじゃないか。2024年地理B本試験第4問問1を見てみよう。Bの線はハワイ周辺を表している。ここには多くの島々が連続して並んでいる。いずれもホットスポットで形成された火山であり、その規模な極めて大きい。海底からの比高は数千mを越え、中にはハワイ島のマウナロア山のように(地表面からの)標高が4000mに達するものもある。この山が水深4000mの海底から聳える火山と考えれば、「標高」は8000mを超えるのだ。なんと巨大な火山!
これらの火山がどのようにして形成されたのかは知らなくていい(繰り返すけれど共通テストの地理はあくまで地形学であり、成因を考える地質学ではない)。ただ、ホットスポットという言葉を知っている人もいるね。地下のマントル対流の上昇部に当たり、プレートを突き破ってマグマ(溶岩)が噴出している。プレートはあたかもベルトコンベアのように西の方向に動いているので、古い時代にできた火山(西側にある)から現在作られつつある火山(東側にある。ホットスポットの上)まできれいに一列に並ぶことになる。Bの断面は④に該当するが、多くの凸がみられ、これらはいずれも火山。ハワイ諸島からBの線まで火山が連続している(ハワイ諸島の形もそういえば東から西に島が並んでいるが、これについてもホットスポットとプレートの移動を考えて欲しい)。
ここで問題に戻ろう。再度図1を注目して欲しい。Aの点戦内にいくつか島がみられるが、これは火山島であり海底から聳える巨大な山岳である。陸上で考えるならば、見渡す限りの広大な平原の中にいくつか巨大な火山が点在している。A付近の海底は深く、水深は数千メートルに及ぶだろう。しかしそこにさらに標高数千メートルにも及ぶ火山がいくつもみられ、それぞれ山頂の部分が海水面の上に達し火山島となっている。ほとんどが「3000~6000」の深海であるウがAだろう。浅い海域(火山島の周辺)はごくわずかである。先ほどの2024年地理B本試験第4問問1の図も参考にしてみよう。全体としては深度は大きいが、そこに多数の凸(火山)がみられ、その周辺のみ水深が浅い。
残ったBがアであるが、これは消去法で考えればいいと思う。陸地の周辺のとくに浅い海域が「大陸棚」であり、その目安は「水深200メートルまでの浅海底」。本問の表1ならば「500m未満」が大陸棚に該当する。大陸棚の範囲は実は限られており、それぞれチェックしておくといい。
・東シナ海・・・中国や朝鮮半島と日本列島の間。アジが漁獲される。尖閣諸島付近には天然ガスの埋蔵が確認されている。かつて陸地だった時代には朝鮮半島から人々が日本列島に渡ってきた。
・マラッカ海峡・・・マレー半島とスマトラ島の間。シンガポール港が臨している。西アジアから東アジアへの原油タンカーの通行が多く、時には座礁などの事故も生じる。
・北海・・・イギリスとヨーロッパ大陸の間。全体的に浅い海域であるが、とくにバンク(浅堆)と呼ばれるとくに浅い箇所も分布。古くからトロール漁業が行われる。巨大な船舶が大型の網を引いて航行し、海底のカレイなどを漁獲する。海底油田・ガス田の開発も進む。とくに近年は多くの風力発電施設(洋上発電所)が設けられ、イギリスなどの風力発電量は大きな伸びを見せている。なお、この地域は大陸氷河に覆われていたので、他の大陸棚のように「最終氷期(氷河期)には陸化していた」という表現は当てはまらない。
・ベーリング海峡・・・ユーラシア大陸と北米大陸の間。最終氷期には陸続きとなったこの海峡を渡って、ユーラシア大陸からモンゴロイドたちがアメリカ大陸へと移動した。南北アメリカの先住民であるイヌイット(エスキモー)、アメリカインディアン(ネイティブアメリカン)、インディオはモンゴロイドに起源を持つ民族である。
・アラフラ海・・・インドネシアとオーストラリアの間の海域でインド洋の東部に位置する。熱帯低気圧サイクロンの発生。
・ラプラタ川沖合・・・アルゼンチンの東側の海域に大陸棚が広がり、その延長上にフォークランド諸島が位置。イギリスとアルゼンチンとの間で領有を巡る紛争が生じた。
[アフターアクション]海溝の続き。オーストラリアは安定地域(安定陸塊および古期造山帯)であり海溝はない。一方、変動帯(プレート境界の新期造山帯でもある)のニュージーランドは北に「トンガ海溝」と「ケルマデック海溝」が伸びる。南米太平洋岸に沿って「チリ海溝」と「ペルー海溝」。さらにメキシコの太平洋岸には「中央アメリカ海溝」。一方、アメリカ合衆国本土とカナダには海溝はない。アラスカからユーラシア大陸に伸びるアリューシャン諸島という弧状列島(弓なりに連なる島。日本列島と同じタイプ)に沿って「アリューシャン海溝」。
これらの海溝が(スンダ海溝を除き)環太平洋造山帯に伴うものであることが分かるだろうか。実は環太平洋造山帯は分岐しており、一部が大西洋側に伸びている。南米の北端からアメリカ合衆国のフロリダ半島方面に多くの島々が並んでいるのが分かるだろうか。日本列島やアリューシャン諸島のように弧状列島となっているものもある。これらの多くは火山であり、実はこれらは環太平洋造山帯に属する地形。太平洋側から枝分かれし、大西洋にも地殻変動の活発な地形が連続しているのだ。火山が多くなっており、もちろん海溝もある。プエルトリコ島の北に沿う「プエルトリコ海溝」。
海溝の数は多くないし、その半分以上が日本の近くに集中しているので覚えるのは難しくないと思う(地理で「覚える」という言葉はあまり使いたくないけれど、大地形ジャンルそして地形学においてはそれは例外。とくに海溝は出題率が極めて高いので覚えて仕舞えばいい)。
というわけで地理Bラストの大地形ジャンルの問題だったんだけど、改めてこうして分析してみるとやっぱり良い問題だよね。とてもキチンとした問題。これまでにセンター・共通テストで問われた内容がしっかりと反映され、それに基づいて問題が組み上げられている。曖昧さのない、堅実な問題だと思う。
<[地理B]2025年/本試験・第1問問2解説>
[ファーストインプレッション]本当に素晴らしい!地理Bラストの今回、この第1問は歴史に残る傑作だと思う。これまで使いたかったのにあえて使わずにとっておいた問題を満を持してラストに投入したってことなんじゃないかな。第1問の問題全てがエクセレント。これが地理Bの実力であり、地理という科目そのものの底力でもあるのだ。こちら問2ももちろん素晴らしく、気候ジャンルの名作である。大学入試センターはいつからこの問題を用意していたのかな。最後の最後に全地理学習者の前に提示してきた。それほどの「お宝」問題なのだ。
[解法]マダガスカル島に関する問題だけれどももちろんこの島についての特殊な知識は不要。図1に場所は示してあるので、赤道のやや南側という位置のみが重要である。
まずはカとFから考えていこう。
図2はマダガスカル。カとキは1月と7月いずれかの降水量の多寡を示したもの。等値線図であsるが、具体的な降水量は示されていない。カは等値線が縦方向に描かれている。東部で多雨、西部で少雨。これに対しキは等値線が横方向、緯線に並行するように描かれている。北部で多雨、南部で少雨。なぜこういった違いが生じるのだろう?
では雨が降る理由についてまずはまとめてみよう。「雨が降る=雲ができる」だよね。雲ができるためには気温が下がらないといけない。気温が下がるためには高度が上がらないといけない。ようするにどうやって(水分を含んだ)空気が上空に持ち上がれられるかということだ。
降水パターンには4つある。
1)対流性降雨
熱帯収束帯におけるスコールや日本の夏の夕立など。太陽熱によって地表面付近の空気が暖められ、激しい上昇気流を生じる。日中に雲(積乱雲)が生じ夕方に一気に降り下ろす。短時間の集中豪雨。
2)低気圧性降雨
気圧の谷(高気圧と高気圧の間)に風が吹き込み上昇気流が生じる。上空の風によって雲が移動。日本上空では偏西風によって西から東へと低気圧が移動し各地に雨をもたらす。
3)地形性降雨
湿った風が山地にぶつかり高度を上げて冷却されることで雲を生じる。風上側斜面で降水量が多くなる(風下側では少雨)。季節風帯の日本では夏に太平洋側で多雨(南東季節風)、冬に日本海側で多雪(北西季節風)。
4)前線性降雨
暖気団と寒気団の交わる前線に薄い雲ができる。降水量は少ないが曇りがちの天気になる。日本の梅雨、寒帯前線(亜寒帯低圧帯)による降雨。
マダガスカルの位置を確認。南半球の低緯度である。地球の気圧帯を考えよう。赤道周辺に熱帯収束帯、緯度25~30度付近に亜熱帯高圧帯、緯度50~60度付近に亜寒帯低圧帯(寒帯前線)、極付近に極高圧帯。熱帯収束帯と亜熱帯高圧帯の間に貿易風、亜熱帯高圧帯と寒帯前線の間に偏西風、寒帯前線と極高圧帯の間に極風(極偏東風)。
マダガスカルは緯度から考え、貿易風が卓越する。貿易風は東寄りの風であり(北半球では北東風、南半球では南東風)、マダガスカルでも東から西へと風が吹いている。この風がインド洋から湿った風をもたらし、風上側である東岸で降水量が多くなり、そして風下側の西岸は少雨となる。なるほど、この降水分布に合致するものとしてカの図がある。縦方向に等値線が通っているということは、横方向(東西)で降水量が変化していくということ。東から風が吹いて地形性降雨を生じている。
ただ、ここにはもう一つ図が用意されている。それは北部(北東部)で多雨、南部(南西部)で少雨となっているキである。これってどういう意味だ?
問題文を参照するとカとキは「1月」と「7月」のいずれかであるとされている。あれ?マダガスカルは年間を通じ貿易風の影響が強いので、一貫してカのような降水パターンがみられると思ったけど違うのか。とりあえずカの方が通常の状態に近いとしても、キのような降水分布になる理由を考え、それによって季節を推理しよう。
ここでカギとなるのはもちろん地球全体の気圧帯(風系)であり、そしてその季節的な移動である。太陽の受熱量を考えた場合、1月は南半球側で大きくなり夏となる(北半球は冬)、7月は北半球側で大きくなる夏となる(南半球は冬)。キでは北部で、つまり低緯度側で降水が多くなっている。低緯度地域の雨にはいろいろなものがあるけれど、その一つとして「熱帯収束帯」を考えてみていいんじゃないか。受熱量が大きい赤道周辺の大気は熱せられ高温となり膨張する。密度が下がり(気圧が下がり)激しい上昇気流を生じ午後にスコールと呼ばれる集中豪雨に見舞われる。月降水量は500~600ミリにも達する(日本の夏の月降水量は200ミリ程度)。マダガスカルは低緯度であるため、この熱帯収束帯による降水も十分に考慮されるべきである。
南半球の低緯度であるため、この気圧帯の影響も当然大きいものと思われる。とくのマダガスカルの北部は赤道に近いよね。熱帯収束帯によって対流性降雨のスコールが生じ、極めて雨が多くなることも考えられる。なるほど、キの図において北部の多雨地域ではスコールが降っているのだ(*)。
ではその時期っていつだろう?これは明確なんじゃないかな。南半球の低緯度地域に熱帯収束帯が移動してくる時期、それは地球と太陽の関係を考えればわかるよね。1月を中心とした南半球の夏。地軸が傾いていることで南半球側に太陽光が集まる。受熱量が大きくなるのは南半球側となり、熱帯収束帯も南緯10度付近に移動する。まさに本図のキにおけるマダガスカル北部である。キを1月と判定する。
もう片方のカは7月となる。7月ならば地球の気圧帯全体が北上しているため亜熱帯高圧帯の影響で降水量が少なくなりそうだが、この島ではその影響は少ないのだろうか。ちょっとよくわからないのだが、キが明らかに1月なのでカについては消去法で考えるしかないかな。
以上よりカは「7月」、Fは「貿易風」となる。
さらにGだが、まずは文章を検討。「熱帯域から(G)回りの経路で移動してくる熱帯低気圧」とある。これ、ちょっとイメージが難しいよね。日本付近の台風(サイクロンと同じく熱帯低気圧である)の経路を参考に具体的に考えてみよう。熱帯低気圧は低緯度海域で誕生。南シナ海やフィリピン周辺。そこから北上していくのだが、最初は東からの貿易風に乗るため「北西」の方向へと進む(東風は西へ向かって吹く風である点に注意)。これが緯度10~20度ほど(なお、緯度0度=赤道周辺では転向力が作用しないので熱帯低気圧は生まれない)。そこから緯度25~30度の亜熱帯高圧帯を縦断し、偏西風帯に入ると今度は西風であるため、新しい針路は「北東」となる(西風は西から東に向かって吹く風)。偏西風と貿易風の風向と台風の動きを対応させて考えよう(**)。
このルートを考えるとひらがなの「く」の字を(普通の書き順とは反対に)下から上へと向かうルートとなる。時計の文字盤に当てはめたら「6時→9時→12時」の向き。これ「時計回り」に移動するとみていいよね。
それに対し南半球の熱帯低気圧の動きをシミュレートしてみよう。北半球と同じく緯度10~20度の温暖な海域で誕生。ちょうどマダガスカルの北部から中部がこの緯度帯に該当するだろう。ここは先ほどから言及しているように貿易風帯である。熱帯低気圧は低緯度から高緯度方向に向かって移動する。北半球なら南から北であるが、南半球では北から南の方向へ。マダガスカル周辺の海域で発生した熱帯低気圧もやはり南に向かって移動するのだが、この時、貿易風の影響を受けることを考えよう。貿易風は東寄りの風。東から西に向かって吹く。北から南に向かって移動する熱帯低気圧に貿易風の力が作用すると、その針路は「南西」の向きとなる(貿易風は東から西に吹く風である)。やがて熱帯低気圧は25~30度付近の亜熱帯高圧帯を縦断する。マダガスカルのちょっと南ぐらいだろうか。緯度35度より南側は偏西風帯となる(なお、アフリカ大陸南端(例えばケープタウンはよく知られた都市だろう)は南緯35度である)。針路は「南東」となる(偏西風は西から東に向かって吹く)。そのルートはひらがなの「く」を上から下に筆順通りに描いた道筋と一致する。時計でいえば、12時から9時、そして6時である。このカーブの仕方、どうだろうか?「反時計回り」になるんじゃないかな。北半球とは赤道を挟んでちょうど線対象(鏡写しのように)となる。Gは「反時計」となり、⑧が正解。このルートに沿って考えるならば、赤道のちょっと南側のインド洋南西部で生まれた熱帯低気圧(サイクロン)はマダガスカルの北東部を直撃する。このため、夏(1月)に降水量が多くなるのは納得だね。
サイクロンの発生については上でも述べたように今年は地理総合・探究第3問問1でも出題されている。熱帯低気圧の発生や移動のメカニズムについては整理しておこう(ちょっと古いけど、2008年地理B本試験第1問の図1が熱帯低気圧の移動については分かり易い)。
(*)なお2025年はこれに類する問題としてスリランカの降水量も問われている。モンスーンの影響が強くとくに冬の北東モンスーンが卓越する時期にはほとんど降水がみられない南アジアだがスリランカは例外。赤道に近く熱帯収束帯の影響がみられるため、年間を通じて一定の降水がある。単純に「南アジアはモンスーンの影響で雨季と乾季が明瞭」と決めつけるのではなく、「赤道に近いところは熱帯収束帯の影響もあるのではないか」と重層的な思考が大切になる。
(**)台風の動き方についてはもう一つ考え方がある。日本の南方の太平洋高気圧(小笠原気団。亜熱帯高圧帯の一部)の周辺をぐるっと回り込んでから日本列島に達する。高気圧の周囲では風は時計回りに吹いている。台風もこの風に乗ることによって「時計回り」の軽度で移動することになる。南半球においてもインド洋(マダガスカル東方)に巨大な高気圧があるとすると、南半球では高気圧の周囲を反時計回りに風が周回するので、これに沿って低気圧も反時計回りのルートで動くことになる。
[アフターアクション]めちゃくちゃいい問題だね。本当に感心した。というか感心を通り越して感動した。僕が一生を捧げてがんばってきた科目(大袈裟だな・笑)は裏切らなかったってことだ。本当に素晴らしい。1997年から30年近く続いた地理Bの完成系がここにあったということだ。
何回も繰り返しているが、気候は徹底的に理論が問われている。いつまでもケッペンの気候区分のことばっか教えている全国の地理講師のみなさんって何を考えているんだろう?いや、これは皮肉でもなんでもなく、シンプルな疑問。過去問を研究すればケッペンの気候区分が出ていないことには簡単に気づくのだが。
それでもなぜケッペンばかりがもてはやされているのだろうか。「ケッペンの気候区分=暗記」だよね。結局のところ、ケッペン気候区分にこだわっている人ってスキルがないんだと思う。理論的に地理を教えることができないから、仕方なしにケッペンの気候区分みたいな知識つまり暗記事項を生徒さんに教えているだけなのだ。いや「教える」なんていう高級な行為ではないか。単なる「伝言」ゲームだな。教科書の内容をそのまま「伝えている」だけ・理論的な思考を持つことができないだけではなく、それを理解し教えることもできない。僕はそう思うよ。
これもよく生徒さんに言われるんですが、「たつじん先生は理論派ですね。他の●●先生は知識派であり、私(生徒さん)は両方のいいところを吸収して勉強します」。うん、その心がけは立派だからしっかり勉強しようねって僕は生徒さんに言いますけど、でも心の中ではそう思っていないよ。たつじん先生は理論中心で教えているけれど、それは受験にそれが有効だからであって、知識の量でも他の先生がたを圧倒しているよ(自分で言うなって・笑)。僕は知識が足りないから理論を教えているんじゃない。知識は入試に不要だから取り上げていないだけ。地理に関する知識ならばおそらく軽く全国トップクラスだよ。おっと、自分でずいぶんとイキったことを言ってしまった。でもこのテキスト解説をここまで読んでくれている人はおそらくたつじんファンだから大丈夫だよね(笑)。僕は知識を決して軽視しているのではなく、知識も完全に把握した上で受験に必要なものを取捨選択して君たちの眼前に提示しているだけなのだ。受験というか勉強ってそういうものだと思う。無駄な知識を廃し、自らの思考を鍛え知性を磨く。そういった作業を君たちには受験勉強を通じて行って欲しいのだ。
<[地理B]2025年/本試験・第1問問3解説>
[ファーストインプレッション]いや、凄い!大学入試センターは最後の最後に秘密兵器を出してきたな。過去30年間にわたる地理Bの総集編というか最高峰としてこの第1問のそれぞれの問題があり、そしてその中でも出色なのがこの問3なのだ。地理Bという科目が完結した中で、過去のセンター試験・共通テストの問題の中からベスト100を選ぼうという野望(?)が僕にはあるのだが、これ、間違いなく上位に入る(っていうか、この大問からは複数の問題が間違いなくランクインする。先ほどの問2もその大きな候補)。どうして最後の最後までこのような素晴らしい問題を「出し惜しみ」していたんだろうか。美しい問題である。
[解法]アイスランド島がテーマとなっている。アイスランドはメジャーな国であり、ぜひとも知っておいてほしいことも多いのだが、だからといって過度に知識に依存する問題でもない。
図3はアイスランド島が描かれた美しい地図。僕は「地図絶対主義者」ではないのだが(地理の勉強に地図帳は要らないよってずっと言い続けているよね)、それでもこの地図の美しさには心を打たれる。かつてここまで素晴らしい地図がセンター試験や共通テストで登場した例があっただろうか。
さらに言えば写真も美しい。重ねて言うけれど、僕は「旅行絶対主義者」でもない。地理の先生だからといって別に旅行が好きなわけでもないし、君たちに旅行を勧めることもない(表面的に観光地を巡って何の意味があるというのだ?そこに生きる人々の生活を体験し、文化を共有してこそ旅行の意味はある。しかし、だからといって我々は発展途上国に行ってスラムに住むわけにはいかないでしょ?先進国に行って本当の人種的民族的差別を経験することも恐ろしいことだ。君たちにその覚悟があるならば僕は旅は意味があるものだと思うよ)。それでもこれらの写真の風景は美しいと思うし、地球はいかに素晴らしい空間なのだということを痛感する。夢と空想がふくらむ)。
おっと、図と写真に気を取られてしまっては問題が解けないよね(笑)。文章を検討し、怪しい選択肢を探ろう(ここで急にリアリストに戻る)。地図や写真をゆっくり見るのはそれからだ。
選択肢1から「低平な土地が隆起」とある。「海岸沿いの段丘」だね。段丘は地形が持ち上がることで形成される。それは「隆起」である。隆起は反対語として「沈降/沈水」を持ち、誤り選択肢になり得る言葉なのだけれど、ここでは問題ないんじゃないかな。そもそも地形の成因は出題されにくい話題であるし、ここを深く突っ込んでくるとはちょっと思えない。なお「段丘=隆起」については( )年に出題されている。
選択肢2について。「溶食によって、地表が陥没した」とある。ここでのキーワードは「溶食」だね。土地が溶けること。これ、どういうこと?二酸化炭素を含んだ雨水によって土地が溶ける。つまり「石灰岩地形」のキーワードになるね。みんなもよく知っていると思う。「カルスト地形」っていうやつだ。山口県の秋吉台が有名であり、もちろん中学地理にも登場する(共通テスト地理で問われる知識のレベルは中学地理までだったね。中学校の問題集はしっかり固めておこうぜ)。カルスト地形は石灰岩による地形であり、雨水による溶食で地表面にはドリーネと呼ばれる凹地(「地表が陥没」というのはこのドリーネを想起させようとしているのか)がみられ、地下には鍾乳洞がつくられる。ただ、これ、どうなんだろうね。そもそも紙カルスト地形ってどうやってできるんだ?「石灰岩」は水酸化カルシウムであり、その起源はサンゴ礁にある。サンゴ虫の死骸が石化して石灰岩となる。それが長い年月の間に陸化し、我々がカルスト地形と呼ばれる台地となる。雨水が地面を溶かすことで凹地が形成され、地下に浸透した雨水は同時に大きな空洞(鍾乳洞)を作る。表面は農耕地には適さず、主に草原や牧草地となっている。秋吉台は日本には珍しい草原が広がる(草原は一般的には乾燥気候にみられる。日本は湿潤であり樹木が生育する)。「溶食=カルスト地形」であるが「カルスト地形=サンゴ礁が成因」と考えた場合、例えば南ヨーロッパのような温暖な地域ならばかつてサンゴ礁が存在したことが想像され、カルスト地形が分布していたとしてもおかしくないが(地中海沿岸の旧ユーゴスラビアにはカルスト地方があり、この地域の石灰岩地形は有名。カルスト地形の語源)、高緯度のアイスランドはどうだろうか。日本でもカルスト地形の分布は西日本が中心であり、せいぜい関東地方に多少みられる程度。カルスト地形=石灰岩地形がセメント工業と結びつくことを考えよう。国内のセメント産地は山口県や福岡県など。岐阜県や埼玉県にもセメント工業が盛んな地域はあるが、例えば北海道にはみられない。逆に沖縄県は一般的には工業の発達はみられないが、一部にセメント工業はみられる。
ちょっと「アイスランド=カルスト地形」が結びつかないのだ。これが誤りなんじゃないかな。正解は②となる。
②が答えとわかったので選択肢③と④は参考程度に。こういった高緯度地域における「水深の大きな湾」とはフィヨルドのことなんじゃないか。ノルウェーやイギリス北部(スコットランド)などにあるのだからアイスランドにも当然あるだろう(南半球ならば南米南部やニュージーランド南部など)。かつてこの地域を覆っていた「氷河の侵食によってできた細長い谷」が「沈水」して形成されている。フィヨルドの形状については2002年地理B第1問で出題されている。
選択肢③はフィヨルドだね。フィヨルドはよく出題され、たとえば2002年地理B本試験第1問では問3で海岸線の形状と断面図が、問6で本問のような写真が登場している。フィヨルドは葉脈状の深い入江であり、一見すると「河川」のように見える。Lの写真でも手前から奥に向かって川のような流れがみえるね。これがフィヨルド。狭湾と呼ばれる地形。昔「インソムニア」というサスペンス映画を見た時に、舞台はアラスカだったのだが、川岸のようなところで死体が発見されるシーンがあって、そのことについて後から刑事が「海岸で見つかった死体が~」っていうセリフをしゃべっていて、あれっ?って思った。画面を見た時は明らかに川みたいな地形だったんだよね。でもこれ、後から考えてみるとフィヨルドだったんだよね。狭湾であるため、一見すると川のように見える。「氷河の侵食によって細長い谷」は断面がU字であるが、ここに海水が侵入することでフィヨルドが形成された。
選択肢④では「広がる」がちょっと気になるキーワードだね。「広がる」の反対語は「狭まる」。文章正誤問題については「反対の意味を持つ語」がカギになることが多い。この選択肢についてもこの箇所のみ注目し、「広がる」なのか「狭まる」なのか、そこにターゲットを絞って考えよう。
地球の表面を覆うプレートだが、移動することによってその境界には主に「広がる」ものと「狭まる」ものが形成される。
ここで整理しよう。
・狭まる境界・・・大陸プレート同士の狭まる境界では巨大な陸地がぶつかることによって巨大な褶曲山脈が形成される。アルプス・ヒマラヤ造山帯に多く、アルプス山脈やヒマラヤ山脈、チベット高原などが例。さらに大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込む一帯には海溝が形成される。海溝は第1問問1でも話題とされているね。太平洋の外周部など。詳細は第1問問1の解説で述べているのでそちらを参考に。具体的に位置をとらえてほしい。
・広がる境界・・・大陸上に見られる広がる境界としてアフリカ大地溝帯(リフトバレー)がある。アフリカ大陸の形成時期は古いが(地質構造的には6億年以上前の造陸運動によって作られた安定陸塊である)、比較的新しい時代になって地殻変動が生じ、大陸が二つに切り裂かれようとしている。全体が高原となっており(マントル対流によって地下から突き上げられているため全体的に高い土地になるのだ)一部には火山もある。
海洋にみられる広がる境界として海溝がある。別名「海膨(かいぼう)」ともいうが、アフリカ大地溝帯と同様に地下から突き上げられているため、全体的に膨らみ、そして中央が裂けている(要するに同じ地形が陸上にあったら大地溝帯であり、海底にあったら海嶺なのだ)。海嶺の中で最も重要なものは大西洋中央海嶺。大西洋の中央を縦断する「地球上で最も巨大な地形」であり、大陸移動説によるとかつて南アメリカとアフリカが一つの大陸だった時の境界線である。この大西洋中央海嶺であるが、深度4000メートルの海底を走っているため通常は海面下にあるが、あまりに巨大な地形であるためその一部が海面へと顔を出している。それが「アイスランド島」なのだ。海嶺上に形成された火山が海面上を姿を表し陸地となっており、そして海嶺の中央の「裂け目」が断層としてアイスランド島の険しい地形の一部となっている。選択肢④の「細長い谷」がプレートの広がる境界であり、「地殻が引き裂かれた」断層である。
写真Mがその光景であるが、なるほどアフリカ大地溝帯の写真でも同じようなものを見たことがある。
[アフターアクション]本当に素晴らしい問題だね。なぜこの問題を最後の最後まで隠しておいたのだろう。アイスランドというマイナーな地域が扱われているからだろうか。でもそれだったら勿体無い。美しい地図と写真が使われ、さらにそれぞれの文章の内容も実に魅力あるものだ。つまらないマメ知識が問われているわけではない。こういった問題を通じ、アイスランドという島に興味をもち、そして地理的な視野が広がる。それは単なる観光案内ではなく、地殻変動や氷河の作用など地球や自然のダイナミズムを感じるものなのだ。
<[地理B]2025年/本試験・第1問問4解説>
[ファーストインプレッション]これもいい問題ですね。カナリア諸島についての知識はもちろん問われていないけれど、ここ、どんな場所なんだろう?っていうイマジネーションが湧く問題になっているでしょ?カナリアとは今では鳥の名称として知られているけれど、スペイン語で「犬」っていう意味なんですよ。スペイン人が始めてこの島にやってきたとき、犬が吠えるような鳴き声が聞こえて、その主を探してみるとカラフルな小さな鳥だったそう。犬みたいな鳴き声ということでその鳥を「犬」すなわち「カナリア」と名付けたそう。でもホントに犬っぽく聞こえる???
[解法]図とグラフ、文章が与えられた豊かな問題。とはいえ、これらを無作為に見て行っても混乱するだけ。問題文を直接検討していこう。
まずaから。「高い」とあるが、反対語はもちろん「低い」。高いのか低いのか考えてみよう。「常緑広葉樹林」の分布している島を探す。それぞれの島の名前を標高をとって「2426」、「1500」などと呼ぶことにしよう。中央の「3718 」島で常緑広葉樹林の面積が広く、他にも「2426」島や「1949」島でもみられる(ここ、ちょっとグレーの色が薄いように見えるけど常緑広葉樹林だよね?)。一方で、標高の低い「670」島や「807」島では主に「サボテンなど多肉植物」が広がり、常緑広葉樹林は見られない。aは「高い」と見ていいんじゃないか。
さらにbについて。ここでは「北寄り」とある。風がどちらから吹いているか。まず考えるべきは「北から風が吹く」意味である。風は雨と結びつく。君たちが考えるべきは「地形性降雨」である。風が吹くと雨が降る。このメカニズムが理解できるだろうか。海の方向から吹き込む風は水分をはらんでいる。山地にぶつかり高度を上げることで雲が結ばれ、風上側斜面に雨が降る。逆に風下側斜面には乾いた風が吹き降りることで降水がみられず、山地の両サイドで大きく降水量が異なる場合はこの地形性降雨を考えるべき。
カナリア諸島の図に目を戻そう。3718島に典型的にみられる。山地の北側斜面に常緑広葉樹林がみられ、反対側はサボテンなど多肉植物が繁茂する地域とある。どうだろう?ここはひとまずシンプルに「多雨=落葉広葉樹林、少雨=サボテン」と考えてみよう。島の北側で雨が多いこととなり、これは北から湿った風が入り込むことと同義ではないか。この地域では北からの風が卓越し、それが湿った空気をもたらすことで地形性降雨を生じ、島(山地)の北側斜面で雨が多い。bについても正文とみていいだろう。
一般に「湿潤=樹木気候」、「乾燥=無樹木気候」であることもぜひ意識して欲しい。みんなは5つの気候帯を知っているかな。中学地理でも学習するものなので、十分に知識としてすでに持っていることだと思う。5つの気候帯とは「熱帯」、「乾燥帯」、「温帯」、「亜寒帯(冷帯)」、「寒帯」である。熱帯は赤道周辺の高温多雨の気候帯。乾燥帯は亜熱帯高圧帯の影響下に典型的にみられるステップ(草原)や砂漠など。温帯は日本やヨーロッパで典型的にみられる気候。亜寒帯はカナダやロシア。寒帯は両極周辺のツンドラや氷雪。このうち、熱帯と温帯、亜寒帯が樹木気候。広葉樹や針葉樹などの樹林が広がる。反対に乾燥帯と寒帯が無樹木気候。地表面が樹林によって覆われていない。
3718島の低地においては北岸で「常緑広葉樹林」であり、豊かな森林がみられる。常緑広葉樹林は熱帯や温帯の低緯度側でみられる植生であり、日本でも西日本の植生はこれに該当する(常緑広葉樹に含まれる照葉樹が西日本にはみられる)。熱帯や温帯など樹木気候である。当然湿潤であり、降水量が多い(正確には「蒸発量に対し降水量が多い」というべきだろうか)。北からの風によって湿った風が持ち込まれ地形性降雨を生じる。
同じく3718島の南岸は「サボテンのような多肉植物」である。植生が全くないというわけではないが、サボテンという時点で想像はできるよね。裸地が露出した荒地が広がっており、それは我々が一般に「砂漠」と考えている植生である。サボテンは砂漠にみられる植物だよね(多肉植物はそういった植生)。サボテンっていえば、アメリカやメキシコの砂漠のイメージじゃないかな。北風が卓越する地域であるので、南岸は乾いた風が吹きおろす。地形性降雨の場合、風下側の斜面では降水量が少ないことを考えよう。気温が高く蒸発量が多いので強く乾燥し、地表面を覆う植生がみられない。この「植生なし」の状態が砂漠である。
さらにcの判定をしよう。ここでは「寒流」というワードが登場している。寒流には暖流という反対語があるね。海流は恒常的な海表面の海水の流れであるが、寒流は高緯度から低緯度に流れる海流で、冷たい水を暖かい海域に運ぶ。暖流は低緯度から高緯度に流れる海流で、暖かい水を冷たい海域に運ぶ。
海流の流れ方については地球の気圧帯(恒常風)との関係が重要。低緯度一帯で卓越する風は貿易風であり、東寄りの風(北半球では北東風、南半球では南東風)。東風は「東から西へと吹く」風だよね。低緯度の海水は「東から西へ」と流れる。太平洋でいえば、ラテンアメリカ方面から東南アジア方面へと海水が流れる。これに対し中緯度一帯を卓越するのは偏西風であり西寄りの風(こちらは「西から東へ」流れるね)。同じく太平洋なら、日本列島からアメリカ合衆国西岸へと海水が流れる。
このような海水の巨大な流れは地球規模でみられ、太平洋や大西洋などで同じような流れ方が生じている。海流の流れ方は、大きく「北半球では時計回り、南半球では反時計回り」になる(北半球では高緯度側に小さな流れ(極偏東風による)がみられ、詳しくみれば数字の「8」の字の流れとなる)。
たとえば太平洋の北半球における流れ方を想像しよう。日本列島から北米方面へと海流が生じる。アメリカ合衆国西岸にぶつかった海流はそのまま大陸に沿って高緯度側(北)と低緯度側(南)に分かれる。北(カナダ方面)に向かう流れがアラスカ海流であり、これは低緯度側から高緯度側へと流れるので暖流。南(メキシコ方面)に向かう流れがカリフォルニア海流であり、こちらは高緯度から低緯度へと流れるので寒流である。
これと同じ流れがカナリア諸島を含む大西洋の北半球でも生じている様子を考えよう。とくにカナリア諸島が位置するのはアフリカ大陸西岸の低~中緯度であり、太平洋に当てはめれば北アメリカ大陸のメキシコ沿岸と重なり、ここを流れるのは寒流である。低~中緯度の大陸西岸(大洋の東側でもある)は寒流が流れる海域である。cについては正文と考えていいだろう。
[アフターアクション]本当に素晴らしい問題。この第1問は全問が素晴らしく、大問レベルで考えるとこれまでに実施された地理Bの試験の中でもベスト・オブ・ベスト。他でも同じことを言っているけれど、なぜこれほどの名作を最後の最後まで隠しておいたのだろう?アイスランド(問3)やカナリア諸島などマイナーな地域を取り上げているという特殊性だろうか。しかし、特定の地名や国名に関する知識は全く不要であり、それどころか徹底的に理論に傾斜した作問内容である。最後の最後とはいえ、このようにラストに日の目を見ただけでも我々としては本当に幸せなことなのだ。心の底からこれらの問題を味わって、そして楽しみたい。
ちょっとだけおまけ。実はこの島の図にはもっと面白いところがあるので最後に紹介しておこう。理論的な説明になるので、めんどくさい人はこの項目は飛ばしていいです(笑)。
考えてほしいのは「湿潤」と「乾燥」の概念。湿潤は「降水量>蒸発量」のバランスとなることであり、乾燥は「降水量<蒸発量」のバランス。気温が高いと蒸発量が多く、低温ならば蒸発量は少ない。つまり「気温と蒸発量は比例する」ということになる。蒸発量が少ないと湿潤となりやすく、蒸発量が多いと乾燥となりやすい。たとえば2つの地点で等しい降水量が観測されたとして、片方の地点で湿潤、もう片方で乾燥となるケースも考えられる。それは片方で気温が低くつまり蒸発量が少なく、もう片方で気温が高くつまり蒸発量が多くなる場合。
例としてPが位置する1949島を考えてみようか。Pを含む低地は「サボテンのような多肉植物」であり、乾燥の度合いが強いことがわかる。気候グラフはステップ気候であると会話文では示されているが、ここは「砂漠」と考えていいだろうね(っていうか、この気候グラフ、ステップ気候というより砂漠気候に思えるよね。ほとんど降水がない)。
それに対し高所は「マツ林」であったり「常緑広葉樹林」であったりする。樹木が生育できているのでこちらは湿潤である。低地で乾燥、高地で湿潤となっている。これ、どういったことかわかるかな?
「低地で降水量が少なく、高地で降水量が多い」っていうわけではないよね。先ほども言ったように乾燥や湿潤を決定するのは降水量だけではない。そう、「蒸発量」が重要であり、そしてその蒸発量を決定する要因として「気温」が大切なのだ。さらに言えば、気温を決定する要因として「標高」があることに気づくだろうか。標高が高いところは気温が低く、これにより蒸発量も少なくなる。標高が低いところは気温が高く、これによって蒸発量が大きくなる。
1949島において低地は砂漠となっており、これは乾燥の度合いが高い。しかし降水量が少ないからではなく、その原因は低地であるがゆえ気温が高く蒸発量が多いからである。同じく高地は森林となっており、こちらは湿潤である。しかし降水量がとくに多いわけではない。降水量そのものは砂漠である低地と同じぐらいだろう。しかしなぜこちらは湿潤な森林地帯となっているのだろう。それは標高が高いことで気温が下がり、蒸発量が少ないからだ。低地と高地とで降水量が同じだったとしても、標高差(気温差=蒸発量の差)によって乾燥と湿潤の違いが生じ、それが植生の差異となる。
こういった「数字によって地理的事象を解析する」メカニズムも君たちには徹底的に意識して欲しいな。そんな問題でした。
<[地理B]2025年/本試験・第1問問5解説>
[ファーストインプレッション]ちょっと変わった地形図問題。ただ、こういった問題って簡単な問題が多いんですよね。図を見てその場で考えればいい。ただ、実際に解く時は第1問は後回しにすることが多く(地理Bでは第2問が一番簡単で、第1問が最も難しい。だから第2問を最初に解いて、第1問をラストに解くことが推奨される)もしかしたらこの時点で時間が足りなくてちょっと焦るかも???とはいえ、地理Bという科目は終わってしまったし、これからはこういった大問ごとの傾向による解答順の違いも考え直さないといけないんだけどね。
いずれにせよ地形図問題である時点で簡単な問題だと思うし、さらにこういったマイナーな国が登場する場合は複雑な知識が問われることは稀でもちろん国自体について知っておく必要はない。その場で時間をゆっくりかけて解きましょう(その時間をかけることが難しい場合もあるんだけどね・苦笑)。
[解法]選択肢の文章を検討しよう。
選択肢①について。これは図から標高を確認すればいい。断面図を見たらわかりそうだが、標高を示す数字も示されているのかな。後ほど確認。
選択肢②について。なるほど、気温上昇によって蒸発量が増えるという環境の変化は考えられなくもない。しかし地球温暖化によって熱帯低気圧の巨大化なども生じると言われており、もしかして降水量は増えているのかも。また海水面の上昇によって、島内の土地は相対的に標高が下がるのだからむしろ湿地の面積は広がりそうだが。他の人為的な要因によって湿地が狭くさせられているんじゃないか。そういった推理も成り立つよね。とりあえず保留。
選択肢③について。標高の低さの原因を「侵食」に結びつけている。大きく土地が削られたから土地が低くなった?例えば砂浜海岸において海岸線が侵食されその面積が小さくなることはあるが、高度についてはどうだろう?さらに侵食地形といえば海食崖があるが、こちらは岩石海岸において斜面が削られ険しい崖となること。同じく標高が低くなるというわけではないように思うのだが。こちらも保留にしておこう。
選択肢④について。なるほど、これはたしかにそう言えるかもしれないね。人口が増えたことで低地に住宅地が拡大すれば、そこに住む人たちは浸水の被害を受けやすい。熱帯低気圧の来襲に対し備えの弱い土地とうことになる。文章そのものは納得できるもの。住宅など建物の広がりは図から判定できるだろう。これが最も正しい文っぽいんだけどね。
というわけで選択肢④から確認してしまおう。かつては「波浪によりできた砂の高まり」に建物が集まっていた。いわゆる「砂丘」だね。波によって海から砂が運ばれ、沿岸に巨大な砂の丘が形成された。高い土地であるので(このことは断面図より判定できる。島の西部の高まりは標高3メートルほどである)。それが現在は建物が増え、島の内部にまでその範囲が及んでいる。この島は中央部の方が標高が低い。1~2メートル程度である。熱帯低気圧などによる高波や洪水の被害が及びやすいと言えるだろう。これが正文で正解。
他の選択肢についても「いかに誤っているか」を検討しよう。
まず選択肢①。滑走路は島の中央部に作られている。図7の断面酢によるとこの位置は「埋め立て部分」に該当する。でも、ここって「島の中で最も標高が高い場所」か?最も高いのはSの部分。他にもRなど島の外縁部の標高が高い。むしろ埋め立て部分は標高が低い場所だね。誤り。
選択肢②。これは図を見たら明らかなんじゃないかな。「埋め立て」によって湿地は縮小した。島内でもとくに標高の低い土地であり、例えば雨が降った際には雨水が流れ込み湿地となっていた土地。滑走路が建設される際に埋め立てがなされたのであろう。
選択肢③。この島の地形が侵食によって作られたのならば、最も侵食作用が活発な場所が島の中央部ということになるね。中央部の方が標高が低くなっている。内陸部が大きく波によって侵食される?これ、ちょっと考えにくいんじゃないかな。誤りとしていいと思う。なお、この島については問題文に「環礁」っていう言葉があるよね。サンゴ礁に関する知識は不要だが(何回も言っているけれど、地理で必要な知識は中学レベル。サンゴ礁は高校地理の範囲なので共通テストでは問題を解くカギとはならない)、一応参考までに。サンゴ礁には「裾礁」、「堡礁」、「環礁」の三つがある。最初の段階が裾礁。島に沿った浅い海底にサンゴ礁が作られ成長する。その次の段階が堡礁。島が沈降し陸地面積は縮小。ただしサンゴ礁は成長を続け、陸地とサンゴ礁の間に水域(潟湖)が設けられる。さらに島は沈み海面下となる。成長したサンゴ礁は島を囲む細長い円環となる。盆や茶碗が水没した形を考えればいい。盆や茶碗の縁だけが水面上に顔を出し、これが環礁。盆や茶碗の内側の円形の水域は潟湖である。
そして長期間の海底の動きによって土地が隆起することがある。この盆がそのまま持ち上がった形を考えてみよう。周辺だけ土地が高く、中央部が大きく凹地となった地形である。これが「隆起珊瑚礁」。太平洋にはしばしばみられる形であり、日本でも大東島などは隆起珊瑚礁に起源がある島。本問で取り上がられている島も「盆」のような形になっているのがわかるかな。断面図がわかりやすいと思う。RとSの両端が持ち上がり「盆の縁」となっている。中央部が低くなっており、これが「盆の底」である。かつて海水面はより高く、この「盆の底」は海底だった。潟湖である。現在は隆起して陸化している。RとSの高所もサンゴ礁であり、土地が大きく持ち上がる’ことにより(隆起により)現在のような形状となった。「侵食」ではなく「隆起」である。RとSの高さが違うのは、もともとのサンゴ礁の成長の度合いの違いや土地(海底)の隆起した量の違いが原因なのだろう。
[アフターアクション]地形図問題の一つであるため図を深く読解しそこから情報を読み取ることが大事。マイナーな島が登場しているが、もちろんこの島は僕も全く知らない(笑)。特定の地域についての知識が問われることはない。選択肢③の判定がやや難しいのだが、これについても「侵食」がキーワードであることに気づけばいい。例えば侵食は「堆積」という反対語を持つワードである。そもそもがこういった文章正誤問題で登場した場合には「誤り選択肢」となりやすい言葉であるわけだ。今回は「堆積」が正解ワードというわけではなかったが(成因としては「隆起」が該当)、普段からこういった言葉に注意しておく習慣をつけておくと、問題に取り組みやすかったはずだ。
<[地理B]2025年/本試験・第1問問1解説>
[ファーストインプレッション]地理Bだけではなく地理総合・探究も含めて、大問のラスト(問6)にはこの手の問題が多いよね。問1から問5までで小出しにしていたネタを最後に総括する形。それがゆえに文章正誤の考察問題が多く、難易度的には高くない場合が多いのだが本問はどうだろう?地理史上最高の大問である2025年地理B本試験第1問を締めくくる問題。
[解法]文章正誤問題。誤りを一つ探す問題だね。怪しいものを探してみよう。
選択肢①から。「寒冷化」はどうだろう?逆が「温暖化」。火山灰が大気中に広がり地上に届く日射量を減らすとすればたしかに寒冷化は生じるのかもしれない。おそらく正文。
選択肢②について。「巨大地震に伴う津波」は「遠く離れた島」にも被害を与える。これは津波の特性を考えた上で正文でしょう。津波は波動であり、海水を伝わってはるか遠くにまで伝わる。もちろん時間はかかるけれど、波の高さは遠隔地でも高い可能性がありそういった場合は被害も大きい。
さらに選択肢③について。「雨水が短時間で海に流出し、水不足になる」とある。なるほど、大きな河川や湖沼がなければ水はキープされないし、石灰岩地形ならば(サンゴ礁に由来する。カルスト地形だね)水がすぐに地下に浸透し、やはり水は利用しにくい。水不足は当然考えられる。言っていることはその通りだと思う。
では選択肢④が怪しいのかな。サンゴ礁についての話題。「裾礁から環礁」とあるね。サンゴ礁はまず陸から連続した浅い海に発達する。やがて島が沈降すると、サンゴ礁と陸地の間に水域が生じる。さらに島が沈降し完全に海面化となってしまうと、かつて島が存在した中央部の海域を取り囲むようなサンゴ礁の形状とある。こういったサンゴ礁の形の変化は土地の「沈降」によるもの。地面そのものが動く、いわゆる「内的営力」である。それに対し選択肢④では「海岸侵食」とあるね。先ほどの問題でも海岸侵食というワードが登場していた。波の侵食によってつくられる地形は例えば海食崖である。海岸の斜面が削られ、岩肌が露出した崖となる。海岸から切り立った崖が波の激しい海岸ではしばしばみられる。しかし、ちろろんこれはサンゴ礁ではないよね。選択肢④が誤りでこれが答え。
なお、最初につくられる陸地と連続したサンゴ礁が「裾礁」、島が沈降しサンゴ礁が陸地から離れたところにみられる形が「堡礁」、さらに島が完全に沈降してかつて島があった海を円形に取り囲む形が「環礁」。土地の沈降によって「裾礁→堡礁→環礁」と変化する。日本の南西諸島などのサンゴ礁はほとんどが裾礁。堡礁はオーストラリアのグレートバリアリーフが典型。南太平洋には環礁も多く見られる。
[アフターアクション]問5でもサンゴ礁に関する問題が問われているね。しかも内容も似ている。環礁の形成について。同じネタが連続して問われるのは珍しいけれど、しかし全く見られないものでもない。わずか30問しかない共通テストなのにこういったネタ被りが時にはあったりする。広く浅く知識を広げることよりも、過去問に登場した範囲を重点的に掘り下げること。100の曖昧な知識より10の確実な知識。なお、サンゴ礁の種類に関する問題は2011年地理B本試験で大きく取り上げられている。15年分ぐらいは過去問研究しておこうよ。
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